英語は「ゲルマン語の骨格」に「北欧語の基本語」「フランス語の上品な語」「ラテン語・ギリシャ語の学問の語」を重ね、さらに世界中から言葉を借りてできた言語です。
だから英語には、同じ意味の単語が「ふだん用・ていねい用・学問用」の3段で並び、綴りは500年前の発音のまま止まっています。歴史を知ると、単語の覚え方・話し言葉と書き言葉の使い分け・綴りと発音のルールが、まとめて見えてきます。
知ってた? 目から鱗の3連発
they(彼ら)は、もともと英語の単語ではなかった?
ホントです。they・them・their はヴァイキングが話していた古ノルド語から入りました。古英語では hīe(彼ら)と言っていました。代名詞のような基本中の基本の語まで借りるのは、世界の言語でもかなり珍しいことです。
sorry と sorrow(悲しみ)は親戚?
親戚ではありません。sorry は古英語の sārig(心が痛む)で、sore(ひりひり痛い)の仲間です。sorrow は古英語の sorg から来た別の語で、形が似ているのは偶然です。
Wednesday の d を読まないのはなぜ?
古英語では Wōdnesdæg(ウォーデンの日)でした。ウォーデンは北欧神話のオーディンにあたる神です。発音は縮まって「ウェンズデイ」になりましたが、綴りは昔の形を残しました。
011000年で、英語はここまで変わった
同じ祈りの文(「天にましますわれらの父よ、御名があがめられますように」)を、1000年前から今まで4つの時代で並べました。ボタンを押すと、単語が時代ごとに入れかわります。1000年前の英語は、もはや外国語です。
1000年ごろ古英語|ウェストサクソン方言の福音書
「父 わたしたちの」の順。þ(ソーン)は th の音を表す文字で、今は使われていません。名詞の語尾が変わって、文の中での役割を表しました。
02ひと目でわかる英語の1500年
英語の歴史は、ふつう4つの時代に分けます。色は時代を表します。
ゲルマン人の言葉。語尾が変化し、文字 þ ð æ を使った
ノルマン征服でフランス語が大量に入り、語尾がすり減った
印刷・大母音推移・ルネサンスの借用語・シェイクスピア
辞書と文法書、アメリカ英語、世界の英語へ
- 449年ごろ
アングル人・サクソン人・ジュート人がブリテン島へ
修道士ベーダが731年ごろに書いた歴史書が伝える年です。先に住んでいたケルト系ブリトン人の言葉は、Thames(テムズ)や Avon(ケルト語で「川」)など、川や地名にわずかに残りました。
- 597年
キリスト教が伝わる
アウグスティヌスがケントに上陸。教会と学問のラテン語が入り、bishop(司教)・school・candle などが古英語に加わりました。
- 793年
ヴァイキングの襲撃が始まる
北の島リンディスファーンの修道院が襲われます。やがて北欧の人々はイングランド東部に住みつき、隣人として暮らしました。
- 878年
アルフレッド大王がデーン人に勝つ
エディントンの戦いのあと、イングランド北東部はデーン人の法が通る「デーンロウ」に。アルフレッドはラテン語の本を英語に訳させ、英語での教育を進めました。
- 1000年ごろ
『ベーオウルフ』の写本
古英語でいちばん長い英雄叙事詩が、ただ1冊の写本で今に伝わります。1行目は Hwæt!(さあ聞け!)。
- 1066年
ノルマン・コンクエスト
10月14日、ヘイスティングズの戦い。ノルマンディー公ギヨームがイングランド王ウィリアム1世に。宮廷・法律・教会の上の層は、フランス語とラテン語の世界になりました。
- 1204年
ノルマンディーを失う
ジョン王がフランス王にノルマンディーを奪われ、貴族は「フランスに領地を持つ人」から「イングランドの人」へ変わっていきます。
- 1337〜1453年
百年戦争
フランスがはっきり敵国に。フランス語は教養の言葉であっても、自分たちの言葉ではなくなっていきます。
- 1362年
法廷の弁論を英語で
議会が「裁判の弁論は英語で行う」と定めた法律(Pleading in English Act)。ただし記録はラテン語のままでした。
- 1380年代〜1400年
ウィクリフ派の英語聖書とチョーサー
聖書が英語に訳され、チョーサーが『カンタベリー物語』を英語で書きました。英語が文学の言葉に返り咲きます。
