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忘却曲線のほんとうの話「1日で74%忘れる」は誤解。忘却曲線の縦軸は「覚え直しの節約率」だった

原田英語6分で読める研究・公式情報 2件第1章の1/7節

忘却曲線のほんとうの話のイメージ

1885年、ドイツの心理学者エビングハウスは、被験者を自分ひとりにして、意味のない綴りを覚えては忘れる実験をくり返しました。そこから生まれたのが、あの忘却曲線です。ところが、この曲線から広まった「人は1日で74%を忘れる」という一文は、グラフの縦軸を読み違えています。エビングハウスが数えていたのは、「忘れた量」ではありませんでした。では、何だったのか。

この節の目次(6項目)
  1. エビングハウスは自分を実験台にした
  2. 縦軸は「節約率」。数字の正しい読み方
  3. 「1日で74%忘れる」のどこが違うのか
  4. 130年後の再現実験でわかったこと
  5. 英語学習に生かす3つの読み方
  6. 「忘れる前提」の復習スケジュール

01エビングハウスは自分を実験台にした

忘却曲線を最初に描いたのは、ドイツの心理学者ヘルマン・エビングハウスです。1885年の著書『記憶について』で、その実験をくわしく報告しました。

被験者は、なんと本人ひとり。エビングハウスは、意味を持たない短い綴り(子音・母音・子音の3文字。たとえば「ZOF」「KEB」のような形)を大量に用意しました。意味のある言葉だと、もともと持っている知識に助けられてしまうからです。

実験の手順はこうです。

  1. 無意味な綴りを13個並べた列を作る
  2. 声に出して読み、間違えずに2回続けて言えるまで覚える
  3. 決めた時間がたったら、同じ列をもう一度、同じ基準まで覚え直す
  4. 覚え直しにかかった手間を、最初に覚えたときの手間と比べる

時間の空け方は、約20分・1時間・約9時間・1日・2日・6日・31日の7通りです。エビングハウスは、ひとりで、しかも退屈な綴りを相手に、この手順を何度もくり返しました。

ここで大事なのは4番です。エビングハウスは「いくつ思い出せたか」を数えたのではありません。「覚え直すのに、最初よりどれだけ楽だったか」を測りました。この点を知らないと、忘却曲線の数字をまるごと読み違えてしまいます。

02縦軸は「節約率」。数字の正しい読み方

エビングハウスが使った物差しを節約率といいます。計算はかんたんです。

ポイント:節約率 =(最初に覚えた手間 − 覚え直しの手間)÷ 最初に覚えた手間

たとえば、最初に覚えるのに10分かかった列があるとします。1日後に覚え直したら約6.6分で済んだ。このとき「3.4分ぶん楽になった」ので、節約率は約34%です。

エビングハウスの結果と、2015年の再現実験の結果を並べます(再現実験の論文の表3より)。

覚えてからの時間エビングハウス(1885)再現実験(2015)
約20分58.2%47.2%
1時間44.2%37.3%
約9時間35.8%27.6%
1日33.7%31.7%
2日27.8%23.0%
6日25.4%16.8%
31日21.1%4.1%

読み方を確認します。「1日後 33.7%」は、覚え直すのに最初の約3分の2の手間がかかったという意味です。「33.7%しか覚えていない」でも「66.3%忘れた」でもありません。

この表から読みとれることは3つあります。

  • 最初の1時間で大きく下がる。 20分後にはもう節約率が6割を切っています。
  • その後はゆっくり下がる。 1日後から6日後までの下がり方は、最初の1時間よりずっと小さくなります。
  • 1か月たっても、ゼロにはならない。 エビングハウスの場合、31日後でも約2割の手間が省けました。

03「1日で74%忘れる」のどこが違うのか

日本の勉強法の解説では「20分後に42%、1時間後に56%、1日後に74%忘れる」という説明をよく見かけます。この説明には、少なくとも3つの問題があります。

1つ目は、物差しの取り違えです。 節約率は「覚え直しがどれだけ楽になったか」で、「頭に残っている量」ではありません。100から節約率を引いても「忘れた割合」にはなりません。この取り違えは、日本の解説記事でもすでに指摘されています。

2つ目は、数字そのものが原典と合わないことです。 20分後の42%と1時間後の56%は、100から原典の節約率(58.2%・44.2%)を引いた数字とほぼ一致します。ところが原典の1日後は33.7%なので、100から引いても66%。74%にはなりません。どこかで数字がずれたまま広まった、と考えるしかありません。

