第5章|単語5-7文脈で覚える:出会い直しとセンテンスマイニング多読1冊で3か月後に残る新しい単語は、平均でたった1語。だから『出会い直し』を設計する

日本人学習者15人が、400語レベルのやさしい読み物『A Little Princess』を1冊読みました。本文には、つづりを変えて「誰も知らない単語」にした25語が入っています。3か月後、意味を覚えていたのは、25語のうち平均で約1語。8回未満しか出てこなかった単語は、1語も残っていませんでした。「たくさん読めば単語は自然に増える」は、まちがいだったのか。
01読むだけで覚える、はどこまで本当?
辞書や単語帳で意図的に覚えるのではなく、読んだり聞いたりしながら自然に覚えることを、偶発的語彙学習と呼びます。
まず、厳しい現実から見ておきましょう。Waring & Takaki (2003) は、日本人学習者15人に、400語レベルの段階別読み物(グレーデッド・リーダー)『A Little Princess』を読んでもらいました。本文の中から、出てくる回数が1回〜15〜18回の単語を25語選び、つづりを変えて「誰も知らない単語」にしたうえで、読んだ直後、1週間後、3か月後にテストしました。
- 単語を偶然に覚えることはできた。でもほとんどの単語は覚えられなかった
- 多く出てくる単語ほど覚えやすく、忘れにくかった
- 3か月後に意味を覚えていたのは、25語のうち平均で約1語
- 8回未満しか出てこなかった単語は、3か月後には1語も意味を覚えていなかった
著者たちは、1冊の読み物から残る新しい単語はとても少なく、語彙を増やすには大量の多読が必要だとまとめています。同時に、多読の価値は新しい単語を覚えることだけでなく、すでに知っている単語の理解を深めることにもある、と述べています。
ポイント:「読めば自然に覚える」は、たくさん読んだときの話。1冊、1回では足りません。
02何回出会えば覚える?数字には幅がある
では、何回出会えば覚えられるのでしょうか。
Webb (2007) は、日本人学習者121人に、知らない単語を文脈の中で1回・3回・7回・10回出会わせ、つづり、意味、文法的な働き、連想など10種類のテストで調べました。出会う回数が増えるほど、どれかの面の知識は確実に伸び、10回の出会いで大きな伸びが見られました。ただし著者は、単語を「完全に」知るには10回を超える出会いが必要かもしれない、とも述べています。
Pellicer-Sánchez & Schmitt (2010) は、上級の学習者に、書きかえていない本物の小説『Things Fall Apart』を読んでもらいました。10回を超えて出会った単語では、
- 意味を選択肢から選べた:84%
- つづりを見分けられた:76%
- 意味を自分で言えた:55%
という結果でした。「見て分かる」までは進んでも、「自分で思い出せる」には届いていない単語が多いことが分かります。
Uchihara, Webb & Yanagisawa (2019) は、26の研究(1918人分)をまとめたメタ分析で、出会う回数と覚える量の関係は中くらいの強さ(相関 r=.34)だと示しました。そして、その強さは学習者の年齢や語彙力、間隔をあけたか、絵などの助けがあったか、テストの形式などで大きく変わりました。
ポイント:「〇回で覚える」という魔法の数字はありません。目安として「10回前後の出会い」を意識し、それより少なければ別の方法で補う、と考えるのが現実的です。
03読む・聞く・見る、どれが効く?
