第5章|単語5-4語源で一気に増やすinflammableは『燃えない』ではなく『燃えやすい』。語源は武器にも罠にもなる

「in- は否定の印。だから inflammable は燃えない」。語源の知識で単語を分解すると、こう読みたくなります。ところが inflammable の本当の意味は、正反対の「燃えやすい」。誤解すると危ないので、注意表示では flammable のほうが好まれるほどです。語源は、単語を一気に増やす近道のはずでした。その近道に、なぜこんな落とし穴があるのか。
01単語は「部品」でできている
英単語の多くは、いくつかの部品の組み合わせでできています。
- 接頭辞:単語の頭について、意味を変える(un-、re-、pre- など)
- 語根:意味の中心になる部分(spect、port、dict など)
- 接尾辞:単語のおしりについて、品詞を変えることが多い(-tion、-able、-ness など)
たとえば次の3語は、辞書で確かめられる語源です。
| 単語 | 部品 | 意味 |
|---|---|---|
| predict | pre(前に)+ dict(言う) | 予言する |
| inspect | in(中を)+ spect(見る) | 点検する |
| transport | trans(向こう側へ)+ port(運ぶ) | 輸送する |
同じ語根を持つ単語は、意味もつながっています。port(運ぶ)なら、export(外へ運ぶ→輸出する)、import(中へ運ぶ→輸入する)、portable(運べる→持ち運びできる)。1つの部品を知ると、何語もまとめて覚えやすくなります。
接尾辞は、品詞の目印として特に役に立ちます。
- -tion、-ment、-ness → 名詞(decision、development、kindness)
- -able、-ful、-less → 形容詞(readable、careful、careless)
- -ize、-en → 動詞(realize、widen)
長文で知らない単語に出会っても、おしりを見れば「これは名詞だな」と分かるだけで、文の構造が読み取りやすくなります。
02接辞は「やさしい順」に覚える
語彙研究では、ひとつの単語とその派生語をまとめて語族(ワードファミリー)と呼びます。Bauer & Nation (1993) は、英語の接辞を、よく使われるか、規則的か、付け外ししても意味が予測しやすいか、といった基準で7つの段階に分けました。よく使われて形の変化が少ない接辞ほど早い段階、まれなものや、つけるとつづり・発音が変わりやすいものほど後の段階に置かれています。
日本人学習者についても調査があります。Mochizuki & Aizawa (2000) は、日本の高校生と大学生に接辞のテストを実施。この研究をもとにした国内の追試の報告によると、元の研究で最もよく理解されていた接頭辞は re-・un-・pre-、理解が低かったのは ante-・in-・counter- でした。追試でも non-・pre-・re- はやさしく、ante- は難しいという傾向が似ていました。
追試の著者たちは、やさしい接頭辞の多くに日本語のカタカナ語(ノンアルコール、セミロング、リフォームなど)の仲間があることを、理由の候補として挙げています。
ポイント:知っている接頭辞は、カタカナ語から増やせる。苦手な ante-(前の)、ex-(外へ・元の)、inter-(間の)などは、意識して覚える価値があります。
覚える順番の目安:
- 品詞を変える接尾辞(-tion、-ness、-able、-ly)
- 否定・反対の接頭辞(un-、in-/im-、non-、dis-、anti-)
- 時間・位置の接頭辞(pre-、post-、inter-、ex-、trans-)
- よく出る語根(spect、port、dict、struct、mit/miss など)
03見た目にだまされる「わな単語」
語源は便利ですが、見た目どおりに分解すると失敗する単語があります。研究者の Laufer は1989年、こうした単語を見かけの透明さ(deceptive transparency)と呼び、語彙学習を難しくする要因として論じました。
代表的な「わな単語」を、語源と一緒に見てみます。
- inflammable:「燃えない」ではなく燃えやすい。ラテン語の「火をつける」が元で、in- は否定ではない。誤解が危険なので、注意表示では flammable が好まれる
- invaluable:「価値がない」ではなく計り知れないほど貴重な。「値段がつけられない」という意味
- discuss:dis- + cuss に分けても今の意味は出てこない。ラテン語の「打ち砕く、ゆさぶる」が元で、のちに「よく調べる、論じる」の意味になった
実際の文で確かめましょう。
- This liquid is highly inflammable. Keep it away from fire.(この液体はとても燃えやすい。火から離しておくこと)
