第1章|記憶の科学1-2間隔反復:忘れかけたころに復習する覚えた直後の復習は早すぎる。ベストな間隔は「いつまで覚えたいか」で決まる

テストの前日に単語を50個詰めこむ。翌朝のテストでは、そこそこ点が取れる。でも1か月後には、ほとんど言えない。復習の間隔と記憶の長さの関係を、1,350人以上で確かめた実験があります。覚えたのは雑学、復習までの間隔は最大3.5か月、最後のテストは最大1年後。わかったのは、「ちょうどいい間隔」は、どれだけ先まで覚えておきたいかで変わるということでした。では、1年後の入試に向けた単語は、何日あけて復習すればよいのか。
この節の目次(6項目)
01一夜漬けが「効いた気がする」わけ
テストの前日に単語を50個詰めこむ。翌朝のテストでは、そこそこ点が取れる。でも1か月後には、ほとんど言えない。多くの人が経験していることです。
同じ回数だけ練習するとき、時間を詰めてまとめてやることを集中学習、日をあけて分けてやることを分散学習といいます。分散学習のほうが長く残ることは古くから知られていて、たくさんの実験でくり返し確かめられてきました。
2006年、Cepeda らは、この効果を調べた研究を集めて分析しました(メタ分析)。集めたのは184本の論文、317の実験、839の比較です。分析からわかったのは、次の2点です。
- 練習をまとめるより、分けたほうが、あとのテストの成績がよい
- 最適な間隔は、どれだけ先まで覚えておきたいかによって変わる。先のテストほど、間隔を長くとったほうがよい
一夜漬けが「効いた気がする」のは、翌日のテストまでの期間がとても短いからです。短い期間なら、詰めこみでもそれなりに通用します。でも英語は、翌日のテストのためではなく、何年も使うために覚えるもの。詰めこみで手に入るのは、「翌日まで持つ記憶」だけです。
021,350人の実験が示した「ちょうどいい間隔」
Cepeda ら(2008)は、さらに大きな実験をしました。1,350人以上の参加者に、あまり知られていない事実(雑学)を覚えてもらい、最大3.5か月の間隔をあけて1回復習させます。最後のテストは、復習から最大1年後です。
結果はこうでした。
- 間隔を広げると、最初は成績が上がり、ある点をこえるとゆっくり下がる。つまり「ちょうどいい間隔」がある
- テストが先になるほど、ちょうどいい間隔も長くなる
- テストまでの期間に対する割合で見ると、1週間後のテストなら期間の約20〜40%、1年後のテストなら約5〜10%の間隔が最もよかった
この割合を、英語学習の場面に当てはめて計算してみます。
| 覚えておきたい期間 | 復習までの間隔の目安 |
|---|---|
| 1週間後の小テスト | 1.5〜3日ほど |
| 1年後の入試・検定 | 2.5〜5週間ほど(1年の5〜10%) |
ポイント:材料は英単語ではなく雑学で、復習も1回だけでした。表の数字は「このくらいの幅」という目安として使い、ぴったりの日付にこだわる必要はありません。
この研究からいちばん持ち帰りたいのは、覚えた直後の復習は、長く残すためにはあまり役立たないということです。覚えた5分後に10回くり返すより、日をあけて1回思い出すほうが、先々まで残ります。研究者たちは、この結果から見ると、いまの多くの教育のやり方はとても非効率だと述べています。
03大事なのは間隔の「広げ方」より「あけること」
間隔反復の説明では「1日後、3日後、1週間後…と、だんだん間隔を広げるのがよい」とよく言われます。これは本当でしょうか。
Karpicke と Bauernschmidt(2011)は、まず単語のペアを全部言えるようになるまで学ばせ、そのあと3回の「思い出す練習」を、いろいろな間隔のパターンで行わせました。
- だんだん広げる
- 同じ間隔
- だんだん縮める
- 間隔なし(続けて3回)
結果、間隔の合計を長くとるほど、長期の成績が大きく伸びました。長い間隔をあけて思い出した場合、間隔なしで3回続けて思い出した場合に比べて、成績が200%上がった(約3倍になった)のです。一方で、「広げる・同じ・縮める」のどれが一番かについては、はっきりした差が見られませんでした。
ここから、次のことが言えます。
- アプリの細かい計算方法に悩むより、とにかく日をあけて思い出すことが大事
- 復習の予定日を1日すぎても、気にしなくていい。間があくこと自体は損ではない
- だんだん広げるスケジュールは、効果が特別に高いというより、復習の回数を減らせる点で続けやすい
「間隔反復」の本体は、凝ったスケジュールではありません。間をあけることと、思い出すことの2つです。
04SRSアプリは「忘れかけ」を計算してくれる
SRS(Spaced Repetition System、間隔反復システム)は、この考え方を自動でやってくれるしくみです。カードを見て、思い出せたかどうかを自分で答えると、次にいつそのカードを出すかをアプリが決めてくれます。
