第4章|発音と音4-6目指すのはネイティブ発音?訛りが強い=通じない、ではなかった。研究が分けた「わかりやすさ」と「訛り」

「訛りが強い英語は通じない」。多くの人が、なんとなくそう思っています。1995年、カナダの研究者 Munro と Derwing は、英語を母語とする18人に、中国語(北京語)を母語とする10人などの即興の英語を聞かせ、書き取りと、訛りの強さの評価をしてもらいました。「訛りが強い」と評価された発話も、少なくありませんでした。では、その発話は、聞き手に正しく書き取られていたのか。
01発音を測る3つのものさし
「発音がいい」「発音が悪い」と、ひとことで言ってしまいがちです。でも研究では、発音を少なくとも3つのものさしに分けて考えます。
| ものさし | 英語 | 何を測るか |
|---|---|---|
| わかりやすさ | intelligibility | 聞き手が、実際にどれだけ正しく理解できたか |
| 聞きやすさ | comprehensibility | 聞き手が、どれだけ楽に理解できたと感じたか |
| 訛り | accentedness | 聞き手が、どれだけ母語の訛りを感じたか |
intelligibility は、たとえば聞いた英語を書き取ってもらい、正しく書けた語の割合で測ります。comprehensibility と accentedness は、聞き手に「理解しやすさ」「訛りの強さ」を段階で評価してもらいます。
この3つを分けて考えると、次のことが見えてきます。
- 訛りがあっても、正しく理解されることはある
- 正しく理解されていても、聞き手が苦労していることはある
- 訛りが少なくても、強勢やリズムがずれていて分かりにくいことはある
カナダの研究者 Munro と Derwing は、この区別を実際のデータで示し、その後の発音指導の考え方を大きく変えました。
02訛りがあっても通じる、と示したデータ
Munro と Derwing の1995年の研究では、英語を母語とする18人の聞き手が、中国語(北京語)を母語とする10人と、英語を母語とする2人の、即興の英語の発話を聞きました。聞き手は、聞いた発話を書き取り、訛りの強さと理解しやすさを9段階で評価しました。
結果は次のとおりです。
- 発話の多くは正しく書き取られ、理解しやすいとも評価された
- 一方で、訛りの評価は幅広く、「訛りが強い」側に評価された発話も少なくなかった
- 訛りの強さは、発音や文法の誤りとは多くの聞き手で関係していたが、理解しやすさとの関係はそれより少なく、実際のわかりやすさとの関係はさらに少なかった
研究者たちは、訛りの強さは理解しやすさやわかりやすさと関係はあるものの、強い訛りが必ずしもそれらを下げるわけではないとまとめています。
この研究は、中国語話者の英語を英語の母語話者が聞いた、比較的小さな規模のものです。日本語話者の英語や、聞き手が非ネイティブの場合に、そのまま当てはまるとは限りません。それでも「訛り」と「通じるかどうか」を分けて考えるという視点は、その後の多くの研究で引き継がれています。
アメリカの研究者 Levis は2005年、発音指導の考え方を2つに整理しました。
- ネイティブらしさの原則:ネイティブと同じ発音を目指す
- わかりやすさの原則:訛りがあっても、楽に通じることを目指す
そして、学習者の多くにとって現実的で、必要なのは後者だと論じています。
03世界の英語は、非ネイティブ同士の英語
英語を話す人の多くは、英語を母語としない人たちです。国際的なビジネスや旅行、オンラインの交流で、日本人が英語を使う相手も、非ネイティブであることがよくあります。
イギリスの研究者 Jenkins は、非ネイティブ同士の実際のやりとりのデータをもとに、国際共通語としての英語で通じ合うために特に大事な発音の核を提案しました。これが Lingua Franca Core(リンガ・フランカ・コア)です。
核として大事にするもの
- ほとんどの子音(TH と、語末などの暗い L は除く)
- 語頭の p・t・k の後の息(アスピレーション)
- 子音の連続を落とさないこと(母音を足すより、子音を落とすほうが問題が大きいとされる)
- 母音の長さの区別
- 文の中心の強勢の位置
必須ではないとされたもの
- TH の音(別の音での代用を認める)
- 母音の細かい音色
- 機能語の弱形
- 音の連結・脱落・同化
- 単語の強勢
- 声の上がり下がりの細かい動き
- 強勢拍リズム
日本語話者にとって目からうろこなのは、「子音の連続に母音を足すより、子音を落とすほうが問題」という点です。strike を「ストライク」と言うのは英語らしくはありませんが、子音は全部残っています。それよりも、子音そのものを抜かしてしまうほうが、相手は単語を見失いやすいと考えられています。
ただし、Lingua Franca Core には、単語の強勢やイントネーションを必須から外してよいのか、といった批判もあります。「これだけやればよい」というリストではなく、「優先順位を考えるヒント」として使うのがよいでしょう。
04それでも発音を磨く理由
「訛りがあっても通じる」と聞くと、発音は練習しなくてよいように思えるかもしれません。でも、そうではありません。
1. 通じる発音にも、練習が必要
