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添削の受け方:人とAI「赤ペン添削は無駄」論争から30年。研究がたどり着いた添削の受け方

原田英語6分で読める研究・公式情報 5件第11章の4/5節

添削の受け方:人とAIのイメージ

1996年、John Truscott は、作文クラスでの文法の訂正はやめるべきだと論文で主張しました。効果は期待できず、有害な面さえある、と。1999年には Dana Ferris が反論し、ここから研究者の論争が始まります。その中ではっきりしてきたのが、添削どおりに書き直した作文はきれいになっても、次に書く作文が正確になるとは限らない、ということでした。では、力になる添削の受け方とは、どんなものなのか。

この節の目次(6項目)
  1. 1996年、ひとつの論文が論争に火をつけた
  2. 清書がきれい≠力がついた
  3. それでも、効く添削はある
  4. AI添削は「直させる」前に「指摘だけ」
  5. 人の添削は「選んで、聞いて、直す」
  6. ミス帳で「自分で直す力」を育てる

011996年、ひとつの論文が論争に火をつけた

1996年、John Truscott は「第二言語の作文クラスにおける文法訂正への反論」という論文を発表しました。主張ははっきりしていました。

  • 文法の訂正が効果的だと示す研究はなく、効果がないと示す研究がある
  • 理論的にも実際的にも、効果は期待できない
  • 訂正には有害な面さえある
  • だから、作文クラスでの文法訂正はやめるべきだ

これに対し、Dana Ferris が1999年に反論の論文を出しました。Ferris は、当時の研究は数が少なく、比べる条件もそろっていなかったので、「やめるべき」と結論するのは早すぎると指摘しました。そして、訂正が選択的で、優先順位がつけられ、分かりやすいものであれば、助けになる学習者もいると論じました。

この2人のやりとりをきっかけに、訂正フィードバックの研究は大きく増えました。2012年には Bitchener と Ferris が、第二言語習得の研究と作文指導の研究という2つの流れをつないで整理した本を出しています。論争は、「効くか、効かないか」から、「どんな訂正が、どんな学習者に、どう効くのか」という問いへと移っていきました。

02清書がきれい≠力がついた

論争の中で、大事な区別がはっきりしてきました。それは「書き直した作文が正確になること」と「次に書く作文が正確になること」は別だ、という点です。

Truscott と Hsu(2008年)は、英語を学ぶ学習者に物語文を書いてもらい、次の授業で書き直してもらいました。半分の学生は誤りに下線を引いてもらい、残りの半分は下線なしで書き直しました。結果は次のとおりです。

  • 書き直しでは、下線ありのグループが誤りをずっと多く減らした
  • 1週間後に新しい物語文を書くと、最初の作文からの誤りの変化は2つのグループでほぼ同じだった

つまり、直された箇所を直すことは、その場ではうまくいっても、それだけで次の作文の力になるとは限らない、ということです。

これは学習者にとって、とても実用的な教訓です。真っ赤な添削を写して清書すると、きれいな英文が手元に残り、「勉強した」という感覚も得られます。しかし、力がついたかどうかを確かめるには、「次に書いた作文で同じミスが減ったか」を見る必要があります。この節の後半で紹介するミス帳は、そのための道具です。

03それでも、効く添削はある

一方で、新しい作文でも効果が見られた研究も増えています。

Van Beuningen、De Jong、Kuiken(2012年)は、268人の生徒を対象に大規模な実験を行いました。正しい形を書いて示す「直接の訂正」と、誤りの場所だけを示す「間接の訂正」を、訂正なしで自分で見直すグループや、訂正なしで書く練習を増やしたグループと比べました。

  • 直接・間接の訂正はどちらも、自分で見直すだけ、書く量を増やすだけのグループより正確さを高めた
  • その効果は書き直しだけでなく、1週間後と4週間後に書いた新しい作文にも見られた
  • 文法の誤りには直接の訂正が、綴りなど文法以外の誤りには間接の訂正がよく効いた
  • 訂正を受けた生徒が、難しい構文を避けて文を単純にすることはなかった

Kang と Han(2015年)は21の研究をまとめたメタ分析で、訂正フィードバックは第二言語の作文の文法的な正確さを高めうると結論しました。同時に、その効き方は学習者の習熟度、学習の環境、作文の種類によって左右されると報告しています。

まとめると、次のようになります。

ほぼ分かってきたことまだ議論が分かれていること
訂正は正確さを高めうるどの種類の訂正がいちばん効くか
書き直しの改善だけでは学習の証拠にならない全部直すか、一部にしぼるか
効き方は学習者や状況で変わる文法の種類ごとの効き方の違い

