第13章|素材と道具の使いこなし13-5辞書の使い方:英英辞典・コーパス・YouGlish辞書は「意味」を調べる道具ではなく「使い方」を調べる道具だ

「英英辞典を使わないと上達しない」。英語の勉強で、よく言われる言葉です。ところが、英英・英和型・その両方を載せた辞書を123人でくらべた研究では、新しい語を理解して使う助けになる辞書は、だれにとっても同じとは言えませんでした。しかも、どの辞書で意味が分かっても、いざ使うと不自然な英語になることがあります。辞書を引いたとき、意味のほかに何を確かめればよいのでしょうか。
この節の目次(6項目)
01学習者向け英英辞典の4つの名門
英語を学ぶ人のために作られた英英辞典を、学習者向け英英辞典と呼びます。どれもオンラインで無料で引けます(広告が出たり、一部の機能が有料だったりします)。
| 辞書 | 特徴(2026年10月に確認) |
|---|---|
| Cambridge Dictionary | 語や意味ごとにA1〜C2のレベル表示。英国・米国の2つの発音が聞ける。関連語をまとめた「SMART Vocabulary」。英語の定義と日本語訳を並べた英和版もある |
| Oxford Learner's Dictionaries | 学習者がまず知るべき「Oxford 3000」(A1〜B2)と、上級者向けの「Oxford 5000」(B2〜C1)の語に印。語ごとにCEFRレベル |
| Longman(LDOCE Online) | よく使う語に「S2(話し言葉の上位2000語)」「W3(書き言葉の上位3000語)」のような頻度の印。例文の音声がある |
| Britannica Dictionary | 旧 Merriam-Webster Learner's Dictionary。いまは旧サイトを開くと Britannica Dictionary に移る。アメリカ英語の学習辞典 |
どれを使えばいい?
1つに決めてかまいません。迷ったら、レベル表示と英和版がある Cambridge を基本にし、例文や頻度をもっと見たいときに Longman や Oxford を引く、という組み合わせが使いやすいです。
辞書をよく知っている人ほど、1つの辞書を深く使っています。新しい辞書を探すより、1つの辞書のどこに何が書いてあるかを覚えるほうが、引く速さも正確さも上がります。
021語を引くときの「5点チェック」
辞書で単語を引いたら、意味だけで閉じずに、次の5つを見ます。
- どの意味か:意味が複数あるときは、自分が出会った文に合うのはどれか。
- 例文:その意味でどんな文に使われているか。
- 文の形:目的語をとるか(他動詞か自動詞か)、後ろに来る形(to 不定詞か -ing か)。
- 組み合わせ:いっしょによく使われる語(コロケーション)。
- 発音:アクセントの位置と、音声。
例:borrow と lend
「借りる」「貸す」は、意味だけ覚えると混乱しやすい組み合わせです。辞書の例文を見ると、文の形の違いがはっきりします。
- Can I borrow your umbrella?(傘を借りてもいい?)
- Could you lend me your umbrella?(傘を貸してもらえる?)
borrow は「自分が受け取る」側、lend は「相手に渡す」側で、lend は「lend+人+物」の形をとります。この違いは、意味の欄より例文と文の形の欄に書いてあります。
Cambridge Dictionary で borrow を引くと、この意味にA2の印がついています。中学で習う基本の語でも、文の形まで確かめると使える語に変わります。
引いたら1文作る
5点を見たら、その語を使って自分の文を1つ作ります。作った文は単語カードに入れ、数日後に「日本語を見て英文を言う」練習をします。
03英英か英和か:レベルで使い分ける
「英英辞典を使わないと上達しない」と言われることがあります。でも研究を見ると、答えはそう単純ではありません。
英英辞典、英和型の辞書、その両方を載せた辞書を123人でくらべた研究では、新しい語を理解して使う助けになる辞書の種類は、辞書を引く力によって違う可能性が示されました(Laufer & Hadar, 1997)。だれにでも英英がいちばん、とは言えないのです。
おすすめの使い分け
| レベル | おすすめ | 理由 |
|---|---|---|
| 初級(〜英検準2級) | 英和辞典+例文の確認 | 定義の英語が分からないと、引いても理解できない |
| 中級(2級前後) | 英語の定義と日本語訳が並んだ辞書 | 英語の定義に慣れながら、訳で確かめられる |
| 上級(準1級〜) | 学習者向け英英辞典 | 似た語の違い、文の形、ニュアンスが詳しい |
Cambridge Dictionary の英和版は、英語の定義と日本語訳を並べて表示します。中級の人が英英に移るときの橋わたしに向いています。
推測だけに頼らない
「知らない語は文脈から推測しよう」とよく言われます。推測は大事な力ですが、研究では、意味を確かめずに読んだ人は知らない語を飛ばしたり、意味を誤って推測したりしがちでした(Hulstijn ほか, 1996)。推測したら、大事な語だけ辞書で答え合わせ。これで推測の力と正確さの両方が育ちます。
