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第13章|素材と道具の使いこなしコラム2026-09-282026-10-09 更新

コーパスを大学の英語授業で使う方法|DDLの始め方と課題例

「この言い方、英語として自然ですか?」という学生の質問に、辞書だけで答えるのは意外と難しいものです。そんなときに頼りになるのがコーパス(大量の実際の英文を集めたデータベース)です。この記事では、コーパスを大学の英語授業に取り入れるデータ駆動型学習(DDL)の考え方と、初回の授業から使える具体的な手順を紹介します。

01コーパスとDDLとは:学生が「用例の探偵」になる

コーパスとは、新聞・小説・会話・学術論文など、実際に使われた英語を大量に集め、検索できるようにしたデータベースです。代表的なものに、アメリカ英語のCOCA、イギリス英語のBNC、学習者向けに作られたSkELLなどがあります。

このコーパスを学習者自身に検索させ、用例から規則やパターンを発見させる学び方をデータ駆動型学習(DDL:Data-Driven Learning)と呼びます。1990年前後にTim Johnsが提唱した考え方として知られています。

DDLの良いところは、教師が答えを与えるのではなく、学生が証拠をもとに自分で結論を出す点です。

  • 教師:「make a decision と言います」
  • DDL:「decision の前に来る動詞を調べて、多い順に3つ挙げてみよう」

後者では、学生は make だけでなく reach や take も見つけ、「どれが多いか」「どんな文脈で使うか」まで考え始めます。

ポイント:DDLは「コーパスの使い方を教える授業」ではなく、「英語を観察する目を育てる授業」です。

データ駆動型学習(DDL)の入り口にEnglishAustraliaTV|What is data-driven learning? Harnessing language corpora for English language professionals

使い方:データ駆動型学習(DDL)の入り口を解説する講演です。この節の「教師が答えを与える/学生が証拠から結論を出す」の対比を、授業前の打ち合わせ資料にまとめます。

コーパスは英語教育に何をくれるかCambridge University Press ELT|Corpus linguistics: how can it help with English language teaching and learning? With Niall Curry

使い方:コーパス言語学が英語教育に何をもたらすかを扱う動画です。同僚にDDLを提案するとき、教材づくりと学生の自律的な検索の2つの使い道を説明する材料にします。

02最初に使うならSkELL:登録不要で5分で始められる

初めての授業では、学習者向けの無料ツールSkELLがおすすめです。ブラウザで語を入力するだけで、例文・コロケーション・類義語が表示されます。登録が不要なので、スマホでもすぐに使えます。

最初の5分でやる操作

  1. SkELLを開き、検索窓に responsibility と入力する
  2. Examples(例文)タブで40件ほどの例文を眺める
  3. Word sketch タブで、前に来る動詞(take, accept, bear など)を確認する
  4. 「take responsibility for ~」の for の後ろに何が来るかを観察する

学生への指示は短くします。

  • Look at the examples. What verb often comes before "responsibility"?
  • Find two examples you could use in your own essay.

慣れてきたら、COCAのようにジャンル(学術、新聞、会話など)ごとの頻度を比べられるコーパスへ進みます。ジャンル差が見えると、「レポートでは使えるけれど会話では硬い」といった感覚が育ちます。

Word Sketchでコロケーション分析Sketch Engine|Word sketch - analyse collocations in a corpus

使い方:Word Sketch でコロケーションを分析する方法の解説です。SKELLの Word sketch タブを学生に見せる前に、何が表示されるかを確かめておきます。

03授業で使い分けるコーパス・ツール5つと、それぞれの出番

SkELLで慣れたら、目的に応じてツールを足していきます。1回の授業で使うのは1つに絞り、学期の中で順番に紹介するのが無理のない進め方です。

ツール特徴授業での出番
SKELL学習者向けに読みやすい例文を選んで表示する。登録不要初回〜数回目。Examples と Word sketch だけを使い、コロケーションを観察させる
Just the Word語の組み合わせの強さを棒グラフで示す添削記号[C]の確認用。make/do/conduct+research のように、候補を並べて比べさせる
COCAジャンル別(会話・学術など)の頻度がわかる大規模コーパス。無料登録が必要で、無料利用には回数などの制限がある中級以降。添削記号[R]の確認用に、a lot of と many の学術ジャンルでの頻度を比べさせる
Google Books Ngram Viewer表現の使われ方の移り変わりを折れ線グラフで見られる導入の話題づくり。e-mail と email のような変化を見せ、「言葉は変わる」ことを実感させる
AntConc(Laurence Anthony 氏による無料ソフト)自分で集めたテキストの頻度リストやKWICを作れる自作コーパスの課題(この記事の後半の節)で使う

