第7章|リスニング7-2シャドーイングの効果とやり方シャドーイングは同じ英文5回で頭打ち。研究で分かった正しい回し方

大学生48人が、同じ英文でシャドーイングを6回くり返しました。正しく言えた割合を回ごとに追っていくと、ある回数を境に、ほとんど伸びなくなっていました。別の研究では、9回の授業でシャドーイングを練習した大学生43人のうち、リスニング問題の得点が伸びたのは一部のグループだけでした。苦しいのをがまんして同じ英文を追いかけている人には、気になる結果です。シャドーイングは、だれに、何回まで効くのでしょうか。
01シャドーイングとは「声の影」になること
シャドーイングは、聞こえてくる英語を、少し遅れて影(shadow)のように追いかけながら声に出す練習です。もとは同時通訳者の訓練法でした。日本の英語教育には1990年代に紹介され、門田修平・玉井健『決定版 英語シャドーイング』(コスモピア, 2004)をきっかけに広く知られるようになりました。
似た練習にリピーティングがあります。違いを例で見てみましょう。
- シャドーイング:音声が I usually walk to school with my sister. と流れている間に、0.5〜1秒遅れで同じ文を言い続ける
- リピーティング:音声が I usually walk to school with my sister. と言い終わって止まってから、同じ文を言う
Hamada(2021)は、この違いを「頭の使い方」で説明しています。リピーティングには音声が止まる間があるので、意味を考えたり、文を組み立て直したりもできるわけです。シャドーイングでは次々に音が来るため、その余裕がなく、注意のほとんどが入ってくる音に向かいます。だからこそ、音をとらえる力を集中的に鍛えられるのです。
門田修平は著書『Shadowing as a Practice in Second Language Acquisition』(Routledge, 2019)で、シャドーイングには、音を取り込む「インプット」、くり返しの「練習」、声に出す「アウトプット」、自分の声を聞いて調整する「モニタリング」という4つの働きがあると論じています。これは研究の積み重ねにもとづく理論的な整理です。4つすべての効果が実験で同じように確かめられているわけではない点は、押さえておきましょう。
02研究で分かっている効果
シャドーイングの効果について、もっとも確かなのは音をとらえる力(音声知覚)が伸びることです。Hamada(2021)は、日本での研究をまとめて、シャドーイングは音を単語として認識するボトムアップの力を鍛え、その結果、意味を考えるための余裕が生まれると説明しています。
その中身を確かめたのが Hamada(2016)です。国立大学の学生43人が、教科書を使った9回の授業でシャドーイングを練習しました。前後に、日本の標準的なリスニング問題22問と、20問の穴埋めディクテーションを受けています。
- 穴埋めディクテーションで測った音の聞き取りは、習熟度が中くらいのグループも低いグループも伸びた
- 高校レベルのリスニング問題の得点が伸びたのは、習熟度の低いグループだけだった
つまり、シャドーイングは誰の耳も鍛えますが、それが問題を解く力にまでつながりやすいのは、音の段階でつまずいている人です。すでに音がとらえられる人にとっては、別の練習(語彙、多聴、内容理解)のほうが伸びにつながりやすいと考えられます。
もうひとつ、練習の回数について大事な研究があります。Shiki ほか(2010)では、大学生48人が同じ英文でシャドーイングとリピーティングを6回ずつ行いました。正しく言えた割合は、4〜5回でほぼ頭打ちになりました。また、シャドーイングでは内容語(名詞・動詞など意味の中心になる語)が正しく再現されやすい、という違いも報告されています。
ポイント:シャドーイングの主な効果は「音をとらえる力」。点数に結びつきやすいのは、音の段階でつまずいている人。
03正直に言うと、ここが限界
シャドーイングは万能ではありません。研究から分かる限界も知っておきましょう。
1. 研究の規模がまだ小さい。 多くは数十人の教室での研究です。複数の研究をまとめて効果の大きさを数値化したメタ分析は、2026年10月時点で確認できた範囲では見当たりません。Hamada(2021)自身も、研究の数はまだ十分ではないと述べています。
2. 「話す力」の練習と誤解されやすい。 Hamada(2021)は、シャドーイングが楽観的にスピーキングの練習だと受け取られることがあると注意しています。リスニングのためのシャドーイングで鍛えられるのは、主に音をとらえる力です。発音を良くしたいなら、目的を変えた別のやり方が必要です(次の節で扱います)。
3. 意味の理解や単語は増えにくい。 音に注意が集中するぶん、意味を考える余裕は少なくなります。知らない単語の意味は、シャドーイングをしても分かりません。
4. 心理的にきつい。 同じことのくり返しで、うまく言えない自分の声を聞き続けるので、いやになりやすい練習です。Hamada(2021)も、完璧に言えることを求めず、目的を確かめながら続けるよう勧めています。
5. 難しすぎる素材では効かない。 内容が分からない英文では、音に集中できません。
この限界をふまえると、シャドーイングは「音の段階のつまずきを直す、効き目のはっきりした道具」と位置づけるのがよいでしょう。リスニングの練習のすべてをシャドーイングにする必要はありません。
04素材の選び方:やさしく、短く
素材選びで、効果の半分が決まります。Hamada(2021)は、内容をすでに学んだ英文か、比較的やさしい英文を使うよう勧めています。難しい英文や初めて見る英文では、音の特徴に集中できないからです。
