『ネイティブ発音じゃないと通じない』は本当?訛りが強くても、聞き取りはほぼ正確だった。発音のゴールは“通じる”

中国語を母語とする10人が、自由に英語で話しました。その録音を英語のネイティブ18人が聞き、聞こえた言葉を書き取り、訛りの強さを9段階で評価します。すると、「強い訛り」の側に評価された発話もかなりあったのに、多くの発話は正確に書き取られていました。訛りが強いことと、通じないことは、同じではなかったのです。では、通じやすさを本当に左右しているのは、発音のどこなのか。
この節の目次(7項目)
01よく聞く主張:「ネイティブ発音でないと通じない」
英会話の広告では「ネイティブ発音」という言葉がよく使われます。学校でも、発音は「お手本どおりかどうか」で評価されることが多かったはずです。そのため、カタカナっぽい発音は「間違い」で、ネイティブに近づくほど「正しい」と感じている人が少なくありません。
けれども、発音の研究では、次の3つをはっきり分けて考えます。
- 訛りの強さ(accentedness):聞き手が「母語の訛りがどれくらい強い」と感じるか
- わかりやすさ(comprehensibility):聞き手がどれくらい楽に理解できると感じるか
- 聞き取れた割合(intelligibility):聞き手が実際に、話し手の言葉をどれだけ正確に受け取れたか
日常の感覚では、この3つは同じもののように思えます。「訛りが強い=わかりにくい=通じない」と。ところが、実際に測ってみると、3つは思ったほど一致しませんでした。
02研究①:強い訛りでも、聞き取りはほぼ正確だった
カナダの研究者 Munro & Derwing(1995年)の実験は、この分野の出発点になった研究です。
中国語(北京語)を母語とする10人と、英語のネイティブ2人が、自由に英語で話しました。その録音を、英語ネイティブの聞き手18人が聞き、次の3つの作業をしました。
- 聞こえた言葉をそのまま書き取る(聞き取れた割合を測る)
- 訛りの強さを9段階で評価する
- わかりやすさを9段階で評価する
結果、発話の多くは正確に書き取られ、わかりやすさの評価も高いものでした。それなのに、訛りの評価は大きくばらつき、「強い訛り」の側に評価された発話もかなりありました。
さらに、聞き手ごとに相関を調べると、訛りの強さと「音や文法の誤り」はほとんどの聞き手で結びついていました。一方、訛りの強さとわかりやすさが結びついていた聞き手はそれより少なく、訛りの強さと聞き取れた割合が結びついていた聞き手はさらに少数でした。研究者は、強い訛りが必ずしも理解のしやすさや聞き取りを下げるわけではないと結論づけています。
03研究②:直すならリズムと話し方全体から
では、通じやすさを上げるには、どこから直せばよいのでしょうか。Derwing, Munro & Wiebe(1998年)は、英語を学ぶ人を3つのグループに分けて12週間の授業を比べました。
- 個々の母音・子音を正確にする練習をしたグループ
- 話す速さや声の大きさ、リズム・強勢・抑揚など、話し方全体を練習したグループ
- 発音を特に練習しなかったグループ
文を読み上げる課題では、発音を練習した2つのグループがどちらも、わかりやすさと訛りの評価を伸ばしました。ところが、自由に話す課題でわかりやすさと流暢さが伸びたのは、話し方全体を練習したグループだけでした。
日本語を母語とする人にとって、これは大きなヒントになります。日本語話者の英語で通じにくさの原因になりやすいのは、個々の音よりも次のような点です。
- 子音のあとに母音を足す:desk を「デスク(de-su-ku)」と3拍で言ってしまう
- 単語の強勢の位置がずれる:hotel を「ホテル」と平らに言い、ho-TEL の強勢が消える
- 文の強弱が平らになる:すべての語を同じ強さで言い、大事な語が目立たない
L と R の区別も大切ですが、文脈で補える場面も多くあります。限られた時間で通じやすさを上げたいなら、リズムと強勢から手をつけるのが効率的です。
04研究③:ゴールは「ネイティブらしさ」より「通じやすさ」
発音の研究者 Levis は2005年に、発音指導の2つの考え方を「ネイティブらしさの原則」と「通じやすさの原則」と名づけました。前者はネイティブと同じ発音をゴールにし、後者は相手に理解されることをゴールにします。Levis は2020年の論文で改めて、ネイティブらしさを目標にするのは、多くの学習者にとって達成しにくく、しかも効果的なコミュニケーションには必要ないと論じています。
Derwing & Munro(2005年)も、発音指導では互いに理解できることを第一に考えるべきだとし、そのうえで訛りが社会的な評価に影響しうることも無視できない、と述べています。
さらに、英語が国際的な共通語として非ネイティブどうしで使われる場面に注目した研究もあります。Jenkins(2000年)は、そうしたやりとりで通じるために優先すべき発音の項目を提案しました。その中で、th の音は優先項目から外され、文のどこを強く言うか(文の強勢の置き方)は重要な項目とされました。この提案については研究者のあいだで異論もありますが、「すべての音をネイティブどおりに」は必要ない、という見方を示した点で影響を与えました。
05条件つきで正しい部分:通じなくなる発音もある
「訛りは気にしなくていい」と言っても、何でもよいわけではありません。発音が原因で本当に通じなくなる場面もあります。