- Your advice was invaluable to me.(あなたの助言は私にとってかけがえのないものでした)
ポイント:語源で立てた「予想」は、必ず文脈と辞書で答え合わせをする。
特に、in- には「否定」と「中へ」の両方の意味があります。income(中に入ってくる→収入)、input(中に入れる→入力)のように、否定ではない in- もたくさんあります。
04語源の「いい話」には俗説もある
語源の本やサイトには、思わず人に話したくなるエピソードがたくさん載っています。ところが、その中には根拠のない俗説も混じっています。
- sincere(誠実な):ラテン語の sine cera(蝋なしで)から来た、という話がよく知られています。彫刻のひびを蝋でごまかさない、という説明です。しかし辞書(Wiktionary など)では、これは俗説とされています
- posh(上流の、豪華な):船旅で「行きは左舷、帰りは右舷(Port Out, Starboard Home)」の頭文字という話がありますが、これも証拠のない俗説とされ、語源は不明です
覚えやすさのために作り話を使うのは、語呂合わせと同じ記憶術としてならかまいません。ただ、「本当の語源」として人に教えたり、ほかの単語の意味を推測する根拠にしたりすると、間違いが広がります。
確かめ方は簡単です。
- 語源辞典(英語なら Etymonline など)で、その単語を引く
- 「folk etymology(民間語源)」「no evidence」などの言葉があれば、俗説
- ラテン語・ギリシャ語などの元の形と意味が書かれていれば、信頼できる語源
語源を「物語」として楽しむのと、「事実」として使うのを分けておきましょう。
05語源学習の効果と、上手な使い方
語源(接辞と語根)の知識が役に立つ場面は、大きく3つあります。
- 覚える手がかり:transport を「向こうへ運ぶ」と理解すると、ただの「輸送する」より意味がつながり、思い出す手がかりが増える
- 派生語をまとめて覚える:decide を知っていれば decision、decisive も推測しやすい
- 知らない単語の推測:長文の中で、品詞や大まかな意味の見当をつける
一方で、限界もあります。
- 部品の意味を足しても、今の意味にならない単語が多い(discuss、understand など)
- 同じ形の部品でも意味が違うことがある(in- の「否定」と「中へ」)
- 高頻度の基本語(get、take、make など)は、語源より使い方を覚えるほうが早い
おすすめは、単語帳の2周目以降に語源を足すやり方です。1周目では語源を気にせず意味を覚え、2周目で「この単語、port が入っているな」と気づいたら、同じ部品の単語を2〜3語だけ書き添えます。最初から語源の表を丸暗記すると、部品は覚えても単語が増えない、ということになりがちです。
1日5分のメニュー
- 単語帳で出会った単語から、接頭辞か語根を1つ選ぶ
- 同じ部品を持つ単語を辞書で2〜3語探す
- 推測した意味が合っているか、辞書の例文で確かめる
語源は『覚える手がかり』。推測した意味は文脈と辞書で確かめる
今日からのやり方
- 品詞を変える接尾辞(-tion、-ness、-able など)を先に押さえる
- 単語帳の2周目で、気づいた接頭辞・語根に印をつける
- 同じ部品を持つ単語を辞書で2〜3語探して書き添える
- 語源で推測した意味は、例文と辞書で必ず確かめる
- 語源のエピソードは、語源辞典で俗説でないか確認する
レベル別:あなたならこうする
まずは un-(ない)、re-(もう一度)、-er(〜する人)、-ful(いっぱいの)など、中学の単語に出てくるやさしい部品から。unhappy、reuse のように、知っている単語に部品をつけて遊ぶと覚えやすくなります。
高校の単語帳で、port・spect・dict など頻出の語根を意識します。長文で知らない単語に出会ったら、接尾辞で品詞を判断し、文脈と合わせて意味を推測する練習をしましょう。
準1級以上の抽象語は語源の知識が特に効きます。ただし inflammable のようなわな単語や、意味が変化した単語も増えるので、推測したら英英辞典の定義と例文で確かめる習慣を。
よくある失敗と対策
部品だけ覚えても単語は増えません。単語帳や読書で出会った単語に部品を結びつけて、はじめて役立ちます。
in- が「中へ」の意味だったり、部品の足し算と今の意味がずれていたりします。推測は必ず文脈と辞書で答え合わせを。
sincere の「蝋なし」のように、広まっている俗説もあります。語源辞典で根拠を確かめてから使いましょう。
1 MIN
今日の単語から接頭辞を1つ選び、同じ部品の単語を2つ辞書で探す
友だちに出したい、この節の3問
タップで答え。「X で出題する」で、そのまま問題として出せます。
5-4inflammable は「燃えない」という意味?