3つ目は、材料が無意味な綴りだという点です。 エビングハウスは、わざと「意味でつなげられない材料」を選びました。英単語や英文には意味があり、知っている単語や場面と結びつけられます。無意味な綴りの数字を、そのまま英単語の暗記にあてはめることはできません。

つまり「1日で7割以上忘れるのだから、覚えても無駄」という受けとめ方は、二重三重に間違っています。忘却曲線が本当に伝えているのは、もっと前向きなメッセージです。それは「忘れても、跡は残る」ということです。

04130年後の再現実験でわかったこと

2015年、オランダの研究者 Murre と Dros が、エビングハウスの実験をできるだけ同じ方法でやり直しました。被験者は著者のひとり Dros さん本人です。オランダ語の発音に合う無意味な綴りを使い、約70時間かけてデータを集めました。

結果、曲線の形はエビングハウスのものとよく似ていました。研究者たちは「再現は成功した」とまとめています。

ちがいも2つありました。

  • 31日後の節約率がずっと低い。 エビングハウスの21.1%に対して、再現では4.1%。1か月放っておくと、ほぼ一から覚え直すのに近い状態になったということです。
  • 1日後に「はね上がり」がある。 再現実験では、約9時間後(27.6%)より1日後(31.7%)のほうが節約率が高くなりました。時間がたったのに、覚え直しが楽になっているのです。エビングハウスのデータにも、1日後に小さな上向きのずれがあります。研究者たちは、間に睡眠をはさんだことが関係している可能性を挙げ、確かめるにはさらに研究が要るとしています。

被験者ひとりの研究なので、「誰でもこの数字になる」とは言えません。それでも、130年たって大まかな形が再現されたことは、忘却曲線が昔の思いつきではないことを示しています。睡眠と記憶の関係は、この章の「睡眠と記憶」の節でくわしく扱います。

05英語学習に生かす3つの読み方

忘却曲線から英語学習に持ち帰れることを、3つにまとめます。

1. 忘れるのは失敗ではなく、前提

覚えた直後から、記憶は落ちていきます。これは誰の脳でも起きることで、才能や根性の問題ではありません。「昨日覚えた単語をもう忘れた」と落ちこむ必要はありません。計画の中に、最初から「忘れる」を入れておけばいいのです。

2. 覚え直しは、最初より速い

節約率がプラスということは、忘れたように見えても記憶の跡が残っているということです。前に一度覚えた単語は、2回目のほうが短い時間で戻ってきます。

  • 1回目:reluctant(気が進まない)を覚えるのに、何度もくり返した
  • 3日後:すぐには出てこなかったが、例文を1回見たら「あ、それだ」と戻った

この「あ、それだ」が節約です。単語帳を2周目、3周目と回すと速く進むのは、この節約のおかげです。

3. 最初の1日が勝負

節約率が大きく下がるのは、覚えてから数時間のあいだです。だから1回目の復習は、その日の夜か翌日に入れるのが理にかなっています。逆に、1か月放っておくと、再現実験のように「ほぼ一から」になりかねません。

いま出てきた単語を、例文で確認しておきます。

  • I was reluctant to speak English in front of my classmates.(クラスメートの前で英語を話すのは気が進まなかった)
  • Don't be reluctant to ask questions.(質問するのをためらわないで)

06「忘れる前提」の復習スケジュール

では、具体的にいつ復習すればいいのでしょうか。忘却曲線そのものは「この日に復習しなさい」とは教えてくれません。復習の間隔については、次の節で紹介する分散学習の研究が手がかりになります。ここでは、まず始めやすい目安を示します。

復習タイミングやること
0回目覚えた日新しい単語10個を例文つきで覚える
1回目その日の夜か翌日英語を見て意味を言う。日本語を見て英語を言う
2回目3日後ごろ例文の空欄を埋める
3回目1週間後ごろ自分で例文を1つ作る
4回目3週間〜1か月後まとめて確認し、言えない単語だけ戻す

ポイント:この日付は研究で決まった「正解」ではなく、始めるための目安です。言えた単語は間隔をのばし、言えなかった単語は間隔を縮めます。

大切なのは、毎回「見て確認する」のではなく、答えを隠して思い出すことです。なぜ思い出すことが効くのかは、「想起練習」の節でくわしく説明します。

最後にもう一度。忘却曲線は「人はすぐ忘れる」という悲しいグラフではありません。「忘れても、覚え直せば前より速い」ことを、初めて数字で示したグラフです。

この節の答え

忘却曲線は「忘れる速さ」より「覚え直しが速い」証拠

今日からのやり方

  1. 今日覚える英単語を10個えらび、例文を1つずつノートかアプリに書く
  2. その日の夜、答えを隠して10個を英語→日本語、日本語→英語で言ってみる
  3. 言えなかった単語に印をつけ、翌日にもう一度だけ確かめる
  4. 3日後・1週間後・約1か月後の復習日をカレンダーに入れる
  5. 復習で言えた単語は間隔をのばし、言えない単語は間隔を縮める

