第7章|リスニング7-5多聴:量のリスニング速い英語に慣れる近道は、意外にも「やさしい英語」を大量に聞くこと

「先生、テープが速すぎます!」。2011年、英語教育の雑誌にこんな題名の論考が載りました。速い英語に追いつけない学習者に、何をさせればよいのか。著者たちがすすめたのは、聞き方のコツを教えることではありませんでした。13週間でやさしい物語10冊を3通りの方法で学ばせた研究でも、聞く力がもっとも一貫して伸びたのは、「聞くだけ」のグループではありませんでした。では、何が効いたのでしょうか。
この節の目次(6項目)
01精聴と多聴は役割が違う
リスニングの練習は、大きく2つに分けられます。
| 精聴(せいちょう) | 多聴(たちょう) | |
|---|---|---|
| 目的 | 細かい音まで正確に聞く | 内容を楽しみながら大量に聞く |
| 素材 | 少し難しめでもよい | やさしい(ほぼ分かる) |
| 長さ | 30秒〜数分 | 数分〜数十分 |
| 回数 | 同じ音声を何度も | 基本は1〜2回 |
| 例 | ディクテーション、シャドーイング | ポッドキャスト、物語の朗読 |
精聴は、聞き取れない音を1つずつ減らす練習です。多聴は、すでに分かる英語を、速く・楽に処理できるようにする練習です。
聞き取れない原因のうち、「分かるのに処理が追いつかない」という悩みには、多聴がいちばん効きます。やさしい英語を、ふつうの速さで、たくさん処理する。これをくり返すうちに、単語や文を考えなくても意味が浮かぶようになっていきます。
Renandya & Farrell(2011)は、この発想を英語教育の雑誌で強く主張しました。題名は「先生、テープが速すぎます!」。習熟度の低い学習者に聞き方の戦略(予測する、推測するなど)を教えることには、効果の十分な証拠が乏しく、先生の負担も大きいと指摘しています。そのかわりに、多読と同じように、やさしい音声をたくさん聞かせる多聴を取り入れるべきだと提案しています。
ポイント:精聴で「聞こえる音」を増やし、多聴で「楽に分かる量」を増やす。両方が必要です。
02やさしさの目安は「95%」
多聴で何より大切なのは、素材の難しさです。分からない音声をいくら聞いても、多聴にはなりません。
では、どのくらいやさしければよいのでしょうか。van Zeeland & Schmitt(2013)は、話の中の単語を一部入れかえて、知っている単語の割合(カバー率)を変え、学習者が内容をどれだけ理解できるかを調べました。
- 95%の単語を知っていれば、学習者は比較的よく理解でき、人によるばらつきも小さかった
- 90%でも理解できる人は多かったが、ばらつきが大きくなった
95%というのは、20語に1語知らない語がある程度です。1分間の話に知らない語が数個、という状態です。
ただ、実際に聞く前に単語の割合を数えるのは大変です。そこで、次の目安で判断します(研究の数字ではなく、使いやすくするための目安です)。
- 最初の1分を聞いて、話の流れがほぼ追える
- 知らない語があっても、話の筋は止まらない
- 聞き終わったあと、内容を日本語で2〜3文にまとめられる
この3つがそろえば、多聴に向いた素材です。どれかが欠けるなら、素材を1段やさしくします。
迷ったら、やさしすぎるくらいでちょうどよい、と考えてください。中学レベルの英語でできた音声を、ネイティブに近い速さで楽に聞けることは、それだけで大きな力です。
03「読みながら聞く」から始める
多聴の入り口として効果的なのが、文字を読みながら音声を聞く方法です。
Chang & Millett(2014)は、学習者を3つのグループに分け、13週間で、学習者向けのやさしい物語(graded readers)10冊を学ばせました。
- 読むだけのグループ
- 読みながら音声を聞くグループ
- 音声を聞くだけのグループ
その後、同じ速さの音声を1回だけ聞いて答えるテストを行うと、聞く力の伸びがもっとも一貫して大きかったのは、読みながら聞くグループでした。
文字があると、聞き取れなかった音を、その場で「この単語だったのか」と結びつけられます。音と文字が一致する経験を大量に重ねることで、文字なしでも聞ける力が育っていくと考えられます。
おすすめの順番は次のとおりです。
- 読みながら聞く:音声つきの学習者向けの本や、スクリプトつきのポッドキャストで。
- 聞いてから読む:先に聞き、分からなかった所だけスクリプトで確かめる。
- 聞くだけ:文字なしで、内容を楽しむ。
1冊・1番組の中で、この順番を進めても、レベルが上がるごとに進めてもかまいません。
