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『聞き流すだけで話せる』は本当?赤ちゃんでさえ『録音を聞くだけ』では外国語の音を学べなかった

原田英語6分で読める研究・公式情報 5件終章の1/7節

『聞き流すだけで話せる』は本当?のイメージ

生後9か月の赤ちゃんの前で、中国語を話す人が絵本を読み、一緒に遊ぶ。12回のセッションのあと、赤ちゃんは中国語の音を聞き分ける力を保っていました。ところが、同じ話し手・同じ内容を録画や音声だけで聞かせたグループでは、効果がまったく見られませんでした。言葉を吸収する力がいちばん強い赤ちゃんでさえ、です。では、通勤中に流しっぱなしの英語は、大人の耳に何を残しているのか。

この節の目次(7項目)
  1. よく聞く主張:「流しておけば自然に身につく」
  2. 研究①:赤ちゃんでも「録音」からは学べなかった
  3. 研究②:95%わかる英語でないと「入って」こない
  4. 研究③:寝ている間の学習は「復習」まで
  5. 本当のところ:聞き流しが役に立つ3つの場面
  6. セルフチェック:その聞き流し、効いている?
  7. じゃあどうする:「聞き流し」を「聞き込み」に変える

01よく聞く主張:「流しておけば自然に身につく」

「英語のシャワーを浴びるだけ」「聞き流すだけで、ある日突然わかるようになる」。英語教材の広告では、こうした言葉をよく見かけます。忙しい人にとっては、勉強の時間をとらなくてよいという点で、とても心ひかれる話です。

この主張には、もっともらしい理由があります。子どもは文法書を読まずに、周りのことばを聞いて母語を身につけます。第二言語習得の研究でも、たくさんのインプット(聞く・読む)が習得の土台になるという考え方は広く受け入れられています。

ただし、ここで大事な言葉が抜け落ちています。それは「理解できる」という条件です。インプットが力になるのは、その中身がおおむね理解できるときです。まったく知らない言語のラジオを毎日流しても、意味と音が結びつかなければ、単語ひとつ覚えることはできません。

ポイント:「聞くこと」は大切。ただし力になるのは「わかる英語」を聞いたときです。

では「わからない英語を流す」と「わかる英語を聞く」の差は、研究ではどのくらいはっきりしているのでしょうか。3つの研究から見ていきます。

02研究①:赤ちゃんでも「録音」からは学べなかった

言葉を吸収する力がいちばん強いのは赤ちゃんです。その赤ちゃんでさえ、録音を流すだけでは学べなかった、という有名な実験があります。

アメリカの研究チーム(Kuhl ほか、2003年)は、英語を話す家庭で育つ生後9か月の赤ちゃんに、中国語(北京語)を聞かせました。中国語を話す人が目の前で絵本を読んだり遊んだりする12回のセッションを受けた赤ちゃんは、中国語の音の聞き分けの力が保たれました。英語だけのセッションを受けた比較のグループでは、この力は下がっていきました。

ところが、同じ話し手・同じ内容を「映像つきの録画」や「音声だけ」で聞かせたグループでは、効果がまったく見られませんでした。研究チームは、この時期の音の学習は、人とのやりとりによって強く後押しされると考えています。

もちろん、これは赤ちゃんの「音の聞き分け」の実験で、大人の英語学習にそのまま当てはまるわけではありません。それでも、「ただ浴びていれば入る」という単純な話ではないことは、はっきり示しています。注意を向けること、意味のあるやりとりの中で聞くことが、学びを動かすカギになります。

03研究②:95%わかる英語でないと「入って」こない

大人の場合、カギになるのは「どれだけ単語がわかるか」です。

イギリスの研究(van Zeeland & Schmitt、2013年)では、話の中の単語のうち何%を知っていれば聞いて理解できるかを調べました。その結果、学習者は95%の単語を知っていれば、内容をかなりよく理解できました。90%になると、よく理解できる人とできない人のばらつきが大きくなりました。研究者は、95%を目安にすると、日常的な話を聞くにはおよそ2000〜3000語(語の家族)の知識が必要になると計算しています。

