第8章|リーディング8-1多読:やさしい本を大量に多読の本は「簡単すぎる」くらいが正解。知らない単語は1ページに1〜2個

多読がいいと聞いて洋書を買い、3ページで閉じた。根性が足りなかったわけではありません。一方、日本人学習者に400語レベルのやさしい本を1冊読んでもらい、出てきた25語を覚えているか調べた研究では、3か月後に意味を思い出せたのは平均1語ほどでした。それでも多読は、34の研究をまとめた分析で効果が確かめられています。単語がほとんど残らないのに、多読はいったい何を伸ばしているのでしょうか。
この節の目次(6項目)
01多読は「勉強」ではなく「読書」
多読(たどく)とは、自分にとってやさしい英語の本を、辞書を使わずに、たくさん読む学習法です。英語では extensive reading と呼びます。
ポイントは「やさしい」です。学校の長文読解は、知らない単語を調べ、文の構造を確かめ、和訳して答え合わせをします。これは精読(intensive reading)で、言葉そのものを学ぶための読み方です。多読はその逆で、内容を楽しむことに集中し、読むという技能そのものを育てます。
多読を世界に広めている国際団体 Extensive Reading Foundation(ERF)の手引きは、多読のときの速さの目安を1分間に150〜200語くらい(初級者はもう少し遅くてよい)としています。辞書を引きながら1分に30語しか進まないなら、それは多読ではなく勉強です。
同じ手引きは、精読と多読の関係を車の運転にたとえています。精読が教習所の練習なら、多読は実際に道路を走ること。どちらか片方では運転できるようになりません。
ポイント:多読の目的は「新しいことを覚える」より「知っている英語を、考えずに速く処理できるようにする」こと。
02世界の基準:Day & Bamford の10原則
多読の考え方を短くまとめたものとして、もっとも広く引用されているのが Richard Day と Julian Bamford が2002年に発表した「多読指導の10原則」です。教師向けに書かれていますが、独学にもそのまま使えます。要点を自分の言葉でまとめると、次のようになります。
| 番号 | 原則(要約) | 独学ではこう使う |
|---|---|---|
| 1 | 読む材料はやさしい | 知らない語が1ページに1〜2個までの本を選ぶ |
| 2 | いろいろな種類の本がそろっている | 物語・伝記・科学・マンガ版などを混ぜる |
| 3 | 読む本は自分で選ぶ | 合わなければ途中でやめてよい |
| 4 | できるだけたくさん読む | 目安は「1週間に1冊」以上 |
| 5 | 目的は楽しみ・情報・大まかな理解 | 100%わかる必要はない |
| 6 | 読むこと自体がごほうび | 読後の問題やテストは必須ではない |
| 7 | 速く読む | 止まらずに先へ進む |
| 8 | 一人で、黙って読む | 自分のペースで読む |
| 9 | 先生が導く | 独学なら、記録とレベル表が先生の代わり |
| 10 | 先生自身がよく読む人である | 読書好きの人の本の選び方をまねる |
1番目の原則のなかで、2人は「初級者なら知らない語が1ページに1〜2個を超えると全体の理解が難しくなるかもしれない」「中級者は1ページに難しい語5個まで」という目安を紹介しています。4番目では、多読の効果を得て習慣にするための最低ラインとして「1週間に1冊」を挙げています。初級者向けの本はとても薄いので、どのレベルの人にも現実的な目標だ、という理由です。
03日本の多読三原則と「100万語」
日本で多読を広めたのは、酒井邦秀さんの『快読100万語!ペーパーバックへの道』(2002年)です。この中で紹介された考え方は、いまも「多読三原則」として多くの図書館や大学の多読案内に載っています。言い回しは資料によって少しずつ違いますが、中身は次の3つです。
- 辞書は引かない(引かなくても読める、やさしい本から始める)
- わからないところは飛ばす(絵や前後の流れから想像して先へ進む)
- 合わない本はやめる(つまらない・難しすぎると感じたら、別の本に替える)
Day & Bamford の原則1・3・7とほぼ同じことを言っているのがわかります。世界の研究者と日本の実践者が、別々の道から同じ結論にたどり着いたわけです。
同じ本は、やさしい本をたくさん読んで合計100万語に近づけば、ペーパーバックや英語のウェブサイトを楽しめる力がつく、という目標も示しました。100万語は研究で証明された境目ではなく、実践から生まれた「目安の旗」です。それでも、量を数えることには大きな意味があります。
100万語がどれくらいか、計算してみます。
- Oxford Bookworms Library の Stage 1 は、1冊の平均が約5,200語。100万語は約190冊分
- 1分に150語で毎日20分読むと、1日3,000語。1年で約110万語
つまり「毎日20分、1年」で届く量です。ただし最初の数か月は、やさしい本ほど1冊の語数が少ないので、語数より冊数の伸びを楽しむほうが続きます。
04研究でわかった効果の大きさ
多読の効果は、たくさんの研究をまとめて平均する「メタ分析」で調べられています。
