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『文法をやると話せなくなる』は本当?文法が悪いのではない。話す最中の“チェックしすぎ”が口を止める

原田英語6分で読める研究・公式情報 4件終章の3/7節

『文法をやると話せなくなる』は本当?のイメージ

「文法ばかりやってきたから、話せない」。日本の学習者からよく聞く言葉です。ところが、文法指導の研究をまとめたメタ分析では、文法に焦点を当てて教えると大きな伸びが見られ、41の研究をまとめた別の分析では、自然な発話での使用にもプラスに働いていました。文法を学ぶと話せなくなる、という結果を示したメタ分析は見当たりません。では、口を止めていたのは何だったのか。

この節の目次(7項目)
  1. よく聞く主張:「文法をやると話せなくなる」
  2. 研究①:説明つきの指導は効果が大きく、長持ちする
  3. 研究②:自由に話す場面でも効いていた
  4. 条件つきで正しい部分:「チェックしすぎ」は口を止める
  5. 本当のところ:知っている文法を「使える」に変える
  6. 日本の学習者に多い、文法の使い方の落とし穴
  7. じゃあどうする:チェックのタイミングを分ける

01よく聞く主張:「文法をやると話せなくなる」

日本の英語教育は長いあいだ、文法と訳読が中心でした。中学・高校で6年間英語を学んでも話せない。そう感じている大人は多く、その原因として「文法ばかりやったから」が挙げられがちです。そこから「文法はやらなくていい」「文法を考えると話せなくなる」という主張が生まれました。

けれども、この理屈には飛躍があります。「文法を学んだ」と「話せない」が同時に起きていても、文法が話せない原因だとは限りません。もっとありそうな原因は、話す練習の量が圧倒的に足りなかったことです。授業で英語を口に出した時間を合計すると、多くの人は驚くほど短いはずです。

たとえるなら、水泳の理論を本で学んだだけの人が泳げないのを見て、「理論を学ぶと泳げなくなる」と結論づけるようなものです。泳げない理由は理論ではなく、プールに入った時間の少なさにあります。

では、文法を教わることは英語の力にどう影響するのか。数多くの研究をまとめた「メタ分析」から見ていきます。

02研究①:説明つきの指導は効果が大きく、長持ちする

第二言語の文法指導の効果を調べた研究として、最もよく引用されるのが Norris & Ortega(2000年)のメタ分析です。1980〜1998年に発表された実験・準実験の研究から、データのそろった49の研究をまとめました。

結果は次のとおりです。

  • 特定の文法に焦点を当てて教えると、その文法について大きな伸びが見られた
  • ルールを説明する「明示的」な指導は、説明しない「暗示的」な指導より効果が大きかった
  • 指導の効果は、時間がたってもおおむね持続していた

ただし、研究者自身が注意点も述べています。効果の大きさは、どんなテストで測ったかに左右されていました。たとえば、文法問題のような形式のテストは、説明つきの指導に有利に働く可能性があります。そのため「明示的な指導は、テストでしか使えない知識を育てているだけでは?」という疑問が残りました。

この疑問に答えようとしたのが、次の研究です。

03研究②:自由に話す場面でも効いていた

Spada & Tomita(2010年)は、英語の文法指導を扱った41の研究を集め、文法を「簡単なもの」と「複雑なもの」に分けて分析しました。その結果、明示的な指導は、簡単な文法にも複雑な文法にも、暗示的な指導より大きな効果がありました。さらに、管理されたテストでの正確さだけでなく、自然な発話の中での使用にもプラスに働いていました。

もう一つ、35年分の研究をまとめた Kang, Sok & Han(2019年)のメタ分析も紹介します。54の研究、のべ5051人の学習者のデータから、文法などに焦点を当てた指導の効果は全体として大きいことが確かめられました。一方で、この分析では明示的と暗示的の差はわずかで、効果を左右したのは、どんなテストで測ったか、学習者のもともとの力、指導の密度などでした。

まとめると、「文法を教わることは役に立つ」という点は、研究の積み重ねでかなりはっきりしています。「説明があるほうがよいか、ないほうがよいか」は、まだ議論が続いている部分です。少なくとも「文法を学ぶと話せなくなる」という結果を示したメタ分析は見当たりません。

04条件つきで正しい部分:「チェックしすぎ」は口を止める

それでも「文法を意識すると話せない」という実感には、ちゃんとした根拠があります。

インプット仮説で知られる言語学者クラッシェンは、1982年の著書の中で「モニター」という考え方を示しました。学んで得た文法の知識は、話したり書いたりするときに、出てくる文をチェックする「モニター(監視役)」として働く、という考え方です。