95%というのは、20語に1語までしか知らない単語がない状態です。1分間に150語ほどの速さで話す音声なら、知らない語は1分あたり7〜8語まで、ということになります。ニュースや映画を聞き流して「何を言っているかほとんどわからない」と感じるなら、この条件を大きく下回っている可能性が高いと考えられます。

もう一つ、聞くことの難しさを示す研究があります。スペインの研究(Vidal、2011年)では、学習者に講義を聞かせるグループと、同じ内容を読ませるグループを比べました。単語の身につき方は、どのレベルでも「読む」ほうが大きく、1か月後の記憶でもおおむね同じ傾向でした。ただし力が上がるほど、聞くと読むの差は小さくなりました。耳だけで新しい単語を拾うのは、初級ほど難しいということです。

04研究③:寝ている間の学習は「復習」まで

「寝ている間に英語を流せば覚えられる」という話も根強くあります。これについては、スイスの研究(Schreiner & Rasch、2015年)が参考になります。

ドイツ語を話す参加者は、夜にオランダ語の単語とドイツ語の訳を覚えてから眠りました。眠りが深い時間帯に、覚えたオランダ語の単語の一部を音声で流すと、流した単語は流さなかった単語よりも、翌朝に訳を思い出しやすくなっていました。

ここで見落とせない点が2つあります。1つめは、流したのは「寝る前にすでに覚えた単語」だということです。睡眠中の音声は、覚えた記憶を呼び起こして定着を助けたのであって、知らない単語を新しく覚えさせたわけではありません。2つめは、起きている間に同じように単語を聞かせた条件では、記憶の向上が見られなかったことです。

つまり、睡眠中の音声の効果は「覚えたものの復習」までです。寝る前の15分でしっかり覚え、眠ることのほうが、ずっと確実な方法だといえます(睡眠と記憶については第1章で詳しく扱います)。

05本当のところ:聞き流しが役に立つ3つの場面

ここまで読むと「聞き流しは無駄」と思うかもしれません。けれども、条件をそろえれば聞き流しにも役割があります。

① 一度しっかり理解した音声の「復習」として流す
スクリプトで意味を確かめた音声なら、聞き流しても内容が頭の中で再生されます。単語や言い回しに何度も出会い直すことになり、復習として働きます。

② すでにわかるレベルの素材を「量」として聞く
やさしい段階別の読み物(グレーデッド・リーダー)の音声を使った研究(Chang & Millett、2014年)では、13週間の学習で、聞き取りの流暢さがもっとも安定して伸びたのは「読みながら聞く」グループでした。わかる英語を大量に聞くことは、聞き取りの速さを育てます。

③ 英語に触れる習慣と気分づくり
勉強の時間がとれない日でも英語を耳に入れておくことは、習慣を切らさないという意味で価値があります。ただし、それだけで聞き取れる・話せるようになるという根拠はありません。

逆に、効果が期待しにくいのは「難しすぎる素材を、注意を向けずに流す」使い方です。この場合、耳には入っていても、脳の中では意味のない音として処理されている可能性が高いと考えられます。

06セルフチェック:その聞き流し、効いている?

今の聞き流しが力になっているかどうかは、次の5つの質問で確かめられます。聞き終えた直後に、自分に問いかけてみてください。

  1. 今聞いた内容を、日本語で1文にまとめられるか(だれが、何を、どうした)
  2. 聞こえた英語の中から、意味のわかるフレーズを3つ言えるか
  3. スクリプトを見たとき、知らない単語は1行に1つ以下か
  4. 同じ音声を2回目に聞いたとき、1回目よりわかる部分が増えたか
  5. 聞いたフレーズのうち1つでも、自分で口に出して使えそうか

1と3に「いいえ」なら、素材が難しすぎる可能性が高いといえます。レベルを1段階下げましょう。2と4に「いいえ」なら、注意を向けずに流しているだけかもしれません。新しい素材は短く区切って、集中して聞く時間をつくります。5に「いいえ」なら、聞くことと話すことがつながっていません。聞いた英文をまねして言う時間を足します。

例として、次のような短い会話を聞いたとします。

  • A: Are you free this Saturday?(今度の土曜日、空いてる?)
  • B: I think so. Why?(たぶんね。どうして?)
  • A: There's a new café near the station. Want to check it out?(駅の近くに新しいカフェができたの。行ってみない?)

