第5章|単語5-3Anki などのSRSアプリを使いこなすAnkiは『忘れかけた瞬間』に出してくれる。成功のカギは新規カードを増やしすぎないこと

単語アプリを入れた最初の週は楽しくて、新しいカードを毎日何十枚も足していった。数週間後、開くたびに「今日の復習」が数百枚たまっている。SRS(間隔反復)のアプリで挫折する理由の多くは、この復習の山です。アプリの計算がまちがっているわけではありません。土台にあるのは、エビングハウスが1885年に報告した「間隔効果」です。では、この道具に任せてよいことと、任せてはいけないことは何か。
01SRSのしくみ:忘れかけたら出す
SRS(Spaced Repetition System:間隔反復システム)は、カードごとに「次にいつ出すか」を計算して出題する道具です。
Anki の公式マニュアルは、効果の柱を2つ挙げています。
- 想起テスト:質問を見て、答えを思い出そうとすること
- 間隔反復:忘れそうになったころに復習すること
間隔をあけて復習すると記憶に残りやすいという「間隔効果」は、ドイツの心理学者エビングハウスが1885年に報告したものです。マニュアルによれば、その後、記憶ソフトの SuperMemo が「理想の復習時期をカードごとに記録する」しくみを広め、Anki は SuperMemo の古い計算方式 SM-2 をもとに作られました。
使い方はシンプルです。
- カードの表(例:英単語)を見て、答えを思い出す
- 裏を見て、思い出せたかを自分で評価する(Again/Hard/Good/Easy)
- Anki が評価に応じて次の出題日を決める
うまく思い出せたカードは、次の出題まで間隔がどんどん長くなります。忘れたカードは、短い間隔に戻されます。結果として、苦手なカードに時間が集まり、覚えたカードは時々確認するだけになります。紙の単語カードでは難しい管理を、アプリが自動でやってくれるわけです。
ポイント:SRS は「何を覚えるか」は決めてくれません。決めるのは「いつ復習するか」だけです。
02Ankiの基本:無料・有料と同期
Anki は公式サイトで次のように案内されています(2026年10月時点)。
| 種類 | 区分 |
|---|---|
| パソコン版(Windows・Mac・Linux) | 無料 |
| Android 版(AnkiDroid) | 無料(有志が開発) |
| iPhone・iPad 版(AnkiMobile) | 有料(売上が開発資金になる) |
| AnkiWeb(端末間の同期) | 無料 |
カードには、音声・画像・動画を入れられます。パソコンでカードを作り、通学中にスマホで復習する、という使い方ができます。
似たアプリとして、他の人が作った単語カードを検索して使える Quizlet、例文の空欄を埋める Clozemaster などもあります。Anki の強みは、出題のタイミングを細かく設定でき、自分でカードを作り込める点です。最初は、市販の単語帳の範囲を自分で入力したり、既存の単語リストを取り込んだりして始めるとよいでしょう。
なお、中高生が使う場合も、Anki 自体は年齢制限のある SNS や AI サービスではありません。ただし、他の人が共有した単語セット(デッキ)には内容が不正確なものもあるので、学校の単語帳や辞書で確かめてから使いましょう。
03FSRS:新しい出題の計算方式
Anki の公式マニュアルによると、FSRS(Free Spaced Repetition Scheduler)は、従来の SM-2 に代わる選択肢として、Anki 23.10、AnkiMobile 23.10、AnkiWeb、AnkiDroid 2.17 以降で使えます。
FSRS の主な特徴は次のとおりです。
- 目標の記憶率(desired retention):カードが出題されたときに思い出せる確率をどれくらいにしたいかを決める。初期値は90%で、マニュアルは「記憶と負担のよいバランス」と説明している
- 最適化(optimizer):自分の復習の記録から、機械学習で記憶のくせを学び、パラメータを調整する。マニュアルでは、月に1回程度で十分とされている
- 記憶の状態:カードごとの「難しさ(difficulty)」「安定性(stability)」「思い出せる確率(retrievability)」で記憶を表す
FSRS は、有志が開発を続けるオープンソースのプロジェクトです。背景には、語学アプリに残された膨大な学習記録から記憶のモデルを作り、復習の手間を最小にする出題スケジュールを計算する研究があります(Ye ら、2022年の国際会議での発表)。
設定のコツは1つだけ。目標の記憶率をむやみに上げないことです。90%を95%にすると、忘れにくくなる一方で、復習の回数はかなり増えます。試験直前など、本当に必要なときだけ上げましょう。
04よいカード、悪いカード
SRS の効果は、カードの質で大きく変わります。基本は1枚に1つのことです。
悪い例
- 表:run 裏:走る、経営する、(液体が)流れる、立候補する、作動する…
