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アウトプット仮説:話して書いて気づく話す・書くの本当の効き目は「慣れ」ではなく「自分の穴に気づく」こと

原田英語6分で読める研究・公式情報 4件第2章の2/7節

アウトプット仮説:話して書いて気づくのイメージ

カナダには、英語を母語とする子どもが、算数や理科の授業をフランス語で受ける「イマージョン教育」があります。毎日何時間も、意味のわかるフランス語を浴びる環境です。ところが、この教育を長年調べてきた研究者スウェインが見たのは、聞く・読む力は母語話者にかなり近づいたのに、話す・書くときの文法の正確さには、はっきり差が残る姿でした。たっぷりのインプットだけでは、何が足りなかったのか。

この節の目次(6項目)
  1. 聞けるのに話せない:イマージョン教育の発見
  2. アウトプットの3つのはたらき
  3. 話そうとすると、頭が文法を考え始める
  4. 実験とメタ分析で確かめると
  5. アウトプットについての3つの誤解
  6. 日本の学習者は明日から何をするか

01聞けるのに話せない:イマージョン教育の発見

カナダには、英語を母語とする子どもが、算数や理科などの授業をフランス語で受ける「イマージョン教育」があります。毎日何時間も、意味のわかるフランス語を浴び続ける環境です。前の節のインプット仮説が正しければ、この子たちは話す力も自然に育つはずでした。

ところが、長年この教育を調べてきたスウェインが見たのは、別の姿でした。聞く・読む力は母語話者にかなり近づいたのに、話す・書くときの文法の正確さには、はっきりした差が残っていたのです。しかも授業を観察すると、生徒がフランス語で長く話す機会は少なく、正確に言い直すよう求められることもあまりありませんでした。

そこでスウェインは、こう考えました。インプットは必要だが、それだけでは足りない。自分で言葉を作り出す(アウトプットする)ことが、習得に独自の役割を果たしているのではないか。これが1985年に出された「アウトプット仮説」の出発点です。

ポイント:日本の学習者の「読めるのに話せない」は、怠けているからではありません。インプット中心の学び方で、多くの人に起きる現象です。

02アウトプットの3つのはたらき

スウェインはその後、アウトプットには次の3つのはたらきがあると整理しました。

1. 気づき:「言えない」に気づく

言いたいことがあるのに、英語が出てこない。この瞬間、学習者は「自分が知らないこと」に気づきます。

  • 言いたいこと:昨日見た映画、すごくよかった
  • 出てきた英語:Yesterday movie ... very good.

このとき「映画を『昨日見た』で説明する言い方を知らない」と気づきます。The movie I saw yesterday was really good.(昨日見た映画はすごくよかった)という形に、次に出会ったとき目が止まるようになります。

2. 仮説の検証:「これで通じる?」を試す

学習者は、頭のなかで「たぶんこう言える」という仮説を持っています。実際に言ってみて、通じるか、相手が言い直すかで、仮説が正しいかを確かめられます。

  • I'm boring.(自分は退屈な人間です、の意味になってしまう)
  • 相手:Oh, you're bored?(退屈してるってこと?)

この返しで「退屈している」は bored だと確かめられます。

3. ふり返り:言葉について考える

書いた英文を見直したり、仲間と「ここは a か the か」を話し合ったりすると、言葉そのものについて考えることになります。スウェインはこれを、メタ言語的(言葉について言葉で考える)はたらきと呼びました。

スウェインは1993年の論文で、これらに加えて、アウトプットは流暢さを高め、相手からの反応(フィードバック)を引き出すとも述べています。同時に、ただ話す・書く時間を増やすだけでは足りないとも書いています。大事なのは、少し背伸びした内容を、正確に伝えようとすることです。

03話そうとすると、頭が文法を考え始める

なぜアウトプットで「気づき」が起きるのか。理由は、聞くときと話すときで、頭の使い方が違うからです。

聞くとき、私たちは単語と場面から意味を組み立てます。He go to school yesterday. と聞いても、意味はちゃんと分かります。文法が少しくらい違っていても、理解には困らない。だから「過去形は went」という細部を処理しなくても、聞き取りは成り立ってしまうのです。

ところが話すときは違います。自分で動詞を選び、形を決め、語順を組み立てなければなりません。go なのか went なのか、決めずに口を開くことはできません。Swain & Lapkin(1995)は、アウトプットで問題に気づくと、学習者は自分の英語を作り直そうとし、そのとき理解するときより文法に寄った処理をすることになると論じました。