「土曜に駅の近くの新しいカフェに誘っている」と1文で言えて、check it out(行ってみる、試してみる)のような使えそうな表現を拾えたなら、その聞き方は力になっています。

07じゃあどうする:「聞き流し」を「聞き込み」に変える

同じ30分でも、使い方を変えれば中身はまったく違ってきます。おすすめは「精聴 → ながら聞き → 声に出す」の3段階です。

  1. 精聴(集中して聞く):1〜3分の音声を選び、まず止めずに聞きます。次にスクリプトを見ながら聞き、知らない単語や聞き取れなかった部分を確かめます。
  2. ながら聞き(復習):意味がわかった音声だけを、通勤や家事の時間に繰り返し流します。ここで初めて「聞き流し」が効いてきます。
  3. 声に出す(話す練習):週に数回、同じ音声の数文をまねして言います。聞くだけでは口は動くようになりません。

素材選びの目安は「スクリプトを見て、知らない単語が1行に1つあるかないか」です。それより多ければ、レベルを下げます。

1日のメニュー例(社会人・合計30分)

時間やること
朝 10分新しい音声1本を精聴(スクリプトで確認)
通勤 15分きのうと今日の音声をながら聞き
夜 5分音声の2〜3文をまねして声に出す

聞く力と話す力は、それぞれ別に鍛える必要があります。「聞いていればいつか話せる」を待つより、聞いた英語を少しでも口に出すほうが、話す力への近道になります。

この節の答え

わからない英語は雑音。わかる英語の量が力になる

今日からのやり方

  1. 今聞いている素材のスクリプトを開き、知らない単語に印をつける(1行に1つ以内が目安)
  2. 多すぎたら、やさしいレベル別の音声素材に切り替える
  3. 最初は止めずに聞き、次にスクリプトを見ながら聞いて意味を確かめる
  4. 意味がわかった音声だけを、通勤や家事の時間に繰り返し流す
  5. 週に数回、同じ音声の数文をまねして声に出し、話す練習につなげる

レベル別:あなたならこうする

初級 A1〜A2

1分程度の短い会話から始めます。最初は必ずスクリプトか字幕つきで聞き、意味がわかったものだけをながら聞きに回します。やさしい物語の朗読を、文字を目で追いながら聞く方法が効率的です。

中級 B1

学習者向けにゆっくり話すニュースやポッドキャストを選びます。1本を精聴→3回ながら聞き→数文シャドーイング、を1セットにすると、聞き流しが復習に変わります。

上級 B2〜

ふつうの速さの番組でも内容はとれるはずです。量を増やす段階なので、興味のある分野を同じテーマで聞き重ねます。聞き取れなかった数秒だけを巻き戻して確かめる習慣を足すと、伸び悩みを防げます。

よくある失敗と対策

難しいニュースを毎日流している

理解できない部分が多いと、聞いた時間ほど力になりません。知らない単語が5%以内の素材に下げ、内容が追える状態で量を増やします。

聞くだけで話せるようになるのを待つ

聞く力と話す力は別に鍛える必要があります。聞いた英文を声に出す、短く要約して言う、など口を動かす時間を1日5分でも足します。

BGMのように流して何も覚えていない

注意を向けていない音は残りにくいものです。「ながら」は理解済みの素材の復習に限り、新しい素材は短時間でも集中して聞きます。

TODAY
1 MIN

いま聞いている音声のスクリプトを開き、1分ぶんの知らない単語を数える

友だちに出したい、この節の3問

タップで答え。「X で出題する」で、そのまま問題として出せます。

終-1寝ている間に英語を流すと覚えられる?

