第7章|リスニング7-1聞き取れない3つの原因「耳が悪い」は誤解かも。聞き取れない原因は3つ、練習も3通り

中学で習った単語ばかりの英文なのに、音声で流れると、まるで分からない。シンガポールの研究者 Goh は、学習者40人に「聞いていて何に困ったか」を話してもらい、悩みを10種類に整理しました。そのうち5つは、ある1つの段階に集まっていました。習熟度の低い人ほど、悩みはその段階に偏っていたのです。「もっと聞けば慣れる」で抜け出せるかどうかも、どこで詰まっているかで変わります。聞き取りは、どこで詰まるのでしょうか。
この節の目次(6項目)
01「聞く」は頭の中の3段階の仕事
英語を聞いて分かるまでに、頭の中では3つの仕事が一瞬で進んでいます。
- 音をとらえる:耳に入った音の流れを、単語の区切りに分ける。
- 意味を組み立てる:単語と文法の知識を使って、文の意味を作る。
- 意味を使う:話の流れや場面の知識と結びつけて、言いたいことをつかむ。
シンガポールの研究者 Goh(2000)は、学習者40人に日記・インタビュー・聞いた直後のふり返りで「何に困ったか」を話してもらい、悩みを整理しています。出てきた10種類の悩みのうち、5つが1番目の「音をとらえる」段階、3つが2番目、2つが3番目でした。そして、習熟度の低い人ほど、悩みが「音をとらえる」段階に集まっていました。
リスニングの研究では、音から意味へと積み上げる処理をボトムアップ、話題や場面の知識から予測して補う処理をトップダウンと呼びます。うまく聞ける人は、この2つを同時に使っています。どちらか一方だけでは聞けません。
この章では、聞き取れない原因を次の3つに分けて考えます。
- 原因1:音がつかめない(知覚の問題)
- 原因2:単語と文法が足りない(知識の問題)
- 原因3:処理が追いつかない(速さ・自動化の問題)
ポイント:「聞き取れない」という同じ悩みでも、原因が違えば、効く練習はまったく違います。
02原因1:知っている単語が「音で」分からない
中学で習う単語ばかりなのに聞き取れない。これは原因1の典型です。英語の話し言葉では、単語と単語がつながり、弱い部分はほとんど聞こえなくなります。
- What do you want to do?(何がしたいの?)→「ワダユ・ワナ・ドゥ」のように聞こえる
- Check it out.(見てみて)→「チェキラウ」のようにつながる
- I can go.(行けます)の can は弱く短く、I can't go.(行けません)の can't ははっきり発音される
文字で見れば一瞬で分かる文でも、音の形が頭の中の「単語の音」と一致しないと、単語として認識できません。
日本の大学生130人を調べた Lange & Matthews(2020)では、よく使う1,000語を「音で」認識する力と、音の流れを単語ごとに区切る力の2つを合わせると、TOEIC のリスニングの得点のばらつきの34%、英検準2級のリスニングでは38%を説明できました。どちらも基本中の基本の単語です。難しい単語を増やす前に、やさしい単語を音で一瞬で分かるようにすることが、聞く力の土台になります。
原因1があるかどうかは、「スクリプトを読めば100%分かるのに、聞くと分からない」かどうかで見分けられます。対策は、音そのものに注意を向ける練習です。ディクテーション、シャドーイング、音の変化(つながる・消える・変わる)のルールを知ることが効きます。
03原因2:単語と文法が足りない
スクリプトを読んでも意味が分からない部分があるなら、それは耳ではなく知識の問題です。読んで分からない英文は、聞いても分かりません。
では、どのくらい単語を知っていれば聞いて分かるのでしょうか。van Zeeland & Schmitt(2013)は、話の中の単語のうち知っている割合(カバー率)を操作して、聞き取りの理解度を調べています。学習者は95%を知っていれば比較的よく理解でき、人によるばらつきも小さくなりました。90%でも理解できる人は多かったものの、ばらつきが大きくなりました。この95%を基準にすると、日常的な話を聞くのに必要な語彙は2,000〜3,000語族と見積もられています。
文法も同じくらい大切です。英国の大学で学ぶ中国人学習者40人を調べた Wang(2023)では、音声で測った語彙と文法のテストの2つで、リスニングの得点のばらつきの約72%を説明できました。文法のほうが説明する割合は大きめでした。参加者40人の小さな研究なので、数字はそのまま一般化できませんが、「聞く力の多くは知識に支えられている」ことを示しています。
たとえば次の文。
- The man I talked to yesterday is my new boss.(昨日話した男の人が、新しい上司です)
「名詞のあとに主語と動詞が続いたら、前の名詞の説明かもしれない」という文法の感覚がないと、I talked to yesterday のところで迷子になります。音がすべて聞こえていても、組み立てが追いつかないのです。
原因2の対策は、単語帳・文法の学習と、読んで分かる英文を聞くことです。精読した英文の音声を聞き直すと、知識が音と結びつきます。
04原因3:分かるのに追いつかない
スクリプトを読めば分かる。ゆっくり再生すれば聞き取れる。それなのに、ふつうの速さだと置いていかれる。これが原因3です。