導入の順番の例(15週)

  1. 第2〜4週:SKELLのみ(例文とWord sketch)
  2. 第5〜8週:Just the Word を添削の確認に追加
  3. 第9〜12週:COCAでジャンル別の頻度を確認(登録の手続きは授業内で一緒に行う)
  4. 第13〜15週:希望者・専門の学生向けにAntConcで自作コーパス

COCAなど登録が必要なツールは、学内の個人情報の取り扱いの方針も確認してから課題にしましょう。登録を必須にせず、SKELLで代替できる課題にしておくと公平です。

0490分授業の流れ:コロケーション発見活動の例

大学の90分授業で、DDLを1コマ使う場合の流れの例です。テーマは「レポートで使う動詞と名詞の組み合わせ」です。

  1. 導入(10分):学生の過去のレポートから、不自然な組み合わせを3つ匿名で示す。例:do an effort, make a research, give an influence
  2. 予想(10分):どこが不自然か、ペアで予想を書く
  3. 検索(25分):SkELLやCOCAで effort, research, influence の前に来る動詞を調べ、表にまとめる
  4. 共有(15分):グループごとに発見を1つ発表する。例:「research は conduct や do が多く、make はほとんど出てこなかった」
  5. 応用(20分):見つけた組み合わせを使って、自分の研究テーマについて3文書く
  6. 振り返り(10分):「今日の検索で分かったこと」と「まだ疑問なこと」を1文ずつ書く

大切なのは、検索の前に予想させることです。予想と結果のずれが、記憶に残る学びになります。

コーパスで授業案を組むワークショップPeter Crosthwaite|Corpora and Data-driven learning for ELT lesson planning: Workshop 1, Part 1

使い方:コーパスとDDLで授業案を組むワークショップの録画です。この節の90分の流れと比べ、自分の授業で「予想→検索→共有」に何分ずつ使うかを決めます。

05ライティング添削にコーパスを組み合わせる

コーパスが最も力を発揮するのは、ライティングのフィードバックです。すべての誤りを教師が直すのではなく、「検索すれば直せる誤り」には印だけ付ける方法があります。

添削記号の例

  • [C]:コロケーションを確認しよう(例:strong rain → 検索すると heavy rain が多い)
  • [P]:前置詞を確認しよう(例:discuss about → discuss の直後の語を調べる)
  • [R]:レジスターを確認しよう(例:a lot of → 学術文ではどうか)

学生は[C]や[P]の箇所を自分で検索し、修正案と根拠(検索結果の件数や例文)を書いて再提出します。

この方法には、教師の添削時間を減らしながら、学生が自分で直す力を育てられるという利点があります。ただし、すべての誤りを任せると学生の負担が大きくなるので、1回の課題で印を付けるのは3〜5か所程度にとどめるのが現実的です。

06自作コーパスで専門分野の英語を分析する

理系・社会科学系の学部で英語を教えているなら、学生の専門分野の論文を集めて小さなコーパスを作る活動も効果的です。無料ソフトのAntConcを使えば、自分で集めたテキストの頻度リストやKWIC(検索語を中央に並べた一覧)を作れます。

進め方の例(3週間)

  1. 1週目:各自が専門分野のオープンアクセス論文を5本選び、テキスト形式で保存する(著作権や利用条件は論文ごとに確認する)
  2. 2週目:AntConcで頻度リストを作り、「自分の分野でよく使われる動詞トップ10」を調べる
  3. 3週目:We found that / This suggests that など、結果を述べる表現を集め、自分の要旨を書き直す