代表的なのが Anki です。2026年10月時点の公式情報では、パソコン版と Android 版(AnkiDroid)は無料、iPhone 版(AnkiMobile)は有料です。Anki 23.10 以降は、FSRS という計算方式を選べます。FSRS では「復習のときに思い出せる確率」を目標として決めるしくみで、その初期値は90%です。
SRS を使うときのコツは4つです。
- 1枚に1つのことだけ。 「reluctant = 気が進まない」の1点にしぼる
- 例文と音声をつける。 単語だけより、文の中で思い出すほうが実際に使える
- 答えを見る前に、声に出して言う。 頭の中の「なんとなく」は、思い出したことにならない
- 1日の新しいカードの数を決める。 新しいカードを増やしすぎると、数日後に復習の山がやってくる
カードの例です。
- 表:She was ______ to admit her mistake.(彼女は自分の間違いを認めたがらなかった)
- 裏:reluctant
英語大全の「単語SRS」も、同じ考え方で作ってあります。アプリを入れる前に、まずブラウザで試すこともできます。
05単語・文法・リスニングでの間隔反復
単語:単語帳を「1日目は1〜100番、2日目は101〜200番」と前に進むだけだと、100番の単語に戻るのは何週間も先になります。新しい範囲に進む前に、前日・3日前・1週間前の範囲を短く確認する形にすると、自然に間隔があきます。
文法:参考書を1章ずつ終わらせるだけでは、前の章の内容が抜けていくのは避けられません。章ごとに大事な例文を2〜3文えらんでカードにし、SRS に入れておきます。
- If I had more time, I would study abroad.(もっと時間があれば、留学するのに)
- I have lived in Osaka since 2020.(2020年から大阪に住んでいます)
カードには日本語を表に書き、英文を言えるかを試します。
リスニング:一度聞いて分かった音声も、1週間後に聞き直すと、また聞き取れない部分が出てきます。聞き取れなかった1文を、音声つきでカードにします。聞いて書き取る(ディクテーション)形にすると、音の記憶もはっきりします。
- I'd rather not talk about it right now.(今はその話はしたくないな)
このように、くり返し聞きたい1文を「その日のうちに」ではなく「数日後にもう一度」聞く形にするだけで、リスニングも間隔反復になります。
061日15分のメニュー例
間隔反復は、長い時間がなくても始められます。1日15分の例です。
| 時間 | やること |
|---|---|
| 5分 | SRS の「今日の復習」を片づける(声に出して答える) |
| 5分 | 新しい単語を5〜10個、例文つきでカードにする |
| 5分 | 1週間前に聞いた音声を1回聞き直し、聞き取れない1文をカードにする |
休みの日にまとめて1時間やるより、毎日15分のほうが分散学習の形になります。
忙しい日は「復習だけ」でかまいません。新しいカードは止めても、復習は止めない。これが続けるためのいちばんのルールです。復習がたまってしまったら、新しいカードをしばらくゼロにして、復習の山を減らすことを優先します。
同じ回数でも、日をあけて思い出すだけで長く残る
今日からのやり方
- 覚えたい英単語と例文を、SRS アプリか紙の単語カードに入れる
- 1日の新しいカードの数を5〜10枚に決めておく
- 毎日、答えを見る前に声に出して答え、思い出せたかを正直に記録する
- 単語帳は前日・3日前・1週間前の範囲を確認してから新しい範囲に進む
- 忙しい日は新しいカードを止めて、復習だけは続ける
レベル別:あなたならこうする
紙の単語カードでも間隔反復はできます。箱を3つ用意し、言えたカードは隣の箱へ。1つめの箱は毎日、2つめは3日ごと、3つめは1週間ごとに見ます。新しいカードは1日5枚から始めます。
単語帳を「前日・3日前・1週間前の範囲を確認してから進む」回し方に変えます。文法の例文もカードにして、日本語を見て英文が言えるかを、日をあけて確かめます。
Anki などで例文と音声つきのカードを作ります。FSRS の目標の記憶率は初期値の90%でまず1か月試し、復習量と相談して調整します。新規カードより復習の消化を優先します。
よくある失敗と対策
直後のくり返しは、その場では覚えた気になりますが、長くは残りにくいです。回数を減らし、翌日や数日後に分けて思い出します。
数日後に復習が雪だるま式に増えて、続かなくなります。新規は1日5〜10枚に決め、復習を先に片づけます。
研究では、間隔のパターンより「日をあけて思い出すこと」自体が効いていました。1日遅れても気にせず、その日の分から再開します。
1 MIN
今日の英単語を5つ、例文つきでカードかSRSアプリに入れる
友だちに出したい、この節の3問
タップで答え。「X で出題する」で、そのまま問題として出せます。
1-2間隔をあけて復習するとき、間隔に決まった「正解」はある?
