第4章|発音と音4-1カタカナ英語から抜け出す「ストライク」は5拍、strikeは1音節。カタカナ英語の正体は“母音の足し算”

ebzo から ebuzo まで、b と z のあいだの母音を少しずつ長くした音を、日本語話者とフランス語話者に聞かせる実験がありました。答えてもらうのは、u が聞こえたかどうか。すると日本語話者は、母音がまったくない音でも「u が聞こえた」と答えることが多かったのです。フランス語話者には、それが起きませんでした。存在しない母音は、いったいどこから来たのか。
この節の目次(6項目)
01日本語の耳は「5つの母音」で聞いている
日本語の母音は「あ・い・う・え・お」の5つです。音声学の記述でも、東京方言の母音は /a i u e o/ の5つとされます。
英語はどうでしょう。イギリス英語の代表的な数え方では、母音が20、子音が24、合わせて44の音を区別します。アメリカ英語も数え方は少しちがいますが、日本語よりずっと多いことは変わりません。
母音が多いということは、日本語では「同じ音」として聞いている範囲の中に、英語では別々の音がいくつも入っているということです。
| 英語 | 発音記号(イギリス式) | カタカナにすると |
|---|---|---|
| hat(帽子) | /hæt/ | ハット |
| hut(小屋) | /hʌt/ | ハット |
| hot(熱い) | /hɒt/ | ホット |
| heart(心) | /hɑːt/ | ハート |
hat と hut は、カタカナでは同じ「ハット」です。でも英語では、口の開き方も舌の位置もちがう、別の母音です。日本語の「ア」1つで受け止めていると、この2つは同じに聞こえてしまいます。
もう1つ大事なのは「長さ」の考え方です。日本語は「おばさん」と「おばあさん」のように、音の長さで意味を区別します。英語の sheep /ʃiːp/ と ship /ʃɪp/ も長さがちがいますが、それ以上に音色がちがいます。ship の /ɪ/ は、日本語の「イ」より口がゆるみ、「エ」に少し近い音です。「シープ」と「シップ」の長さだけで言い分けようとすると、英語の耳にはずれて聞こえます。
ポイント:英語の母音は「あいうえお」のどれかに当てはめず、「新しい音」として1つずつ耳と口に入れる。
02日本語は「拍」、英語は「音節」で数える
日本語のリズムの単位は「拍(モーラ)」です。俳句の「五・七・五」で数えているのがこれです。「ほん」は「ほ・ん」で2拍、「がっこう」は「が・っ・こ・う」で4拍。小さい「っ」や「ん」、のばす音も1拍として数えます。
英語の単位は「音節」です。音節は、母音を中心にして、前後に子音がくっついたかたまりです。前後にいくつ子音がついても、母音が1つなら1音節です。
| 単語 | 英語の音節 | カタカナの拍 |
|---|---|---|
| strike | 1(strike) | 5(ス・ト・ラ・イ・ク) |
| spring | 1(spring) | 5(ス・プ・リ・ン・グ) |
| Christmas | 2(Christ-mas) | 5(ク・リ・ス・マ・ス) |
| McDonald's | 3(Mc-Don-ald's) | 6(マ・ク・ド・ナ・ル・ド) |
カタカナで発音すると、英語より音のかたまりがずっと多くなります。英語を話す人には、1音節の strike が5つの音に分かれて聞こえるので、単語の形がつかみにくくなるのです。
聞くときも同じことが起きます。日本語話者は、聞いた音を拍に分けて処理する傾向があることが、実験で示されています。日本語話者と、英語・フランス語の話者に同じ日本語の材料を聞かせると、日本語話者の反応だけが拍の区切りに沿っていました。耳が「拍で切る」くせを持っているので、1音節にぎゅっと詰まった英語の音を、うまく切り分けられないことがあります。
03子音の連続と「聞こえてしまう母音」
日本語の音は、基本的に「子音+母音」の組み合わせでできています。子音が2つ以上続くことはほとんどなく、言葉の終わりはほぼ母音か「ん」です。
英語は、子音がいくつも続きます。
- 語頭に3つ:street、spring、splash
- 語末に3つ以上:texts /teksts/、asked /ɑːskt/
- 語の終わりが子音:cat、big、them
日本語に取り入れるとき、この子音の連続の間に母音が入ります。best は「ベ・ス・ト」、milk は「ミ・ル・ク」。子音のうしろに「ウ」や「オ」を足して、日本語の形にしているわけです。
これは話すときだけの問題ではありません。フランスと日本の研究者による実験では、ebzo(b と z の間に母音なし)から ebuzo(はっきり u が入る)まで、母音の長さを少しずつ変えた音を、日本語話者とフランス語話者に聞かせました。すると日本語話者は、母音がまったくない音でも「u が聞こえた」と答えることが多かったのです。フランス語話者にはそれが起きませんでした。