Webb, Uchihara & Yanagisawa (2023) は、意味の理解を目的にした読む・聞く・見る活動で、どれくらいの単語が偶然に身につくかを、24の研究(参加者2771人)でまとめました。覚えた語の割合(対象の単語のうち)は次のとおりです。
| 活動 | 直後のテスト | 後日のテスト |
|---|---|---|
| 読む | 約17% | 約15% |
| 聞く | 約15% | 約13% |
| 読みながら聞く | 約13% | 約17% |
| 動画を見る | 約7% | 約5% |
全体としては、偶発的学習の効果ははっきりあるとされています。ただ、1回の活動で覚えられるのは対象の単語の1〜2割程度。しかも、学習者の英語力、教材の種類、間隔のあけ方などで結果は変わります。
ここから言えるのは、
- 読む・聞くは、単語を増やす確かな手段。ただし1回あたりの量は少ない
- 動画は楽しく続けやすい一方、それだけで単語を増やす効率は高くない。字幕や一時停止、メモと組み合わせたい
- 偶発的学習だけに頼らず、意図的な学習(単語帳・カード)と組み合わせるのが近道
ということです。
04出会い直しを増やす工夫
偶発的学習の弱点は、同じ単語にもう一度出会えるかどうかが運まかせなことです。出会い直しを増やすには、次のような工夫があります。
1. 同じテーマを続けて読む・聞く
同じ話題の記事やポッドキャストを続けると、その分野の単語がくり返し出てきます。たとえば1週間「宇宙」のニュースだけを読めば、orbit や launch に何度も出会えます。
2. シリーズものを読む
同じ作者・同じ登場人物のシリーズは、語彙が似ているので、2冊目、3冊目で自然に出会い直せます。
3. やさしめの教材を多めに
知らない単語が多すぎると、文脈から意味を推測できません。知らない単語が少ない教材をたくさん読むほうが、ひとつひとつの単語に気づきやすくなります。
4. 単語帳と多読をつなぐ
単語帳で「見たことがある」状態にしておくと、読書の中で出会ったときに気づけます。気づいた単語に印をつけて、単語帳に戻って確かめると、意図的な学習と偶発的な学習がかみ合います。
5. 音でも出会う
同じ英文を音声でも聞くと、目と耳の両方から出会い直せます。
05文脈から意味を推測するコツ
読む・聞く中で単語を覚えるには、知らない単語の意味を文脈から推測する力も役に立ちます。推測は、次の順番で行うと当たりやすくなります。
- 品詞を決める:語尾(-tion、-ly など)や文の中の位置から、名詞か動詞か形容詞かを判断する
- すぐ近くを見る:その単語の前後の語(主語・目的語・修飾語)から、どんな種類のものか見当をつける
- 広く見る:前後の文に、言いかえ、具体例、反対の内容(but、however など)がないか探す
- 当てはめる:推測した意味を入れて、文が自然に通じるか確かめる
例で試してみましょう。
- The streets were deserted; not a single person was walking outside.(通りは人けがなかった。外を歩いている人は一人もいなかった)
セミコロンの後ろの「一人も歩いていない」が説明になっているので、deserted は「人のいない」と推測できます。
ただし、推測にはまちがいもつきものです。見た目が知っている単語に似ていると、思いこみで誤った意味を当てはめてしまうことがあります(語源の節で扱った「わな単語」など)。推測した意味は、
- 同じ単語に次に出会ったときに、もう一度当てはめて確かめる
- 大事そうな単語は、読み終えてから辞書で答え合わせをする
ようにしましょう。答え合わせをした単語は、センテンスマイニングで文ごと残すのにぴったりの候補です。
06センテンスマイニングのやり方
センテンスマイニングは、読んだり見たりした英語の中から、覚えたい単語や表現を含む文をまるごと掘り出して、カードにして覚える方法です。研究で名前がついた手法ではなく、学習者のあいだで広まったやり方ですが、ここまで見てきた「文脈」「思い出す練習」「間隔をあける」を組み合わせたものと言えます。
手順
- 読書・ドラマ・ニュースで、知らない単語が1つだけの文を見つける(知らない語が多い文は避ける)
- 文をそのまま書き写す(または字幕・本文をコピー)
- カードの表に文、覚えたい語に印。裏に意味と、あれば音声
- SRS アプリや単語カードで、間隔をあけて復習する
カードの例
- 表:The meeting was postponed until next week.
- 裏:延期された(会議は来週まで延期された)
自分が実際に出会った文なので、場面ごと思い出せるのが強みです。
続けるコツ
- 1日に掘り出すのは5〜10文まで。多すぎると復習があふれる
- 好きな作品・興味のある分野から掘るほど、思い出しやすい
- 中高生は、ドラマや動画のサービスの利用規約や年齢制限を、保護者と確かめてから使う
ポイント:多読・多聴で「出会う」、マイニングで「拾う」、SRS で「思い出す」。3つをつなぐと、偶発的学習の弱点を補えます。
1回では残らない。何度も出会う仕組みと、拾って覚える仕組みを作る
今日からのやり方
- 興味のあるテーマを1つ決め、同じテーマの記事や音声を1週間続ける
- 読んだ英文の中から、知らない単語が1つだけの文を1日5文まで選ぶ
- 選んだ文をカードにし、覚えたい語に印をつけて意味と音声を添える
- SRSアプリか単語カードで、間隔をあけて文ごと思い出す
- 単語帳で見た単語に読書で出会ったら印をつけ、単語帳に戻って確かめる
レベル別:あなたならこうする
まずはやさしい段階別の読み物を、知らない単語がほとんどない状態で多く読みます。教科書の本文から、覚えたい単語を含む文を1日2〜3文ノートに書き写すところから始めましょう。
同じテーマのニュースや記事を続けて読み、出会い直しを増やします。知らない単語が1つだけの文を1日5文ほどカードにして、SRSで回すセンテンスマイニングを習慣にしましょう。
洋書・ドラマ・ポッドキャストなど本物の教材から文を掘り出し、使える語彙を増やします。意味が分かるだけでなく、自分で言える・書けるまで、日→英の練習も組み合わせましょう。
よくある失敗と対策
1冊から残る新しい単語はわずかです。単語帳やカードで意図的に覚える時間と組み合わせると、出会い直しの効果が上がります。
文の意味が分からないと、覚えたい単語の手がかりになりません。知らない単語が1つだけの文を選びましょう。
掘り出す作業に時間を取られ、復習もあふれます。1日5〜10文までにして、読む時間と復習の時間を確保しましょう。
1 MIN
今日読んだ英文から、知らない単語が1つだけの文を1つカードにする
友だちに出したい、この節の3問
タップで答え。「X で出題する」で、そのまま問題として出せます。
5-7やさしい洋書1冊で、新しい単語はいくつ残る?