選ぶときの目安は次のとおりです。
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 難しさ | スクリプトを読めば、ほぼすべて分かる |
| 長さ | 30秒〜1分(100語前後) |
| 話し方 | 1人か2人で、はっきり話している |
| スクリプト | 必ずある |
| 内容 | 興味があり、何度聞いてもいやにならない |
教科書の本文、検定試験の過去問の会話、学習者向けのポッドキャストや短いニュースが使いやすい素材です。
少し発展的な工夫もあります。Hamada(2012)は大学生59人を2つに分け、片方は同じくらいの難しさの素材だけで、もう片方は「やさしめ」と「少し難しめ」を交互に使って、8回シャドーイングを練習しました。交互に使ったグループのほうが、TOEIC形式の聞き取り問題で伸びが大きくなりました。1つの小さな研究ですが、「やさしい素材で成功を感じ、ときどき少し背伸びする」という組み方は試す価値があります。
055段階のやり方(1回15分)
門田・玉井(2004)の段階分けと、Hamada(2021)が示した授業の手順をもとに、1人でできる形にまとめました。1つの素材で約15分です。
| 段階 | やること | 回数 | スクリプト |
|---|---|---|---|
| 0 準備 | 聞いて内容をつかみ、スクリプトで意味を確認 | 聞く2回+確認2分 | 確認で使う |
| 1 マンブリング | 小さな声でぶつぶつ追いかける | 1〜2回 | 見ない |
| 2 パラレル・リーディング | スクリプトを見ながら音声と同時に読む | 1〜2回 | 見る |
| 3 プロソディ・シャドーイング | 音・リズム・抑揚をまねて追いかける | 2回 | 見ない |
| 4 コンテンツ・シャドーイング | 意味を思い浮かべながら追いかける | 1回 | 見ない |
段階3のあとに1〜2分、スクリプトを見て「言えなかった所」を確かめます。最後に段階4を録音して聞き返すと、どこで崩れたかがはっきりします。
シャドーイングとして声に出すのは、段階1〜4を合わせて5回前後です。Shiki ほか(2010)で4〜5回で頭打ちになったことを考えると、それ以上同じ日に重ねる必要はありません。
いくつかの注意点です。
- 自分の声で音声が聞こえなくならないよう、イヤホンを使い、声は小さめにする
- 全部言えなくてかまわない。言えない所は「聞こえていない所」の印
- 遅れは0.5〜1秒くらい。離れすぎると記憶の練習になってしまう
061週間のメニューと続けるコツ
1日15分、週5日の例です。
| 曜日 | メニュー |
|---|---|
| 月 | 新しい素材Aで5段階(15分) |
| 火 | 素材Aの段階3〜4を2回ずつ、録音して聞き比べ(10分)+ 素材Aを聞くだけ(5分) |
| 水 | 新しい素材B(少し難しめ)で5段階 |
| 木 | 素材Bの段階3〜4、録音 |
| 金 | 素材Aと素材Bを、スクリプトなしで聞くだけ。月曜より分かるかを確かめる |
続けるコツは3つです。
- 録音を残す。1週目と4週目の録音を聞き比べると、変化が耳で分かります。
- 目的を毎回思い出す。「今日は、聞こえなかった音を見つける日」と決めておくと、言えないことが失敗ではなくなります。
- ほかの練習と組み合わせる。シャドーイングだけでは単語も内容理解も増えません。多聴や精読と組み合わせてください。
ポイント:シャドーイングは「1日の主役」ではなく、「音のつまずきを直す15分」として使うと長続きします。
音をとらえる力を鍛える練習。やさしい英文で、1素材5回まで
今日からのやり方
- スクリプトを読めばほぼ分かる、30秒〜1分の音声を選ぶ
- 2回聞いて内容をつかみ、スクリプトで意味を確かめる
- マンブリング→パラレル・リーディング→プロソディ・シャドーイングの順に進める
- 言えなかった所をスクリプトで確認し、意味を思い浮かべながら1回シャドーイングする
- 最後の1回を録音して聞き返し、聞こえていなかった音をメモする
レベル別:あなたならこうする
研究上、いちばん伸びやすい段階です。中学の教科書の本文など、内容を知っている短い英文を使い、マンブリングとパラレル・リーディングを中心に。全部言えなくても気にしないでください。
検定試験の会話や学習者向けポッドキャストを素材に、5段階をひととおり。やさしめの素材と少し難しめの素材を交互に使うと、成功と背伸びの両方を味わえます。
音がすでに取れているなら、点数への効果は小さくなりがちです。速いナマ素材や苦手ななまりで弱点を探すか、発音を目的にしたシャドーイングに切り替えましょう。
よくある失敗と対策
内容が分からない英文では、音に集中できません。スクリプトを読めばほぼ分かる素材に下げてください。慣れたら少し難しめの素材を時々混ぜます。
研究では4〜5回で頭打ちになりました。回数を増やすより、言えなかった所をスクリプトで確かめ、翌日に短く復習するほうが効率的です。
文字を見ると注意が文字に向き、音に集中できません。スクリプトは準備と確認に使い、本番の段階3〜4は見ないで行いましょう。
全部言えないのが普通です。言えない所は「聞こえていない所」の印と考え、録音を残して週ごとの変化を確かめると続けやすくなります。
1 MIN
30秒の英文を1本選び、イヤホンで小声のマンブリングを1回やる
友だちに出したい、この節の3問
タップで答え。「X で出題する」で、そのまま問題として出せます。
7-2シャドーイングで聞き取りの点数が伸びたのは誰?