つまり日本語話者は、子音の連続を聞くと、耳の中で自動的に母音を補ってしまう傾向があります。カタカナ発音は「口のくせ」であると同時に、「耳のくせ」でもあるのです。
同じ研究では逆に、フランス語話者は ebuzo と ebuuzo(u の長さだけがちがう)の区別に苦労しました。母語で区別しない差は、だれにとっても聞き取りにくい。日本人の耳が劣っているのではなく、母語に合わせて最適化されているだけです。
04カタカナで覚えた単語は、耳を上書きする
日本語には英語から来たカタカナ語がたくさんあります。単語を覚えるうえでは心強い味方ですが、音の面では「わな」にもなります。
1. 強く読む位置がずれる
カタカナ語は日本語の高低アクセントで読まれます。そのため、英語で強く読む位置とずれることがよくあります。
- hotel:英語は hoTEL(後ろが強い)。「ホテル」の感覚だと前に置きがち
- event:英語は eVENT。「イベント」は前寄りになりやすい
- career:英語は caREER。「キャリア」とは強さの位置も母音もちがう
- guitar:英語は guiTAR
2. そもそも別の言語から来ている
「エネルギー」はドイツ語から入った言葉です。英語の energy は /ˈenədʒi/ で、「エナジー」に近い音になります。「アレルギー」と allergy /ˈælədʒi/ も同じです。カタカナのまま英語で言うと、通じないことがあります。
3. 区別が消える
light と right は、どちらも「ライト」です。カタカナで覚えた瞬間に、L と R の区別は記憶から消えています。
カタカナ語をたくさん知っているほど、英語の単語を「知っているつもり」になりやすいのも注意点です。意味は分かるのに聞き取れない単語は、たいてい「カタカナの音」で記憶されています。
05カタカナは「補助輪」として使う
では、カタカナを一切使ってはいけないのでしょうか。そうではありません。うまく使えば、音の変化に気づくきっかけになります。
たとえば Check it out. を「チェック・イット・アウト」と読むと、英語の流れとかけ離れます。アメリカ英語では「チェキラウ」に近く聞こえます。このようにカタカナでメモすると、「つながる」「消える」「t がラ行のように聞こえる」という変化に気づけます。
ただし、カタカナには書けないものが多すぎます。
- L と R、TH と S、V と B の区別
- hat と hut のような母音の区別
- 弱く短くなる母音(あいまい母音 /ə/)
- どこを強く読むか
カタカナのメモは「最初の気づき」までにして、次は必ず本物の音声で確かめましょう。辞書サイトの音声や、発音記号を併用すると、カタカナでは書けない部分を補えます。
ポイント:カタカナは「音の地図のメモ」。地図を見たら、最後は自分の耳と口で本物の道を歩く。
06脱カタカナのための4つの練習
練習1:拍と音節を数え比べる(5分)
身近なカタカナ語を10個選び、英語の音節を数えます。母音の数を数えればよいので、辞書の発音記号を見ます。例:chocolate はイギリス式の /ˈtʃɒklət/ なら2音節、「チョコレート」はチョ・コ・レ・ー・トの5拍。手をたたきながら、英語の音節の数だけで言ってみます。
練習2:語末の子音で止める(5分)
cat、book、milk、bed のように、子音で終わる単語を言い、最後に母音を足さずに止めます。「キャット」ではなく、/t/ で舌を止めて息を切るだけ。録音して「ト」や「ク」が聞こえないか確かめます。
練習3:新しい母音を1つずつ(毎日1つ)
hat /æ/ と hut /ʌ/、sheep /iː/ と ship /ɪ/ のように、日本語にない区別を1日1組ずつ。辞書の音声を聞き、まねして録音し、聞き比べます。
練習4:カタカナ語の「本当の音」を調べる(1日3語)
カタカナで知っている英単語を辞書で引き、強く読む位置と母音を確かめます。hotel、event、vitamin(イギリス式は /ˈvɪtəmɪn/、アメリカ式は /ˈvaɪtəmɪn/)などは、思いこみとのずれが分かりやすい単語です。
どれも1日10分あれば回せます。最初の1か月は「聞いて気づく」ことを目標にし、完璧な発音を急がないことが続けるコツです。
カタカナ英語=英語の音を日本語の5母音と拍に置きかえたもの
今日からのやり方
- カタカナ語を10個選び、英語の音節の数を辞書の発音記号で数える
- 子音で終わる単語を言い、最後に母音を足さずに止める練習をする
- hat と hut など、日本語にない母音の区別を1日1組ずつ聞き比べる
- 自分の声を録音し、余計な「ウ」「オ」が入っていないか確かめる
- カタカナ語は強く読む位置を辞書で確かめ、英語の形で覚え直す
レベル別:あなたならこうする
まずは「英語は子音で終われる」ことに慣れましょう。cat、dog、bed などを、最後の子音で止めて言う練習から。カタカナのふりがなは最初の手がかりにとどめ、音声を必ず聞きます。