- 1476年
キャクストンがウェストミンスターに印刷所
イングランドで最初の印刷所。最初期の1冊は『カンタベリー物語』。印刷で綴りが固まりはじめます。
- 1400〜1700年ごろ
大母音推移
長い母音がそろって上にずれ、name が「ナーメ」から「ネイム」に。綴りと発音のずれの最大の原因です。
- 1553年
インク壺語論争
トマス・ウィルソンが『修辞術』で、見なれないラテン語風の言葉(inkhorn terms)をいましめました。それでもラテン語・ギリシャ語からの借用は止まりませんでした。
- 1604年
はじめての英英辞典
ロバート・コードリーの『A Table Alphabeticall』。難しい外来語を中心に2543語を説明した小さな辞書でした。
- 1611年
欽定訳聖書
King James Version。教会で何百年も読み上げられ、英語の言い回しに大きな影響を残しました。
- 1623年
シェイクスピアの戯曲集
没後に仲間がまとめたファースト・フォリオ。今も使う言い回しが数多く入っています。
- 1755年
ジョンソンの英語辞典
サミュエル・ジョンソンが約7年かけて、約4万2千語に文学作品からの用例をつけた辞書。
- 1828年
ウェブスターのアメリカ英語辞典
約7万語。color・center など、今のアメリカ式の綴りを広めました。
- 1884〜1928年
オックスフォード英語辞典(OED)
分冊の刊行開始から完成まで44年。すべての語の歴史を、年代順の用例でたどる辞書です。
- 1985年
カチュルの「3つの円」
言語学者カチュルが、世界の英語を「母語の円・公用語の円・外国語の円」で示しました。
- 今
母語でない人のほうが多い言語に
英語を使う人の多くは、第二言語・外国語として話す人です。英語は、だれか1つの国のものではなくなりました。
まず全体の地図を頭に入れる1本。英語字幕で見て、Old English・Norman・Great Vowel Shift の3語が出てくる場面だけ一時停止して、このページの年表と照らし合わせます。
03英語の家系図とグリムの法則
英語は、インドからヨーロッパまで広がる「インド・ヨーロッパ語族」の一員です。その中のゲルマン語派の、さらに西ゲルマン語の仲間。いちばん近い親戚はオランダ北部などで話されるフリジア語で、次がオランダ語とドイツ語です。フランス語はイタリック語派(ラテン語の子孫)なので、親戚ですがずっと遠い関係です。
- 北古ノルド語 → アイスランド語・ノルウェー語・デンマーク語・スウェーデン語
- 西英語・フリジア語・オランダ語・ドイツ語
- 東ゴート語(消滅)
- ラテン語
- → フランス語・スペイン語・イタリア語・ポルトガル語・ルーマニア語
- 古代ギリシャ語 → 現代ギリシャ語
- アイルランド語・スコットランド・ゲール語・ウェールズ語・ブルトン語
- サンスクリット → ヒンディー語・ベンガル語
- ペルシャ語
- ロシア語・ポーランド語・チェコ語・リトアニア語
英語英語に単語をたくさん貸した言語
- father英語
- Vaterドイツ語
- vaderオランダ語
- faðir古ノルド語
- paterラテン語
- patērギリシャ語
- pitṛサンスクリット
グリムの法則マシン
ゲルマン語は、大昔に子音がそろってずれました。これを発見者の名前から「グリムの法則」と呼びます(童話を集めたグリム兄弟の兄ヤーコプ)。ラテン語の p が英語では f、t が th、k の音が h になります。だから、ラテン語から来た単語と、英語にもとからある単語が、実は同じ祖先の兄弟だとわかります。
「英語の家系図」の節とあわせて。インド・ヨーロッパ語族の広がりを地図で見せてくれます。cognate(同じ祖先の語)という言葉が出たら、グリムの法則マシンで例を確かめます。
04古英語:ゲルマン人の言葉がやってきた古英語

古英語は、今のドイツ語のように名詞の語尾が変わって「だれが・だれを」を表しました。だから語順を入れかえても意味が変わりません。下の2つは、どちらも「王はその犬を愛した」です。
意味:王はその犬を愛した
今の英語:The king loved the dog.