「添削は無駄」でも「添削さえ受ければ伸びる」でもなく、「受け方しだい」というのが現在の研究の姿です。

04AI添削は「直させる」前に「指摘だけ」

AIに英作文を見せると、数秒で完ぺきな英文に書き直してくれます。便利ですが、書き直された文をそのまま使うと、先ほどの研究でいう「清書がきれいになっただけ」の状態になりやすくなります。そこで、AIには段階を分けて頼みます。

1回目:指摘だけを頼む。

  • Please don't rewrite my text. Put [ ] around up to five grammar mistakes and tell me the type of each mistake, such as tense or articles. I will try to fix them myself.(書き直さないでください。文法の誤りを最大5つ[ ]で囲み、時制や冠詞など誤りの種類を教えてください。自分で直してみます。)

2回目:自分で直した文を見せる。

  • Here is my corrected version. Did I fix the mistakes correctly?(直した文です。正しく直せていますか。)

3回目:自然さを聞く。

  • Which sentence sounds unnatural? Please explain why in Japanese.(どの文が不自然ですか。理由を日本語で説明してください。)

AIを使うときの注意は3つあります。

  1. AIも間違える。 文法として正しい文を誤りと判定したり、意味を変えて直したりすることがあります。気になる指摘は辞書や例文で確かめます。
  2. 個人情報を入れない。 名前、学校名、住所などは作文から外してから貼りつけます。
  3. 年齢の条件を守る。 たとえば Claude は利用規約で18歳以上が条件です。Grammarly はアメリカの法律ではおおむね13歳以上、EU では16歳以上で、保護者の同意で代えることはできないと規約に書かれています。サービスごとに条件が違うので、中高生は保護者と一緒に公式の規約を確かめてください。

05人の添削は「選んで、聞いて、直す」

先生や添削サービスに見てもらうときも、受け方で効果が変わります。

  • 見てほしい点を先に伝える。 「今回は時制と冠詞を中心に見てください」と伝えると、優先順位のついた訂正になりやすくなります。Ferris が挙げた「選択的で、優先順位があり、分かりやすい」訂正に近づけるための工夫です。
  • 記号での指摘を頼む。 中級以上なら、正解を書いてもらうより、誤りの場所と種類(例:T=時制、A=冠詞)だけを示してもらい、自分で直します。初級の人や、どう直せばいいか見当がつかない誤りは、正しい形を書いてもらうほうが助けになります。
  • 直した理由が分からないところは質問する。 「なぜ the ではなく a なのか」を聞くことで、次に同じ場面で判断できるようになります。

ネイティブスピーカーが添削してくれる交流サイトもありますが、多くは見知らぬ人とやりとりする場です。中高生は年齢の条件を確かめ、保護者や先生が管理できる方法を選んでください。ケンブリッジ大学が作った Write & Improve は、英作文を送るとレベル判定と改善点の指摘が返ってくる無料の道具で、登録しなくても使えます。

06ミス帳で「自分で直す力」を育てる

添削の効果を「次の作文」につなげるために、自分のミスを種類ごとに記録します。ノートの1ページを次のように分けます。

種類自分のミス直した文
三単現He go to school by bus.He goes to school by bus.
時制I have been to Kyoto last year.I went to Kyoto last year.
語法We discussed about the plan.We discussed the plan.
冠詞I bought new bag.I bought a new bag.
前置詞I'm good in math.I'm good at math.

数週間続けると、自分がくり返すミスの種類が見えてきます。多いものを上から3つ選び、「提出前の3点チェック」にします。たとえば「動詞の s」「過去の時点と時制」「名詞の前の a / the」です。

見直しは、1回で全部を見るより、種類ごとに分けて読むほうが見落としが減ります。1回目は動詞だけを、2回目は名詞の前だけを見る、という具合です。

最終的なゴールは、添削を受けなくても自分で誤りに気づける状態です。添削は、そこに近づくための手がかりとして使います。次の作文でミス帳の項目が減っていれば、添削は確かに力になっています。

この節の答え

直された文を写すより、ミスの場所を知って自分で直す

今日からのやり方

  1. 添削を頼む前に、見てほしい点(例:時制と冠詞)を2つに決める
  2. AIや先生には、まず誤りの場所と種類だけを示してもらう
  3. 自分で直し、直した文をもう一度確かめてもらう
  4. ミスを種類ごとにミス帳へ記録する
  5. 多いミス上位3つを「提出前の3点チェック」にして次の作文で使う

