第4章|発音と音4-3音がつながる・消える・変わる聞き逃しているのは難しい単語より to・of・and。英語は小さい語ほど消える

音声を何度聞いても分からなかった1文。スクリプトを開くと、知らない単語は1つもありません。イギリスの研究者が中級の学習者を調べたところ、聞き取りの正確さがはっきり低かったのは、名詞や動詞ではなく、to や of、and のような小さな語のほうでした。この傾向は、母語や英語力がちがっても変わりませんでした。毎日のように目にしている語が、なぜ耳ではつかまらないのか。
この節の目次(6項目)
01知っている単語が聞き取れない本当の理由
英語の音声を聞いて、あとでスクリプトを見ると「なんだ、全部知っている単語だ」と思うことがあります。単語力の問題ではないのに聞き取れない。その原因の多くは、英語の音の変化にあります。
教科書の単語は、1語ずつ、はっきり発音された形で覚えます。ところが実際の英語では、単語は前後とつながって、形を変えながら発音されます。頭の中にある「辞書の音」と、耳に入る「文の中の音」がずれているので、知っているはずの単語が見つからないのです。
特に影響が大きいのが、to、of、and、the、can、have のような機能語です。機能語は文の骨組みを作る小さな語で、ふつうは弱く、短く、あいまいに発音されます。
イギリスの研究者が中級の学習者を調べた研究では、機能語の聞き取りの正確さが、名詞や動詞のような内容語よりはっきり低いことが分かりました。この傾向は、学習者の母語や英語力のちがいを越えて、安定して見られました。よく出てくる語なのに、短く目立たないために聞き逃される。英語の「小さな語」は、聞き取りの落とし穴です。
この節では、音の変化を4つに分けて見ていきます。
- つながる(連結)
- 消える(脱落)
- 変わる(同化など)
- 弱くなる(弱形)
02つながる:単語の境目がなくなる
英語では、前の単語が子音で終わり、次の単語が母音で始まると、2つがくっついて1つの音のかたまりになります。
- Get up.(起きて)→ /ɡe tʌp/「ゲタップ」のように
- an apple(りんご1個)→ /ə næpl/「アナポー」のように
- Turn it off.(それを消して)→ 3語がつながって1つのかたまりに
- Check it out.(見てみて)→ アメリカ英語では「チェキラウ」に近く聞こえる
カタカナはあくまで目安ですが、単語の境目が、つづりとはちがう場所に移っているのが分かります。an apple を聞いて「ナップル」という単語を探してしまうと、意味が取れません。
母音と母音がぶつかるときも、間に軽い音が入ってなめらかにつながります。
- go on → /ɡəʊ w ɒn/(間に軽い /w/)
- I am → /aɪ j æm/(間に軽い /j/)
イギリス英語では、ふだんは発音しない語末の r が、次が母音のときだけ現れることもあります。
- far away → /fɑːr əˈweɪ/(far の r が聞こえる)
ポイント:聞き取れないときは「単語の境目がずれていないか」を疑う。
03消える:言わなくても伝わる音は落ちる
英語では、発音しにくい場所や、なくても意味が伝わる音が、弱まったり消えたりします。
1. 子音にはさまれた t と d
- next week → /neks wiːk/(next の t が落ちる)
- last night → t がほとんど聞こえない
- I don't know. → don't の t が消えて、ひと続きに
2. 破裂させない子音
good job の最初の d は、舌を上の歯ぐきにつけたまま、はじかずに次の j に移ります。そのため「グッジョブ」の「ド」がほとんど聞こえません。日本語のように「グッド・ジョブ」と母音をつけて言うと、英語らしい流れから外れます。
3. 機能語の h
- tell him → /ˈtel ɪm/「テリム」のように
- ask her → /ˈɑːsk ə/
him、her、his、have のような機能語の h は、文の途中で弱く読むと落ちることがよくあります。文の頭や、強調するときは落ちません。
日本語の耳は、すべての音をはっきり聞こうとします。でも英語では、消えた音を前後から補って理解するのがふつうです。聞き取りの練習では、「消えた音がどこにあるか」をスクリプトで確かめると、耳が変化に慣れていきます。
04変わる:となりの音に引っぱられる
となり合う音がおたがいに影響して、別の音に変わることがあります。
1. t・d + you
- Nice to meet you. → meet you が /ˈmiːtʃuː/「ミーチュー」
