第7章|リスニング7-4ディクテーションで弱点が見えるディクテーションの価値は点数でなく「聞き逃しの原因リスト」にある

音声は I'm gonna have to call you back later. なのに、書き取ったノートには I'm gonna have call you back later. とある。抜けたのは to の1語だけです。けれども、この小さな抜けには、耳がどこでつまずいているかの手がかりが詰まっています。「だいたい分かった」で終わるふつうのリスニングでは、まず見えてこない手がかりです。では、その手がかりは、どう読み取ればよいのでしょうか。
01書き取ると、聞き逃しが「見える」
ふつうにリスニングをしていると、「だいたい分かった」で終わりがちです。どの単語を聞き逃したのか、自分でも気づきません。ディクテーションは、その「だいたい」を文字にして、はっきりさせる練習です。
たとえば、音声がこう言ったとします。
- I'm gonna have to call you back later.(あとでかけ直さないといけません)
書き取った文がこうだったら、
- I'm gonna have call you back later.
抜けたのは to です。have to の to は弱く短く、ほとんど「タ」のように聞こえます。have も「ハフ」に近い音になって、2語がひとかたまりに聞こえます。この1か所から、「機能語の弱い音」と「音のつながり」が自分の弱点だと分かるわけです。
リスニング研究者の Field(2003)は、学習者の聞き取りの失敗を、音声学の知識を使って分類し、診断し、そこから練習を組み立てることを提案しています。単語の区切りをどこで間違えたのか、音のどんな変化に引っかかったのかを見れば、次にやるべき練習が具体的になります。
ディクテーションは、この「分類と診断」を自分ひとりでできる、いちばん手軽な方法です。
ポイント:ディクテーションの目的は満点をとることではなく、自分の聞き逃しのパターンを見つけること。
02研究で分かっていること
ディクテーションの効果を確かめた研究は、シャドーイングに比べると多くありません。そのなかで分かりやすいのが Kiany & Shiramiry(2002)です。
テヘランの語学学校で学ぶ初級の成人学習者(20〜35歳)を、30人ずつ2クラスに分けています。どちらも1学期20回の授業で教科書の聞き取り練習をし、片方のクラスだけ、そのうち11回ディクテーションを加えました。学期の前後に同じ聞き取りテストを受けると、ディクテーションをしたクラスの伸びのほうが大きくなりました。
初級の学習者に対して、くり返しのディクテーションがリスニングを伸ばす助けになった、という結果です。ただし、1つの学校の、男性60人での研究です。どんなレベル・年齢にも同じように効くとまでは言えません。
日本では、ディクテーションをシャドーイングと組み合わせる使い方も研究されてきました。Hamada(2012)が示した授業の手順では、
- 最初に穴埋めディクテーション
- マンブリング、パラレル・リーディング、シャドーイングなどの練習
- 最後にもう一度、同じ穴埋めディクテーション
- 最初と最後の答えを見比べる
という流れで、学習者が「練習で聞こえるようになった」ことを自分で確かめられるようにしていました。ディクテーションを診断と成果の確認に使う、という発想です。
031回20分の手順
素材は、30秒〜1分で、スクリプトのある音声です。原因を調べたいので、スクリプトを読めばほぼ分かる難しさにします。読んでも分からない英文は、書き取れなくて当然だからです。
| 段階 | やること | 時間 |
|---|---|---|
| 1 | 全体を1回聞き、何の話かをつかむ | 1分 |
| 2 | 1文ずつ止めて書き取る。1文は最大5回まで聞く | 10分 |
| 3 | スクリプトと照らし合わせ、違う所を赤で直す | 3分 |
| 4 | 直した所を、下の6分類で記号をつける | 3分 |
| 5 | 赤を入れた文を、音声に合わせて3回声に出す | 3分 |
段階2のルールは次のとおりです。
- 聞こえた音のとおりに書く。分からない所は、カタカナや空欄(_)のままでよい
- 5回聞いても分からない所は、それ以上聞かずに次の文へ
- 文法や意味から推測して補ってもよい。ただし推測した所には下線を引く
段階5を必ず入れてください。書いて終わりにすると、「聞き逃しの記録」は残っても、音は身につきません。直した文を音声と重ねて声に出すと、聞こえなかった音が、次からは聞こえる音に変わっていきます。