知っているカタカナ語の「本当の音」を調べ直す時期です。強く読む位置と母音を辞書で確かめ、hotel や career のように思いこみとずれる単語をリストにして、声に出して直していきます。
子音の連続(texts、asked など)を母音なしで言えるか、録音で確かめましょう。聞き取りでは、拍で切らずに音節のかたまりで聞く意識を持つと、速い英語の単語の境目がつかみやすくなります。
よくある失敗と対策
カタカナは日本語の音で書くので、L/R や母音の区別が消えます。最初の手がかりにはよいですが、音声と発音記号で必ず確かめ、英語の音で覚え直しましょう。
sheep と ship は長さより音色の差が大きい組です。「長い・短い」で言い分けるのでなく、口の開きと舌の位置のちがいとして練習すると、英語の耳に届きやすくなります。
音のちがいは、まず「聞いて気づく」ことから始まります。全部を一度に直そうとせず、1日1つの区別に絞ると、無理なく続けられます。
1 MIN
知っているカタカナ語を3つ選び、辞書で英語の音節の数と強く読む位置を確かめる
友だちに出したい、この節の3問
タップで答え。「X で出題する」で、そのまま問題として出せます。
4-1strike は日本語で何拍、英語で何音節?
カタカナの「ストライク」はス・ト・ラ・イ・クの5拍です。英語の strike /straɪk/ は1音節。日本語の耳は、子音のあとに母音を足して拍を作ります。だから英語のリズムと大きくずれます。
4-1英語を聞くと、日本人には「ない母音」が聞こえてしまう?
フランスと日本の研究で、日本語話者は ebzo のような子音の連続の間に、実際にはない「u」を聞き取りやすいことが分かりました。母音を足すのは口だけでなく、耳の側でも起きています。
4-1hat・hut・hot・heart、カタカナで書くと?
ハット・ハット・ホット・ハートです。英語では4つとも母音がちがう別の単語ですが、カタカナでは前の2つが同じ表記になります。カタカナで覚えた単語は、この区別が最初から消えています。
PRACTICE KIT
この節の実践キット
このサイトで練習する
原田英語のサイトで練習する
使えるサイト・アプリ
動画で学ぶ
もっと詳しく(コラム)
この節の根拠(研究・公式情報)
日本語話者は ebzo のような子音連続の間に、実際にはない母音 u を聞き取りやすかった。フランス語話者には起きず、逆に母音の長さの差の聞き分けに苦労した。
Dupoux, E., Kakehi, K., Hirose, Y., Pallier, C., & Mehler, J. (1999). Epenthetic vowels in Japanese: A perceptual illusion? Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance, 25(6), 1568–1578.出典を開く ↗日本語話者が話しことばを区切るときの反応は、音節よりモーラ(拍)にもとづく説明に合っていた。英語・フランス語の話者は同じ材料で別の反応を示した。
Otake, T., Hatano, G., Cutler, A., & Mehler, J. (1993). Mora or syllable? Speech segmentation in Japanese. Journal of Memory and Language, 32(2), 258–278.出典を開く ↗国際音声学会の「IPAの図解」シリーズで、東京方言の日本語の音を記述したもの。母音は /a i u e o/ の5つとして示されている。
Okada, H. (1991). Japanese. Journal of the International Phonetic Association, 21(2), 94–96.出典を開く ↗イギリス英語(GB English)の音を、母音20・子音24の計44音として整理している発音学校の公式教材ページ。
Pronunciation Studio. Learn the 44 sounds of GB English.出典を開く ↗よくある質問
発音記号は覚えないとだめですか?
全部を覚える必要はありません。日本語にない母音(/æ/ /ʌ/ /ə/ など)と、強く読む位置を示す記号だけ読めれば、辞書で音を確かめるときに大きく役立ちます。音声とセットで少しずつ覚えるのが近道です。
カタカナ語を知っていると英語の得になりますか?
意味の面では得になります。英語由来のカタカナ語は、単語の意味を思い出す手がかりになります。ただ音はずれていることが多いので、「意味はカタカナ語で、音は英語で」と分けて覚え直すのがおすすめです。
大人になってからでも耳は変わりますか?
変わります。日本語話者の大人を対象に、L と R の聞き分けを訓練した研究では、訓練で聞き取りが伸び、数か月後も効果が残りました。くわしくは「LとR・THなど日本人の苦手な音」の節で紹介しています。