se(その・主語の形)と þone(その・目的語の形)が、役割の札になっています。この語尾が中英語の時代にすり減って消えたため、英語は語順で役割を表す言語に変わりました。「英語は語順がすべて」と言われるのは、このためです。今も残る名残は、he と him、who と whom、oxen や children の -en、feet や mice の母音の変化です。
今はない4つの文字
ソーン(thorn)
th の音。古い看板の Ye Olde の Y は、実はこの þ を Y に似せて書いた名残で、読み方は the。
エズ(eth)
これも th の音。þ と同じように使われました。今はアイスランド語に残っています。
アッシュ(ash)
cat の a のような「エとアの間」の音。発音記号の [æ] はここから。
ウィン(wynn)
w の音を表すルーン文字由来の字。のちに uu を重ねた w に置きかわりました。
古英語からずっと使われている語:house・wife・man・child・eat・drink・sleep・love・hand・heart・water・day・night・good・come・go・think・know
古英語の節とあわせて。children・oxen・feet・mice のような不規則な複数形が、古英語の語尾の名残だとわかります。
05ヴァイキングがくれた they と egg古英語

8世紀の終わりから、デンマークやノルウェーの人々(ヴァイキング)が襲撃し、やがてイングランド東部に住みつきました。彼らの古ノルド語と古英語は親戚どうしで、語の根っこは似ていても語尾がちがいました。隣人として話すうちに、ややこしい語尾が落ちていったと考える研究者もいます。
借りた語は、戦争や支配の言葉ではなく、毎日の暮らしの言葉。これがノルマン人のフランス語との大きなちがいです。
英語の形と北欧語の形が両方残ったペア
同じ祖先の語が、英語の形と北欧語の形の2つで残ったペアです。古英語では sk の音が sh に変わりましたが、北欧語は sk のまま。だから sk で始まる英語(sky, skin, skill, skirt)は北欧語から来たものが多いのです。
地名にも残っています。語尾の -by(村)は Derby・Whitby・Grimsby、-thorpe(集落)は Scunthorpe など。地図で -by の町を探すと、ヴァイキングが住んだ地域がそのまま浮かび上がります。
「卵」が通じない! 1490年の事件
500年後の1490年、印刷業者キャクストンは本の序文に、卵の言葉で通じなかった話を書いています。テムズ川を下る船の商人たちがケントの岸に寄り、ある家で egges(北の言い方)をくれと言うと、おかみさんは「フランス語はわかりません」。別の人が eyren(南の言い方)と言うと通じた、という話です。北欧語の egg が全国に広がるまで、こんなに時間がかかったのです。
And specyally he axyd after eggys. And the goode wyf answerde that she coude speke no frenshe.
とりわけ卵(eggys)がほしいと言った。するとおかみさんは、フランス語は話せませんと答えた。(キャクストン『エネイドス』序文、1490年)
061066年ノルマン・コンクエスト:英語が「下の言葉」になった300年中英語

1066年10月14日、ノルマンディー公ギヨームがヘイスティングズの戦いでイングランド王ハロルド2世を破りました。ノルマン人はもとは北欧系ですが、このころにはフランス語(ノルマン方言)を話していました。
それから約300年、王と貴族・法廷・役所はフランス語、教会と記録はラテン語、そして人口の大部分をしめる農民や職人は英語。英語は書き言葉の主役から外れ、話し言葉として生き延びたのです。書き手の目を気にせず話されたことで、語尾のすり減りが一気に進みました。
動物は英語、料理はフランス語?
