第13章|素材と道具の使いこなし13-2YouTubeで英語を学ぶYouTubeは「文字起こし」を開いた瞬間に、教科書に変わる

英語の動画を、毎日のように流している。それなのに、聞き取れる量が増えた気がしない。映像だけで話の筋が分かってしまうと、耳は英語を処理しなくても困らないからです。字幕を読んでいるだけで、音を聞いていないこともあります。ところが同じ動画でも、説明欄にあるボタンを1つ押すと、使い方ががらりと変わる。娯楽で流す動画と、力になる動画。その境目は、どこにあるのでしょうか。
01見ているだけでは伸びにくい理由
英語の動画を見る時間が長い人ほど、語彙が多い傾向があります。ベルギーの学習者を調べた研究では、字幕なしの動画やネットで英語に触れる量と語彙力に正の関係が見られました(Peters, 2018)。ただし、これは「見る量が多い人ほど語彙が多い」という相関で、見ればそれだけで伸びると証明したものではありません。
伸びる見方と伸びにくい見方の差は、理解できているかと注意を向けているかです。
- 映像だけで話の筋が分かってしまうと、耳は英語を処理しなくても困らない。
- 知らない語が多すぎると、聞こえた音が意味につながらない。
- 字幕を読んでいるだけで、音を聞いていないこともある。
そこで役立つのが、英語の字幕です。英語字幕つきの動画が聞き取りと語彙の両方に大きな効果を示したメタ分析があります(Montero Perez ほか, 2013)。字幕は「聞こえた音」と「正しい単語」を結びつける答え合わせの役をします。
つまりYouTubeは、娯楽として流す時間と、教材として止めて使う時間を分けると力になります。1日のうち10〜15分だけでも、次に紹介する使い方をする時間を作ります。
02チャンネル選びの4つの基準
英語のチャンネルは、大きく2種類に分かれます。
- 学習者向け:ゆっくり・はっきり話し、表現の説明がある。
- ネイティブ向け:ふつうの速さで、内容を楽しむためのもの(料理、科学、旅、ゲーム実況など)。
どちらがいいかではなく、レベルと目的で選びます。基準は4つです。
- 8割分かるか:英語字幕つきで見て、話の8割くらいが分かる。分からなすぎるものは後回し。
- 字幕の質:作り手が付けた字幕か、自動字幕か。字幕の一覧に「自動生成」と出るものは自動字幕。学習のメインには、作り手が字幕を付けているチャンネルが向いている。
- 好きな話題か:同じ話題の動画を続けて見ると、同じ単語がくり返し出てきて覚えやすい。
- 長さ:教材として使うなら5〜15分。長い動画は章(チャプター)で区切る。
字幕つきの動画だけを探す
検索したあとに「フィルタ」を開き、「字幕」を選ぶと、字幕のある動画だけに絞れます。学習用の動画を探すときは、まずこのフィルタをかける習慣をつけます。
初級のうちは学習者向けのチャンネルを中心に、中級からはネイティブ向けを週に何本か混ぜていくのがおすすめです。
03学習が変わる3つの設定
YouTubeには、英語学習にそのまま使える機能がそろっています。パソコン版を例に説明します(スマホでも同じ機能があり、メニューの場所が少し違います)。
1. 字幕(CC)
- 動画の右下の「字幕」ボタンでオン・オフ。キーボードの C でも切りかえられる。
- 「設定」→「字幕」→「オプション」で、文字の大きさや背景の色を変えられる。小さくて読みにくいときは大きくする。
2. 再生速度
- 「設定」→「再生速度」で遅くも速くもできる。キーボードの Shift+< で遅く、Shift+> で速くなる。
- 聞き取れない部分だけ0.75倍に下げ、聞き取れたら元に戻す。ずっと遅いまま聞き続けると、ふつうの速さに慣れない。
3. 文字起こし(スクリプト)
- 動画の説明欄を開き、「文字起こしを表示」を押すと、字幕の全文が横に出る。
- 行をクリックすると、その場面に飛ぶ。再生に合わせて表示も進む。
- 自動字幕の場合、なまりや雑音で間違いが入ることがある。おかしいと思った語は辞書で確かめる。
覚えておきたいキー操作
| キー | 動き |
|---|---|
| K | 再生・一時停止 |
| J / L | 10秒もどる / 10秒進む |
| ← / → | 5秒もどる / 5秒進む |
| , / .(一時停止中) | 1コマもどる / 1コマ進む |
| C | 字幕のオン・オフ |
J で10秒もどるだけで、聞き直しがぐっと楽になります。
041本の動画を教材にする5ステップ