- Did you see it? → did you が /ˈdɪdʒuː/「ディジュー」
- Would you ...? → /ˈwʊdʒuː/「ウジュー」
2. n が m に
- ten boys → [tem bɔɪz]
次の b、p、m の口の形(唇を閉じる)に合わせて、n が m のように発音されます。
3. 同じ・似た音がぶつかる
- this shop → [ðɪʃ ʃɒp](s が次の sh に引っぱられる)
- bad dog → d を2回言わず、少し長めの1回で
4. アメリカ英語の t(ラ行のような t)
アメリカ英語では、母音にはさまれた t が、日本語のラ行に近い、はじくような音になります。
- water:辞書でもアメリカ式は /ˈwɑːt̬ɚ/ と、t の下に「有声」の印がついている
- a lot of → 「アラロヴ」のように
- get it → 「ゲリッ」のように
一方、イギリス英語では、t が喉で止めるような音(声門閉鎖音)になる地域もあります。同じ英語でも、変わり方は地域や話し方で異なります。
05弱くなる:機能語の「弱形」を知る
機能語の多くは、「強形」(はっきり読む形)と「弱形」(弱く短く読む形)を持っています。ふだんの会話では、ほとんど弱形が使われます。
| 単語 | 強形 | 弱形 | 例文 |
|---|---|---|---|
| to | /tuː/ | /tə/ | I want to go.(行きたい) |
| for | /fɔː/ | /fə/ | This is for you.(あなたにです) |
| of | /ɒv/ | /əv/ /ə/ | a cup of tea(紅茶1杯) |
| and | /ænd/ | /ən/ /n/ | bread and butter(バターつきパン) |
| can | /kæn/ | /kən/ | I can swim.(泳げます) |
| have | /hæv/ | /əv/ | I could have helped.(手伝えたのに) |
| them | /ðem/ | /ðəm/ | Tell them.(彼らに言って) |
弱形の母音は、ほとんどがあいまい母音 /ə/ です。a cup of tea は /ə ˈkʌp əv ˈtiː/ で、「ア・カップ・オブ・ティー」ではなく「アカパティー」のように聞こえます。
強形が使われるのは、主に次の場面です。
- 文の最後:What are you looking at?(何を見ているの?)の at は強形
- 強調や対比:It's not from him, it's for him.(彼からじゃなく、彼へ)
- 単独で言うとき:「to」という単語を1語だけ読むとき
can と can't の聞き分けは、弱形を知っていると楽になります。I can swim. の can は弱い /kən/、I can't swim. の can't は強くはっきり読まれます。語末の t は聞こえないことも多いので、「can が強く聞こえたら否定かも」と考えるのが実用的です。
なお、gonna(going to)や wanna(want to)は、くだけた会話でよく聞く形です。聞き取れるようにはしておきたいですが、書くときや改まった場では使わないのが無難です。
06音の変化に耳を慣らす4ステップ
音の変化は、知識として知るだけでは聞き取れるようになりません。耳を慣らす練習が必要です。中国の英語学習者を対象にした教室研究では、縮約形などの音の変化を、1回約10分、30回にわたって教えたグループで、聞き取りテストに効果が見られました。知識と練習をセットにすると、効果が期待できます。
ステップ1:短いディクテーション(5分)
5〜10語の文を聞いて書き取ります。聞き取れなかった部分に印をつけ、スクリプトで答え合わせ。抜けたのが機能語か、つながった部分か、消えた音かを分類します。
ステップ2:スクリプトに記号を書きこむ(5分)
つながる所に「‿」、消える音に「/」、弱く読む語に下線。目で変化を確かめてから、もう一度聞きます。
ステップ3:まねして言う(5分)
記号を見ながら、お手本に合わせて言います。自分で言える変化は、聞き取りやすくなります。最初はゆっくりでかまいません。
ステップ4:スクリプトなしで聞き直す(2分)
最後にスクリプトを見ずに聞きます。最初より聞こえる部分が増えていれば成功です。
1日15分ほどで1セット。同じ素材を3日くり返すと、変化のパターンが耳に残りやすくなります。
英語は単語を1つずつ言わない。つながり・消え・変わり・弱まる
今日からのやり方
- 5〜10語の短い英文を聞いて、ディクテーションで書き取る