カードを押すと、肉の名前に変わります。
「育てるのは英語を話す農民、食べるのはフランス語を話す貴族だったから、生きた動物は英語、料理はフランス語」という説明は、19世紀の小説『アイヴァンホー』で有名になりました。フランス語の boeuf はもともと「牛」も「牛肉」も意味していて、英語でも beef が生きた牛を指した例があります。肉の意味に落ち着いたのは時間をかけてのこと。ただ、料理・食卓の言葉にフランス語が多い(dinner・supper・feast・sauce・roast・boil・fry)のは確かです。
フランス語が入ってきた分野
government・parliament・crown・prince・duke・baron・noble・royal
court・judge・jury・crime・prison・verdict・evidence・attorney
army・soldier・battle・enemy・war・peace・castle
religion・prayer・saint・virtue・mercy・grace・pity
fashion・dinner・art・beauty・music・dance・chair・table・color
people・use・just・very・change・try・because(by+cause)
法律の英語には、フランス語の語順(名詞のあとに形容詞)がそのまま残っています。attorney general(法務長官)、court martial(軍法会議)、heir apparent(法定推定相続人)。今もイギリス王室の紋章には Dieu et mon droit(神とわが権利)というフランス語のモットーが書かれています。
英語が上の層に戻るきっかけは、1204年のノルマンディー喪失と百年戦争です。1362年には法廷の弁論を英語で行う法律ができ、1399年に即位したヘンリー4世は、征服後はじめて英語を母語とする王だったとよく言われます。戻ってきた英語は、何千ものフランス語を抱えた、語尾の少ない新しい英語でした。
ノルマン・コンクエストの節のあとに。英語のフランス語の割合が大きい理由と、それでも英語がゲルマン語である理由を、語源の例で説明しています。
07同じ意味が3段に並ぶ:英語の「格」のはしご中英語
ノルマン征服とルネサンスのおかげで、英語には同じ意味の語が3段で並ぶことがよくあります。下の段ほどふだん着、上の段ほど正装です。ボタンを押すと、はしごがのびます。
フランス語どうしでも二重になった語があります。ノルマン人の北の方言とパリの言葉で形がちがったためです。warranty / guarantee(保証)、warden / guardian(番人)、catch / chase(捕まえる/追う)、cattle / chattel(家畜/動産)。前がノルマン方言、後ろがパリの形です。
08チョーサーと印刷機:英語が書き言葉に戻る中英語

14世紀の終わり、ジェフリー・チョーサーが英語で『カンタベリー物語』を書きました。巡礼者たちが旅の途中で順番に話を語る物語集です。冒頭の2行を、当時の発音で読むつもりで見てください。
Whan that Aprill with his shoures soote
4月がその甘いにわか雨で
Whan=when、shoures=showers、soote=sweet。語末の e も軽く読んでいました。The droghte of March hath perced to the roote,
3月のかわきを根まで刺しとおすと
droghte=drought、hath=has、perced=pierced、roote=root。gh は「ハ」に近い音を出していました。
1430年ごろからロンドンの役所(チャンセリー)が使った書き方が手本になり、さらに1476年にキャクストンが印刷を始めると、ロンドンの英語の綴りが全国に広まりました。ただ、キャクストン自身が「どの言い方で書けばいいのか」と悩んだように、綴りが固まるまでにはまだ時間がかかりました。そして、綴りが固まりかけたちょうどその時期に、発音のほうが大きく動きます。
09大母音推移:name が「ナーメ」だったころ初期近代英語

1400年から1700年ごろにかけて、英語の長い母音がそろって1段ずつ上にずれました。いちばん上の「イー」「ウー」は行き場を失って「アイ」「アウ」になりました。これが大母音推移(the Great Vowel Shift)です。
ポイントは、ずれる前の英語の母音は、ローマ字読みに近かったこと。name は「ナーメ」、time は「ティーム」、house は「フース」。英語の綴りは、ローマ字読みの時代の発音を写したまま固まったのです。日本人が英語の綴りをローマ字読みしたくなるのは、実は500年前の英語の読み方です。
1400年ごろ/iː/ティーム→今/aɪ/
なぜ起きたのかは、今もはっきりしていません。上の母音が先に動いて下が追いかけた(引っぱり説)のか、下が押し上げた(押し上げ説)のか、研究者の間で議論が続いています。黒死病のあと地方から多くの人がロンドンに移り住み、なまりがまざったことを原因の1つに挙げる人もいます。
覚え方のコツ:「綴りはローマ字読みの時代のまま、発音だけ1段上がった」。だから name・time・home・cute のように語末に e があると、前の母音は「アルファベットの名前読み」(エイ・アイ・オウ・ユー)になります。フォニックスの magic e は、大母音推移の結果をまとめたルールです。
大母音推移の節のあとに。シェイクスピアの時代の発音を、韻や綴りからどう復元するのかがわかります。
10綴りのナゾを8つ解く初期近代英語
読まない字には、ちゃんと犯人がいます。カードを開くと、その字が入った理由がわかります。
knightk も gh も読まないのはなぜ?
中英語では「クニヒト」と、k も gh も発音していました。ドイツ語の Knecht(召使い)と同じ祖先です。発音から k と gh が落ちたあとも、綴りは印刷で固まったまま残りました。knee・know・light・night も同じです。
debt / doubt読まない b はいつから?
中英語では dette・doute と書いていました(フランス語から)。16世紀の学者が、元のラテン語 debitum・dubitare に似せようと b を足したのです。この b は一度も発音されたことがありません。
island読まない s の正体は?