04コロケーションとコーパスで「自然さ」を確かめる
辞書で意味が分かっても、組み合わせを間違えると不自然な英語になります。たとえば「宿題をする」「ミスをする」「決断をする」は、日本語ではどれも「する」ですが、英語では動詞が変わります。
- I did my homework before dinner.(夕食前に宿題をした)
- I made a mistake on the last question.(最後の問題でミスをした)
- She made a quick decision.(彼女はすぐに決断した)
こうした組み合わせをコロケーションと言います。調べるには、コーパス(大量の英文を集めたデータ)が役に立ちます。
SKELL(スケル)
- 学習者と先生向けの無料の道具。登録なしで使える。
- 単語やフレーズを入れると、読みやすい例文を最大40個表示する。
- 「Word sketch」で、その語とよくいっしょに使われる語を種類別にまとめて見られる。
- 「Similar words」で、似た意味の語を表示する。
COCA(コカ)
- 10億語を超えるアメリカ英語のコーパス。1990〜2019年の英文を、テレビ・映画の字幕、話し言葉、小説、雑誌、新聞、学術論文などのジャンル別に集めている。
- ある表現が、会話でよく使われるのか、論文でよく使われるのかを比べられる。
コーパスを使って学ぶ方法の64研究をまとめた分析では、全体として大きな効果が報告されています(Boulton & Cobb, 2017)。ただし、時間をおいても効果が残るかの検証はまだ少ないとされています。使うたびに自分の文に活かして、記憶に残す工夫を足します。
05YouGlishで本物の発音を聞く
辞書の音声は、1語をはっきり読んだものです。実際の会話では、前後の語とつながったり、弱く発音されたりします。そこで使えるのが YouGlish です。
YouGlish に単語やフレーズを入れると、その語を話している YouTube の場面が次々に再生されます。
- アクセント(訛り)で絞れる:アメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダ、アイルランド、スコットランド、ニュージーランド。
- 品詞で絞ったり、話し手の性別で絞ったりもできる。
YouGlishの使い方
- 辞書で発音を確認した語を、YouGlishで検索する。
- 5つの場面を聞いて、辞書の音声とどこが違うかを聞き比べる。
- 気に入った1場面の、その語をふくむ文を3回まねる。
たとえば comfortable や vegetable のように、つづりから想像する音と実際の音がずれる語は、何人もの話し手で聞くと、本当の音がつかめます。フレーズで調べるのもおすすめです。「I was going to」のようなよく使う言い方が、会話の中ではどれだけ短く、つながって発音されるかがよく分かります。
辞書の音声は「お手本」、YouGlishは「実際の会話」。両方を聞くと、聞き取りと発音の両方に効きます。
06辞書を引いたあとが本番
辞書を引いただけでは、数日で忘れてしまいます。引いたあとの使い方で、残り方が変わります。
引いたあとの3ステップ
- 自分の文を1つ作る:例文をまねて、自分の生活の文にする。
- 単語カードに入れる:表に日本語の文、裏に英文。単語1つより、文で入れるほうが使い方ごと覚えられる。
- 思い出す練習をする:翌日、3日後、1週間後に、日本語を見て英文を言う。
引きすぎにも注意
たくさん読む練習(多読)の最中は、1ページに何度も辞書を引くと流れが切れます。
- 多読・多聴:話の理解に必要な語だけ引く。それ以外は印だけつけて先へ。
- 精読・単語の学習:気になった語はていねいに引き、5点チェックをする。
読む目的によって、引く量を変えるのがコツです。
道具の役割分担
| 調べたいこと | 使う道具 |
|---|---|
| 意味・例文・文の形 | 学習者向け英英辞典(または英和) |
| よくある組み合わせ | SKELL、コロケーション辞典 |
| 話し言葉か書き言葉か | COCA |
| 実際の発音 | YouGlish |
| 語源 | 語源辞典 |
1語を全部の道具で調べる必要はありません。迷ったときにどれを開けばいいかが分かっていれば十分です。
意味だけでなく、組み合わせ・文型・発音まで1回で調べる
今日からのやり方
- 学習者向け英英辞典(または英和版)を1つ決め、ブックマークする
- 引いた語は、意味・例文・文の形・組み合わせ・発音の5点を見る
- 組み合わせに迷ったら、SKELLで例文とWord sketchを確かめる
- 発音はYouGlishで5場面を聞き、1つの文を3回まねる
- 自分の例文を作って単語カードに入れ、数日後に思い出す
レベル別:あなたならこうする
