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何語覚えればいい?辞書なしで小説を読むには8000〜9000語族。でも『語』の数え方に罠がある

原田英語5分で読める研究・公式情報 5件第5章の1/7節

何語覚えればいい?のイメージ

短い物語の中の、あまり使われない単語を、意味のない作り物の単語に置きかえていく。Hu と Nation(2000)の実験では、こうして「知っている単語の割合」を人工的に下げた物語が用意されました。知らない単語が20語に1つ、つまり95%が分かる状態でも、十分に理解できた人はまだ少数でした。では、辞書なしで読むには何%が要るのか。そして、それは何語覚えれば届くのか。

この節の目次(5項目)
  1. 「カバー率」という物差し
  2. 読むには何語?聞くには何語?
  3. 「語」と「語族」は別の数え方
  4. 学校と英検では何語?公式の数字
  5. 数字から逆算する、語彙の増やし方

01「カバー率」という物差し

語彙の研究では、英文のうち自分が知っている単語の割合をカバー率(テキストカバー率)と呼びます。100語の英文のうち95語を知っていればカバー率95%、98語なら98%です。

数字にすると小さな差に見えますが、知らない単語の「出てくる間隔」に直すと印象が変わります。

カバー率知らない単語が出てくる間隔1行10語の英文だと
90%10語に1つ毎行1つ
95%20語に1つ2行に1つ
98%50語に1つ5行に1つ

Hu & Nation (2000) の実験では、短い物語の中の頻度の低い単語を、意味のない作り物の単語に置きかえて、カバー率を人工的に調整しました。結果は次のとおりです。

  • 80%:十分に理解できた人はいなかった
  • 90%:十分に理解できた人はごく一部
  • 95%:少し増えたが、まだ少数
  • 100%:ほとんどの人が十分に理解できた

このデータから、多くの学習者が辞書なしで十分に理解するには98%前後が必要だと推定されました。

ポイント:「だいたい分かる」と「辞書なしで楽しめる」のあいだには、数%の大きな壁があります。

ただし、この数字を絶対の線と考えるのは早すぎます。Schmitt, Jiang & Grabe (2011) は8か国の661人を調べ、知っている単語の割合が上がるほど、理解度もほぼまっすぐに上がることを示しました。ある%を超えたとたんに急に読めるようになる「しきい値」は見つかっていません。つまり、1語覚えるごとに少しずつ読みやすくなる、ということです。そのうえで著者たちは、学術的な文章を読むなら98%を目標にするのが妥当だとまとめています。

Laufer & Ravenhorst-Kalovski (2010) は、95%を「最低限」、98%を「理想」と二段階で考える案を出しました。最低限の95%には4000〜5000語族、理想の98%には約8000語族が必要という見積もりです。

02読むには何語?聞くには何語?

では、98%に届くには何語知っていればよいのでしょうか。語彙研究の第一人者 Paul Nation は2006年の論文で、英国の大規模なコーパス(言葉のデータベース)から使用頻度順の単語リストを作り、いろいろな英文で計算しました。

  • 小説・新聞:98%に届くには 8000〜9000語族
  • 映画・日常会話(話し言葉):6000〜7000語族

小説5冊をまとめた計算では、よく使う2000語族で約88%、4000語族と固有名詞で約95%、9000語族と固有名詞で約98%でした。最初の2000語族で9割近くまで行くのに、残りの1割を埋めるには何千語も要るわけです。よく使う単語ほど何度も出てきて、あまり使わない単語は1冊に1回しか出てこないためです。

映画の例として、子ども向けアニメ『シュレック』の台本も調べられています。4000語族と固有名詞で約97%、7000語族と固有名詞で98%を超えました。映像の助けもあるので、映画は小説より少ない語彙で楽しみやすいと考えられます。

比べる物差しとして、Nation は同じ論文の中で、教育を受けた英語のネイティブは約2万語族を知っているという先行研究の見積もりを紹介しています。8000〜9000語族は、そのおよそ半分。遠い数字ですが、ネイティブ並みでなくても小説は読めるということでもあります。

03「語」と「語族」は別の数え方

ここで注意したいのが単位です。研究でよく使われる語族(ワードファミリー)は、ひとつの単語と、その変化形・派生語をまとめて1と数えます。

  • develop / develops / developed / developing / development / undeveloped … → まとめて「1語族」