古英語では īegland(水に囲まれた土地)で、s はありません。16世紀に、フランス語から来た別の語 isle(ラテン語 insula)につられて s が入りました。island と isle は、実は親戚ではありません。
ghostgh の h はどこから?
古英語は gāst。h が入ったのは1484年のキャクストンの印刷本が最初で、オランダ語(フラマン語)の gheest の書き方の影響とされます。キャクストンは長くフランドル地方で暮らしていました。
couldl を読まないのはなぜ?
古英語は cūðe で、l はありません。would・should に合わせて、16世紀ごろに l が足されました。would と should の l は、もとの will・shall の l なので、昔は読んでいたのです。
receiptp はなぜ?
ラテン語 recepta に似せて、あとから p を足しました。同じ仲間の deceit(だますこと)には p を足さなかったので、こちらは p なしのままです。
one「ワン」と読むのはなぜ?
one の「ワ」の音は、もとは一部の方言の発音でした。それが広まったのです。昔の読み方は、alone(all+one)・only・atone の中に残っています。どれも w の音がありません。
salmonl を読まないのはなぜ?
中英語では samoun と書いていました(フランス語 saumon から)。のちにラテン語 salmo に合わせて l を足しましたが、発音は「サモン」のまま変わりませんでした。debt の b と同じ、学者の「見た目の直し」です。
綴りのナゾの節とあわせて。綴りと発音がずれた理由を短くまとめた1本で、中学生・高校生にもおすすめです。
綴りには意味と語源の理由がある、という見方を教えてくれます。sign と signature のように、読まない字が仲間の語では読まれる例に注目します。
11ルネサンスとシェイクスピア:言葉の大増産初期近代英語

16世紀、ルネサンスで古代ギリシャ・ローマの学問が見直されると、学者たちは英語に足りない言葉をラテン語とギリシャ語から大量に借りました。一方で「見なれない言葉で気取るな」という反発も起き、1553年にトマス・ウィルソンが『修辞術』で inkhorn terms(インク壺の言葉)と呼んで批判しました。生き残った語もあれば、消えた語もあります。
生き残った:absurdity・capacity・celebrate・commit・dismiss・encyclopedia・habitual・lunar・ingenious
消えた:expede(はかどらせる。同じ時期の expedite は残った)など。同じころの新語の3分の1以上は、すぐに使われなくなったと言われます。
シェイクスピア(1564〜1616年)の作品には、記録の上で最初に使われた語や言い回しがたくさん出てきます。ただし「シェイクスピアが1700語を発明した」という話は辞書の用例集めは文学作品にかたよっていたため、その後の調査で、もっと前に別の人が使っていた例が次々に見つかっています。シェイクスピアの本当のすごさは、ありあわせの語を組み合わせて、何百年も使われる言い回しにしたことです。
この時代に決まった、今の英語の形
thou は親しい相手1人、you は複数か目上への敬語でした(フランス語の tu と vous と同じしくみ)。やがて you が全部を引き受け、thou は聖書や詩の中に残るだけになりました。
シェイクスピアの時代は Know you not?(知らないのか)のように動詞を前に出す言い方と、Do you not know? が両方使われていました。do を使う言い方が勝ち、今の疑問文・否定文の形になりました。
he hath, she doth の -th は南の形、has・does の -s は北(ヴァイキングの影響が強い地域)の形。1600年ごろにはロンドンでも -s が優勢になりました。
12辞書が英語を整えた:ジョンソンとウェブスター現代英語

綴りも意味もばらばらだった英語を整えようと、18世紀から辞書と文法書が次々に作られました。
はじめての英英辞典。難しい外来語2543語を、やさしい英語で説明した。
約4万2千語。文学作品から集めた11万以上の用例で意味を示した。
約7万語。1806年の小さな辞書から、color・center・program など今のアメリカ式の綴りを推し進めた。
すべての語の歴史を、いちばん古い用例から年代順にたどる。今もオンラインで改訂が続く。
アメリカ英語は「イギリス英語がくずれたもの」ではありません。17世紀にアメリカへ渡った人々の英語を受けつぎ、イギリスで先に変わった部分を残していることもあります。たとえば、秋の fall(イギリスでも昔は使った)、過去分詞の gotten(イギリスでは got が主流に)、母音のあとの r の発音(イギリス南部では18世紀ごろから r を読まなくなった)。