意味が多すぎて、どこまで言えたら「正解」なのか判断できません。
よい例(意味ごとに分けて、例文で)
- 表:She runs a small bakery. 裏:経営する(彼女は小さなパン屋を経営している)
- 表:My nose is running. 裏:(鼻水が)出る(鼻水が出ている)
ほかにも、次のような工夫があります。
- 音声を入れる:表で音声を流すと、聞いて分かる語彙になる
- 画像を入れる:具体的な物の名前は、日本語訳より画像のほうが速い
- 向きを分ける:英→日(分かる)と日→英(言える)は別のカードにする。日→英は難しいので、慣れてから足す
- 自分の文を使う:教材やドラマで出会った文をそのままカードにすると、場面ごと思い出せる(この章の「文脈で覚える」で詳しく扱います)
カードを作る時間も学習の一部です。ただ、凝りすぎて作るだけで終わっては本末転倒。1枚1分以内で作れる形を決めておきましょう。
05SRSに入れるもの、入れないもの
SRS は強力ですが、何でも入れればよいわけではありません。カードの数が増えるほど、毎日の復習も増えるからです。入れるものを選ぶ基準を持っておきましょう。
入れるとよいもの
- 単語帳で何度テストしても言えない単語
- 読書やドラマで何度も見かけるのに、意味があいまいな単語
- 自分がよく話す・書く話題で使いたい表現やかたまり(make a decision など)
- 発音やアクセントをまちがえやすい単語(音声つきで)
入れなくてよいもの
- 一度見ればすぐ覚えられる単語、すでに確実に分かる単語
- 専門的すぎて、今後ほとんど出会わない単語
- 意味を理解していない文法事項(理解してから入れる)
公式マニュアルも、理解していないことを覚えようとしない、という SuperMemo の考え方を紹介しています。分からないまま暗記したカードは、何度も忘れて「リーチ」になりがちです。
単語帳との役割分担
- 単語帳:新しい単語と一通り出会い、範囲を広く速く回す
- SRS:単語帳で残った苦手な単語や、自分で拾った表現を、長く忘れないように管理する
この分担にすると、カードの数が増えすぎず、SRS の復習時間を短く保てます。
06やりすぎ注意:挫折しない設定
SRS で挫折する理由の多くは、復習の山です。新しいカードは、追加した日だけでなく、そのあと何日にもわたって復習として戻ってきます。新しいカードを1日に何十枚も足し続けると、数週間後には毎日の復習が数百枚になることもあります。
続けるための設定と習慣をまとめます。
- 新規カードの数を控えめに:まずは1日10〜20枚程度から。復習が15〜20分で終わる量に調整する
- 毎日開く:1日休むと、その分が翌日にたまる。5分でもいいので毎日開く
- リーチ(ヒル)を作り直す:公式マニュアルによると、標準では8回忘れたカードに「leech」の印がつき、出題が止まる。止まったカードは、例文を変える、画像を足す、似た単語と区別する説明を書くなど、作り直してから戻す
- Easy を押しすぎない:簡単すぎるカードは間隔が一気に伸びる。迷ったら Good
1日の例(20分)
- 復習カードを全部終わらせる(10〜15分)
- 余裕があれば新しいカードを10枚
- 週に1回、リーチの印がついたカードを作り直す
ポイント:SRS は「毎日少し」で最大の力を出します。量を増やすのは、復習が楽に終わる日が続いてからにしましょう。
SRSは『いつ復習するか』を任せる道具。量の調整は自分でする
今日からのやり方
- Anki(またはAnkiDroid)を入れ、新規カードを1日10〜20枚に設定する
- 1枚1つの意味で、例文と音声つきのカードを作る
- 毎日、まず復習カードを全部終わらせてから新しいカードに進む
- 復習が20分を超える日が続いたら、新規カードを減らす
- 週に1回、何度も忘れて止まったカードを作り直す
レベル別:あなたならこうする
まずは学校の単語帳の範囲を、英→日のカードで1日10枚ずつ。音声つきで作ると、聞いて分かる単語が増えます。保護者や先生と相談し、スマホを使う時間も決めておくと安心です。
単語帳で言えなかった語だけを Anki に移すと、苦手語に時間を集中できます。慣れてきたら、例文の中の単語を隠すカードや日→英のカードを足していきます。
FSRS を使い、月1回程度の最適化で出題を自分に合わせます。読書やドラマで出会った文をカードにするセンテンスマイニングと組み合わせると、実際に使われる語彙が増えます。
よくある失敗と対策
数週間後に復習が毎日数百枚になり、挫折の原因になります。新規は少なめにして、復習が楽に終わる量を保ちましょう。
どこまで言えたら正解か判断できず、評価があいまいになります。意味ごと・場面ごとに1枚ずつ分けましょう。
他の人が作ったデッキには誤りや不自然な訳もあります。辞書や手元の単語帳で確かめてから使いましょう。
1 MIN
Ankiの新規カード上限を1日10〜20枚に設定し直す
友だちに出したい、この節の3問
タップで答え。「X で出題する」で、そのまま問題として出せます。
5-3Ankiの復習のタイミングは誰が決めている?