5〜10分の動画1本を、20〜30分で使い切る手順です。
- 字幕なしで1回見る(筋をつかむ)。分かったことを日本語で1行メモ。
- 英語字幕で1回見る。「こう言っていたのか」という部分に印をつける。
- 文字起こしを開き、聞き取れなかった文だけ聞き直す。行をクリックして、その文を3回ずつ。音と文字のずれ(つながる音、消える音)に注目する。
- 1〜2文を選んでまねる。動画を止めてリピート、慣れたら字幕を見ながら声を重ねる(オーバーラッピング)、最後は字幕なしで追いかける(シャドーイング)。
- 自分用に書き換える。気に入った言い回しの一部を入れかえて、自分のことを言う文を作る。
例:動画の話し手が自分の趣味について話していたら、その型を借りて書きます。
- I got into baking during a long holiday, and now I make bread every weekend.(長い休みにパン作りにはまって、今は毎週末パンを焼いている)
- I got into running last spring, and now I run before school three times a week.(去年の春にランニングにはまって、今は週3回、登校前に走っている)
get into 〜(〜にはまる)のような表現は、こうして自分の文にした瞬間に「使える英語」になります。作った文は単語カードに入れて、数日後に思い出す練習をします。
05動画のタイプ別:何を鍛えるか
英語の動画にはいろいろなタイプがあり、それぞれ鍛えられる力が違います。1つのタイプばかり見ていると、得意な英語がかたよります。
| タイプ | 特徴 | 鍛えやすい力 | 使い方のコツ |
|---|---|---|---|
| 学習者向けレッスン | 先生がゆっくり説明する | 表現の意味と使い方 | 例文をノートに写し、自分の文に変える |
| 街角インタビュー | ふつうの人が自然に話す | 速い会話・いろいろな訛り | 1人分の答えだけを何度も聞く |
| 講演・プレゼン | 1人が筋道立てて話す | まとまった話の理解 | 要点を英語3文でまとめる |
| 解説アニメ | 絵と短い説明で教養を学ぶ | 理科・社会の語彙 | 日本語で知っている内容から選ぶ |
| 好きな分野の動画 | 料理・スポーツ・ゲームなど | 興味のある分野の語彙 | 楽しむ用。気になった表現だけメモ |
組み合わせの例
- 平日:学習者向けレッスンか講演を1本、5ステップで使い切る(15〜30分)。
- 週末:好きな分野の動画を、英語字幕で楽しむ。
- 週1回:街角インタビューで、教材とは違う「ふつうの人の英語」に触れる。
とくに街角インタビューは、言いよどみ、言い直し、早口、いろいろな地域の発音がそのまま入っています。教材の英語だけに慣れていると最初は驚きますが、本物の会話はこういうものだと知っておくと、実際に英語を使う場面であわてません。
06「おすすめ」に流されない仕組み
YouTubeのおすすめは、見た動画に似たものを次々に出してきます。気づくと日本語の動画を見ていた、ということも起きます。英語の時間を守るには、仕組みで先回りします。
- 学習用の再生リストを作る:見る予定の動画を前の晩に3本だけ入れておく。当日はそのリストだけを開く。
- 時間を決める:「夕食後の15分」のように、始める時間と終わる時間を決める。タイマーを使ってもよい。
- 登録チャンネルを整理する:英語学習に使うチャンネルを中心に登録する。
- アプリの言語設定を英語にする:メニューも英語になり、毎日少しずつ英語に触れられる。
中高生と保護者へ
日本では、自分で Google アカウントを管理できるのは13歳からです。13歳未満は保護者が管理するアカウントで使います。13歳以上でも、コメント欄には知らない人とのやり取りや不適切な書き込みがあります。学習で使うときは、コメントを読む・書くより、動画と字幕・文字起こしに集中するほうが安全で効率的です。家庭で使う時間と場所のルールを決めておくと、見すぎも防げます。
字幕・速度・文字起こしを使い、1本を短く深く使い切る
今日からのやり方
- 学習用の再生リストを作り、5〜10分の動画を3本入れる
- 字幕なし→英語字幕の順に1回ずつ見る
- 文字起こしを開き、聞き取れなかった文だけを3回ずつ聞き直す
- 1〜2文を選び、リピート→オーバーラッピング→シャドーイング