13世界中から借りた言葉:日本語から入った英語も現代英語
大航海時代と植民地の時代、英語は世界中から言葉を持ち帰りました。日本語から入った語も、思ったより多いのです。地域のボタンを押してください。
14あなたの英文を語源で色分け
下の英文の単語を、語源で色分けします。自分の英文を貼りつけても動きます。毎日の会話と、ニュースや論文の英文で、色の割合がどう変わるか比べてみてください。
- 古英語・ゲルマン系0%毎日の基本語
- 北欧語(ヴァイキング)0%they・sky・egg
- フランス語0%社会・法律・料理
- ラテン語0%学問・かたい語
- ギリシャ語0%科学・思想
- 世界の言葉0%日本語・アラビア語ほか
- リストにない語0%
約780語の小さな語源リストで判定しています。リストにない語は灰色です。フランス語には「ラテン語がフランス語を通って入った語」も含みます。1つの語の語源には諸説あることがあり、ここでは代表的な説で分けています。
15英語のいま:世界の英語と3つの円現代英語

インドの言語学者ブラジ・カチュルは1985年、世界の英語を3つの円で表しました。日本はいちばん外側の「拡大する円」にいます。そして今、英語を使う人の数がいちばん多いのも、外側の2つの円です。
英語が主に母語の国
イギリス・アメリカ・オーストラリア・ニュージーランド・アイルランド・カナダ(英語圏)英語が公用語・第二言語として国の中で使われる国
インド・ナイジェリア・ケニア・シンガポール・フィリピン・南アフリカ国の中での役割はないが、国際的なやりとりに英語を使う国
日本・中国・韓国・ブラジル・ドイツ・ロシアシンガポール英語の lah、インド英語の prepone(予定を前倒しする)のように、外側の円の英語は独自の語や言い方を育てています。英語の歴史は今も続いていて、そのいちばん新しいページを書いているのは、母語でない話し手たちです。発音の目標を「ネイティブそっくり」ではなく「世界のだれにでも通じる」に置く考え方は、ここから来ています(目指すのはネイティブ発音?)。
最後の「世界の英語」の節のあとに。英語史の第一人者デイヴィッド・クリスタルが、世界の英語の多様性を語ります。
16英語の歴史を勉強に生かす5つの技
- 1話すときは「古英語の短い語+句動詞」
会話で postpone・investigate・tolerate と言うと、かたく聞こえます。ネイティブの会話は put off・look into・put up with のような、古英語の短い語の組み合わせ(句動詞)が中心。話す練習では、まず短いゲルマン系の語で言えるかを試します。
postpone → put off / investigate → look into / discover → find out / continue → go on
- 2書くとき・試験のエッセイでは1段上げる
IELTS・TOEFL・英検の作文やビジネスメールでは逆に、get を obtain・receive に、think を consider に上げると引きしまります。上の「3段ばしご」で、自分の文の単語がどの段かを意識するだけで、文体が整います。
get → obtain / ask → inquire / help → assist / need → require
- 3ラテン語・ギリシャ語の語根で単語をまとめて覚える
難しい単語の多くはルネサンス以降に入ったラテン語・ギリシャ語です。spect(見る)、port(運ぶ)、dict(言う)、graph(書く)、tele(遠く)など、語根を1つ覚えると10語単位で増えます。くわしくは語源で一気に増やすへ。
inspect・respect・spectator・perspective / import・export・portable・transport
- 4綴りは「ローマ字読みの時代+大母音推移」で読む
語末の e があると前の母音を名前読みする(name・time・home)、gh や k を読まない(night・know)など、綴りのルールの多くは歴史で説明できます。ルールとして身につけるならフォニックスがいちばんの近道です。
mat / mate / kit / kite / hop / hope / cut / cute
- 5語源辞典を「3行メモ」で使う
覚えにくい単語に出会ったら、Etymonline に単語を入れて、①何語から ②いつごろ ③もとの意味、の3行だけメモします。1日3語で十分。意味のつながりができると、記憶に残る力がぐっと上がります。
window:古ノルド語/1200年ごろ/風の目
17ホント?ウソ? 英語史クイズ8問