英語の音声は待ってくれません。1文を処理している間に、次の文が来ます。ひとつひとつの単語を「えーと、これは…」と考えていると、頭の中の作業スペースがすぐにいっぱいになってしまうのです。とくに、聞いた英語をいちいち日本語に訳していると、その分だけ遅れます。
この問題は「知っている」から「すぐ使える」への移り変わり、つまり自動化の問題です。知識はあるのに、処理に時間がかかっている状態です。
原因3を見分けるサインは次の3つです。
- 1文ずつなら分かるのに、長く続くと途中から分からなくなる
- 0.75倍速なら分かるのに、1倍速だと分からない
- 聞きながら、頭の中で日本語に訳している
対策は、やさしい英語をたくさん、ふつうの速さで聞く多聴と、同じ英文をくり返して処理を速くするシャドーイングや音読です。分かる英文を何度も処理するうちに、意識しなくても意味が浮かぶようになります。
ポイント:原因3の人に必要なのは、難しい英語ではなく「分かる英語をたくさん」です。
0510分でできる原因の見分け方
自分がどこで詰まっているかは、1本の音声とスクリプトで調べられます。30秒〜1分くらいで、スクリプトのある音声を選んでください(学習者向けのポッドキャストやニュースがおすすめです)。
- スクリプトを見ずに2回聞く。分かった割合を0〜10で書いておく。
- スクリプトを読む。意味の分からない単語や文に線を引く。
- スクリプトを見ながら1回聞く。「こう言っていたのか」と驚いた所に丸をつける。
- スクリプトを閉じて、0.75倍速で1回、1倍速で1回聞く。
結果を次の表で読みます。
| こうなったら | 主な原因 | 中心にする練習 |
|---|---|---|
| 2で線を引いた所が多い | 原因2:知識 | 単語・文法、精読した英文の音声を聞く |
| 2は分かるのに、3で丸が多い | 原因1:音 | ディクテーション、音の変化の学習、シャドーイング |
| 0.75倍速なら分かるが1倍速で崩れる | 原因3:処理速度 | 多聴、シャドーイング、音読 |
ほとんどの人は、3つの原因が混ざっています。そのときは、いちばん多い原因から手をつけます。線を引いた単語が1分の英文に10個もあるなら、まずは素材をやさしくするか、知識を増やすのが先です。
この見分け方は1か月に1回くり返すと、自分の変化も分かります。「前は丸が20個あったのに、今は8個」という記録は、続ける力にもなります。
06原因別の1日20分メニュー
原因が分かったら、練習を組み合わせます。1日20分の例です。
| 原因 | 1日20分の例 |
|---|---|
| 音(原因1) | ディクテーション10分 → 同じ英文のシャドーイング10分 |
| 知識(原因2) | 精読した英文の音声を聞く10分 → 単語・文法の復習10分 |
| 処理速度(原因3) | やさしい音声の多聴15分 → オーバーラッピング5分 |
もうひとつ、聞く前の「準備」と聞いたあとの「ふり返り」も大切です。カナダの大学で、フランス語を学ぶ106人を1学期間比べた Vandergrift & Tafaghodtari(2010)では、同じ音声を同じ回数聞くとき、「聞く前に内容を予想する」「聞きながら予想と照らし合わせる」「聞いたあと、どこで分からなくなったか確かめる」という流れを教えたクラスのほうが、最後の聞き取りテストで上回りました。しかも、もともと聞くのが苦手だった人ほど伸びが大きくなりました。
自分ひとりで練習するなら、次の3つを習慣にします。
- 聞く前:題名や最初の1文から「何の話か」を10秒で予想する
- 聞きながら:予想と違ったら修正する
- 聞いたあと:「どこで分からなくなったか」を1行メモする
この1行メモがたまると、あなたの「聞き取れない原因リスト」になります。
音・知識・速さのどこで詰まっているかを見分けてから練習を選ぶ
今日からのやり方
- スクリプトつきの30秒〜1分の音声を1本選ぶ
- スクリプトなしで2回聞き、分かった割合を0〜10で記録する
- スクリプトを読み、意味が分からない所に線、聞いて驚いた所に丸をつける
- 0.75倍速と1倍速で聞き比べ、表で自分の主な原因を決める
- 原因に合わせた20分メニューを1週間続け、同じ手順でもう一度調べる
レベル別:あなたならこうする
多くの場合、原因2(知識)と原因1(音)が重なっています。まず中学レベルの単語を音で覚え直し、教科書や学習者向けの音声を、スクリプトで意味を確かめてから聞きましょう。
スクリプトなら分かるのに聞けない、という原因1の人が増える段階です。ディクテーションで聞き逃しの型を見つけ、音の変化のルールを学び、シャドーイングで音を体に入れましょう。
残る課題は、長い話で処理が追いつかない原因3と、なじみのない話題での原因2です。速いナマ素材を大量に聞きつつ、苦手分野の語彙を補い、聞く前の予想とふり返りを習慣にしましょう。
よくある失敗と対策
知識が足りない状態で難しい音声を流しても、分からない時間が続くだけです。まずスクリプトで原因を確かめ、理解できる素材を選びましょう。
スクリプトを読んでも分からないなら、知識の問題です。耳を鍛える練習の前に、単語と文法を補うほうが早く伸びます。
訳す時間の分だけ処理が遅れます。やさしい英文を英語のまま理解する練習を増やし、訳さなくても分かる範囲を広げましょう。
1 MIN
30秒の音声を1本、スクリプトを見ずに聞いてから読み、驚いた所に丸をつける
友だちに出したい、この節の3問
タップで答え。「X で出題する」で、そのまま問題として出せます。
7-1英語の聞き取りの悩みは、どの段階に集中している?
