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倍速・スロー再生の使いどころスロー再生は「逃げ」じゃない。速さを自分で操ると理解が上がる

原田英語6分で読める研究・公式情報 5件第7章の7/7節

倍速・スロー再生の使いどころのイメージ

1秒あたり3.8音節。ある研究では、これより速い話し方になると、中級の下くらいの学習者の理解が妨げられました。一方で、ふつうの会話の平均的な速さは、1秒あたり3.8〜4.7音節ほどとされています。教材の英語は分かるのに、ナマの会話になると置いていかれる。その壁は、努力不足ではなく、速さそのものかもしれません。スロー再生は甘えなのか。倍速で聞けば耳は鍛えられるのか。

この節の目次(6項目)
  1. 速さはリスニングの難しさを大きく左右する
  2. スロー再生:速さを自分で操ると理解が上がる
  3. 耳は速い音声に慣れていく
  4. 倍速再生:分かっていることと注意点
  5. 「速さのはしご」練習(1回15分)
  6. 場面別:再生速度の早見表

01速さはリスニングの難しさを大きく左右する

同じ英文でも、速く話されると急に分からなくなります。話す速さは、リスニングの難しさを決める大きな要因の1つです。

話す速さとリスニングの関係を調べた Griffiths(1992)は、それまでの研究をこうまとめています。ある速さを超えると、速くなるほど理解は下がる。そして、彼自身の以前の研究では、1分あたり200語(1秒あたり3.8音節)より速い話し方は、中級の下くらいの学習者の理解を妨げた、としています。一方で、ふつうの会話の平均的な速さは、1秒あたり3.8〜4.7音節ほどだという別の研究も紹介しています。

つまり、ふつうの会話の速さは、中級手前の学習者にとって「理解が落ち始める速さ」とほぼ同じか、それより速いことになります。教材のゆっくりした英語は分かるのに、ナマの会話になると分からない。これは努力不足ではなく、速さそのものの壁です。

速さの壁にぶつかったとき、方法は2つあります。

  • ゆっくりにして、聞こえない音を見つけ、なくしていく(スロー再生)
  • ふつうの速さの、やさしい英語をたくさん聞いて、処理を速くする(多聴)

倍速再生は、この2つとは役割が違います。順番に見ていきましょう。

02スロー再生:速さを自分で操ると理解が上がる

「スローで聞くのは、本番の練習にならない」と思われがちです。けれども研究は、速さを自分で操ることの価値を示しています。

Zhao(1997)は、それまでの「話す速さと理解」の研究を見直しています。ゆっくりのほうが分かりやすいという常識に反して、研究の結果はばらばらでした。そこで、コンピューターを使って学習者自身に話す速さを調整させ、一人ひとりを詳しく調べました。その結果、

  • 速さを自分で調整できると、聞き取りの理解が上がった
  • その向上は、速さを落とすことで得られていた

ということが分かりました。人によって「ちょうどいい速さ」は違います。自分でその速さを選べることが、理解を助けたのです。

スロー再生がとくに役に立つのは、次の場面です。

  • ディクテーションで、何度聞いても書けない1文がある
  • シャドーイングで、追いつけずに口がもつれる
  • 聞き取れない原因が「音」なのか「速さ」なのかを見分けたい

0.75倍くらいでも分からないなら、原因は速さではなく、音や知識にあります。0.75倍なら分かるのに1倍だと分からないなら、原因は処理の速さです。スロー再生は、原因を見分ける検査道具にもなるのです。

ひとつ注意があります。スロー再生はあくまで途中の段階です。最後は必ず1倍速に戻して、ふつうの速さで聞けるかを確かめます。

03耳は速い音声に慣れていく

ゆっくりの音声で練習していて、ふつうの速さに戻れるのでしょうか。ここで知っておきたいのが、人の耳が速い音声に慣れていく性質です。

話す速さは、同じ人でも会話の中で大きく変わります。それでも聞き手は、その変化にすばやく合わせて聞いています。Adank & Janse(2009)は、機械で速くした音声と、人が自然に速く話した音声の文を、聞き手に次々と判断させました。

  • 聞き続けるうちに、速い音声への反応は良くなっていった
  • 機械で速くした音声に先に慣れると、自然に速く話した音声にもその慣れが移った
  • 逆の順番では、慣れは移らなかった
  • 自然に速く話した音声は、慣れても機械で速くした音声ほどには聞きやすくならなかった

この研究は外国語の学習効果を調べたものではなく、聞き手が速い音声に慣れる仕組みを調べた基礎研究です。それでも、「速い音声も、聞き続けると慣れていく」「自然な速い話し方は、単に速いだけでなく、音がつぶれたりつながったりするので、慣れるのに時間がかかる」という2点は、学習者にとっても参考になります。

自然な速い話し方への対策は、ただ速さに慣れることだけではありません。音のつながりや消える音のルールを知り、ディクテーションやシャドーイングで1つずつ聞き取れる音を増やすことが欠かせません。