ポイント:インプットは「意味」を、アウトプットは「形」を鍛えやすい。どちらか一方ではなく、両方がそろうことで英語が組み上がります。

04実験とメタ分析で確かめると

この考えは、実験でも確かめられています。

Izumi(2002)は、英語を学ぶ大人に関係代名詞(the man who ... など)を学ばせる実験を行いました。英文を読んだあと自分で再現して書き、もう一度元の英文を読むグループは、同じ英文を理解のためだけに読んだグループより、関係代名詞の習得が進みました。一方、英文のなかで関係代名詞を太字にするなど、目立たせただけのグループには、はっきりした伸びは見られませんでした。目立たせて見せるより、自分で書いて困るほうが効いたのです。

もっと広くまとめた研究もあります。Shintani, Li & Ellis(2013)は、理解中心の文法指導と、産出中心(話す・書く)の文法指導を直接比べた35のプロジェクトをメタ分析しました。結果は、

  • どちらの指導も、理解する力・使う力の両方に大きな効果があった
  • 理解する力では、すぐのテストで理解中心が有利だったが、時間がたつと差は小さくなった
  • 使う力では、すぐのテストでは同じくらいだったが、時間がたったテストでは産出中心が有利だった

というものでした。インプットかアウトプットか、という二択ではなく、使えるようになりたい力に合わせて練習を選ぶことが大切だと分かります。

05アウトプットについての3つの誤解

誤解1:アウトプット=英会話

アウトプットは、人と話すことだけではありません。書く、独り言を言う、録音する、読んだ内容を自分の言葉で言い直す。どれも「自分で英語を作り出す」作業です。相手がいなくても、「言えない」に気づくことはできます。

誤解2:たくさん話せば、そのぶん上手になる

スウェインは1993年の論文で、話す・書く機会を増やすだけでは足りないとはっきり書いています。いつも言える範囲の英語だけで会話していると、新しい気づきは起きにくい。少し難しい内容を、できるだけ正確に伝えようとするときに、アウトプットの効果は大きくなります。

誤解3:アウトプットは、インプットが十分にたまってから

「十分に聞けるようになるまで話さない」という考え方もありますが、アウトプットは初級からでも役に立ちます。教科書の文を見ずに言う、単語を入れかえて言う、といった短いものなら、中学1年生でもすぐに始められます。言えなかった経験があると、次に読む・聞く英語のなかで、その形に目が止まりやすくなるからです。

インプット(聞く・読む)アウトプット(話す・書く)
主に育つ力意味をつかむ力、語彙、自然な英語の感覚形を正確に組み立てる力、流暢さ
気づくこと「こんな言い方があるのか」「自分はこれが言えないのか」
弱点形を素通りしやすい材料がないと何も出てこない

06日本の学習者は明日から何をするか

アウトプットの効果を引き出すコツは、「書いて終わり」「話して終わり」にしないことです。言えなかった穴を見つけて、インプットで埋める。この往復をつくります。

毎日10分:3文日記と答え合わせ

  1. 今日あったことを英語で3文書く(辞書は使わない)
  2. 書けなかった部分に下線を引く
  3. 辞書・例文検索・教科書で言い方を調べ、正しい文を書き直す
  4. 書き直した文を声に出して3回読む

週2回:1分スピーチの録音

  1. テーマを1つ決める(例:My favorite place / What I did last weekend)
  2. スマホで1分間録音する
  3. 聞き直して、言えなかった語、止まった場所をメモする
  4. 言い方を調べてから、同じテーマでもう一度録音する

気づきを残す

言えなかった表現は「言えなかったノート」に1行ずつ書きます。

  • 言えなかった:〜するのに時間がかかった → It took me two hours to finish my homework.(宿題を終えるのに2時間かかった)

このノートを週末に見返すと、自分がつまずきやすい形が見えてきます。

ポイント:アウトプットは「上手に話す練習」ではなく「足りないものを見つける作業」と考えると、間違いが怖くなくなります。

この節の答え

話す・書くは、自分に足りない英語を見つけるための装置

今日からのやり方

  1. 今日あったことを、辞書を使わずに英語で3文書く
  2. 書けなかった部分に下線を引き、言い方を調べて書き直す
  3. 書き直した文を声に出して3回読む
  4. 週2回、同じテーマで1分スピーチを録音し、言えなかった所をメモする
  5. 言えなかった表現を「言えなかったノート」に1行ずつためて週末に見返す