Nakanishi(2015)は、34の研究(参加者3,942人)をまとめました。多読をしたグループとしなかったグループを比べる研究では効果量 d = 0.46、多読の前後を比べる研究では d = 0.71 でした。
Jeon & Day(2016)は、さらに範囲を広げて49の研究・71のグループ(参加者5,919人)を分析しました。比べる相手のいる研究で d = 0.57、前後比較で d = 0.79。著者らはこれを「小〜中程度の効果」とまとめています。分析からは、こんな傾向も見えました。
- 大人(d = 0.70)>子ども(d = 0.52)>中高生(d = 0.35)
- 英語を日常で使わない国(EFL)のほうが、英語圏で学ぶ場合(ESL)より効果が大きかった(0.65 対 0.38)
- 授業の一部として組み込まれた多読が、いちばん効果が大きかった
日本は EFL の環境です。ふだん英語にふれる量が少ないぶん、多読で増える「読む量」が効いてくる、と考えられます。
一方で、正直に書いておくべきこともあります。効果は「小〜中」で、魔法ではありません。また前後比較の研究は、多読以外の要因(ほかの授業、成長など)も混ざります。多読だけで英語力のすべてが伸びる、という結論ではないのです。文法・単語の勉強と組み合わせて、読む力を底上げする方法と考えるのが、研究に合った使い方です。
05多読で単語は覚えられるのか
多読の誤解で多いのが「たくさん読めば、単語も自然に覚えられる」です。
Waring & Takaki(2003)は、日本人学習者に400語レベルのグレイディッド・リーダーを1冊読んでもらい、本の中の25語をどれだけ覚えるか調べました。読んだ直後はある程度わかっても、3か月後に意味を思い出せたのは平均1語ほど。しかも、本の中で8回未満しか出会わなかった語は、3か月後には残っていませんでした。
音声を聞きながら読む方法でも結果は大きく変わりません。Brown ほか(2008)では、読むだけ・聞きながら読むのどちらでも、3か月後に思い出せたのは28語中およそ1語。聞くだけでは0語でした。
ここから言えることは2つです。
- 新しい単語は、1回や2回の出会いではほとんど残らない。 何度も出会う量を読むか、単語の復習(第6章の間隔反復)を組み合わせる
- 多読のいちばんの価値は「すでに知っている語」を強くすること。 知っている語に何十回も出会うことで、見た瞬間に意味が浮かぶようになる。これが読む速さの正体です
多読用の本がわざと「よく使う語」を何度も出すように書かれているのは、このためです。
06今日からの多読メニュー
最初の1か月は、次の形で始めるのがおすすめです。
- 時間:1日15〜20分。寝る前や通学の電車など、毎日同じタイミングに置く
- 本:自分のレベルより「1段階下」から。目安は、知らない語が1ページに1〜2個
- ルール:辞書は引かない。止まらない。つまらなければ替える
- 記録:読んだ日・書名・語数・ひとこと感想を1行で残す
記録の例です。
- 10/8 Starter レベルの短い物語 約1,400語 犯人が意外だった
最初の本は、たとえばこんな英文がすらすら読めるレベルで十分です。
- Mia opened the box. There was a small key inside.(ミアは箱を開けた。中に小さなかぎが入っていた)
- She looked at the old door at the end of the hall.(彼女は廊下のつきあたりの古いドアを見た)
「簡単すぎて意味があるのか」と感じるくらいが正解です。1冊を一気に読み終える経験が、次の1冊を連れてきます。100冊目には、最初の本が信じられないほど速く読めるはずです。
辞書なしでスラスラ読める本を、毎日たくさん読む
今日からのやり方
- 自分のレベルより1段階やさしいシリーズを選び、まず3冊用意する
- 最初の2ページを読み、知らない語が1ページ1〜2個以内なら採用する
- 1日15〜20分、辞書を使わずに読む。わからない所は飛ばす
- つまらない・難しいと感じたら、迷わず別の本に替える
- 読んだ書名と語数を1行で記録し、月に1回合計を数える
レベル別:あなたならこうする
絵が多い Starter レベルや子ども向けの読みもので、1冊数百〜千数百語の本から。語数より冊数を目標にし、1週間に3冊以上を楽しむ。
Stage 2〜3 くらいの物語やノンフィクションを中心に、1週間に1冊以上。ときどき音声つきで読み、止まらずに読む感覚を育てる。
上位レベルのリーダーに加えて、児童書のシリーズや好きな分野のやさしい一般書へ。難しい本と、楽に読める本を交互に読み、速さを落とさない。
よくある失敗と対策
知らない語が多すぎると辞書が手放せず、多読ではなく精読になります。まずはレベル別の本で「止まらず読める」経験を積みましょう。
調べ始めると速さも楽しさも消えます。どうしても気になる語だけ付せんを貼り、読み終えてから3つまで調べる、と決めておくと安心です。
多読では、やめることも大事な技術です。つまらない本を我慢すると読書そのものが嫌いになります。別の本に替えるのが正しい対応です。
1 MIN
部屋にある一番やさしい英語の本を1冊選び、最初の1ページを辞書なしで読む
友だちに出したい、この節の3問
タップで答え。「X で出題する」で、そのまま問題として出せます。
8-1多読でいちばん大事な原則は何番目?