- 強勢の位置がずれる:単語の強勢が違うと、聞き手は別の単語を探してしまい、理解に時間がかかります
- 余計な母音で音節が増える:strike(1音節)を「ストライク」と5拍で言うと、まったく別の語のように聞こえることがあります
- 区別しないと意味が変わる音:文脈で区別できない場面では、L と R、長い母音と短い母音の違いが誤解につながります
また、発音を学ぶことは聞き取りにも役立ちます。音がつながる・消えるといった英語の特徴を自分で発音できると、ネイティブの速い英語も聞き取りやすくなります。
ネイティブのような発音を目指すこと自体も、もちろん自由です。俳優や通訳など、仕事でそれが求められる人もいます。大切なのは、「ネイティブ並みでないと話してはいけない」と考えて、話す量を減らしてしまわないことです。
06通じなかったときの立て直し方も「発音力」
どんなに練習しても、一度で通じないことはあります。ネイティブどうしでも聞き返しはよく起きます。大切なのは、通じなかったときに会話を立て直せることです。これも立派な「通じる力」の一部です。
① 言い換える
単語が通じないときは、同じ単語を繰り返すより、別の言い方に切り替えるほうが早く伝わります。
- I'd like a receipt. → Can I have the paper that shows what I paid?(レシートをください → 払った金額が書いてある紙をもらえますか)
② つづりを言う・書いて見せる
名前や地名など固有名詞は、つづりを伝えるのが確実です。It's spelled K-Y-O-T-O.(つづりは K-Y-O-T-O です)のように言います。
③ ゆっくり、大事な語を強く言い直す
早口で言い直しても通じにくいままです。少しゆっくり、伝えたい語だけをはっきり強く言います。
④ 相手の理解を確かめる
Does that make sense?(伝わりましたか)と一言添えると、相手も聞き返しやすくなります。
聞き手の側から見ると、多少の訛りよりも、言い直しや言い換えで歩み寄ってくれる話し手のほうが、ずっと話しやすいものです。発音の練習とあわせて、こうした立て直しの言い回しも口になじませておきましょう。
07じゃあどうする:通じやすさを上げる練習メニュー
通じやすさを上げる練習は、次の優先順位で進めると効率的です。
- 余計な母音を足さない(desk、strike、milk など)
- 単語の強勢の位置を正しくする(新しい単語は辞書の音声で必ず確認)
- 文の中の強弱をつける(内容を伝える語を強く・長く、それ以外は弱く短く)
- 誤解につながる音を区別する(L/R、長短の母音など)
3つめの練習には、強く言う部分を大文字にした例文が便利です。
- I'd like a CUP of COFfee.(コーヒーを1杯ください)
- Can you SEND it by FRIday?(金曜までに送ってもらえますか)
- I'm SORry, I didn't CATCH that.(すみません、聞き取れませんでした)
大文字の部分を強く・長く・高めに、それ以外を軽く短く言います。最初は大げさなくらいでちょうどよいです。
1日10分の練習例
| 時間 | やること |
|---|---|
| 3分 | 新しい単語3つの強勢を辞書の音声で確認して声に出す |
| 4分 | 上のような例文を、強弱をつけて5回ずつ |
| 3分 | 30秒の自己紹介を録音し、余計な母音と強勢を聞き返す |
週に1回、同じ自己紹介を録音して聞き比べると、変化が自分の耳でわかります。
訛りは消さなくていい。直すのは『通じなくなる』ところだけ
今日からのやり方
- 1分ほど英語で自己紹介を録音し、自分で聞き返す
- 子音のあとに余計な「ウ」「オ」を足していないか確かめる
- よく使う単語20個の強勢の位置を、辞書の音声で確認する
- 例文を、内容を伝える語だけ強く・長く言う練習をする
- 1週間後に同じ自己紹介を録音し、聞き比べる
レベル別:あなたならこうする
単語の強勢の位置から始めます。新しい単語を覚えるときは、辞書の音声でどこを強く言うかを必ず確かめます。カタカナ読みの癖は、余計な母音を足さないことを意識するだけでかなり変わります。
文のリズムを整える段階です。短い音声をまねして、強く言う語と弱く流す語の差をつけます。録音して聞き返し、聞き手が迷いそうな箇所を一つずつ直します。
通じる発音はおおむねできているはずです。誤解が起きやすい音の区別や、強調したい語に置く強勢など、伝え方の精度を上げます。さまざまな地域の英語を聞いて、聞く側の対応力も広げます。
よくある失敗と対策
訛りがあっても聞き取ってもらえることは研究で示されています。話す量を減らすほうが損です。話しながら、通じなかった箇所だけを直します。
L と R、th の練習も役に立ちますが、自由に話すときのわかりやすさにはリズムや強勢が効くとする研究があります。音とリズムをセットで練習します。
どちらでも通じます。好きな話し手を一人決めてまねるのが近道です。いろいろな地域の英語を聞くと、聞く力も育ちます。
1 MIN
よく使う単語3つの強勢の位置を辞書の音声で確かめ、声に出す
友だちに出したい、この節の3問
タップで答え。「X で出題する」で、そのまま問題として出せます。
終-4英語の訛りの強さと「通じるかどうか」は同じ?