レベル別:あなたならこうする

初級 A1〜A2

まずは教科書の本文を見ずに1文ずつ言ってみる、穴埋めで書いてみるなど、短いアウトプットから。I like ... because ... のような型を使って、3文日記を続けます。

中級 B1

1分スピーチや、読んだ記事の要約を書くことで「言えない」を見つけます。書き直した文を音読し、同じテーマで2回目に挑戦すると伸びが実感できます。

上級 B2〜

意見を述べる、比べる、説明するなど、少し背伸びした課題に挑みます。自分の文を手本の英文と比べ、語の選び方や論の運びの違いを書き出しましょう。

よくある失敗と対策

書きっぱなし・話しっぱなしで終わる

アウトプットの効果は、言えなかった穴に気づき、それを埋めるところで生まれます。必ず調べて直す時間をセットにしましょう。

簡単な表現だけで済ませる

言える範囲だけで話していると、新しい気づきが起きません。ときどき少し難しい内容を言おうとして、あえて困る場面をつくります。

インプットをやめてアウトプットだけにする

穴を埋める材料はインプットにあります。話す・書くと同じくらい、読む・聞く時間も確保しましょう。

TODAY
1 MIN

今日の出来事を英語で3文書き、書けなかった1か所の言い方を調べる

友だちに出したい、この節の3問

タップで答え。「X で出題する」で、そのまま問題として出せます。

2-2英語は、聞くより話すほうが文法をよく考える?

聞くときは、文法があいまいでも意味はとれます。ところが話す・書くときは、時制も語順も自分で決めなければなりません。Swain & Lapkin(1995)は、アウトプットが学習者を文法の処理に押し出すと論じました。

X で出題する

2-2英文を書いてみると、そのあと読む英語の見え方が変わる?

Izumi(2002)の実験では、自分で英文を書いてから元の英文を読んだグループは、読むだけのグループより文法の習得が進みました。書いて困った経験が、次のインプットで答えを探す目をつくります。

X で出題する

2-2英語の指導は「理解中心」と「産出中心」、どちらが効く?

35のプロジェクトをまとめたメタ分析では、どちらも大きな効果がありました。ただし、話す・書く力を時間がたってから測ると、産出中心の指導のほうが効果が大きいという結果でした。

X で出題する

X でポストLINEB!

この節の根拠(研究・公式情報)

フランス語イマージョン教育の研究をふまえ、アウトプットは流暢さを高め、意味から文法の処理へ押し出し、仮説を試させ、フィードバックを引き出すと論じた。ただ話す機会を増やすだけでは足りないとした。

Swain, M. (1993). The output hypothesis: Just speaking and writing aren't enough. The Canadian Modern Language Review, 50(1), 158–164.出典を開く ↗

アウトプット中に問題に気づくと、学習者は自分の英語を作り直そうとし、理解のときより文法に寄った処理が起きることをデータで示した。

Swain, M., & Lapkin, S. (1995). Problems in output and the cognitive processes they generate: A step towards second language learning. Applied Linguistics, 16(3), 371–391.出典を開く ↗

英文を再現して書いてから読むグループは、理解のために読むだけのグループより関係代名詞の習得が進んだ。文字を目立たせるだけの方法では、はっきりした伸びは見られなかった。

Izumi, S. (2002). Output, input enhancement, and the noticing hypothesis. Studies in Second Language Acquisition, 24(4), 541–577.出典を開く ↗

理解中心と産出中心の文法指導を比べた35のプロジェクトを分析。どちらも大きな効果があり、使う力を時間がたってから測ると産出中心のほうが効果が大きかった。

Shintani, N., Li, S., & Ellis, R. (2013). Comprehension-based versus production-based grammar instruction: A meta-analysis of comparative studies. Language Learning, 63(2), 296–329.出典を開く ↗

よくある質問

間違えた英語を口に出すと、間違いが定着しませんか?

アウトプットの目的は、間違いに気づいて直すことです。録音や添削で直した形を言い直せば、正しい形を練習する機会になります。間違いを恐れて黙っているより、言って直すほうが学ぶ材料が増えます。

話す相手がいない場合はどうすれば?

書く、独り言を言う、録音するだけでも「言えない」に気づく効果はあります。学校の先生や ALT に1文だけ見てもらう、家族に日本語で内容を聞いてもらうなど、身近なところから始められます。

アウトプットはいつから始めればいいですか?

初級からで大丈夫です。最初は教科書の文を見ずに言う、単語を入れかえて言うなどの短い形で十分です。インプットが増えるにつれて、日記やスピーチへと長くしていきます。