レベル別:あなたならこうする

初級 A1〜A2

正しい形を書いてもらう直接の訂正を中心に受けます。直された文を見ずに、もう一度自分で書けるか試します。ミス帳は1日1行で十分です。

中級 B1

誤りの場所と種類だけを示してもらい、自分で直します。直せなかったところだけ正解を聞きます。ミス帳の上位3つを提出前に必ず確認します。

上級 B2〜

文法の誤りより、不自然な言い回しや論理の流れの指摘を頼みます。指摘された表現は例文検索で使われ方を確かめ、自分の表現ストックに加えます。

よくある失敗と対策

AIの書き直しをそのまま提出する

書き直しを頼む前に、誤りの場所と種類だけを聞きます。自分で直してから答え合わせをすると、次の作文でも同じ判断ができるようになります。

真っ赤な添削を写して終わる

写す代わりに、ミスを種類ごとにミス帳へ記録します。次の作文で同じミスが減ったかどうかで、添削の効果を確かめます。

全部のミスを一度に直そうとする

まずは多いミス2〜3種類にしぼります。種類ごとに分けて見直すと見落としが減り、直す力も身につきやすくなります。

TODAY
1 MIN

最近書いた英文から自分のミスを3つ選び、種類を書き出す

友だちに出したい、この節の3問

タップで答え。「X で出題する」で、そのまま問題として出せます。

11-4「作文の文法の添削はやめるべき」と主張した研究者がいる?

1996年、Truscott は作文の文法訂正は効果がなく有害でさえあるので廃止すべきだと論じました。これに Ferris が反論し、作文の訂正フィードバックをめぐる長い論争が始まりました。

X で出題する

11-4添削で直した作文がきれいになれば、力がついた証拠?

ある研究では、誤りに下線を引かれた生徒は書き直しでは誤りを大きく減らしましたが、1週間後に書いた新しい作文では、下線なしの生徒と誤りの変化がほぼ同じでした。

X で出題する

11-4結局、作文の文法の添削は効く?効かない?

その後の研究や21研究のメタ分析では、訂正フィードバックは文法の正確さを高めうるという結果が多く出ています。ただし効き方は、学習者のレベルや学習環境、作文の種類で変わります。

X で出題する

X でポストLINEB!

この節の根拠(研究・公式情報)

第二言語の作文クラスでの文法訂正は、研究上効果が示されておらず、理論的にも効果が期待できず、有害な面もあるとして、やめるべきだと論じた。

Truscott, J. (1996). The case against grammar correction in L2 writing classes. Language Learning, 46(2), 327–369.出典を開く ↗

Truscott への反論。当時の研究は少なく条件もそろわないため廃止の結論は早すぎるとし、選択的で優先順位があり分かりやすい訂正は助けになりうると論じた。

Ferris, D. (1999). The case for grammar correction in L2 writing classes: A response to Truscott (1996). Journal of Second Language Writing, 8(1), 1–11.出典を開く ↗

下線による訂正を受けた群は書き直しで誤りを大きく減らしたが、1週間後の新しい作文では誤りの変化が対照群とほぼ同じだった。書き直しの改善は学習の証拠にならないと論じた。

Truscott, J., & Hsu, A. Y.-P. (2008). Error correction, revision, and learning. Journal of Second Language Writing, 17(4), 292–305.出典を開く ↗

268人の実験。直接・間接の包括的訂正は、自己見直しや書く練習の追加より正確さを高め、1週間後と4週間後の新しい作文でも効果があった。文が単純化することもなかった。

Van Beuningen, C. G., De Jong, N. H., & Kuiken, F. (2012). Evidence on the effectiveness of comprehensive error correction in second language writing. Language Learning, 62(1), 1–41.出典を開く ↗

21研究のメタ分析。訂正フィードバックは第二言語の作文の文法的な正確さを高めうるが、効き方は学習者の習熟度、学習環境、作文の種類などで変わると報告した。

Kang, E., & Han, Z. (2015). The efficacy of written corrective feedback in improving L2 written accuracy: A meta-analysis. The Modern Language Journal, 99(1), 1–18.出典を開く ↗

よくある質問

全部直してもらうのと一部だけ、どちらがよい?

研究では、全体を直す包括的な訂正でも効果が出た例があり、どちらが常に上とは言えません。学習者としては、多いミスにしぼって自分で直す練習をするほうが、ミス帳と組み合わせやすく続けやすい方法です。

AIと人の添削、どちらを使うべき?

役割を分けるのがおすすめです。AIは速く何度でも見てもらえるので、誤りの場所を知る1回目に向いています。人の先生には、内容や論理、なぜその表現が不自然かといった判断を聞くと効果的です。

添削を受けると間違いが怖くなって書けない

Van Beuningen らの研究では、訂正を受けた生徒が文を単純にすることはありませんでした。ミスは「次に直す項目」として記録するものと考え、難しい表現にも挑戦してかまいません。