研究では「訛りの強さ」「わかりやすさ(聞き手の負担)」「実際に聞き取れた割合」を分けて測ります。ある実験では、強い訛りと判定された発話でも、聞き手がほぼ正確に書き取れた例が多く見られました。
終-4英語の発音で通じやすさに効くのは、個々の音?リズム?
12週間の発音指導を比べた実験では、話し方全体やリズム・抑揚を練習したグループだけが、自由に話す場面でのわかりやすさを伸ばしました。個々の音だけを練習したグループの改善は、文を読む場面にとどまりました。
終-4英語の th の発音は、通じるために絶対必要?
非ネイティブどうしの英語のやりとりを調べた Jenkins は、th の音は通じやすさへの影響が小さいとして、優先する項目から外しました。一方で、文のどこを強く言うかは重要としています。この提案には異論もあります。
PRACTICE KIT
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もっと詳しく(コラム)
この節の根拠(研究・公式情報)
学習者の発話の多くは正確に聞き取られ、わかりやすさの評価も高かったが、訛りの評価は大きくばらついた。強い訛りが必ずしも理解や聞き取りを下げないと結論。
Munro, M. J., & Derwing, T. M. (1995). Foreign accent, comprehensibility, and intelligibility in the speech of second language learners. Language Learning, 45(1), 73–97.出典を開く ↗12週間の指導で、個々の音を練習した群と話し方全体を練習した群はどちらも文の読み上げで改善したが、自由な語りでわかりやすさと流暢さが伸びたのは後者だけだった。
Derwing, T. M., Munro, M. J., & Wiebe, G. (1998). Evidence in favor of a broad framework for pronunciation instruction. Language Learning, 48(3), 393–410.出典を開く ↗発音指導では互いに理解できることを第一に考えるべきだとし、あわせて訛りの社会的な影響も考慮する必要があると論じた。
Derwing, T. M., & Munro, M. J. (2005). Second language accent and pronunciation teaching: A research-based approach. TESOL Quarterly, 39(3), 379–397.出典を開く ↗2005年に名づけた2つの原則を見直し、ネイティブらしさの原則は多くの学習者にとって達成しにくく、効果的なコミュニケーションにも不要だと論じた。
Levis, J. M. (2020). Revisiting the Intelligibility and Nativeness Principles. Journal of Second Language Pronunciation, 6(3), 310–328.出典を開く ↗非ネイティブどうしで通じるための優先項目を提案。th の音は優先項目から外し、文の強勢の置き方は重要とした。異論もある提案。
Jenkins, J. (2000). The Phonology of English as an International Language. Oxford: Oxford University Press.(内容は Deterding による書評で確認)出典を開く ↗よくある質問
ネイティブ発音を目指すのはやめたほうがいい?
目指すのは自由です。俳優や通訳など、仕事で必要な人もいます。ただ多くの学習者にとって、ネイティブ並みを目標にすると達成感が得にくく、話す量が減りがちです。まず通じやすさを確保し、その先で好みの発音を目指す順番がおすすめです。
訛りがあると、相手に悪い印象を与えませんか?
聞き手が訛りに偏見を持つ場合があることは、研究者も社会的な問題として取り上げています。ただ、それは話し手の責任ではありません。通じやすさを高める努力は自分ででき、それで十分に伝わります。
日本人の英語は、世界で通じにくいのですか?
日本語話者に多い特徴(母音を足す、強弱が平らになる)はありますが、練習で改善できます。英語は世界中で非ネイティブどうしの共通語としても使われていて、お互いに訛りのある英語でやりとりする場面は珍しくありません。
終章|英語学習の誤解をぜんぶ解く