Bauer & Nation (1993) は、どこまでを同じ家族に入れるかを、接辞(-ment、un- など)の頻度や規則性で7段階に整理しました。研究ごとに、どの段階まで含めるかで数字が変わります。

一方、単語帳の「見出し語〇〇語」は、多くの場合ひとつひとつの単語を数えています。development と develop が別々の見出しになっていることもあります。そのため、

  • 「8000語族」=「単語帳の8000語」ではありません
  • 1語族を知るには、派生語の作り方(接辞の知識)も必要です

語族の数字を見たら、「単語帳の見出しより大きなかたまりで数えている」と読みかえてください。ただし、何倍になるかは数え方によって変わるので、決まった換算の数字はありません。

04学校と英検では何語?公式の数字

日本の学校で学ぶ語数は、文部科学省の学習指導要領に書かれています(2017〜2018年告示、現行のもの)。

段階新しく学ぶ語
小学校(5・6年の外国語)600〜700語程度(3・4年の外国語活動で扱った語を含む)
中学校1600〜1800語程度
高校「英語コミュニケーションⅠ」400〜600語程度
高校「英語コミュニケーションⅡ」700〜950語程度
高校「英語コミュニケーションⅢ」700〜950語程度

足し算すると、中学卒業までに2200〜2500語程度、高校卒業までに4000〜5000語程度になります。これは「語」の数で、研究の「語族」とは数え方が違います。

英検はどうでしょう。英検の公式サイトは、各級を「2級=高校卒業程度」「準1級=大学中級程度」のように示していて、級ごとの語彙数は公式には出していません。単語帳や塾のサイトに出ている「準1級は〇〇語」は、それぞれの目安です。出典を確かめずに、ひとつの数字を信じすぎないようにしましょう。

ポイント:公式の数字は学習指導要領。英検の「必要語数」は公式の数字ではありません。

05数字から逆算する、語彙の増やし方

ここまでの数字を、毎日の勉強に落とし込みます。

1. まず高頻度語を完璧に
使用頻度の高い単語は、少ない数で英文の大部分を占めます。たとえば NGSL(New General Service List)は、公式サイトによると2809語で日常英語の約92%をカバーするリストです。中学〜高校基礎の単語帳を「見た瞬間に意味が出る」まで仕上げるのが最優先です。

2. 中頻度語は「単語帳+読む量」の二本立て
3000〜9000語族あたりの中頻度語は数が多く、単語帳だけで全部覚えるのは大変です。単語帳で「見たことがある」状態を作り、多読や多聴で何度も出会い直して定着させます(この章の「文脈で覚える」で詳しく扱います)。

3. 自分の現在地を測る
自分の語彙サイズは、オンラインの語彙サイズテストで推定できます。英文を貼りつけると単語のレベルを色分けしてくれるツールを使えば、教材が自分にとって何%カバーなのかも見当がつきます。

4. 目的別の目安

  • 英語の授業や中学の教科書:まず2000語前後を確実に
  • 辞書を引きながら新聞や洋書に挑戦:4000〜5000語族(95%)を目指す
  • 辞書なしで小説を楽しむ:8000〜9000語族(98%)が一つの山

1日に何語覚えるかは、ゴールと期限からの逆算で決めます。たとえば「1年で2000語増やす」なら1日約6語。ただし忘れる分があるので、実際には単語帳を何周も回す前提で計画を立てます。

この節の答え

目安は『98%分かる』。読むなら8000〜9000語族が一つの山

今日からのやり方

  1. 語彙サイズテストを一度受け、今の推定語彙数をメモする
  2. 今の単語帳が中学〜高校基礎の高頻度語をカバーしているか確かめる
  3. ゴール(学校・英検・洋書・映画)を決め、98%か95%かを選ぶ
  4. 期限から逆算して、1日に新しく覚える語数を決める
  5. 読む教材は『知らない単語が5行に1つ以下』のものを選ぶ

レベル別:あなたならこうする

初級 A1〜A2

まず中学で学ぶ1600〜1800語を、見た瞬間に意味が出るまで固めます。単語帳1冊を何周もして、教科書の英文に知らない単語がほぼない状態を目指しましょう。

中級 B1

高校範囲までの4000〜5000語を単語帳で押さえつつ、やさしい多読を始めます。知らない単語が20語に1つ(95%)程度の英文なら、辞書を少し引けば読み進められます。

