第1章|記憶の科学1-3想起練習:読み返すより『思い出す』4回読むより、1回読んで3回思い出す。1週間後の差は40%対61%

2006年、アメリカの大学生たちが、科学の短い文章を覚える実験に参加しました。ある組は4回読み、別の組は1回読んだあと、文章を見ずに3回書き出しました。5分後のテストでは、4回読んだ組が83%で勝ちます。ところが1週間後、その組は40%まで落ち、書き出した組は61%。しかも「覚えていられる」という自信が高かったのは、4回読んだ組のほうでした。何が順位をひっくり返したのか。
この節の目次(6項目)
014回読むより、1回読んで3回思い出す
2006年、アメリカの Roediger と Karpicke は、大学生に科学の短い文章を覚えてもらう実験をしました。5分ずつの学習時間を4回とり、その使い方を3通りに分けました。
- 4回読む(読む・読む・読む・読む)
- 3回読んで1回思い出す(読む・読む・読む・書き出す)
- 1回読んで3回思い出す(読む・書き出す・書き出す・書き出す)
「書き出す」は、文章を見ずに、覚えていることを全部書く練習です。答え合わせはしません。
結果は次のとおりでした(文章の内容を思い出せた割合)。
| 条件 | 5分後のテスト | 1週間後のテスト |
|---|---|---|
| 4回読む | 83% | 40% |
| 3回読んで1回思い出す | 78% | 56% |
| 1回読んで3回思い出す | 71% | 61% |
5分後のテストでは、たくさん読んだ人が勝ちました。ところが1週間後には、順位が完全に逆転しました。4回読んだ人が文章を読み通した回数は、合計14回ほど。それなのに、約3.4回しか読んでいない「1回読んで3回思い出す」人に負けたのです。
もう1つ大事な結果があります。4回読んだ人たちは「1週間後も覚えていられる」という自信が、ほかの人たちより高かったのです。読み返しは、自信を増やすわりに、記憶はあまり増やさない。この「自信と実力のズレ」は、「わかったつもりの罠」の節でくわしく扱います。
02単語では「一度言えたら終わり」が危ない
Karpicke と Roediger(2008)は、外国語の単語(スワヒリ語と英語の組)で実験しました。焦点は、一度正しく言えた単語を、そのあとどう扱うかです。
- 言えた単語も、引き続き「思い出す練習」を続ける
- 言えた単語は、読むだけにする(思い出す練習はやめる)
1週間後のテストでは、思い出す練習を続けた条件が約80%、一度思い出せたら練習をやめた条件は約35%でした。言えたあとに読み直しを続けても、あとの成績はほとんど変わらなかったのです。
さらに、学生たちが予想した「自分はどれだけ覚えているか」は、実際の成績と関係がありませんでした。どの条件の学生も、だいたい半分くらいは覚えていると予想していたのです。
なお、2016年の Soderstrom らの追試では、実験の組み方を変えて復習の間隔の差をそろえると、読み直しにも効果が出ました。読み直しが無意味なのではありません。それでも、思い出す練習が記憶を強くするという結果は、同じ論文の中でも再現されています。
英単語に置きかえると、こうなります。単語帳で一度「言えた」単語に印をつけて、二度と見ない。これは損なやり方です。言えた単語も、日をあけてもう一度思い出すことで、本当に残る単語になります。
03暗記だけでなく「理解」にも効く
「思い出す練習は、丸暗記にしか効かないのでは?」。この疑問に答えたのが、Karpicke と Blunt(2011)の研究です。理科の文章を、2つのやり方で学ばせて比べました。
- 思い出す練習(文章を見ずに書き出す)で学ぶ
- 概念マップ(キーワードを線でつないだ図)を作りながら学ぶ
概念マップは、「深く理解する」ための勉強法として学校でもよく使われています。
結果は、思い出す練習のほうが成績がよいというものでした。しかも、ただ覚えているかを問う問題だけでなく、文章に書かれていないことを推論する問題でも上回りました。最後のテストが「概念マップを作る」形でも、思い出す練習のほうが上だったのです。
英語の長文に置きかえると、読んだあとに「本文を見ずに、要点を3文で書く」練習は、図を丁寧に作るよりも、内容の理解を残すのに役立つ可能性があります。理科の文章での結果なので、英語の長文で同じ大きさの差が出るとまでは言えませんが、試す価値は十分にあります。
04英単語での使い方:4段階の思い出し方
英単語の想起練習は、やさしい順に4段階あります。
- 英語→日本語:reluctant を見て「気が進まない」と言う
- 日本語→英語:「気が進まない」を見て reluctant と言う
- 例文の空欄:She was ______ to admit her mistake. に reluctant を入れる
