第5章|単語5-2単語帳の正しい回し方一度正解した単語を外すと、1週間後の正答率は半分以下に。単語帳の新常識

2008年に発表された実験で、大学生がスワヒリ語と英語の単語ペアを40組覚えました。グループの分かれ目は、一度正解した単語をその後どう扱うか。1週間後、あるグループは約80%を思い出せたのに、別のグループは約33〜36%でした。しかも学生たちが予想した成績は、どのグループもそろって約50%。本人たちは、この大きな差に気づいていなかったのです。差を生んだ扱い方とは、何だったのか。
01「眺める」より「思い出す」
単語帳でいちばん大事なのは、意味を隠して、自分の頭から引っぱり出すことです。この「思い出す練習」を研究では想起練習(テスト効果)と呼びます。
Karpicke & Roediger (2008) は、大学生にスワヒリ語と英語の単語ペア40組を覚えてもらい、覚え方を4通りに分けました。ポイントは、一度正解した単語をその後どう扱うかです。
- 正解した単語もテストし続けたグループ:1週間後に約80%を思い出せた
- 正解した単語をテストから外したグループ:1週間後は約33〜36%
眺め直す回数を増やしても、1週間後の成績はほとんど伸びませんでした。差を生んだのは「思い出す」回数です。しかも、学生たちが予想した1週間後の成績は、どのグループも約50%でほぼ同じ。自分の感覚では、この差に気づけなかったのです。
ポイント:「もう覚えた」と感じても、思い出す練習から外さない。
単語帳でいえば、
- 英語を見て、意味を声に出すか頭の中で言うまで答えを見ない
- 言えたら印をつける。でも次の周でも必ずテストする
- 赤シートは「答えを見るため」ではなく「答えを隠すため」に使う
ということです。
021周を速く、何周も回す理由
「1ページを完璧にしてから次へ」は、気持ちのいいやり方ですが、効率は上がりません。理由は間隔です。
Kornell (2009) は、GRE(米国の大学院入試)レベルの単語ペアを、フラッシュカードで覚える実験をしました。同じ枚数を、
- 大きな束1つで回す(同じカードが出てくるまでの間隔が長い)
- 小さな束4つに分けて、ひとつずつ回す(間隔が短い)
で比べると、大きな束のほうが成績がよく、参加者の90%でこちらが上回りました。ところが、最初の勉強のあと、72%の人が「小分けのほうが効いた」と答えています。小分けにすると、すぐに答えられて「覚えた気」になるからです。
Nakata & Webb (2016) は、束の大きさと間隔を別々に調べました。間隔をそろえると、束の大きさそのものの影響は小さく、効いていたのは間隔のほうでした。
つまり単語帳では、
- 1日に進む範囲を広めにとり、同じ単語に戻ってくるまでの時間をあける
- 1周目は完璧を目指さず、「見たことがある」状態を作る
- 2周目、3周目と回すうちに、思い出せる単語を増やしていく
という回し方が理にかなっています。前日の範囲を翌日の最初にテストし、週末にその週の全範囲をテストする、という形にすると、自然に間隔があきます。
031日の回数と、日をまたぐ回数
では、1回の勉強で何度思い出せばよいのでしょうか。Nakata (2017) は、日本人の学習者98人に英単語と日本語のペア16組を、1回の勉強の中で1・3・5・7回思い出させる実験をしました。
- 成績そのものは、5回・7回のほうが1回・3回より上
- しかし、かかった時間をそろえて比べると、1回だけのほうが伸びが最大
同じ日に何度もくり返すと時間がかかります。その時間を、別の日の復習に回したほうが得になる、ということです。
おすすめは次の形です。
| タイミング | やること |
|---|---|
| 1日目 | 新しい範囲を一通り見る→意味を隠して1回テスト |
| 2日目 | 前日の範囲をまずテスト→新しい範囲へ |
| 1週間後 | その週の範囲をまとめてテスト |
| 1か月後 | 単語帳の最初から通してテスト(2周目、3周目) |
このくらいの間隔で戻ってくると、「思い出すのに少し苦労する」タイミングで復習できます。少し苦労して思い出したほうが記憶に残りやすい、というのが記憶研究の大きな流れです(第2章で詳しく扱います)。
04音・例文・品詞まで1セットで
単語帳を「英語→日本語」の対応表として使うだけだと、読めても聞き取れない単語、使えない単語が残ります。1語にかける時間は短くてよいので、次の3つをセットにしましょう。
1. 音を聞いて、口に出す