Waring & Takaki (2003) では、段階別読み物1冊の中の25語のうち、3か月後に意味を覚えていたのは平均で約1語。8回未満しか出会わなかった語は1語も残りませんでした。
5-7英単語は、文章の中で何回出会えば覚えられる?
決まった回数はありません。10回の出会いで大きく伸びたという研究がある一方、学習者の年齢や語彙力、間隔などで効果は大きく変わることが、26研究のメタ分析で示されています。
5-7読む・聞く・動画、英単語がいちばん増えるのはどれ?
24研究のメタ分析では、直後のテストで覚えた語の割合は、読む約17%、聞く約15%、読みながら聞く約13%、動画を見る約7%でした。見るだけだと少なめです。
PRACTICE KIT
この節の実践キット
このサイトで練習する
原田英語のサイトで練習する
使えるサイト・アプリ
動画で学ぶ
もっと詳しく(コラム)
この節の根拠(研究・公式情報)
段階別読み物1冊の25語のうち、3か月後に意味が残ったのは平均約1語。8回未満しか出会わなかった語は1語も残らなかった。
Waring, R., & Takaki, M. (2003). At what rate do learners learn and retain new vocabulary from reading a graded reader? Reading in a Foreign Language, 15(2), 130–163.出典を開く ↗日本人学習者121人で1・3・7・10回の出会いを比較。回数が増えるほど知識が伸び、10回で大きな伸びがあったが、完全に知るには10回超が必要かもしれないとした。
Webb, S. (2007). The effects of repetition on vocabulary knowledge. Applied Linguistics, 28(1), 46–65.出典を開く ↗本物の小説を読み、10回超出会った語では、意味の選択84%、つづりの識別76%、意味の想起55%、品詞の想起63%ができた。
Pellicer-Sánchez, A., & Schmitt, N. (2010). Incidental vocabulary acquisition from an authentic novel: Do Things Fall Apart? Reading in a Foreign Language, 22(1), 31–55.出典を開く ↗26研究のメタ分析で、出会う回数と偶発的語彙学習の関係は中程度(r=.34)。年齢・語彙力・間隔・視覚的な助けなどで強さが変わった。
Uchihara, T., Webb, S., & Yanagisawa, A. (2019). The effects of repetition on incidental vocabulary learning: A meta-analysis of correlational studies. Language Learning, 69(3), 559–599.出典を開く ↗24研究のメタ分析。直後のテストで覚えた語の割合は、読む約17%、聞く約15%、読みながら聞く約13%、動画視聴約7%だった。
Webb, S., Uchihara, T., & Yanagisawa, A. (2023). How effective is second language incidental vocabulary learning? A meta-analysis. Language Teaching, 56(2), 161–180.出典を開く ↗よくある質問
知らない単語は、読みながら辞書を引くべきですか?
目的によります。多読で楽しく速く読むときは、話の理解に必要な語だけ引き、ほかは推測で進めましょう。精読やセンテンスマイニングのときは、気になった語を確かめてカードにします。読み方ごとに使い分けましょう。
センテンスマイニングに向いている教材は?
自分が好きで、くり返し触れられる教材が向いています。知らない単語が少なめで、音声や字幕があるものなら、文と音をセットで集められます。段階別の読み物、学習者向けニュース、好きな分野のポッドキャストなどです。
偶発的学習と単語帳、どちらに時間をかけるべき?
どちらか一方ではなく両方です。単語帳で高頻度語を効率よく覚え、多読・多聴で出会い直して定着させるのが現実的です。語彙が増えるほど読める教材が増え、偶発的学習の効率も上がります。




