第13章|素材と道具の使いこなし13-6英語の歌で学ぶ歌うと外国語のフレーズが残りやすい。ただし効くのは「覚える」場面

成人60人が、まったく知らないハンガリー語の短いフレーズを15分で学びました。ふつうに話す組、リズムに合わせて話す組、そして歌う組。あとでフレーズを思い出して言うテストをすると、歌った組がほかの組より良い成績でした。好きな洋楽のフレーズがいつのまにか口から出てくるのも、うなずける話です。では、英語の歌を聞き、歌い続けていれば、英語は話せるようになるのでしょうか。
01歌の効果:研究で分かっていること
歌と外国語学習の研究から、確かなことを3つ紹介します。
1. 歌うとフレーズを覚えやすい
成人60人が、まったく知らないハンガリー語の短いフレーズを、「話す」「リズムに合わせて話す」「歌う」の3つの方法で15分学んだ実験があります。歌った組は、フレーズを思い出して言うテストで、ほかの組より良い成績でした。年齢や音楽の経験などの違いでは説明できなかったと報告されています(Ludke ほか, 2014)。
2. 子どもの研究では効果が長く残った
エクアドルのスペイン語を話す子どもが、英語の文章を2週間かけて覚えた研究では、歌で覚えた組が、詩として唱えた組より、暗唱・母音の発音・単語の訳のすべてで上回り、6か月後も差が残りました(Good ほか, 2015)。
3. 聞くだけでも単語は増える
英語の歌を聞くだけでも、単語の音・意味・組み合わせが一部身につきました。同じ歌を聞く回数が多いほど、その語が歌の中で何度も出てくるほど伸びが大きいという結果です(Pavia ほか, 2019)。
まとめると、歌はフレーズや単語を「覚える」場面に強い道具です。メロディとリズムがあると、言葉が頭に残りやすくなります。
02歌の限界:歌だけでは話せない理由
歌の効果は確かですが、言い過ぎは禁物です。研究の多くは、短い期間・少ない人数で、「覚えたフレーズを思い出せるか」を測ったものです。歌で会話ができるようになる、と示した研究ではありません。
歌には、会話とは違う性質もあります。
- リズムと強弱が変わる:メロディに合わせるため、ふだんの会話とは違う場所が強く・長く歌われることがある。
- 語の形がくずれる:短くしたり、省いたりした形がよく出てくる。会話ではあまり使わない言い方もある。
- 言葉が詩的:たとえや遠回しの表現が多く、そのまま日常で使うと不自然になることがある。
- 語彙がかたよる:恋愛や気持ちを表す語は多いが、生活や仕事の語は少なめ。
歌の正しい位置づけ
歌は、英語学習のメインではなく、楽しく覚えるためのサブとして使います。
| 歌が得意なこと | 歌が苦手なこと |
|---|---|
| フレーズを頭に残す | 自然な会話の速さ・リズムを身につける |
| くり返し聞いて耳を慣らす | 自分の言いたいことを組み立てる |
| 英語への意欲を保つ | 正確な文法を身につける |
苦手な部分は、会話の音声教材や音読、話す練習で補います。歌で覚えたフレーズを、会話の練習で使ってみると、両方の良さがつながります。
03学習に向く歌の選び方
どんな歌でも学習に使えるわけではありません。次の5つの基準で選びます。
- 好きな歌:何度もくり返し聞くので、好きでないと続かない。研究でも、聞く回数が多いほど伸びていた。
- テンポがゆっくり〜中くらい:速いラップや早口の歌は、上級者向け。
- 歌声がはっきり:楽器の音が大きすぎず、言葉が聞き取りやすい。
- くり返しが多い:サビ(くり返す部分)が多い歌は、同じ表現に何度も出会える。
- 物語や場面がある:だれが何をしているかが分かる歌は、意味と言葉が結びつきやすい。
歌詞を見る方法
歌詞は、正規の方法で表示します。
- Spotify:無料プランでも有料プランでも、歌詞に対応した曲なら、歌に合わせて歌詞が流れる。すべての曲に歌詞があるわけではない。
- ほかの音楽配信サービスやCDの歌詞カードでも確かめられる。
中高生と保護者へ
歌詞には、大人向けの表現がふくまれる歌もあります。配信サービスには、内容に応じた表示や、そうした曲を制限する設定がある場合があります。子どもが使うときは、家族で設定を確かめておきます。
041曲を教材にする5ステップ
1曲(3〜4分)を、1週間かけて使い切る手順です。