04ポッドキャストとYouTubeの選び方
多聴の素材は、選ぶ基準を決めておくと迷いません。
| 基準 | 見るポイント |
|---|---|
| 難しさ | 学習者向けか、レベル表示があるか |
| スクリプト | 文字で確かめられるか |
| 長さ | 最後まで聞ける長さか(5〜20分が使いやすい) |
| 話し手 | 声と話し方が好きか、聞いていて疲れないか |
| 話題 | 次の回も聞きたくなるか |
| 更新 | 回数が多く、続けて聞けるか |
レベル別に、選ぶ方向を示します。
- 初級:学習者向けの短い会話、絵本の読み聞かせ、レベル別の物語の朗読。1本数分で、スクリプトのあるもの。
- 中級:学習者向けのポッドキャスト(ゆっくり話す回とふつうの速さの回があるもの)、学習者向けのニュース、教養番組。
- 上級:ネイティブ向けのポッドキャストやインタビュー、講演。書き起こしがあると確認しやすい。
同じ話し手、同じ話題をしばらく続けて聞くのも効果的です。話し方のくせや、よく出る単語に慣れてくるので、同じ難しさでも楽に分かるようになります。この聞き方は「ナロー・リスニング(狭く深く聞く)」と呼ばれます。
中高生は、動画サイトやアプリを使うとき、それぞれのサービスの利用年齢と家庭のルールを確かめてから使いましょう。学習者向けのサイトやポッドキャストなら、ブラウザだけで聞けるものも多くあります。
051か月の多聴プランと伸びの確かめ方
多聴は効果が目に見えにくい練習です。そこで、1か月単位で計画し、最初と最後を比べる仕組みを作ります。
| 週 | 中心にすること | 1日の目安 |
|---|---|---|
| 1週目 | 素材探し。3〜4本を試し、楽に分かるものを1つに決める | 15分 |
| 2週目 | 決めた素材を、読みながら聞く | 20分 |
| 3週目 | 先に聞いてから読む。分からなかった所だけ確認 | 20〜30分 |
| 4週目 | 聞くだけ。週末に1週目の回をもう一度聞く | 20〜30分 |
伸びの確かめ方は簡単です。1週目に聞いた回を、4週目にもう一度、文字なしで聞きます。1週目は「6割くらい分かった」回が、4週目に「8割分かる」になっていれば、処理が速くなっている証拠です。
記録は次の4つだけで十分です。
- 日付
- 聞いた番組や本の名前
- 聞いた時間
- 分かった割合(0〜10)
分かった割合が毎回9〜10なら、素材を1段難しくする時期です。逆に5以下が続くなら、1段やさしくします。多聴の素材は「ずっと同じ」ではなく、自分の伸びに合わせて少しずつ上げていきます。
061日のメニューと「聞き流し」との違い
多聴は、すき間時間と相性のよい練習です。1日30分の例です。
| 時間帯 | やること | 時間 |
|---|---|---|
| 朝・通学通勤 | 前の日の続きのポッドキャストを聞くだけ | 15分 |
| 昼休み | 学習者向けの物語を、読みながら聞く | 10分 |
| 夜 | 今日聞いた内容を、英語か日本語で2〜3文メモ | 5分 |
週末に、1週間で聞いた番組のうち1本だけ、スクリプトで聞き取れなかった所を確かめると、精聴との橋渡しになります。
ここで、よくある「聞き流し」との違いをはっきりさせておきます。
- 多聴:分かる音声を、内容に注意を向けて聞く
- 聞き流し:分からない音声を、ほかのことをしながら流しておく
同じ「たくさん聞く」でも、中身はまったく違います。音声の内容を理解していないなら、それは多聴ではありません。家事や移動をしながら聞くこと自体は問題ありません。大切なのは、聞いた後に内容を言えるかどうかです。夜の2〜3文メモは、そのための確認です。
記録をつけると、続ける力になります。聞いた番組名と時間をメモし、1か月で何時間聞いたかを数えましょう。量が目に見えると、やる気も保ちやすくなります。
ポイント:「何時間聞いたか」より「何時間分かったか」を数える。
分かる音声を大量に。聞き流しとの違いは「理解しているか」
今日からのやり方
- 最初の1分で話の流れがほぼ追える、学習者向けの音声を1つ選ぶ
- はじめはスクリプトや本を読みながら聞く
- 慣れたら先に聞き、分からなかった所だけスクリプトで確かめる
- 通学通勤などの時間に、同じ番組・同じ話し手を続けて聞く
- 聞いたあとに内容を2〜3文メモし、聞いた時間を記録する
レベル別:あなたならこうする
絵本の読み聞かせや、レベル別の物語の朗読を、文字を見ながら聞くところから。1本数分で十分です。中学レベルの英語を、ふつうの速さで楽に分かる経験をたくさん積みましょう。