- 自分の文を作る:I'm reluctant to get up early on Sundays.(日曜に早起きするのは気が進まない)
1だけで終わる人が多いのですが、話す・書くで使うには2〜4が必要です。最初は1と2、慣れてきたら3と4に進みます。
コツは、答えを見る前に、必ず声に出すか書くことです。頭の中で「たぶん分かる」と思ってページをめくるのは、思い出す練習になっていません。思い出せなかったら答えを見て、もう一度隠して言う。これで1回です。
単語カードを作るときも、表を英語だけにせず、日本語や例文の空欄を表にしたカードを混ぜておくと、2〜3の段階の練習が自然にできます。
05文法・リスニング・長文での使い方
文法:解説を読んで「なるほど」と思ったら、ページを閉じて、例文を自分で言えるかを試します。
- 日本語:もし時間があったら、手伝うのに。
- 英語:If I had time, I would help you.
日本語を見て英文を言う練習は「瞬間英作文」とも呼ばれます。文法のルールを「説明できる」ことと、「その文を作れる」ことは別の力です。
リスニング:音声を聞いたら、スクリプトを見る前に、次の2つをやります。
- 聞こえた内容を、日本語か英語で3文にまとめる
- いちばん印象に残った1文を、思い出して書いてみる
そのあとでスクリプトを見て答え合わせをします。聞きっぱなしにせず、一度思い出すことで、内容も表現も残りやすくなります。
- 聞いた文:I was going to call you, but I got caught up in a meeting.
- 思い出して書いた文:I was going to call you, but I ... meeting.
抜けた部分(got caught up in:〜にかかりきりになった)が、次に覚える表現です。
長文読解:読み終えたら本を閉じ、白い紙に覚えていることを全部書きます。Karpicke と Blunt の実験の「思い出す練習」は、この形に近いものです。
06効果を上げる3つのルール
1. 選ぶより、自分で出す。 Rowland(2014)のメタ分析では、選択肢から選ぶテストより、自分で答えを思い出すテストのほうが、テストによる学習効果が大きいという結果でした。4択の単語アプリだけで済ませず、自分で言う・書く練習をまぜます。
2. 答え合わせを必ずする。 思い出したら、すぐ正しい答えを確かめます。間違えたまま次へ進むと、正しい形を覚え直す機会を逃します。「思い出す→答えを見る→もう一度言う」をセットにします。
3. 日をあけて思い出す。 想起練習は、前の節の間隔反復と組み合わせると効果が大きくなります。Karpicke と Bauernschmidt(2011)でも、間をあけて思い出したほうが長期の成績がずっとよくなりました。今日覚えたことは、今日だけでなく、翌日や3日後にも思い出します。
ポイント:ここでいう「テスト」は、点数をつける試験ではありません。自分に問いかけて答えを出す、ひとりでできる練習です。間違えても誰にも迷惑はかかりません。むしろ、思い出せなかったところが、次に練習する場所を教えてくれます。
思い出すこと自体が、記憶をいちばん強くする練習
今日からのやり方
- 教科書や単語帳を1回読んだら閉じて、覚えていることを30秒声に出す
- 単語は英→日だけでなく、日→英と例文の空欄埋めでも答える
- 答える前に必ず声に出すか書き、そのあとで答えを見る
- 言えなかったものは答えを見て、もう一度隠して言い直す
- 翌日と3日後に、同じものをもう一度思い出す
レベル別:あなたならこうする
教科書の本文を1文読んだら、見ないで言ってみます。単語は英語→日本語から始め、慣れたら日本語→英語へ。間違えても気にせず、答えを見てもう一度言い直します。
長文を読んだら本を閉じて、要点を日本語か英語で3文書きます。文法は例文の日本語を見て英文を言う練習を毎日5文。単語アプリの4択だけで終わらせないようにします。
記事やポッドキャストのあと、内容を英語で1分間要約して録音します。言えなかった表現をスクリプトから探してカードにし、翌日また思い出します。
よくある失敗と対策
見ながらの確認は、思い出す練習になりません。答えを隠し、声に出してから答え合わせをします。
Karpicke と Roediger(2008)では、言えたあとも思い出す練習を続けた条件が1週間後に大きく上回りました。日をあけて何度か思い出します。
選ぶより自分で答えを出すほうが効果が大きいという分析があります。4択は入口にして、日本語から英語を言う・書く練習を足します。
1 MIN
昨日学んだ英文を3つ、何も見ずに書き出してみる
友だちに出したい、この節の3問
タップで答え。「X で出題する」で、そのまま問題として出せます。
1-3読み返すより「思い出す」練習、直後のテストでも勝つの?