時間がない日は、段階2を3文だけにしても十分です。大切なのは、毎回の分類の記録がたまっていくことです。
04聞き取れなかった原因の6分類
赤で直した所に、次の記号をつけます。迷ったら、いちばん近いものでかまいません。
| 記号 | 原因 | 例 | 対策 |
|---|---|---|---|
| A | 音のつながり・脱落・変化 | want to → wanna、 get it → ゲリッ | 音の変化のルールを学び、オーバーラッピング |
| B | 機能語の弱い音 | to、of、and、the、can が抜ける | 弱い形の音を知り、シャドーイング |
| C | 知らない単語・表現 | 初めて見る語 | 単語帳に入れて覚える |
| D | 知っているのに音を知らない | カタカナの発音と違う語 | 辞書の音声で確認し、まねる |
| E | 文法から予測できない | 三人称の s、複数形、過去の ed | 文法を復習し、語尾に注意して聞く |
| F | 集中・記憶が続かない | 文の後半が書けない | 短く区切る、やさしい素材の多聴 |
1か月ほど続けて記号を数えると、自分の弱点の地図ができます。
- A と B が多い人は、原因が「音」にあります。音の変化のルールを知るだけで、聞こえ方が変わることがあります。
- C が多い人は、素材が難しすぎるか、語彙が足りません。素材をやさしくするか、単語の学習を増やします。
- D が多い人は、文字でだけ単語を覚えてきた人です。単語を覚えるとき、必ず音声も聞く習慣をつけましょう。
- E は、文法を「聞くときに使う」練習が足りないサインです。
- F は、処理の速さの問題です。やさしい英文をたくさん聞いて、処理を速くしていきます。
ポイント:記号の数を数えると、「なんとなく苦手」が「B が多いから弱い音の練習」に変わります。
05穴埋め型とディクトグロス
全文を書き取るのが重すぎるときは、形を変えて続けられます。
穴埋めディクテーション:スクリプトの一部を空欄にして、そこだけ書き取ります。自分で作るなら、スクリプトをコピーして、機能語や語尾を中心に10〜15か所を消します。全文より短い時間で、弱点の音だけを集中的に練習できるのが利点です。学校のテストや検定試験の準備にも向いています。
部分ディクテーション:1分の音声のうち、とくに聞き取りにくい2〜3文だけを書き取ります。毎日続けるなら、この形がいちばん現実的です。
ディクトグロス:ふつうの速さの短い文章(数文)を2回聞き、キーワードだけメモします。そのメモをもとに、元の文章にできるだけ近い文を自分で組み立てるのです。最後に元の文と比べます。書き取りというより「聞いて再現する」練習で、文法や語順の力も必要になる点が特徴です。友だちや家族と一緒にやると、比べ合いもできます。
どの形でも、最後の「スクリプトと照らし合わせ、声に出す」は省かないでください。
06続け方と、ディクテーションの限界
ディクテーションには弱点もあります。
1つ目は、時間がかかることです。1分の音声に20分かかるので、聞く量は増えません。聞く量を増やすのは、多聴の役目です。
2つ目は、意味より形に注意が向くことです。1語1語を書き取ろうとすると、話全体の意味を追う練習にはなりにくくなります。
3つ目は、研究がまだ多くないことです。効果を示した研究はありますが、人数や場面が限られています。
そこで、ディクテーションは「毎日の主役」ではなく、「定期的な健康診断」として使うのがおすすめです。
| 頻度 | 使い方 |
|---|---|
| 週2〜3回 | 部分ディクテーション(2〜3文、10分)で弱点を記録 |
| 月1回 | 1分の全文ディクテーション(20分)で、記号の数の変化を確かめる |
| 毎日 | 残りの時間は、多聴とシャドーイングに使う |
ディクテーション専用のサイトやアプリを使うと、1文ずつの再生や答え合わせが楽になります。ただ、答え合わせが自動でも、分類と声に出す段階は自分の手で行いましょう。
書き取りの「間違い」を分類すると、次にやる練習が決まる
今日からのやり方
- スクリプトを読めばほぼ分かる、30秒〜1分の音声を選ぶ
- 1文ずつ止めて書き取る。1文は最大5回まで、分からない所は空欄のまま
- スクリプトと照らし合わせて赤で直し、A〜Fの記号をつける
- 赤を入れた文を、音声に合わせて3回声に出す
- 記号の数を記録し、いちばん多い原因に合わせて次の練習を選ぶ
レベル別:あなたならこうする