上級 B2〜

8000〜9000語族を目標に、中頻度語は多読・多聴で出会い直しを増やします。語彙サイズテストで定期的に現在地を測り、苦手な分野の語彙を意識して補います。

よくある失敗と対策

ネットの『〇級は〇語』をうのみにする

英検は級別の語彙数を公式に出していません。数字の出典と、語・語族どちらで数えているかを確かめましょう。

難しい単語から覚えようとする

低頻度語は覚えても出会う回数が少なく、忘れやすくなります。高頻度語を完璧にするほうが、カバー率は早く上がります。

95%の教材で多読をして疲れる

多読で楽しく速く読むには、ほぼ全部の単語が分かる教材のほうが向いています。知らない単語が5行に1つ以下のものを選びましょう。

TODAY
1 MIN

語彙サイズテストを受けて、今の推定語彙数をノートに書く

友だちに出したい、この節の3問

タップで答え。「X で出題する」で、そのまま問題として出せます。

5-195%の単語が分かれば、英文は読める?

Hu & Nation (2000) の実験では、95%が分かる文章でも十分に理解できた人は少数でした。統計から推定された目安は98%。知らない語が「20語に1つ」と「50語に1つ」では、読みやすさがかなり違います。

X で出題する

5-1高校卒業までに学校で習う英単語は何語?

学習指導要領では、小学校600〜700語程度、中学校で1600〜1800語程度、高校で1800〜2500語程度の新しい語を学びます。合わせると4000〜5000語程度。思ったより多いと感じる人が多い数字です。

X で出題する

5-1英語の映画と小説、理解に必要な語彙が少ないのはどっち?

Nation (2006) の試算では、98%に届くのに書き言葉は8000〜9000語族、話し言葉は6000〜7000語族。子ども向け映画『シュレック』は4000語族と固有名詞で約97%に届きました。

X で出題する

X でポストLINEB!

この節の根拠(研究・公式情報)

98%のカバー率を基準にすると、書き言葉の理解には8000〜9000語族、話し言葉には6000〜7000語族が必要と試算した。

Nation, I. S. P. (2006). How large a vocabulary is needed for reading and listening? The Canadian Modern Language Review, 63(1), 59–82.出典を開く ↗

物語文のカバー率を操作した実験。95%でも十分に理解できた人は少数で、多くの人が十分に理解するには約98%が必要と推定した。

Hu, M. H.-C., & Nation, I. S. P. (2000). Unknown vocabulary density and reading comprehension. Reading in a Foreign Language, 13(1), 403–430.出典を開く ↗

95%(4000〜5000語族)を最低限、98%(約8000語族)を理想とする二段階の目安を提案した。

Laufer, B., & Ravenhorst-Kalovski, G. C. (2010). Lexical threshold revisited: Lexical text coverage, learners' vocabulary size and reading comprehension. Reading in a Foreign Language, 22(1), 15–30.出典を開く ↗

661人の調査で、知っている単語の割合と理解度はほぼ直線的に関係し、急に理解が上がる「しきい値」は見られなかった。学術的な文章では98%が妥当な目標とした。

Schmitt, N., Jiang, X., & Grabe, W. (2011). The percentage of words known in a text and reading comprehension. The Modern Language Journal, 95(1), 26–43.出典を開く ↗

小学校600〜700語程度、中学校1600〜1800語程度、高校の英語コミュニケーションⅠ〜Ⅲで計1800〜2500語程度の新語を扱うと定めている。

文部科学省「現行の学習指導要領(外国語・抜粋)」(小学校・中学校・高等学校の外国語)出典を開く ↗

よくある質問

語族の数を、単語帳の語数に換算できますか?

決まった換算式はありません。語族は変化形や派生語をまとめた数なので、単語帳の見出し語数より大きなかたまりです。どの派生語まで含めるかで数字が変わるため、目安として読むのがよいでしょう。

英検準1級には何語必要ですか?

英検は級ごとの語彙数を公式には示していません。公式には「準1級=大学中級程度」のような程度で表しています。単語帳に書かれた語数はそれぞれの目安なので、過去問を解いて知らない単語の割合を確かめるのが確実です。

98%に届くまで洋書は読まないほうがいいですか?

いいえ。理解度は知っている単語の割合に応じて少しずつ上がるので、95%前後でも辞書や注を使えば読めます。多読用には、やさしく書かれた段階別の読み物(グレーデッド・リーダー)から始めると、高いカバー率で読めます。