付属の音声やアプリで発音を確かめ、アクセントの位置ごと声に出します。たとえば photograph と photographer は、アクセントの位置が違います。目だけで覚えると、リスニングで同じ単語だと気づけません。
2. 例文で「使われ方」を見る
例文は全部暗記しなくてかまいません。見るポイントは、どんな単語と一緒に使われているかです。
- He made a quick decision.(彼はすばやく決断した)
- She is responsible for the project.(彼女はその企画の責任者だ)
decision は make と、responsible は for と組むことが多い、と分かれば、書くときにも使えます。
3. 品詞と派生語をちらっと見る
decide(動詞)→ decision(名詞)→ decisive(形容詞)のように、仲間の語をまとめて目に入れると、1語覚えるたびに読める語が増えます。
ポイント:1語に何十秒もかけない。音と例文は「2周目以降に少しずつ足す」で十分です。
05期限から逆算する回し方
単語帳の回し方は、試験やゴールまでの期間で少し変わります。ここでは、1冊を本番までに仕上げる場合の目安を示します。
期間が半年以上あるとき
- 1周目は1日の範囲を決めて、1か月前後で最後まで一通り見る
- 2周目からは、前の範囲のテストを毎日の最初に入れる
- 言えない単語だけを集めたリスト(またはカード)を作り、別に回す
- 並行して、やさしい英文を読み、単語帳で見た単語に出会う機会を増やす
期間が2〜3か月のとき
- 1周目から「意味を隠して1回テスト」まで必ずやる
- 1日の範囲を広めにとり、1周を2〜3週間で終える
- 週末は新しい範囲に進まず、その週の範囲の総テストにあてる
期間が1か月を切ったとき
- 新しい単語帳には手を出さない
- 今の単語帳の「言えない単語」だけを毎日テストする
- 過去問に出てきた知らない単語を、単語帳の該当ページに書き込む
ポイント:どの期間でも、「新しく見る時間」より「前に戻ってテストする時間」を先に確保します。
なお、学校の小テスト対策で前日に詰めこむと、テストでは点が取れても、しばらくすると忘れやすくなります。小テストの範囲も、1週間後と1か月後にもう一度テストしておくと、受験や英検のときに「見覚えのある単語」として生きてきます。
06自分でテストする方法いろいろ
思い出す練習は、単語帳の赤シート以外にもいろいろな形でできます。
- 英→日テスト:英語を見て意味を言う。いちばん基本。読む・聞くに強くなる
- 日→英テスト:日本語を見て英語を言う、書く。話す・書くに強くなる。英→日より難しいので、2周目以降に
- 音だけテスト:音声を流して、本を見ずに意味を言う。リスニング用
- 例文の穴埋め:例文の中の単語を隠して、思い出す
印のつけ方も工夫できます。
- 言えなかった単語に「・」をつける
- 次の周でも言えなかったら「・」を足す
- 「・」が3つ以上の単語だけを集めて、寝る前にもう一度テスト
こうすると、苦手な単語に時間を集められます。ただし、言えた単語も次の周では必ずテストしましょう。言えた単語を「卒業」させるのは、何周か連続で言えてからで十分です。
1日の例(30分)
- 5分:前日の範囲を英→日でテスト
- 15分:新しい範囲を一通り見て、音声を聞いて、1回テスト
- 10分:「・」が多い単語と、1週間前の範囲をテスト
眺めるより思い出す。小分けより大きく回す。正解しても外さない
今日からのやり方
- 単語帳の1日の範囲を広めに決める(完璧主義をやめる)
- 意味を隠し、英語を見て意味を言えるか1語2〜3秒でテストする
- 言えなかった単語に印をつけ、翌日の最初にもう一度テストする
- 週末にその週の全範囲を通してテストする
- 2周目以降に、音声を聞いて発音し、例文の組み合わせを確かめる
- 何周か連続で言えた単語だけを、テストから外す
レベル別:あなたならこうする
中学レベルの単語帳を1冊。1日20〜30語を目安に、英→日のテストを毎日くり返します。音声を聞いて、つづりと音を結びつけることを特に大事にしましょう。
1日の範囲を50〜100語に広げて、1周を速く回します。2周目からは日→英のテストも加え、例文で一緒に使われる語(make a decision など)を確かめます。
単語帳は「知らない語の拾い出し」と割り切り、言えない語だけをカードやアプリに移して間隔をあけて回します。多読・多聴で出会い直しを増やすことに時間を使いましょう。
よくある失敗と対策
同じ単語を短い間隔でくり返すと、覚えた気になりやすく、長く残りません。範囲を広くとって、日をあけて戻ってきましょう。