1. 歌詞を見ずに3回聞く(1日目)
聞き取れた単語を書き出します。最初は5〜10語でも十分です。
2. 穴埋めで聞き取る(2日目)
LyricsTraining のような、ミュージックビデオを見ながら歌詞の穴を埋めるサイトを使います。ゲーム感覚で、聞き取りの弱点(どんな音が聞き取れないか)が見えてきます。
3. 歌詞の意味を確かめる(3日目)
正規の歌詞表示で全体を読み、分からない語を辞書で引きます。「なぜこの言葉を選んだのか」を考えると、表現が記憶に残ります。
4. 歌詞を見ながら歌う → 見ずに歌う(4〜5日目)
最初は歌詞を見ながら小さな声で、慣れたら歌詞を見ずに。つながって聞こえる部分(たとえば単語の終わりの音と次の単語の始まりの音)を、そのまままねます。
5. フレーズを自分の文にする(6〜7日目)
歌の中の表現を3つ選び、型を借りて自分の文を作ります。歌詞をそのまま使うのではなく、自分の場面に合わせて言いかえるのがコツです。
たとえば、「ずっと〜を待っていた」という気持ちを歌う表現に出会ったら、こう作りかえます。
- I've been waiting for this concert all year.(このコンサートを1年ずっと待っていた)
- I've been waiting for the summer holidays since April.(4月から夏休みをずっと待っていた)
作った文は単語カードに入れて、ほかの単語と一緒に復習します。
05歌詞の扱い:著作権のルール
歌詞は、曲と同じように著作権で守られた作品です。学習で使うときも、ルールを知っておきます。
していいこと
- 正規の配信サービスや歌詞カードで、歌詞を読む。
- 自分の学習のために、ノートに表現をメモする。日本の著作権法では、個人や家庭内で使うための複製(私的使用)が認められている(著作権法 第30条)。
気をつけること
- 歌詞を丸ごとSNSやブログに載せない。自分の学習記録でも、ネットに公開すると個人の範囲を超える。
- 無断でアップロードされた音源や動画を使わない。著作権を侵害して配信されたものと知りながら録音・録画することは、私的使用でも認められていない。
- 学習記録を公開したいときは、歌詞ではなく、自分で作った例文や感想を書く。
英語大全でも、歌詞はいっさい載せていません。この節の例文は、表現の型だけを借りて新しく作ったものです。
「型を借りる」学び方は一石二鳥
歌詞を写して覚えるより、型を借りて自分の文にするほうが、権利の問題がないうえに、自分で使える英語が増えます。歌は「表現との出会いの場」、覚えた表現は「自分の文で使う」。この2つを分けると、歌の時間が会話の力にもつながります。
06子どもと歌:学習用の歌を入口に
幼児や小学生には、英語の先生が学習のために作った歌がよく合います。くり返しが多く、ことばがはっきりしていて、動作がついているものも多いからです。
子どもの歌の使い方
- 体を動かしながら歌う:手をたたく、指をさす、動作をつける。意味と言葉が結びつきやすい。
- 同じ歌を何度も歌う:子どもが同じ歌を何度も聞きたがるのは、学習には好都合。研究でも、くり返し聞くほど単語が伸びていた。
- 歌のあとに1つ質問する:What color is it?(何色?)のように、歌に出てきた語で短いやり取りをする。
中学生・高校生は「文法の歌」も
不規則動詞の変化や前置詞など、丸暗記が必要な項目を歌にした学習用の歌もあります。リズムに乗せると、覚えにくい並びも頭に残ります。テスト前の暗記の助けとして、短い時間だけ使うと効果的です。
大人のやり直しには「好きな1曲」
大人は、昔よく聞いた洋楽を1曲選ぶのがおすすめです。メロディを覚えている歌なら、言葉の聞き取りと意味の確認に集中できます。1曲を1週間かけて使い切るサイクルを、月に1曲でも続けると、1年で12曲分の表現が手に入ります。
歌は「覚える」に強い。会話の練習とセットで使う
今日からのやり方
- 好きで、ゆっくり〜中くらいのテンポの英語の歌を1曲選ぶ
- 歌詞を見ずに3回聞き、聞き取れた単語を書き出す
- 穴埋めサイトや正規の歌詞表示で、聞き取れなかった部分を確かめる
- 歌詞を見ながら歌い、慣れたら見ずに歌う
- 歌の表現を3つ選び、型を借りて自分の文を作る
レベル別:あなたならこうする