1文が短い教科書の本文や会話で、穴埋め型から始めましょう。空欄は5〜10か所で十分です。書けなかった語は、音声に合わせて声に出し、音と文字を結びつけます。
検定試験の会話や学習者向けニュースで、部分ディクテーションを週2〜3回。A と B の記号が多いはずなので、音の変化のルールとシャドーイングを組み合わせましょう。
速いナマ素材や、なじみのないなまりで、全文ディクテーションを月1回。書けない所は専門用語や固有名詞かもしれません。分類して、語彙と音のどちらが原因かを見分けます。
よくある失敗と対策
知らない単語ばかりでは、原因は全部「知識不足」になり、音の弱点が見えません。スクリプトを読めばほぼ分かる素材に下げましょう。
5回で分からない所は、それ以上聞いても伸びにくく、時間だけが過ぎます。空欄のまま進み、答え合わせで原因を確かめるほうが学べます。
直した文を音声に合わせて声に出す段階で、聞こえなかった音が身につきます。書いて終わりにせず、最後の3回の音読まで行いましょう。
1 MIN
好きな英語の音声から1文だけ書き取り、スクリプトで答え合わせする
友だちに出したい、この節の3問
タップで答え。「X で出題する」で、そのまま問題として出せます。
7-4ディクテーション(書き取り)で、英語を聞く力も伸びる?
イランの初級の成人学習者を2クラス30人ずつ比べた研究(Kiany & Shiramiry, 2002)では、20回の授業のうち11回ディクテーションを加えたクラスのほうが、聞き取りテストの伸びが大きくなりました。
7-4ディクテーションで書けなかった所は「知らない単語」が多い?
意外と、知っている単語のほうが多いものです。to、of、and のような弱く短い語、つながって形が変わった音など、文字なら分かる語が音では抜け落ちます。だから、間違いを分類する価値があります。
7-4ディクテーションは練習前と後、どちらにやる?
両方に使えます。Hamada(2012)の授業手順では、シャドーイングの前と後に同じ穴埋めディクテーションを行い、練習でどれだけ聞こえるようになったかを学習者自身が確かめられるようにしていました。
PRACTICE KIT
この節の実践キット
このサイトで練習する
原田英語のサイトで練習する
使えるサイト・アプリ
動画で学ぶ
もっと詳しく(コラム)
この節の根拠(研究・公式情報)
初級の成人学習者30人ずつの2クラスを比較。20回の授業のうち11回ディクテーションを加えたクラスは、教科書の練習だけのクラスより聞き取りテストの伸びが大きかった。
Kiany, G. R., & Shiramiry, E. (2002). The effect of frequent dictation on the listening comprehension ability of elementary EFL learners. TESL Canada Journal, 20(1), 57–63.出典を開く ↗聞き取りの失敗、とくに単語の区切りの失敗を、音声学の知識で分類・診断し、それに合った短い練習で予防・修正することを提案した論文。
Field, J. (2003). Promoting perception: Lexical segmentation in L2 listening. ELT Journal, 57(4), 325–334.出典を開く ↗シャドーイングの授業の最初と最後に同じ穴埋めディクテーションを置き、学習者が自分の伸びを確かめられる手順を用いた。研究のまとめでは、シャドーイングとディクテーションの組み合わせの研究も紹介。
Hamada, Y. (2012). An effective way to improve listening skills through shadowing. The Language Teacher, 36(1), 3–10.出典を開く ↗よくある質問
書き取りは手書きとタイピング、どちらがいい?
どちらでもかまいません。手書きは記号や線を書きこみやすく、タイピングは速く進められます。大切なのは、間違いを分類して記録することと、最後に声に出すことです。
スペルを間違えたら、聞き取りの間違いに数える?
音は聞こえていてつづりだけ違うなら、聞き取りの失敗とは分けて考えましょう。ただ、試験で書く必要がある語なら、つづりも別に覚えておくと安心です。
ディクテーションとシャドーイング、どちらを先に?
原因を知りたいならディクテーションが先です。書き取りで見つけた聞き逃しを、シャドーイングで音として身につける順番にすると、2つの練習の役割がはっきりします。