04倍速再生:分かっていることと注意点

倍速再生については、学校の講義動画で研究が進んでいます。

Murphy ほか(2022)は、講義動画を1倍から、2倍を超える速さまで変えて見せ、直後と1週間後の理解をテストしました。

  • 1倍から1.5倍、2倍に速めても、理解の低下は小さかった
  • 2倍を超えると、成績は下がった
  • 2倍で2回見ても、1倍で1回見たときより有利にはならなかった
  • ただし、テストの直前に2倍でもう一度見直すと、理解は上がった

同じ研究グループの Murphy ほか(2023)では、若い人は速い再生でも成績があまり下がらなかった一方、高齢の人は速くすると成績が下がる傾向がありました。

ここで注意したいのは、これらが母語の講義の内容理解を調べた研究だということです。外国語のリスニングでは、1倍速でもすでに処理がぎりぎりのことが多く、同じ結果になるとは限りません。

また、「倍速で英語を聞くだけで、脳が鍛えられて聞く力が上がる」という強い主張を支える研究は、確認できた範囲では見つかりませんでした。

そこで、倍速再生は次のように使うのが無難です。

  • もう理解した音声の復習を、1.25〜1.5倍で短く済ませる
  • 1倍速で楽に分かる多聴の素材で、少し速めを試してみる
  • 初めて聞く音声や、精聴の練習には使わない

05「速さのはしご」練習(1回15分)

スロー・ふつう・速めを組み合わせた練習を紹介します。素材は、スクリプトのある1分前後の音声です。

段階速さやること時間
11.0倍スクリプトなしで聞き、分かった割合をメモ2分
20.75倍聞こえない所を探し、スクリプトで確認4分
30.75倍オーバーラッピングで音とリズムを重ねる3分
41.0倍シャドーイングかマンブリング3分
51.25倍スクリプトなしで1回聞く1分
61.0倍最後にもう一度聞き、段階1と比べる2分

段階5の1.25倍は、背伸びの1回です。少し速い音声を聞いたあとに1倍速に戻ると、ゆったり聞こえることがあります。これは研究で確かめられた効果ではなく、体感としての変化ですが、段階6の「最初より分かる」という手ごたえを作るのに役立ちます。

段階6で、段階1より分かった割合が上がっていれば、その日の練習は成功です。

速さの調整は、ほとんどの動画サイトやポッドキャストのアプリでできます。練習道具によっては、1文ずつ止めたり、くり返したりする機能もあります。

ポイント:ゆっくり(0.75倍)で原因を見つけ、ふつう(1倍)で練習し、最後は必ず1倍で確かめる。

06場面別:再生速度の早見表

最後に、場面ごとの速さの目安をまとめます。どれも研究で決まった数字ではなく、ここまでの研究をふまえた使い分けの目安です。

場面おすすめの速さねらい
初めて聞く音声1.0倍本当の実力を知る
ディクテーションで書けない1文0.75倍聞こえない音を見つける
オーバーラッピングの最初0.75倍リズムを写す余裕を作る
シャドーイング1.0倍(つらければ0.75倍から)ふつうの速さの音に慣れる
多聴(楽に分かる素材)1.0倍、慣れたら1.25倍も量をこなす
理解ずみの音声の復習1.25〜1.5倍時間を節約する
試験の直前1.0倍本番と同じ条件で確かめる

大切なのは、1.0倍を基準点にすることです。スローも倍速も、1.0倍で聞く力を伸ばすための寄り道です。寄り道のあとは、必ず1.0倍に戻ります。

もう1つ、試験の聞き取り問題は、ふつうは速さを選べません。試験が近づいたら、スロー再生の割合を減らし、1.0倍で1回だけ聞いて答える練習を増やしましょう。ふだんの練習では速さを自分で操り、本番前は速さに自分を合わせる。この切りかえが、速度調整をむだにしないコツです。

この節の答え

スローは「聞こえない音」を見つける道具、倍速は復習の時短

今日からのやり方

  1. スクリプトのある1分前後の音声を、まず1倍速で聞いて分かった割合をメモする
  2. 0.75倍速で聞こえない所を探し、スクリプトで確認する
  3. 0.75倍速でオーバーラッピングし、1倍速でシャドーイングする
  4. 1.25倍速で1回聞いてから、1倍速に戻して最初と比べる
  5. 理解ずみの音声の復習には1.25〜1.5倍速を使い、時間を節約する

レベル別:あなたならこうする

初級 A1〜A2

0.75倍速を遠慮なく使いましょう。ゆっくりなら分かる音声を、オーバーラッピングで体に入れ、最後に1倍速で確かめます。倍速は、まだ使わなくてかまいません。

中級 B1

「速さのはしご」で、0.75倍で原因を見つけ、1倍で練習します。多聴の素材が1倍で楽になったら、1.25倍を時々試し、ふつうの速さを相対的にゆったり感じる体験を。

上級 B2〜

速いナマ素材で聞き取れない所だけ0.75倍で確かめます。すでに理解した講義やポッドキャストの復習は1.25〜1.5倍で時間を節約し、空いた時間を新しい素材に回しましょう。