Q1英語の辞書に載っている単語は、フランス語とラテン語から来たものが半分以上。
ホント約7万5千語を調べた研究(Finkenstaedt & Wolff, 1973)では、フランス語が約28%、ラテン語が約28%、古英語などゲルマン系が約25%、ギリシャ語が約5%でした。
Q2でも、よく使う100語のほとんどはゲルマン系。
ホントよく使う語の上位100語では、ゲルマン系が90語。残りは北欧語の they・them・their・get・take・want と、フランス語の people・use・just・because だけです。辞書の中と、実際に口から出る英語は別ものです。
Q3they は、昔から英語にあった単語だ。
ウソthey・them・their は、ヴァイキングの古ノルド語から入りました。古英語の「彼ら」は hīe です。
Q4牛が cow で牛肉が beef なのは、料理を食べる貴族がフランス語を話していたから。
半分ホント料理の言葉にフランス語が多いのは確かですが、beef も最初は生きた牛を指すことがありました。肉の意味に落ち着いたのは時間をかけてのことです。
Q5大母音推移の前、name は「ナーメ」に近い音だった。
ホント中英語の name は、ローマ字読みに近い「ナーメ」でした。長い a が上にずれて、今の「ネイム」になりました。
Q6debt の b は、昔は発音していた。
ウソ中英語では dette と書いていました。16世紀にラテン語 debitum に似せて b を足しただけで、発音されたことはありません。
Q7シェイクスピアは1700以上の単語を発明した。
半分ホント作品が最初の用例とされる語は多いものの、その後の調査で、もっと前の用例が次々に見つかっています。
Q8アメリカ英語は、イギリス英語がくずれてできた。
ウソfall(秋)・gotten・母音のあとの r の発音など、イギリスで先に変わった昔の形をアメリカ英語が残している部分もあります。
結果 0 / 8 問正解
結果を X でポスト18この単語、どこから来た? 語源当て8問
Q1sky はどこの言葉から?
北欧語古ノルド語の sky(雲)から。古英語の「空」は heofon で、こちらは heaven(天国)として残りました。
Q2beef はどこの言葉から?
フランス語フランス語の boeuf から。生きた牛の cow は古英語です。
Q3tycoon はどこの言葉から?
日本語日本語の「大君(たいくん)」から。江戸幕府の将軍を外国向けに呼んだ言い方で、英語では「大物の実業家」の意味になりました。
Q4shampoo はどこの言葉から?
ヒンディー語ヒンディー語の「押す・もむ」から。もとは頭や体をもむマッサージのことでした。
Q5algebra はどこの言葉から?
アラビア語アラビア語の al-jabr(ばらばらのものを、もとに戻すこと)から。9世紀の数学書の書名に使われた語です。
Q6sorry はどこの言葉から?
古英語古英語の sārig(心が痛む)から。sore(痛い)の仲間で、sorrow とは別の語です。
Q7kangaroo はどこの言葉から?
オーストラリア先住民の言葉グーグ・イミディル語の gangurru から。1770年に探検家クックの一行が記録しました。
Q8yacht はどこの言葉から?
オランダ語オランダ語の jacht(追いかける船)から。海の言葉には skipper・cruise などオランダ語が多くあります。
英語史をもっと深める教材
このページで興味がわいたところを、次の教材で深めます。日本語で読むなら堀田隆一さんのブログと音声、英語で聞くならポッドキャスト、1語ずつ調べるなら語源辞典です。
ケヴィン・ストラウドが、インド・ヨーロッパ祖語から近代まで、英語史を1回1テーマで語るポッドキャスト。190回をこえる長期シリーズで、英語の多聴の素材にもなります。中級以上向け。
hellog~英語史ブログ(堀田隆一) ↗慶應義塾大学の英語史研究者による日本語のブログ。2009年からほぼ毎日更新され、6000本をこえる記事があります。「なぜ?」と思った語を検索すると、たいてい答えが見つかります。
英語の語源が身につくラジオ(heldio) ↗同じく堀田隆一さんの音声配信(Voicy)。毎朝10分ほどで英語史の話題を1つ。通学・通勤の耳のすきま時間に。
Oxford English Dictionary(OED) ↗語の歴史を、いちばん古い用例から年代順にたどれる辞書。有料ですが、大学や大きな公共図書館で使えることがあります。
語源を調べるサイト(サイト図鑑)
動画でもっと知る
古英語から現代英語まで、1人の語りで発音が少しずつ変わっていく動画。1回目は流して聞き、2回目は「どのあたりで今の英語として聞き取れはじめたか」の時刻をメモします。
よくある質問
英語の歴史は、ざっくり何時代に分けられますか?