クラッシェンは、学習者を3つのタイプに分けました。

  • モニターの使いすぎ:いつも文法でチェックしながら話すため、たどたどしく、途中で言い直してばかりで、なめらかに話せない
  • モニターの使わなさすぎ:文法の知識をほとんど使わず、「なんとなく正しそう」という感覚だけで話す
  • ちょうどよい使い手:会話の流れをさまたげない範囲で、余裕があるときにチェックする

「文法を意識すると話せない」という人は、1つめのタイプに近いのかもしれません。つまり問題は文法の知識ではなく、話す最中にチェックをかけすぎることです。

なおクラッシェンは、学んだ知識はそのままでは自然に話す力(習得)には変わらない、とも考えました。この点は研究者のあいだで今も議論が続いており、先に見たメタ分析の結果は、学んだ知識が使う力を支えうることを示しています。

05本当のところ:知っている文法を「使える」に変える

文法の知識は、地図のようなものです。初めての道では地図があると迷いません。けれども、地図を見ながらでないと歩けない状態では、走ることはできません。何度も同じ道を通るうちに、地図を見なくても体が道を覚えていきます。

英語の文法も同じです。最初は意識して組み立て、何度も声に出して使ううちに、意識しなくても口から出るようになります。この「意識しなくても使える状態」をつくるのが、話す練習の役割です(第2章の「自動化」の節で詳しく扱います)。

たとえば現在完了を学んだら、自分のことを言う例文を作って、何度も口に出します。

  • I've lived in Osaka since 2019.(2019年から大阪に住んでいます)
  • I've never been to Canada.(カナダには行ったことがありません)
  • Have you ever tried natto?(納豆を食べたことはありますか)

最初はゆっくりでかまいません。日本語を見て1秒以内に英語が出るまで繰り返すと、会話の中でも使える文法に変わっていきます。

文法を捨てるのでも、文法に縛られるのでもなく、「理解する → 口で使う → 会話で使う」の流れに乗せることが大切です。

06日本の学習者に多い、文法の使い方の落とし穴

文法が会話の邪魔になるのは、知識そのものより、使い方に原因があることがほとんどです。日本の学習者によく見られる落とし穴を3つ挙げます。

① 日本語の文を、頭の中で丸ごと訳そうとする
「先週の会議で決まったことを、まだ部長に伝えていないんです」のような長い日本語を、そのまま英語にしようとすると、関係代名詞や時制を一度に処理しなければならず、口が止まります。話すときは、短い文に分けるのが近道です。

  • We decided something at last week's meeting.(先週の会議で、あることが決まりました)
  • I haven't told my boss yet.(まだ上司に伝えていません)

中学で習う文法だけでも、短く区切れば言いたいことの多くは伝えられます。

② めったに使わない文法を先に磨く
入試や検定のために、難しい構文の知識は豊富なのに、現在形と現在進行形の使い分けのような基本があやふや、ということはよくあります。会話で使う頻度が高いのは基本の文法です。まず基本を「速く正確に」使えるようにします。

③ 正解を一つだけ探してしまう
文法問題には正解が一つありますが、会話では同じ意味を何通りにも言えます。I can't go. でも I'm not able to make it. でも通じます。「正しい一文」を探して固まるより、言える形でまず言い、必要なら言い直すほうが会話は進みます。

07じゃあどうする:チェックのタイミングを分ける

「モニターの使いすぎ」を防ぐいちばん簡単な方法は、話すときと直すときを分けることです。

場面文法のチェックやること
話している最中ほぼしない意味を伝えることに集中。言い間違えても止まらない
話し終えたあとしっかりする録音を聞き返し、間違いを1〜2個だけ直す
書くときしっかりする時間をかけて見直し、正確さを高める

1週間の練習例(1日15分)

  1. 月:今週の文法を1つ決め、参考書で説明を読む(5分)+例文を3つ作る(10分)
  2. 火〜木:例文を日本語から英語へ、すぐ言えるまで練習(10分)+その文法を使って1分間の独り言(5分)
  3. 金:独り言を録音し、聞き返して間違いを直す
  4. 土日:オンライン英会話や家族との会話など、実際の場面でその文法を使ってみる

文法は、話す力を奪うものではありません。使う練習とセットにしたとき、話す力を下から支える土台になります。

この節の答え

文法は敵ではない。足りないのは『使う練習』のほう

今日からのやり方

  1. 今週の文法を1つ決め、参考書の説明を5分で読む
  2. その文法で自分のことを言う例文を3つ作る
  3. 例文を日本語から英語へ、1秒以内に言えるまで練習する
  4. 1分間、その文法を使って独り言で話す(間違いは気にしない)
  5. 録音を聞き返し、気づいた間違いを1〜2個だけ直してもう一度言う