新しい単語を寝ながら覚えた、という確かな証拠はありません。ある実験では、起きている間に覚えたオランダ語の単語を眠っている間に聞かせると、あとで思い出しやすくなりました。効いたのは「覚えた語の復習」で、ゼロからの学習ではありません。

X で出題する

終-1英語を聞いて分かるには、何%の単語を知っていればいい?

ある研究では、話に出てくる単語の95%を知っていれば、学習者でも内容をかなり理解できました。90%だと理解できるかどうかが人によって大きくばらつきました。難しすぎる素材を流しても内容が入ってこないのは、自然なことです。

X で出題する

終-1同じ内容なら、英語は聞くのと読むのとどちらが単語が増える?

講義を聞いたグループと、同じ内容の文章を読んだグループを比べた研究では、読んだほうが単語を多く身につけました。力が上がるほど差は小さくなりました。初級のうちは、耳だけに頼らず文字も使うほうが効率的です。

X で出題する

X でポストLINEB!

この節の根拠(研究・公式情報)

生後9か月の乳児は、目の前の人が話す中国語からは音の聞き分けを学んだが、同じ内容の録画や音声だけを聞かせた場合は効果が見られなかった。

Kuhl, P. K., Tsao, F.-M., & Liu, H.-M. (2003). Foreign-language experience in infancy: Effects of short-term exposure and social interaction on phonetic learning. Proceedings of the National Academy of Sciences, 100(15), 9096–9101.出典を開く ↗

学習者は話の中の単語を95%知っていれば、内容を比較的よく理解できた。90%では理解の個人差が大きかった。95%を目安にすると2000〜3000語族が必要と試算。

van Zeeland, H., & Schmitt, N. (2013). Lexical coverage in L1 and L2 listening comprehension: The same or different from reading comprehension? Applied Linguistics, 34(4), 457–479.出典を開く ↗

講義を聞くより、同じ内容を読んだほうが付随的な語彙の習得が大きかった。ただし習熟度が上がるほど、聞く・読むの差は小さくなった。

Vidal, K. (2011). A comparison of the effects of reading and listening on incidental vocabulary acquisition. Language Learning, 61(1), 219–258.出典を開く ↗

寝る前に覚えたオランダ語の単語を睡眠中に聞かせると、翌朝の想起が向上した。起きている間に聞かせた条件では向上しなかった。新しい学習ではなく既習語の定着の効果。

Schreiner, T., & Rasch, B. (2015). Boosting vocabulary learning by verbal cueing during sleep. Cerebral Cortex, 25(11), 4169–4179.出典を開く ↗

13週間、やさしい段階別読み物で学んだ比較で、聞き取りの流暢さがもっとも安定して伸びたのは「読みながら聞く」グループだった。

Chang, A. C.-S., & Millett, S. (2014). The effect of extensive listening on developing L2 listening fluency: Some hard evidence. ELT Journal, 68(1), 31–40.出典を開く ↗

よくある質問

子どもに英語の音声を流しておくのは無駄?

無駄とは言い切れません。英語の音に親しむきっかけにはなります。ただ乳児の実験でも、録音より人とのやりとりの中で学びが起きていました。絵本を一緒に見ながら聞く、歌に合わせて体を動かすなど、意味と結びつく形にすると効果が期待できます。

聞き流し教材で伸びたという人もいるけど?

伸びた人の多くは、ほかに単語や文法の勉強をしていたり、すでに理解できるレベルの素材を何度も聞いていたりします。体験談は「どんな人が、何を、どれだけ」まで確かめると、自分に当てはまるかどうかが判断できます。

倍速で聞き流すのはどう?

理解できる素材を、速さに慣れるために使うなら一つの方法です。わからない素材を倍速にすると、理解できる割合はさらに下がります。まず等倍で95%わかる状態をつくってから速度を上げます。