Hamada(2016)で大学生43人が9回の授業で練習すると、音の聞き取りは、習熟度が中くらいの人も低い人も伸びました。一方、高校レベルの聞き取り問題の得点が伸びたのは、習熟度の低いグループだけでした。
7-2同じ英文は何回シャドーイングすればいい?
大学生48人が同じ英文を6回ずつ練習した研究(Shiki ほか, 2010)では、4〜5回でほぼ頭打ちになりました。何十回もくり返すより、確認をはさみ、次の素材へ進むほうが効率的です。
7-2リピーティングとシャドーイングは同じ練習?
違います。リピーティングは音声が止まってから言うので、意味を考える余裕があります。シャドーイングは聞きながらすぐ追いかけるので、注意のほとんどが「音」に向きます。鍛える力が違うのです。
PRACTICE KIT
この節の実践キット
このサイトで練習する
原田英語のサイトで練習する
使えるサイト・アプリ
動画で学ぶ
もっと詳しく(コラム)
この節の根拠(研究・公式情報)
大学生43人が9回の授業で練習。音の聞き取り(穴埋めディクテーション)は中位・下位の両グループで伸びたが、高校レベルの聞き取り問題の得点が伸びたのは下位グループだけだった。
Hamada, Y. (2016). Shadowing: Who benefits and how? Uncovering a booming EFL teaching technique for listening comprehension. Language Teaching Research, 20(1), 35–52.出典を開く ↗大学生48人が同じ英文でシャドーイングとリピーティングを6回ずつ。正しく言えた割合は4〜5回でほぼ頭打ちになり、シャドーイングでは内容語が正しく再現されやすかった。
Shiki, O., Mori, Y., Kadota, S., & Yoshida, S. (2010). Exploring differences between shadowing and repeating practices: An analysis of reproduction rate and types of reproduced words. ARELE, 21, 81–90.出典を開く ↗研究をまとめ、シャドーイングは主に音をとらえるボトムアップの力を伸ばすと整理。やさしい素材、スクリプトなしの練習、同じ素材は5回前後を勧め、研究の数がまだ十分でないことも指摘。
Hamada, Y. (2021). Shadowing procedures in teaching and their future. The Language Teacher, 45(6), 32–36.出典を開く ↗大学生59人で、やさしめと少し難しめの素材を交互に使ったグループは、同じ難しさの素材だけのグループより、8回の練習後の聞き取りテストの伸びが大きかった。小規模な研究。
Hamada, Y. (2012). An effective way to improve listening skills through shadowing. The Language Teacher, 36(1), 3–10.出典を開く ↗シャドーイングの働きを、インプット・練習・アウトプット・モニタリングの4つの効果として理論的に整理した研究書。
Kadota, S. (2019). Shadowing as a practice in second language acquisition: Connecting inputs and outputs. Routledge.出典を開く ↗よくある質問
シャドーイングで話せるようになりますか?
リスニングのためのシャドーイングで主に伸びるのは、音をとらえる力です。発音の改善を報告した研究もありますが、目的と手順が違います。話す力は、自分の考えを英語にする練習と組み合わせて伸ばしましょう。
1日何分やればいいですか?
1つの素材で15分が目安です。同じ素材を声に出すのは5回前後で十分です。それ以上時間があるなら、別の素材に進むか、多聴や単語の学習に回すほうが伸びにつながります。
声を出せない場所ではどうすればいいですか?
口の中で小さくつぶやくマンブリングや、声を出さずに頭の中で追いかける方法があります。ただ、声に出すほうが自分の聞き取れていない所に気づきやすいので、家では声に出す練習も入れましょう。