多読研究の第一人者 Day と Bamford が示した10原則の1番目は「読む材料がやさしいこと」です。初級者なら1ページに知らない語が1〜2個を超えると難しすぎるかもしれない、とまで書いています。
8-1多読で新しい単語はどれくらい残る?
グレイディッド・リーダー1冊を読んだ実験では、25語のうち3か月後に意味を思い出せたのは平均1語ほど。8回未満しか出会わなかった語は残りませんでした。多読の主役は「知っている語を速く使えるようにすること」です。
8-1多読の効果が大きいのは中高生?大人?
49の研究をまとめた分析では、効果の大きさは大人が最大で、次が子ども、中高生がいちばん小さい結果でした。著者らは、テスト中心の授業で多読の時間が取りにくいことを理由の候補に挙げています。
PRACTICE KIT
この節の実践キット
このサイトで練習する
原田英語のサイトで練習する
使えるサイト・アプリ
動画で学ぶ
もっと詳しく(コラム)
この節の根拠(研究・公式情報)
多読指導の10原則を提示。1番目は「材料がやさしいこと」で、初級者は1ページに知らない語1〜2個が目安。最低ラインとして週1冊を挙げた。
Day, R., & Bamford, J. (2002). Top ten principles for teaching extensive reading. Reading in a Foreign Language, 14(2), 136–141.出典を開く ↗34研究・3,942人のメタ分析。多読の効果量は群間比較で d = 0.46、前後比較で d = 0.71 と報告。
Nakanishi, T. (2015). A meta-analysis of extensive reading research. TESOL Quarterly, 49(1), 6–37.出典を開く ↗49研究・71サンプル・5,919人のメタ分析。効果は小〜中程度(群間 d = 0.57、前後 d = 0.79)。大人で大きく、中高生で小さかった。
Jeon, E.-Y., & Day, R. R. (2016). The effectiveness of ER on reading proficiency: A meta-analysis. Reading in a Foreign Language, 28(2), 246–265.出典を開く ↗400語レベルの本1冊を読んだ日本人学習者は、25語中3か月後に意味を思い出せたのが平均約1語。8回未満の出会いの語は残らなかった。
Waring, R., & Takaki, M. (2003). At what rate do learners learn and retain new vocabulary from reading a graded reader? Reading in a Foreign Language, 15(2), 130–163.出典を開く ↗多読の速さの目安を1分150〜200語(初級者はやや下)とし、精読と多読は補い合う関係で両方が必要だと説明している。
Extensive Reading Foundation. The ERF Guide to Extensive Reading(多読の手引き。英語版・日本語版ほか)出典を開く ↗よくある質問
多読は何歳から始められますか?
英語の文字が読めれば始められます。小学生なら絵本やフォニックスの読みものから、中学生なら教科書より1段階やさしいリーダーからがおすすめです。年齢よりも「辞書なしで楽に読めるか」でレベルを決めてください。
受験生でも多読をする意味はありますか?
あります。長文問題で時間が足りない原因の多くは、読む速さです。ただし受験では精読も欠かせません。精読を中心にしつつ、毎日10〜15分だけやさしい英文を速く読む時間を作ると、両方を生かせます。
多読だけで英語が話せるようになりますか?
多読で伸びるのは主に読む速さと理解です。話す力には、声に出す練習や会話の練習が別に必要です。ただ、多読で身についた表現は、話すときの材料になります。