- 気に入った表現で自分の文を1つ作り、単語カードに入れる
レベル別:あなたならこうする
学習者向けの、ゆっくりはっきり話すチャンネルを選びます。英語字幕は最初からオンでかまいません。1本を何日かに分けて見て、短い文を声に出してまねるところまでやります。
学習者向けとネイティブ向けを半々にします。1回目は字幕なしで見て、2回目に英語字幕、聞き取れない文だけ文字起こしで確かめる流れを習慣にします。
ネイティブ向けの講演・解説・インタビューを中心に。速い部分も速度を下げずに聞き、つながる音や消える音を文字起こしと照らし合わせて確かめます。分野を絞ると語彙が深まります。
よくある失敗と対策
前の晩に学習用の再生リストへ3本だけ入れ、当日はそのリストだけを開きます。時間も先に決めておきます。
日本語字幕は話の筋を楽しむときだけにします。学習の時間は、英語字幕か字幕なしで見ます。
遅くするのは、聞き取れない部分の確認だけにします。聞き取れたら元の速さで聞き直し、ふつうの速さに耳を合わせます。
1 MIN
好きな動画で説明欄を開き、「文字起こしを表示」を押してみる
友だちに出したい、この節の3問
タップで答え。「X で出題する」で、そのまま問題として出せます。
13-2英語の動画に英語字幕は「甘え」?
逆です。18の研究をまとめたメタ分析では、英語の動画に英語字幕をつけると、聞いて分かる量も覚える単語も大きく増えていました。字幕は聞き取りの答え合わせになります。
13-2YouTubeに「台本」が隠れている?
字幕のある動画は、説明欄の「文字起こしを表示」で全文が出ます。行をクリックするとその場面に飛ぶので、聞き取れなかった1文だけを何度も聞き直せます。
13-2YouTubeの自動字幕は信用していい?
YouTube自身が、なまりや方言、雑音などで内容を正しく表さないことがあると説明しています。自動字幕は目安として使い、大事な表現は辞書や別の資料で確かめます。
PRACTICE KIT
この節の実践キット
このサイトで練習する
原田英語のサイトで練習する
使えるサイト・アプリ
動画で学ぶ
もっと詳しく(コラム)
この節の根拠(研究・公式情報)
ベルギーの学習者79人を調べ、字幕なしのテレビ・映画、ネット、本や雑誌に触れる量と語彙力に正の関係があった。教室外の接触の効果は学習年数より大きかった(相関の研究)。
Peters, E. (2018). The effect of out-of-class exposure to English language media on learners' vocabulary knowledge. ITL – International Journal of Applied Linguistics, 169(1), 142–168.出典を開く ↗18の研究をまとめたメタ分析。英語の動画に英語字幕をつけると、つけない場合より聞いて分かる量と語彙の習得の両方で大きな効果が見られた。
Montero Perez, M., Van den Noortgate, W., & Desmet, P. (2013). Captioned video for L2 listening and vocabulary learning: A meta-analysis. System, 41(3), 720–739.出典を開く ↗字幕のある動画は、説明欄の「文字起こしを表示」で全文を表示できる。行をクリックするとその場面に飛び、再生に合わせて表示が動く。
YouTube ヘルプ「動画の文字起こしを表示する」(View video transcripts)出典を開く ↗表に載っていない国(日本を含む)では、自分で Google アカウントを管理できる最低年齢は13歳。それより下は保護者が管理するアカウントになる。
Google アカウント ヘルプ「国や地域ごとの年齢要件」出典を開く ↗よくある質問
文字起こしが出ない動画があります
字幕のない動画には文字起こしも出ません。学習用には、検索のフィルタで「字幕」を選び、字幕のある動画から選びます。
自動翻訳の日本語字幕は使っていい?
話の筋をつかむ助けにはなりますが、自動翻訳は誤訳がまじることがあります。学習の時間は英語字幕で見て、分からない語だけ辞書で確かめるほうが確実です。
ショート動画でも勉強になりますか?
表現に出会うきっかけにはなります。ただ、次々に流れて止まって聞き直すことが少ないので、学習の中心には5〜15分の通常の動画が向いています。