Anki は長く、記憶ソフト SuperMemo の古い計算方式 SM-2 をもとにしてきました。2023年の 23.10 版からは、新しい方式 FSRS も選べます。
5-3Anki では「どれくらい覚えていたいか」を数字で選べる?
FSRS では「目標の記憶率」を設定でき、初期値は90%です。上げれば忘れにくくなりますが、そのぶん復習の回数が増えます。
5-3Anki で何度も忘れるカードはどうなる?
Anki では、何度も忘れるカードを「リーチ(ヒル)」と呼びます。標準では8回忘れると印がつき、出題が止まります。カードを作り直す合図です。
PRACTICE KIT
この節の実践キット
このサイトで練習する
使えるサイト・アプリ
動画で学ぶ
もっと詳しく(コラム)
この節の根拠(研究・公式情報)
想起テストと間隔反復が効果の柱であり、Anki の出題方式は SuperMemo の古い方式 SM-2 をもとにしていること、FSRS が代わりの方式として組み込まれたことを説明している。
Anki Manual: Background(Anki 公式マニュアル)出典を開く ↗FSRS は Anki 23.10 以降などで使え、目標の記憶率の初期値は90%。最適化は復習記録から機械学習でパラメータを合わせ、月1回程度で十分としている。
Anki Manual: Deck Options — FSRS(Anki 公式マニュアル)出典を開く ↗何度も忘れるカードを leech と呼び、失敗が8回に達すると印をつけて出題を止める(設定で変更可能)。
Anki Manual: Leeches(Anki 公式マニュアル)出典を開く ↗語学アプリの学習者の膨大な記録から記憶のモデルを作り、復習のコストを最小にする出題スケジュールの計算方法を提案した。
Ye, J., Su, J., & Cao, Y. (2022). A stochastic shortest path algorithm for optimizing spaced repetition scheduling. Proceedings of the 28th ACM SIGKDD Conference on Knowledge Discovery and Data Mining, 4381–4390.出典を開く ↗フラッシュカードで、間隔をあけた学習は詰め込み(試験前日にまとめて学ぶ)より効果的だった。
Kornell, N. (2009). Optimising learning using flashcards: Spacing is more effective than cramming. Applied Cognitive Psychology, 23(9), 1297–1317.出典を開く ↗よくある質問
FSRSとSM-2、どちらを使えばいいですか?
公式マニュアルは FSRS を SM-2 に代わる選択肢として案内しています。復習の記録がたまってから最適化すると、自分に合った出題になります。はじめての人は、まず初期設定のまま毎日続けることを優先しましょう。
紙の単語カードではだめですか?
だめではありません。思い出す練習と間隔をあけることができれば、紙でも効果はあります。ただ、何百枚にもなると、どのカードをいつ復習するかの管理が大変です。そこをアプリに任せられるのが SRS の利点です。
復習がたまってしまったらどうすればいい?
新しいカードの追加をいったん止めて、たまった復習を数日かけて減らします。一度に全部片づけようとすると続きません。復習が毎日楽に終わるようになってから、新規カードを少しずつ再開しましょう。