Goh(2000)が40人の学習者の報告を分析すると、10種類の悩みのうち5つが「音をとらえる」段階のものでした。習熟度の低い人ほど、この段階に悩みが集まっていました。
7-1知っている英単語なのに、聞くと分からないのはなぜ?
単語を「文字で」知っていても、「音で」すぐ認識できるとは限りません。日本の大学生130人の研究では、基本1,000語を音で分かる力と、音の流れを単語に区切る力が、聞き取りの成績と強く関係していました。
7-1英語が聞き取れないのは「耳」の問題だけ?
違います。英国の大学で学ぶ中国人学習者40人の研究では、音声で測った語彙と文法の力だけで、リスニングの得点のばらつきの約7割を説明できました。知識が足りないと、音が聞こえても意味になりません。
PRACTICE KIT
この節の実践キット
このサイトで練習する
原田英語のサイトで練習する
使えるサイト・アプリ
動画で学ぶ
もっと詳しく(コラム)
この節の根拠(研究・公式情報)
40人の学習者の報告から10種類の悩みを整理。5つが音をとらえる段階、3つが文を組み立てる段階、2つが意味を使う段階に属し、習熟度の低い人ほど音の段階に悩みが集中していた。
Goh, C. C. M. (2000). A cognitive perspective on language learners' listening comprehension problems. System, 28(1), 55–75.出典を開く ↗日本の大学生130人で、基本1,000語を音で認識する力と音を単語に区切る力を合わせると、TOEICリスニングの得点のばらつきの34%、英検準2級リスニングの38%を説明した。
Lange, K., & Matthews, J. (2020). Exploring the relationships between L2 vocabulary knowledge, lexical segmentation, and L2 listening comprehension. Studies in Second Language Learning and Teaching, 10(4), 723–749.出典を開く ↗学習者は話の単語の95%を知っていれば比較的よく理解でき、ばらつきも小さかった。この基準では、聞いて分かるのに必要な語彙は2,000〜3,000語族と見積もられた。
van Zeeland, H., & Schmitt, N. (2013). Lexical coverage in L1 and L2 listening comprehension: The same or different from reading comprehension? Applied Linguistics, 34(4), 457–479.出典を開く ↗英国の大学で学ぶ中国人学習者40人で、音声の語彙テストと文法テストが合わせてリスニング得点のばらつきの約72%を説明。文法のほうが説明の割合が大きかった。小規模な研究。
Wang, Y. (2023). Explaining listening comprehension among L2 learners of English: The contribution of vocabulary and grammar knowledge. Porta Linguarum, 39, 63–74.出典を開く ↗フランス語学習者106人を1学期間比較。予想・照合・ふり返りの流れで聞く指導を受けたクラスが最後の聞き取りテストで上回り、聞くのが苦手だった人ほど伸びが大きかった。
Vandergrift, L., & Tafaghodtari, M. H. (2010). Teaching L2 learners how to listen does make a difference: An empirical study. Language Learning, 60(2), 470–497.出典を開く ↗よくある質問
リスニングは聞いた時間に比例して伸びますか?
理解できる音声なら、量は大きな力になります。ただ、意味の分からない音声を長く流しても、得られるものは多くありません。原因を確かめ、自分に合った難しさの素材を選ぶことが、時間を生かす前提です。
子どものころに英語を聞いていないと、もう耳は育ちませんか?
大人になってからでも、音の聞き分けや聞き取りの力は練習で伸びます。大人は文法や単語の知識を意識して使える強みもあります。原因を分けて練習すれば、年齢にかかわらず前に進めます。
見分け方の結果、3つとも当てはまりました。
多くの人がそうです。まずは、1分の英文で線を引いた単語の数を見てください。多いなら素材をやさしくし、少ないなら音の練習から始めます。いちばん多い原因から1つずつ減らしていきましょう。