学習者向けに作られた歌や、ゆっくりした歌から始めます。歌詞の意味を日本語で確かめたうえで、サビだけをくり返し歌うところまでで十分です。
好きな洋楽を1曲選び、穴埋めサイトで聞き取りの弱点を探します。歌の中の表現を3つ選び、自分の生活の文に作りかえて単語カードで復習します。
テンポの速い歌や、比喩の多い歌詞にも挑戦します。歌詞の言葉選びの意図を英語で説明してみたり、会話では使わない言い回しを見分けたりする練習にします。
よくある失敗と対策
歌は覚える場面に強い道具です。会話の速さやリズム、文の組み立ては、会話の音声教材や話す練習で補います。
歌詞は著作権で守られた作品です。公開する学習記録には、歌詞ではなく、自分で作った例文や感想を書きます。
最初はテンポがゆっくり〜中くらいで、歌声がはっきりした歌を選びます。速い歌は、聞き取りに慣れてからにします。
1 MIN
好きな英語の歌を1曲決め、歌詞を見ずに1回聞いてみる
友だちに出したい、この節の3問
タップで答え。「X で出題する」で、そのまま問題として出せます。
13-6外国語のフレーズ、歌って覚えると話して覚えるより残る?
成人60人がハンガリー語のフレーズを15分学んだ実験では、「歌う」組が「話す」「リズムで話す」組より、フレーズを思い出して言うテストで良い成績でした。
13-6英語の歌は、聞くだけでも単語が増える?
歌を聞くだけでも単語が一部身につき、同じ歌を聞く回数が多いほど、その語が歌に何度も出てくるほど、伸びが大きかったという研究があります。くり返しが鍵です。
PRACTICE KIT
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もっと詳しく(コラム)
この節の根拠(研究・公式情報)
成人60人がハンガリー語の短いフレーズを「話す」「リズムで話す」「歌う」で15分学習。歌ったグループは、フレーズを思い出して言うテストで成績が良かった。
Ludke, K. M., Ferreira, F., & Overy, K. (2014). Singing can facilitate foreign language learning. Memory & Cognition, 42(1), 41–52.出典を開く ↗エクアドルの子どもが英語の文章を2週間、歌で覚える組と詩として唱える組で比べた。歌の組は暗唱・母音の発音・訳のすべてで上回り、6か月後も差が残った。
Good, A. J., Russo, F. A., & Sullivan, J. (2015). The efficacy of singing in foreign-language learning. Psychology of Music, 43(5), 627–640.出典を開く ↗歌を聞くだけでも単語の音・意味・組み合わせが一部身についた。同じ歌を聞く回数が多いほど、歌の中で語が出てくる回数が多いほど、伸びが大きかった。
Pavia, N., Webb, S., & Faez, F. (2019). Incidental vocabulary learning through listening to songs. Studies in Second Language Acquisition, 41(4), 745–768.出典を開く ↗個人や家庭内などで使うための複製は認められるが、著作権を侵害して配信されたものと知りながら録音・録画することなどは、私的使用でも例外から外れる。
著作権法 第30条(私的使用のための複製)e-Gov 法令検索出典を開く ↗よくある質問
勉強中に英語の歌をBGMにしていい?
歌詞のある歌は、読む・書く作業のじゃまになりやすいです。歌で学ぶ時間と、勉強に集中する時間は分け、集中したいときは歌詞のない音楽か無音にします。
歌の英語は文法がおかしいことがある?
メロディや詩の都合で、短くした形や会話ではあまり使わない言い方が出てくることがあります。気になった表現は辞書で確かめ、会話で使うときは教材の例文を基準にします。
カラオケで英語の歌を歌うのは効果がある?
歌詞を見ながら声に出して歌うのは、フレーズを覚える練習になります。研究でも、歌って覚えたフレーズは思い出しやすいという結果があります。歌ったあとに意味を確かめると、さらに効果的です。