学習者向けのポッドキャストやニュースを、1日15〜30分。同じ番組を続けて聞き、話し手に慣れましょう。週1回、スクリプトで聞き逃しを確かめると精聴とつながります。
ネイティブ向けのポッドキャストやインタビューを、興味のある分野から。話題が変わると急に分からなくなるなら、その分野の語彙が足りないサインです。苦手分野も少しずつ混ぜましょう。
よくある失敗と対策
分からない音声を大量に聞いても、処理は速くなりません。最初の1分で話の流れが追えない素材は、精聴用に回し、多聴にはもっとやさしい素材を選びましょう。
それは聞き流しです。ながら聞きでもかまいませんが、聞いたあとに内容を2〜3文で言えるかを確かめ、言えないなら素材か聞く場面を見直します。
話し手や話題が毎回変わると、慣れる前に終わってしまいます。気に入った番組を決め、しばらく続けて聞くと、同じ難しさでも楽に分かるようになります。
1 MIN
学習者向けポッドキャストを1本選び、最初の1分で流れが追えるか確かめる
友だちに出したい、この節の3問
タップで答え。「X で出題する」で、そのまま問題として出せます。
7-5英語を聞いて分かるには、単語を何割知っていればいい?
van Zeeland & Schmitt(2013)では、学習者は話の単語の95%を知っていれば比較的よく理解できました。読むときによく言われる98%より低い基準です。それでも、20語に1語しか知らない語がない状態です。
7-5多聴は「聞くだけ」がいちばん効く?
13週間の研究(Chang & Millett, 2014)で、やさしい物語を「読むだけ」「読みながら聞く」「聞くだけ」で比べると、聞く力の伸びがもっとも安定していたのは「読みながら聞く」グループでした。
7-5英語のリスニング、「コツ」を習うより大事なことは?
Renandya & Farrell(2011)は、習熟度の低い学習者に聞き方の戦略を教える効果には十分な証拠がないとして、多読と同じ発想で、やさしい音声を大量に聞く多聴を取り入れるよう提案しています。
PRACTICE KIT
この節の実践キット
このサイトで練習する
原田英語のサイトで練習する
使えるサイト・アプリ
動画で学ぶ
もっと詳しく(コラム)
この節の根拠(研究・公式情報)
学習者は話の単語の95%を知っていれば比較的よく理解でき、ばらつきも小さかった。90%でも理解できる人は多いが、ばらつきが大きかった。
van Zeeland, H., & Schmitt, N. (2013). Lexical coverage in L1 and L2 listening comprehension: The same or different from reading comprehension? Applied Linguistics, 34(4), 457–479.出典を開く ↗13週間でやさしい物語10冊を、読むだけ・読みながら聞く・聞くだけの3通りで学習。1回だけ聞くテストで、読みながら聞くグループがもっとも一貫して伸びた。
Chang, A. C.-S., & Millett, S. (2014). The effect of extensive listening on developing L2 listening fluency: Some hard evidence. ELT Journal, 68(1), 31–40.出典を開く ↗習熟度の低い学習者への聞き方の戦略指導は効果の証拠が乏しく負担も大きいとして、多読と同じ発想の多聴を取り入れるよう提案した論考。
Renandya, W. A., & Farrell, T. S. C. (2011). 'Teacher, the tape is too fast!' Extensive listening in ELT. ELT Journal, 65(1), 52–59.出典を開く ↗よくある質問
多聴は1日何分やればいいですか?
決まった正解はありませんが、毎日15〜30分を続けると、1か月で数時間から十数時間になります。長さより、毎日続くことと、分かる素材を選ぶことを優先しましょう。
寝る前に英語を流しておくのは効果がありますか?
眠っている間に流した音声で英語力が伸びる、という確かな証拠は見当たりません。寝る前に聞くなら、起きて内容を追える時間に聞き、内容を言えるかを確かめましょう。
アメリカ英語とイギリス英語、どちらを聞けばいい?
まずは聞いていて楽しい話し手を選ぶのがいちばんです。慣れてきたら、別の地域の英語も少しずつ混ぜると、なまりの違いに強くなります。