よくある失敗と対策

スロー再生のまま練習を終えてしまう

ゆっくりの音声は、ふつうの速さとは音のつながり方も違います。スローで原因を見つけたら、最後は必ず1倍速に戻して、聞けるかを確かめましょう。

初めて聞く英語を、いきなり倍速で聞く

1倍速でも処理がぎりぎりなら、倍速では内容がほとんど残りません。倍速は、もう理解した音声の復習や、1倍速で楽に分かる素材に限って使いましょう。

倍速を続ければ耳が速くなると信じこむ

倍速で聞くだけで聞く力が伸びるという確かな証拠は見当たりません。音の練習と多聴を中心にし、倍速は時間を節約する道具と考えましょう。

TODAY
1 MIN

いつもの英語音声を0.75倍速で1回聞き、聞こえなかった1語を見つける

友だちに出したい、この節の3問

タップで答え。「X で出題する」で、そのまま問題として出せます。

7-7英語の音声、再生速度を自分で変えられると理解は上がる?

Zhao(1997)では、学習者が自分で話す速さを調整できるようにすると、聞き取りの理解が上がりました。そして、その向上は「速さを落とす」ことによって得られていました。

X で出題する

7-7人の耳は、速い音声にどのくらい慣れる?

人は話す速さの変化にすばやく慣れることが知られています。Adank & Janse(2009)の実験でも、速い音声の文を聞き続けるうちに、聞き手の反応は良くなっていきました。ただし、自然に速く話した音声への慣れには限界も見られました。

X で出題する

7-7講義動画を2倍速で見ても、学習は大丈夫?

Murphy ほか(2022)では、母語の講義動画を1.5倍や2倍で見ても理解の低下は小さく、2倍を超えると下がりました。ただし高齢の人では速くすると成績が下がり、外国語の聞き取りにそのまま当てはまるとは限りません。

X で出題する

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早口の英語を理解するための文法VOA Learning English|Everyday Grammar: Understanding Fast Talkers
アメリカ英語はなぜあんなに速い?Rachel's English|Study English | American English Pronunciation | What Makes American English SO FAST?
速いネイティブ英語を聞き取るコツBBC Learning English|How to understand native speakers when they talk quickly: Live English Class

もっと詳しく(コラム)

この節の根拠(研究・公式情報)

ある速さを超えると、速くなるほど理解は下がると整理。著者の以前の研究では、1秒3.8音節(1分200語)より速い話し方が中級手前の学習者の理解を妨げたと紹介している。

Griffiths, R. (1992). Speech rate and listening comprehension: Further evidence of the relationship. TESOL Quarterly, 26(2), 385.出典を開く ↗

学習者が自分で話す速さを調整できるようにすると、聞き取りの理解が上がり、その向上は速さを落とすことによって得られていた。

Zhao, Y. (1997). The effects of listeners' control of speech rate on second language comprehension. Applied Linguistics, 18(1), 49–68.出典を開く ↗

機械で速めた音声と自然に速く話した音声への慣れを比較。機械で速めた音声への慣れは自然な速い音声に移ったが逆は移らず、自然な速い音声は慣れても聞きやすさに限界があった。

Adank, P., & Janse, E. (2009). Perceptual learning of time-compressed and natural fast speech. The Journal of the Acoustical Society of America, 126(5), 2649–2659.出典を開く ↗

講義動画を1.5倍・2倍にしても理解の低下は小さく、2倍を超えると低下。2倍で2回見ても1倍1回より有利ではなかったが、テスト直前の2倍での見直しは理解を高めた。

Murphy, D. H., Hoover, K. M., Agadzhanyan, K., Kuehn, J. C., & Castel, A. D. (2022). Learning in double time: The effect of lecture video speed on immediate and delayed comprehension. Applied Cognitive Psychology, 36(1), 69–82.出典を開く ↗

若い人は速い再生でも記憶テストの成績があまり下がらなかったが、高齢の人は速くすると成績が下がる傾向があった。速い再生は気が散るのを減らす傾向も見られた。

Murphy, D. H., Hoover, K. M., & Castel, A. D. (2023). The effect of video playback speed on learning and mind-wandering in younger and older adults. Memory, 31(6), 802–817.出典を開く ↗

よくある質問

スロー再生だと音がゆがんで不自然では?

機械でゆっくりにした音声は、自然にゆっくり話した音声とは少し違います。原因を見つけるための一時的な道具と考え、練習の最後は必ず1倍速に戻しましょう。学習者向けにゆっくり話した教材を使うのもよい方法です。

何倍速まで上げてもいいですか?

母語の講義動画の研究では、2倍までなら理解の低下は小さく、それを超えると下がりました。外国語ではもっと低い倍率で限界が来ることが多いので、内容が追える範囲で使いましょう。

大人のやり直しでも倍速は使えますか?

高齢の人では、速い再生で記憶の成績が下がる傾向を示した研究があります。無理に速くする必要はありません。0.75〜1倍速での練習を中心にし、復習で少しだけ速めを試す程度で十分です。