レベル別:あなたならこうする

初級 A1〜A2

中学文法の基本(be動詞・一般動詞・過去形・未来・助動詞)を、説明を読んで例文を口に出すまで1セットで進めます。完璧に理解してから話すのではなく、理解したらすぐ使います。

中級 B1

知っているのに口から出ない文法(現在完了、関係詞、仮定法など)を一つずつ選び、瞬間英作文で自動化します。会話中は意味を優先し、直すのは録音を聞いたあとにします。

上級 B2〜

細かい文法より、時制や冠詞のぶれなど自分の癖を記録して減らす段階です。書いた英文と話した英文を見比べ、話すときだけ崩れる項目を重点的に練習します。

よくある失敗と対策

文法を「全部わかってから」話そうとする

文法を完璧にしてから話す日は来ません。中学文法の骨組みがわかったら、使いながら正確さを上げていきます。

会話中に毎回、頭の中で文法チェックをする

話す最中は意味を伝えることに集中し、チェックは録音を聞き返すときや書くときに回します。タイミングを分けるだけで口が軽くなります。

文法をやめて会話だけにする

会話だけだと、通じたところで満足して同じ間違いが固まりがちです。説明つきで学ぶ時間を少しでも残すほうが、研究の結果に沿っています。

TODAY
1 MIN

現在完了を使って、自分のことを3文、声に出して言ってみる

友だちに出したい、この節の3問

タップで答え。「X で出題する」で、そのまま問題として出せます。

終-3外国語の文法を教わる効果は、研究ではどれくらい?

1980〜1998年に発表された49の研究をまとめた分析では、狙った文法を教えると大きな伸びが見られました。説明つきの教え方は説明なしより効果が大きく、その効果は時間がたっても残りやすいと報告されています。

X で出題する

終-3外国語の文法を説明つきで習うと、自由に話す場面でも役立つ?

41の研究をまとめた別の分析では、説明つきの指導は簡単な文法にも複雑な文法にも効果があり、テストだけでなく自然な発話の中での使用にもプラスに働いていました。「テスト用の知識」で終わるとは限りません。

X で出題する

終-3「文法をやると話せなくなる」説の出どころは?

インプット仮説で知られるクラッシェンは、話しながら常に文法でチェックする人を「モニターの使いすぎ」と呼び、たどたどしくなりやすいと説明しました。問題にしたのは知識の量より、話す最中の使い方でした。

X で出題する

X でポストLINEB!

この節の根拠(研究・公式情報)

49の研究をまとめ、焦点を当てた指導は大きな伸びをもたらし、明示的な指導は暗示的な指導より効果が大きく、効果は持続すると報告。測定方法が効果の大きさに影響する点も指摘。

Norris, J. M., & Ortega, L. (2000). Effectiveness of L2 instruction: A research synthesis and quantitative meta-analysis. Language Learning, 50(3), 417–528.出典を開く ↗

41の研究をまとめ、明示的な指導は簡単な文法にも複雑な文法にも暗示的な指導より大きな効果があり、自然な発話での使用にもプラスに働いたと報告。

Spada, N., & Tomita, Y. (2010). Interactions between type of instruction and type of language feature: A meta-analysis. Language Learning, 60(2), 263–308.出典を開く ↗

54の研究・5051人の分析で、指導の効果は全体として大きかった。明示的と暗示的の差はわずかで、測定方法・学習者の力・指導の密度が効果を左右した。

Kang, E. Y., Sok, S., & Han, Z. (2019). Thirty-five years of ISLA on form-focused instruction: A meta-analysis. Language Teaching Research, 23(4), 428–453.出典を開く ↗

学んだ文法知識は発話をチェックする「モニター」として働くとし、常にチェックする「使いすぎ」の人はたどたどしく流暢に話せなくなりやすいと説明した。

Krashen, S. D. (1982). Principles and Practice in Second Language Acquisition. Oxford: Pergamon.出典を開く ↗

よくある質問

文法用語を覚える必要はありますか?

用語そのものが目的ではありませんが、参考書や辞書を使うときの共通語として役立ちます。「現在完了」「関係代名詞」など基本の用語だけ押さえ、細かい分類は必要になったときで十分です。

文法問題は解けるのに話せないのはなぜ?

問題を解くための知識と、会話の速さで使える知識は、別々に鍛える必要があるからです。解ける文法を、声に出してすぐ使う練習で自動化していきます。第2章の「自動化」の節もあわせて読んでください。

子どもにも文法の説明は必要?

年齢が低いうちは抽象的な説明は伝わりにくく、歌や絵本など意味のある形で触れるのが中心になります。中学生くらいになると説明を理解する力がつくので、文法の説明と使う練習を組み合わせると効率が上がります。