英和辞典で意味を確かめたら、必ず例文を1つ読みます。Cambridge Dictionary の英和版で、自分が引いた意味についているA1・A2の印を見ると、まず覚えるべき語かどうかが分かります。
英語の定義と日本語訳が並んだ辞書から、英英へ移っていきます。動詞は文の形、名詞はいっしょに使う動詞を確かめ、迷ったらSKELLで例文を見ます。
学習者向け英英辞典を主に使い、似た語の違いを定義と例文で比べます。COCAで話し言葉と書き言葉の使われ方を比べ、書く英語の自然さを確かめる習慣をつけます。
よくある失敗と対策
意味が複数あるときは、出会った文に合う意味を選びます。そのうえで例文と文の形まで見ると、使える語になります。
定義の英語が難しいうちは、英語の定義と日本語訳が並んだ辞書を使います。慣れてきたら英語の定義を先に読みます。
多読では話の理解に必要な語だけ引き、残りは印をつけて先へ進みます。ていねいに引くのは精読の時間にします。
1 MIN
今日出会った単語を1つ、辞書の5点チェックで引き直す
友だちに出したい、この節の3問
タップで答え。「X で出題する」で、そのまま問題として出せます。
13-5学習者向けの英英辞典は、ネイティブ向けの辞書と何が違う?
ネイティブ向けの辞書とちがい、やさしい語で定義を書き、例文や文型、よく使う語の印を載せています。Cambridge は意味ごとにA1〜C2のレベルまで示しています。
13-5英文を読んでいて出てきた知らない単語、推測すれば十分?
研究では、意味を確かめずに読んだ人は知らない語を飛ばしたり、意味を誤って推測したりしがちでした。辞書や注で意味を確かめると、同じ語に再び出会ったときの学習が生きます。
13-5その英語の言い方が「自然な英語か」を調べる方法はある?
コーパス(大量の英文データ)で、その組み合わせが実際に使われているかを確かめられます。コーパスを使う学び方の64研究をまとめた分析では、全体として大きな効果が報告されています。
PRACTICE KIT
この節の実践キット
このサイトで練習する
原田英語のサイトで練習する
使えるサイト・アプリ
動画で学ぶ
もっと詳しく(コラム)
この節の根拠(研究・公式情報)
英英・英和型・その両方を載せた辞書を123人で比べた。新しい語を理解し使う助けになる辞書の種類は、辞書を引く力によって違う可能性を示した。
Laufer, B., & Hadar, L. (1997). Assessing the effectiveness of monolingual, bilingual, and "bilingualised" dictionaries in the comprehension and production of new words. The Modern Language Journal, 81(2), 189–196.出典を開く ↗意味が与えられない読み手は、知らない語を無視したり意味を誤って推測したりしがちだった。欄外の訳や辞書で意味を確かめると、くり返し出会う効果が生きた。
Hulstijn, J. H., Hollander, M., & Greidanus, T. (1996). Incidental vocabulary learning by advanced foreign language students: The influence of marginal glosses, dictionary use, and reoccurrence of unknown words. The Modern Language Journal, 80(3), 327–339.出典を開く ↗コーパス(大量の英文データ)を使って学ぶ方法の64研究をまとめ、全体として大きな効果を報告。ただし時間をおいた効果の検証はまだ少ないとしている。
Boulton, A., & Cobb, T. (2017). Corpus use in language learning: A meta-analysis. Language Learning, 67(2), 348–393.出典を開く ↗Oxford 3000 は学習者がまず知るべき3,000語でA1〜B2、Oxford 5000 はさらに2,000語を加えB2〜C1。語ごとにCEFRレベルが示される。
Oxford Learner's Dictionaries「The Oxford 3000 and 5000」出典を開く ↗よくある質問
紙の辞書と電子辞書・ネット辞書、どれがいい?
引いたあとに例文を読んで自分の文を作るなら、どれでも効果があります。ネット辞書は音声が聞け、別の道具に移りやすいのが強みです。学校の決まりがあれば、それに従います。
翻訳サービスがあれば辞書は要らない?
翻訳は文の意味をつかむのに便利ですが、1語の意味の幅や文の形、組み合わせは分かりにくいです。自分で英語を書く・話すための語は、辞書で確かめるほうが確実です。
発音記号は読めたほうがいい?
読めると、音声がない場面でも発音を確かめられます。Cambridge Dictionary はすべての見出し語に国際音声記号をつけているので、音声と記号を見比べながら少しずつ覚えると楽です。