- 聞き取れなかった部分をスクリプトで確かめ、機能語・連結・脱落に分類する
- スクリプトにつながり・消える音・弱く読む語の記号を書きこむ
- 記号を見ながら、お手本に合わせて声に出してまねする
- 最後にスクリプトなしで聞き直し、聞こえる部分が増えたか確かめる
レベル別:あなたならこうする
まずは an apple、Get up. のような「子音+母音のつながり」から。教科書の音声を聞き、つながっている所に記号をつけて、まねして言う練習をしましょう。短い文で十分です。
to・of・and・can などの弱形を表で確かめ、ディクテーションで機能語の聞き逃しを減らしましょう。聞き取れなかった部分を分類すると、自分の弱点が見えてきます。
ナマの会話やドラマで、アメリカ式のラ行のような t、イギリス式の喉で止める t など、地域による変化に慣れましょう。速い音声を部分的にくり返し聞く練習が効きます。
よくある失敗と対策
英語は単語がつながって発音されるので、1語ずつ区切って聞こうとすると間に合いません。意味のかたまりで聞き、消えた音は前後から補う意識を持ちましょう。
音の変化の規則を知っていても、耳が慣れていないと聞き取れません。ディクテーションとまねる練習で、規則を実際の音と結びつけましょう。
gonna や wanna は会話でよく聞きますが、書く英語や改まった場面では使いません。聞き取れるようにしつつ、話すときは場面に合わせて選びましょう。
1 MIN
a cup of tea と I can swim. を辞書や動画の音声で聞き、弱い音をまねして言う
友だちに出したい、この節の3問
タップで答え。「X で出題する」で、そのまま問題として出せます。
4-3英語の学習者が聞き逃しやすいのは内容語?機能語?
中級の学習者を調べた研究では、前置詞や冠詞などの機能語の聞き取りが、名詞や動詞などの内容語よりはっきり劣っていました。母語や英語力のちがいを越えて、同じ傾向が見られました。
4-3can と can't、何で聞き分ける?
最後の t より、強さと母音が手がかりです。I can swim. の can は弱く /kən/、I can't swim. の can't は強くはっきり読まれます。t は聞こえないことも多いので、can が強く聞こえたら否定を疑います。
4-3英語の音の変化を「教わる」と聞き取りは伸びる?
中国の英語学習者を対象にした教室研究では、gonna のような縮約形を1回約10分・30回教えたグループで、聞き取りテストの成績に効果が見られました。ただし、測り方によって効果の出方には差がありました。
PRACTICE KIT
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もっと詳しく(コラム)
この節の根拠(研究・公式情報)
中級の第二言語の聞き手は、機能語の聞き取りが内容語よりはっきり劣っていた。母語や英語力のちがいを越えて安定した結果だった。
Field, J. (2008). Bricks or mortar: Which parts of the input does a second language listener rely on? TESOL Quarterly, 42(3), 411–432.出典を開く ↗中国の英語学習者で、縮約形を1回約10分・30回教えた群(16人)は、対照群(16人)より聞き取りに効果が見られた。ただし3つの測定で効果の程度には差があった。
Brown, J. D., & Hilferty, A. (1986). The effectiveness of teaching reduced forms for listening comprehension. RELC Journal, 17(2), 59–70.出典を開く ↗よくある質問
音の変化は全部覚えないといけませんか?
全部を暗記する必要はありません。つながる・消える・変わる・弱くなるの4つの考え方を知り、よく出る機能語の弱形を押さえれば十分です。あとはディクテーションで出会った変化を1つずつ増やしていきましょう。
自分も音をつなげて話すべきですか?
話すときは、無理に崩さなくても通じます。ただ、子音+母音のつながりや機能語の弱形は、自然に使えるとリズムが整い、聞く側も楽になります。まずは聞き取りのために知り、言える範囲で取り入れましょう。
アメリカ英語とイギリス英語で変化はちがいますか?
共通する変化が多いですが、t の発音のように地域でちがうものもあります。アメリカ英語では母音にはさまれた t がラ行に近くなり、イギリス英語では喉で止める音になる地域もあります。両方に慣れておくと安心です。