逆です。ラテン語の「火をつける」から来ていて「燃えやすい」の意味。in- を「否定」と読む誤解が危険なため、注意書きでは flammable が使われることが多くなりました。
5-4英単語の接頭辞、日本人がよく分かっているのはどれ?
日本の高校生・大学生を調べた研究では、re-・un-・pre- がよく理解され、ante-・in-・counter- は苦手でした。ノンアルコールのノン、セミロングのセミなど、カタカナ語が助けになっている可能性を指摘する研究者もいます。
5-4sincere は「蝋(ろう)なし」が語源?
ラテン語の sine cera(蝋なしで)から来たという話は、辞書では俗説とされています。語源の「いい話」には根拠のないものもあるので、語源辞典で確かめるのが安全です。
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特集英語の歴史1500年を超絶わかりやすくノルマン・コンクエスト、借用語、大母音推移。英語の「なぜ?」が全部つながる原田英語のサイトで練習する
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もっと詳しく(コラム)
この節の根拠(研究・公式情報)
接辞を、頻度・規則性・生産性・予測しやすさの基準で7段階に整理し、どこまでを同じ語族に含めるかの物差しを示した。
Bauer, L., & Nation, P. (1993). Word families. International Journal of Lexicography, 6(4), 253–279.出典を開く ↗日本の高校生・大学生に接辞テストを実施。国内の追試の報告によれば、re-・un-・pre- がよく理解され、ante-・in-・counter- は理解が低かった。
Mochizuki, M., & Aizawa, K. (2000). An affix acquisition order for EFL learners: An exploratory study. System, 28(2), 291–304.出典を開く ↗部品に分けられそうに見えて実際の意味とずれる単語(見かけの透明さ)が、語彙学習を難しくする要因になると論じた。
Laufer, B. (1989). A factor of difficulty in vocabulary learning: Deceptive transparency. AILA Review, 6, 10–20.出典を開く ↗よくある質問
語源で覚えるのと語呂合わせ、どちらがいいですか?
目的が違います。語源は本当の成り立ちなので、派生語や知らない単語の推測にも使えます。語呂合わせはその1語を思い出すための記憶術です。どうしても覚えられない単語だけ語呂を使い、ほかは語源と例文で覚えるのがおすすめです。
ラテン語やギリシャ語を勉強する必要はありますか?
ありません。よく出る接頭辞・接尾辞と、十数個の語根を知っていれば十分に役立ちます。語源辞典を引くときに「ラテン語の〜から」と書いてあるのを読めれば、それで大丈夫です。
中学生にも語源は役に立ちますか?
役に立ちます。un-、re-、-er、-ful などのやさしい部品は中学の単語にたくさん出てきます。ただし最初から難しい語根を覚える必要はなく、知っている単語の仲間を増やす道具として使うのがよいでしょう。