いいえ。Roediger と Karpicke(2006)では、5分後のテストは4回読んだ人が上(83%対71%)でした。1週間後に逆転して40%対61%に。だから多くの人が、思い出す練習の効き目を実感しにくいのです。
1-3一度言えた単語は、もう練習しなくていい?
Karpicke と Roediger(2008)では、言えた単語も思い出す練習を続けた条件は1週間後に約80%、一度言えたら練習をやめた条件は約35%でした。言えたあとの読み直しには、ほとんど効果がありませんでした。
1-3覚えるためのテスト、選んで答えるのと自分で答えるの、どちらが効く?
Rowland(2014)のメタ分析では、選択肢から選ぶテストより、自分で答えを思い出すテストのほうが、学習効果が大きいという結果でした。手間がかかる思い出し方ほど、記憶に効きやすいのです。
PRACTICE KIT
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もっと詳しく(コラム)
この節の根拠(研究・公式情報)
文章を4回読む条件は5分後のテストで強かったが、1週間後は1回読んで3回思い出す条件が61%対40%で上回った。読み返した人ほど自信は高かった。
Roediger, H. L., & Karpicke, J. D. (2006). Test-enhanced learning: Taking memory tests improves long-term retention. Psychological Science, 17(3), 249–255.出典を開く ↗外国語の単語学習で、一度言えた語も思い出す練習を続けると1週間後の成績が大きく上がった。読み直しの追加は効果がなく、学生の予想は実際の成績と無関係だった。
Karpicke, J. D., & Roediger, H. L. (2008). The critical importance of retrieval for learning. Science, 319(5865), 966–968.出典を開く ↗理科の文章で、思い出す練習は概念マップ作りより成績がよかった。推論が必要な問題や、概念マップを作る形のテストでも上回った。
Karpicke, J. D., & Blunt, J. R. (2011). Retrieval practice produces more learning than elaborative studying with concept mapping. Science, 331(6018), 772–775.出典を開く ↗テスト効果の研究をまとめて分析。選択肢から選ぶテストより、自分で思い出すテストのほうが学習効果が大きく、手間のかかる処理が効果に関わっていることを支持した。
Rowland, C. A. (2014). The effect of testing versus restudy on retention: A meta-analytic review of the testing effect. Psychological Bulletin, 140(6), 1432–1463.出典を開く ↗Karpicke と Roediger(2008)の結果を再現した。一方、復習の間隔の差をそろえた実験では、くり返しのテストと読み直しの両方が学習を高めた。
Soderstrom, N. C., Kerr, T. K., & Bjork, R. A. (2016). The critical importance of retrieval—and spacing—for learning. Psychological Science, 27(2), 223–230.出典を開く ↗よくある質問
テストが苦手でも効果はありますか?
ここでいうテストは、点数をつける試験ではなく、自分で思い出す練習のことです。誰にも見せず、間違えてもかまいません。答えを隠して自分に問いかけるだけで十分です。
読むのはやめたほうがいい?
やめる必要はありません。最初に読んで理解しないと、思い出す材料がありません。「1回目は読む、2回目からは思い出す」に切りかえるのがコツです。
どのくらい時間をおいて思い出せばいい?
1回目は覚えた直後でもかまいませんが、長く残したいなら翌日や数日後にも思い出します。間隔のとり方は「間隔反復」の節で説明しています。