「訛りがあっても通じる」のは、大事なポイントが押さえられている場合です。L と R の区別、母音の区別、強く読む位置、子音を落とさないこと。こうした点がくずれると、実際に通じなくなります。目標を「ネイティブらしさ」から「わかりやすさ」に変えても、練習することは山ほどあります。
2. 聞き手の負担を減らす
正しく理解されていても、聞き手が苦労していることがあります。聞きやすい発音は、会議や電話、プレゼンのように相手の集中力が限られる場面で、とくに大きな差になります。
3. 聞き取りが伸びる
英語の音の区別やリズムを知ることは、聞き取りにも直結します。自分で区別して言える音は、聞き分けやすくなります。L と R の聞き分け訓練で発音も上達した研究があるように、聞くことと話すことはつながっています。
4. ネイティブらしさを目指すのも自由
俳優、通訳、英語教師など、ネイティブに近い発音が役に立つ仕事や目標もあります。「訛りがあってもよい」は「訛りを残さなければならない」という意味ではありません。目標は自分で選んでかまいません。
ポイント:「わかりやすさ」はゴールではなく、最低ライン。その上に何を積むかは、自分の目的で決める。
05自分に合った発音の目標を決める
発音の目標は、英語を使う目的によって変わります。次の表を目安にしてみてください。
| 目的 | 目標の目安 | 優先すること |
|---|---|---|
| 学校の授業・受験 | 音読やリスニングで困らない | 単語の強勢、フォニックス、音の変化の聞き取り |
| 旅行・日常会話 | 1回で通じる | 母音を足しすぎない、強く読む位置、L と R |
| 仕事・会議・プレゼン | 聞き手が楽に理解できる | 文の中心の強勢、区切り方、専門用語の強勢 |
| 英語の先生 | 手本として分かりやすい | 主な音の区別、弱形、リズムの説明ができる |
| 俳優・通訳など | 特定の訛りに近づける | 目標とする地域の音を細かくまねる |
目標を決めるときに大事なのは、「だれに」通じればよいかを考えることです。アメリカの取引先か、アジアの同僚か、試験の採点者か。相手によって、慣れている英語もちがいます。
もう1つ大事なのは、自分の録音を聞いて、実際に通じないところから直すことです。理想の発音像から逆算するより、「聞き返された単語」「書き取ってもらえなかった語」のリストから直すほうが、早く効果が出ます。
06世界の英語に耳を慣らす
目標を「わかりやすさ」に置くと、自分の発音だけでなく、相手の英語を聞き取る力も大切になります。世界の英語は、アメリカ英語とイギリス英語だけではありません。
世界のいろいろな地域の英語に慣れておくと、次のような効果が期待できます。
- 訛りのある英語に出会っても、あわてずに聞ける
- 「英語にはいろいろな音がある」と分かり、自分の訛りへの不安が減る
- 相手に合わせて、言い方や速さを調整する感覚が身につく
Jenkins は、発音の正しさだけでなく、相手に合わせて話し方を調整する力(アコモデーション)も、国際的なやりとりには欠かせないと述べています。
練習のしかた
- 世界の人が同じ英文を読んだ録音を集めたサイトで、いろいろな地域の英語を聞き比べる
- 同じ単語を、アメリカ・イギリス・オーストラリアなどの話し手で聞き比べる
- 聞き取りにくかった訛りは、何がちがうのか(母音、r、t など)をメモする
自分の英語も、世界にたくさんある英語の1つです。「ネイティブのように」ではなく「世界の人に伝わるように」。その視点を持つと、発音練習の迷いがぐっと減ります。
目標は「訛りゼロ」ではなく「楽に通じる」こと
今日からのやり方
- 英語を使う目的と、主に話す相手(だれに通じればよいか)を書き出す
- 目的の表を見て、自分が優先する発音のポイントを3つに絞る
- 自分の英語を録音し、通じにくそうな単語や部分をリストにする
- リストの上から順に、1週間に1〜2個ずつ直していく
- 世界のいろいろな地域の英語を聞き、訛りへの耳を広げる
レベル別:あなたならこうする
まずは「訛りがあっても大丈夫」と知って、声に出す量を増やしましょう。目標は1回で通じること。子音のあとに母音を足しすぎない、強く読む位置を守る、の2つを意識するだけでも変わります。
自分の英語を録音して、通じにくい部分を見つける段階です。L と R、母音、文の中心の強勢など、わかりやすさに関わる点から直しましょう。世界の英語の聞き比べも始めます。
目的に合わせて目標を細かく決めましょう。仕事なら聞き手の負担を減らす話し方、特定の訛りを目指すならその地域の音のまね。相手に合わせて話し方を調整する力も磨きます。
よくある失敗と対策
訛りがあっても通じることは研究で示されています。完璧を待つより、通じる発音で話す経験を積むほうが、発音も会話力も伸びます。
通じるためには、L と R や強勢など押さえるべき点があります。目標を「わかりやすさ」に変えても、それを満たす練習は欠かせません。
どちらを手本にしても通じます。1つに決めて練習し、ほかの英語は聞き取れるように慣れておけば十分です。迷う時間を練習に回しましょう。
1 MIN
英語を使う相手と目的を書き、優先して直す発音のポイントを3つ決める
友だちに出したい、この節の3問
タップで答え。「X で出題する」で、そのまま問題として出せます。
4-6英語の訛りが強いと、本当に通じないの?