ふつう4つに分けます。古英語(450〜1100年ごろ)、中英語(1100〜1500年ごろ)、初期近代英語(1500〜1700年ごろ)、現代英語(1700年ごろ〜)。区切りになる出来事は、ゲルマン人の上陸、1066年のノルマン・コンクエスト、印刷と大母音推移、辞書と世界への広がりです。
ノルマン・コンクエストとは何ですか? 英語にどんな影響がありましたか?
1066年に、フランス語を話すノルマンディー公ギヨームがイングランドを征服した出来事です。その後約300年、上の層の言葉がフランス語になり、政治・法律・料理・文化の語が1万語ほど英語に入ったとされます。英語は話し言葉として生き延びるあいだに語尾がすり減り、語順で意味を表す言語に変わりました。
借用語とは何ですか? 英語にはどれくらいありますか?
ほかの言語から取り入れた単語のことです。辞書に載る語の数で数えると、英語の単語の半分以上はフランス語とラテン語から来ています。ただし、よく使う100語ではゲルマン系が90語なので、ふだんの会話の骨組みは今も古英語です。
大母音推移とは何ですか?
1400〜1700年ごろ、英語の長い母音がそろって上にずれた変化です。name が「ナーメ」から「ネイム」、time が「ティーム」から「タイム」に変わりました。綴りはその前の発音のまま固まったので、綴りと発音がずれました。
英語の綴りが発音どおりでないのはなぜですか?
主な理由は3つです。①印刷で綴りが固まったあとに大母音推移などで発音が変わった、②16世紀の学者がラテン語に似せて読まない字を足した(debt の b など)、③フランス語・ラテン語・ギリシャ語などの綴りをそのまま取り入れた。
英語の歴史を学ぶと、英語の勉強に役立ちますか?
役立ちます。話すときは古英語系の短い語と句動詞、書くときはラテン語系の語、と使い分けの目安になります。ラテン語・ギリシャ語の語根を知れば難しい単語をまとめて覚えられ、綴りと発音のルールにも理由があるとわかります。
OK はどこから来た言葉ですか?
いちばん有力なのは、1839年3月にボストンの新聞に出た oll korrect(all correct のふざけた綴り)の略という説です。1840年の大統領選挙で、候補者ヴァン・ビューレンの愛称 Old Kinderhook と重なって広まりました。アメリカ先住民のチョクトー語から来たという説もありますが、定説ではありません。
出典・参考にした資料
[1] 辞書の語の語源の割合(フランス語28.3%・ラテン語28.24%・ゲルマン系25%・ギリシャ語5.32%)
Finkenstaedt, T. & Wolff, D. (1973). Ordered Profusion. Heidelberg: C. Winter(Wikipedia の解説による)出典を開く ↗[2] よく使う英単語の上位100語(Oxford English Corpus)
Most common words in English — Wikipedia出典を開く ↗[3] 大母音推移の時期(1400〜1700年ごろ)と母音の変化
Great Vowel Shift — Wikipedia出典を開く ↗[4] 1362年の法律:弁論は英語、記録はラテン語
Pleading in English Act 1362 — Wikipedia出典を開く ↗[5] キャクストンの印刷所(1476年、ウェストミンスター)と『エネイドス』序文の卵の話
William Caxton — Wikipedia出典を開く ↗[6] ghost の h はキャクストンの1484年の印刷本が最初、中世オランダ語 gheest の影響
ghost — Wiktionary出典を開く ↗[7] island の s は16世紀に isle につられて入った
island — Wiktionary出典を開く ↗[8] インク壺語論争(トマス・ウィルソン『修辞術』1553年)と生き残った語・消えた語
Inkhorn term — Wikipedia出典を開く ↗[9] コードリー『A Table Alphabeticall』(1604年、2543語)
Table Alphabeticall — Wikipedia出典を開く ↗[10] ジョンソンの辞書(1755年、約4万2千語、約7年)
A Dictionary of the English Language — Wikipedia出典を開く ↗[11] ウェブスターの辞書(1828年、約7万語)とアメリカ式の綴り
Webster's Dictionary — Wikipedia出典を開く ↗[12] カチュルの3つの円(内側・外側・拡大する円)
Three Circles of English — Wikipedia出典を開く ↗[13] OK の語源(1839年 Boston Morning Post の oll korrect)とチョクトー語説
OK — Wiktionary出典を開く ↗[14] グリムの法則(ゲルマン語の子音推移)
Grimm's law — Wikipedia出典を開く ↗[15] デーンロウとアルフレッド大王
Danelaw — Wikipedia出典を開く ↗英語大全でくわしく:語源・発音・語順

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