1つの正解はありません。Cepeda ら(2008)では、最適な間隔はテストまでの期間で変わりました。1週間後のテストなら期間の約20〜40%、1年後なら約5〜10%の間隔が最もよい成績でした。
1-2間隔反復の復習、間隔は少しずつ広げるのが最強?
Karpicke と Bauernschmidt(2011)では、広げる・同じ・縮めるの差は見られませんでした。効いたのは間隔の合計の長さで、長くあけた想起は、間隔なしより長期の成績を200%高めました。
1-2分けて練習する「分散学習」、効果はどれだけ確かなの?
Cepeda ら(2006)は、184本の論文・317の実験・839の比較をまとめて分析しました。まとめて練習するより分けて練習するほうが長く残るという結果は、心理学でも特に確かな発見のひとつです。
PRACTICE KIT
この節の実践キット
このサイトで練習する
原田英語のサイトで練習する
使えるサイト・アプリ
動画で学ぶ
もっと詳しく(コラム)
この節の根拠(研究・公式情報)
184本の論文・317の実験・839の比較を分析。分散学習は集中学習より成績がよく、最適な間隔は覚えておく期間が長いほど長くなることを示した。
Cepeda, N. J., Pashler, H., Vul, E., Wixted, J. T., & Rohrer, D. (2006). Distributed practice in verbal recall tasks: A review and quantitative synthesis. Psychological Bulletin, 132(3), 354–380.出典を開く ↗1,350人以上が雑学を学び、最大3.5か月後に復習、最大1年後にテスト。最適な間隔はテストまでの期間の約20〜40%(1週間)から約5〜10%(1年)へと割合が下がった。
Cepeda, N. J., Vul, E., Rohrer, D., Wixted, J. T., & Pashler, H. (2008). Spacing effects in learning: A temporal ridgeline of optimal retention. Psychological Science, 19(11), 1095–1102.出典を開く ↗3回の想起練習の間隔を比較。間隔の合計を長くすると長期の成績が大きく伸び、間隔なしより200%向上した。広げる・均等・縮めるの間に差は見られなかった。
Karpicke, J. D., & Bauernschmidt, A. (2011). Spaced retrieval: Absolute spacing enhances learning regardless of relative spacing. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 37(5), 1250–1257.出典を開く ↗Anki 23.10 以降は FSRS を使える。目標の記憶率(desired retention)は復習時に思い出せる確率で、初期値は90%と説明されている。
Anki Manual: Deck Options(Anki 公式マニュアル、2026年10月確認)出典を開く ↗よくある質問
SRSアプリと紙の単語カード、どちらがいい?
原理は同じです。アプリは次の復習日を自動で決めてくれ、音声もつけられます。紙はスマホを使えない場面でも使えます。続けやすいほうを選び、どちらでも「答えを隠して言う」を守ります。
復習の間隔はぴったり守るべき?
ぴったりでなくてかまいません。Karpicke と Bauernschmidt(2011)の実験では、間隔の広げ方の違いより、間をあけて思い出すこと自体が大きく効いていました。
1週間後のテストにも間隔反復は効く?
効きます。Cepeda ら(2008)の結果を当てはめると、1週間後のテストなら1.5〜3日ほどあけた復習が最適の範囲です。前日の詰めこみより、今日と3日後に分けるほうが有利です。