レベル別:あなたならこうする

初級 A1〜A2

1日5〜10語で十分です。英語を見て日本語の意味が言えたら合格にし、その日の夜と翌日に1回ずつ確認します。忘れても「覚え直しは速い」と考えて、気にせず回します。

中級 B1

単語帳を1周ずつ完璧にするより、1日の範囲を決めて、翌日・3日後・1週間後に戻る回し方に変えます。例文の空欄を埋める形で確認すると、読むだけでなく使える語になります。

上級 B2〜

1か月以上放っておいた語は「ほぼ一から」になりがちです。資格試験の語彙は月に1回の総点検日を作り、言えない語だけを SRS(間隔反復のアプリ)に戻します。

よくある失敗と対策

「1日で74%忘れる」と思いこむ

縦軸は節約率で、頭に残っている量ではありません。数字に振り回されず、「最初の1日のうちに1回復習する」という使える教訓だけを持ち帰ります。

忘れたら最初からやり直す

一度覚えた記憶には跡が残っています。忘れた単語も、例文を見て思い出す→隠して言う、の短い覚え直しで戻ってきます。

復習を1か月後にまとめてやる

間があきすぎると、覚え直しの手間が大きくなります。1回目の復習は、覚えた日の夜か翌日に入れます。

TODAY
1 MIN

昨日覚えた英単語を5つ、答えを隠して言えるか試す

友だちに出したい、この節の3問

タップで答え。「X で出題する」で、そのまま問題として出せます。

1-1忘却曲線のエビングハウスは、誰を被験者にしたの?

被験者は本人ひとりです。意味のない綴りを13個並べた列を、間違えずに2回続けて言えるまで覚え、時間をおいて覚え直すのにかかる手間を、何度もくり返し測りました。

X で出題する

1-1忘却曲線の縦軸は「覚えている割合」?

いいえ。覚え直すときに、最初より何%手間が省けたかを示す「節約率」です。1日後の33.7%は「覚え直しに最初の約3分の2の手間がかかった」という意味で、「66%忘れた」ではありません。

X で出題する

1-1エビングハウスの忘却曲線、130年後に再現実験はされたの?

2015年に Murre と Dros が同じ方法で再現し、曲線の形はよく似ていました。ちがいは31日後の節約率が4.1%と低かったこと。また1日後の値が9時間後より高く、睡眠との関係が考えられています。

X で出題する

X でポストLINEB!

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使えるサイト・アプリ

動画で学ぶ

記憶はどう作られ、どう失われる?TED-Ed|How memories form and how we lose them - Catharine Young
記憶の仕組みを知って暗記上手にCrashCourse|Memory: Crash Course Study Skills #3

もっと詳しく(コラム)

この節の根拠(研究・公式情報)

13個の無意味な綴りの列を、間違えずに2回言えるまで覚え、時間をおいて覚え直す手間を比べた。1日後でも約3分の1、31日後でも約5分の1の手間が省けた。

Ebbinghaus, H. (1913). Memory: A contribution to experimental psychology (H. A. Ruger & C. E. Bussenius, Trans.). Teachers College, Columbia University. (Original work published 1885)出典を開く ↗

1人の被験者が約70時間かけて再現。曲線の形はほぼ一致したが、31日後の節約率は4.1%と低かった。1日後に節約率が上がる点があり、睡眠との関係が示唆された。

Murre, J. M. J., & Dros, J. (2015). Replication and analysis of Ebbinghaus' forgetting curve. PLoS ONE, 10(7), e0120644.出典を開く ↗

よくある質問

忘却曲線はウソなのですか?

ウソではありません。2015年の再現実験でも、曲線の形はよく似ていました。間違っているのは、節約率を「覚えている割合」と読み替えた説明のほうです。

意味のある英文なら忘れにくいのでは?

エビングハウスはわざと意味のない綴りを使ったので、英単語や英文とは条件が違います。意味や場面とつなげられる分、有利になる余地はあります。ただ「何%忘れにくいか」を示す確かな数字はないので、復習の計画は必要です。

何回復習すれば一生忘れませんか?

「何回で一生」という確かな数字はありません。読む・聞く・話す中でくり返し出会い、そのたびに思い出す状態を作ることが、長く残すいちばんの近道です。