一般的な単語帳には載らない、分野特有の言い回しが見えてくるのがこの活動の面白さです。医療系なら patients were enrolled、工学系なら the proposed method outperforms のような表現が見つかるかもしれません。

AntConcを最初に起動したらLaurence Anthony|AntConc 4 (ver. 4.2) - Getting started

使い方:AntConc 4 を最初に起動したときの操作の解説です。自作コーパス課題の1週目の前に見て、頻度リストとKWICを作る手順を学生用の1枚資料にします。

07評価の考え方:検索の「過程」も見る

DDLを成績に反映させる場合、正しい表現を書けたかどうかだけでなく、どう調べてその結論に至ったかも評価の対象にすると、学生の取り組み方が変わります。

検索ログ課題の例

学生に、次の3点を1枚にまとめて提出させます。

  1. 疑問:何が分からなかったか(例:「影響を与える」は give an influence で良いか)
  2. 検索と結果:どのツールで何を検索し、何が分かったか(例:influence の前に来る動詞は have や exert が多く、give はほとんど見当たらなかった)
  3. 結論:自分の文をどう直したか(例:This policy had a strong influence on young voters.)

評価の観点の例

  • 疑問が具体的に書けているか
  • 検索語や条件が適切か
  • 結果を根拠に結論を出しているか

学期に数回この課題を出すと、学生は「分からないときに自分で調べる手順」を身につけていきます。これは授業が終わった後も使える、息の長い力です。

08よくある失敗と、その立て直し方

DDLを導入したときによく起こる失敗と対策をまとめます。

1. 操作説明で授業が終わる

ツールの機能を全部説明しようとすると、学生は疲れてしまいます。1回の授業で使う機能は1つに絞りましょう。

2. 検索結果が多すぎて読めない

何千件もの用例を前に、学生が固まることがあります。「最初の20件だけ見る」「3つのパターンを見つけたら終わり」と、観察の範囲と終わりの条件を決めておきます。

3. 「件数が多い=正解」と思い込む

頻度は大切な手がかりですが、ジャンルや文脈によって適切な表現は変わります。「どのジャンルで多いか」まで確認する習慣をつけさせましょう。

4. 1回で終わってしまう

DDLは続けてこそ力になります。毎回の授業の最初の5分を「今日の1語」の検索時間にするなど、小さく定期的に取り入れるのが長続きのコツです。

まずは次の授業で、学生がよく間違える組み合わせを1つ選び、SkELLで一緒に調べるところから始めてみてください。

コーパス頻度は万能な物差しかTESOLacademic|Is corpus word frequency a good yardstick ...

使い方:コーパスの頻度が物差しとして万能かを問う講演です。「件数が多い=正解」と思い込む学生に向けて、ジャンルを確かめる理由を説明する材料にします。

このコラムで使うサイト・アプリ

もっと見たい人へ

English-Corpora.orgを英語教育にMark Davies|English-Corpora.org: teaching and learning English
AntConc 4をじっくり学ぶ講義LADAL|An Introduction to AntConc 4: L. Anthony LADAL Opening Webinar Series 2021
BNC2014を授業で使う入門UQ School of Languages and Cultures|Using the British National Corpus 2014 in language teaching: Introducing BNClab
コーパス言語学MOOCの紹介Lancaster University|MOOC - Corpus linguistics: method, analysis, interpretation

今日やること

よくある質問

パソコン教室でないとDDLはできませんか?

SkELLはスマホのブラウザでも使えるので、学生の端末で実施できます。端末が使えない場合は、教師が検索した用例を印刷して配る「紙のDDL」から始める方法もあります。

英語が苦手な学生には難しすぎませんか?

用例の数を絞り、観察するポイントを1つに決めれば取り組めます。最初は教師が選んだ10〜20件の例文を見せ、「前に来る語に線を引く」といった単純な作業から始めるとよいでしょう。

コーパスとAIの答えはどう使い分ければよいですか?

AIはもっともらしい説明をしてくれますが、根拠が見えにくいことがあります。コーパスは実際の用例と件数という証拠を示してくれるので、AIの答えを確かめる道具として組み合わせるのがおすすめです。

読了ボーナス

最後まで読んだあなたに、目から鱗をもう1枚

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