思い出そうとする数秒が記憶を強くします。2〜3秒は答えを見ずに粘り、それでも出なければ見て印をつけます。
一度言えた単語をテストから外すと、1週間後に忘れやすくなります。何周か連続で言えるまで、テストを続けましょう。
1 MIN
昨日覚えた単語を、意味を隠して10語だけ声に出してテストする
友だちに出したい、この節の3問
タップで答え。「X で出題する」で、そのまま問題として出せます。
5-2単語帳で一度正解した単語は、もうテストしなくていい?
Karpicke & Roediger (2008) では、一度言えた単語をテストから外した条件は1週間後の正答が約3割台、テストし続けた条件は約8割でした。外すと大きく損をします。
5-2単語カードは小分けにして回したほうが覚えやすい?
Kornell (2009) では、大きな束を1つ回すほうが、小さな束に分けて回すより成績がよく、9割の人で効果がありました。それなのに7割の人は、小分けのほうが効いたと感じていました。
5-2英単語は1回の勉強で何度も思い出せば安心?
Nakata (2017) では、1回の勉強で5〜7回思い出すと、1〜3回より成績が上でした。ただ、かけた時間あたりでは1回が最も効率的。日をあけて回すほうが得です。
PRACTICE KIT
この節の実践キット
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もっと詳しく(コラム)
この節の根拠(研究・公式情報)
スワヒリ語と英語の単語ペア40組を学習。正解後もテストし続けた条件は1週間後に約80%、テストから外した条件は約33〜36%だった。
Karpicke, J. D., & Roediger, H. L. (2008). The critical importance of retrieval for learning. Science, 319(5865), 966–968.出典を開く ↗大きな束1つで回すほうが小さな束に分けるより成績がよく、90%の参加者で効果があった。一方で72%は小分けのほうが効いたと感じていた。
Kornell, N. (2009). Optimising learning using flashcards: Spacing is more effective than cramming. Applied Cognitive Psychology, 23(9), 1297–1317.出典を開く ↗間隔をそろえると、束を小分けにするかどうかの影響は小さく、学習に大きく効いていたのは間隔のほうだった。
Nakata, T., & Webb, S. (2016). Does studying vocabulary in smaller sets increase learning? The effects of part and whole learning on second language vocabulary acquisition. Studies in Second Language Acquisition, 38(3), 523–552.出典を開く ↗日本人学習者98人。1回の学習で5・7回思い出すと1・3回より成績が上だったが、時間あたりの効率では1回が最も大きかった。
Nakata, T. (2017). Does repeated practice make perfect? The effects of within-session repeated retrieval on second language vocabulary learning. Studies in Second Language Acquisition, 39(4), 653–679.出典を開く ↗よくある質問
1日何語やればいいですか?
決まった正解はありません。新しく見る語数より、前の範囲に戻ってテストする時間を確保できるかが大事です。中学生なら20〜30語、受験生なら50〜100語を目安に、復習込みで続けられる量にしましょう。
書いて覚えるのはだめですか?
だめではありませんが、書くのに時間がかかるぶん、思い出す回数が減ります。つづりを覚える必要がある単語だけ書き、ほかは声に出してテストするほうが、同じ時間で多く回せます。
単語帳は何周すればいいですか?
周回数より「何周か連続で言えるか」を基準にします。1周目は見たことがある状態、2〜3周目で言える単語が増え、言えない単語が少なくなったら、その単語だけを集中して回します。