中国語話者の英語を英語の母語話者が聞いた研究では、多くの発話が正確に書き取られ、分かりやすいと評価されました。一方で訛りの評価は幅広く、強い訛りと判定された発話も少なくありませんでした。
4-6英語の発音で「通じる」と「聞きやすい」は同じ?
ちがいます。研究では、実際に正しく理解できたか(intelligibility)と、聞き手が楽に理解できたと感じるか(comprehensibility)を分けて測ります。正しく伝わっていても、聞き手に負担がかかっていることがあります。
4-6非ネイティブ同士の英語で、大事な発音はどれ?
国際共通語としての英語を研究した Jenkins は、非ネイティブ同士のやりとりで大事な発音の核(Lingua Franca Core)を提案しました。TH や単語の強勢、弱形などは、その必須項目に入っていません。
PRACTICE KIT
この節の実践キット
このサイトで練習する
原田英語のサイトで練習する
使えるサイト・アプリ
動画で学ぶ
もっと詳しく(コラム)
この節の根拠(研究・公式情報)
英語母語話者18人が中国語話者10人などの発話を評価。多くは正確に書き取られ理解しやすいと評価されたが、訛りの評価は幅広かった。強い訛りが必ずしも理解を下げるわけではなかった。
Munro, M. J., & Derwing, T. M. (1995). Foreign accent, comprehensibility, and intelligibility in the speech of second language learners. Language Learning, 45(1), 73–97.出典を開く ↗発音指導は、相互のわかりやすさを第一に考えるべきだと論じ、訛りの社会的な影響にも配慮しながら、研究にもとづいて指導の優先順位を決めることを提案した。
Derwing, T. M., & Munro, M. J. (2005). Second language accent and pronunciation teaching: A research-based approach. TESOL Quarterly, 39(3), 379–397.出典を開く ↗発音指導の考え方を「ネイティブらしさの原則」と「わかりやすさの原則」に整理し、後者を重視する流れを示した。
Levis, J. M. (2005). Changing contexts and shifting paradigms in pronunciation teaching. TESOL Quarterly, 39(3), 369–377.出典を開く ↗非ネイティブ同士のやりとりのデータをもとに、国際英語の発音の核(Lingua Franca Core)を提案。相手に合わせて調整する力の重要性も論じた。
Jenkins, J. (2002). A sociolinguistically based, empirically researched pronunciation syllabus for English as an International Language. Applied Linguistics, 23(1), 83–103.出典を開く ↗よくある質問
アメリカ英語とイギリス英語、どちらを目指すべき?
どちらでも通じます。好きな俳優や使っている教材、行きたい国などで1つ選び、それを手本にしましょう。大事なのは、手本を決めて一貫して練習することと、ほかの英語も聞き取れるように慣れておくことです。
大人になってからネイティブ発音は無理ですか?
ネイティブと区別がつかない発音にどこまで近づけるかは個人差が大きく、だれもが到達できるとは限りません。ただ、わかりやすさや聞きやすさは、大人になってからでも練習で伸ばせます。まずはそこを目標にするのが現実的です。
Lingua Franca Core だけ練習すればいい?
優先順位のヒントにはなりますが、それだけで十分とは限りません。ネイティブと話す機会が多い人や、試験を受ける人には、単語の強勢や音の変化も大切です。目的に合わせて使い分けましょう。




