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『留学すれば話せるようになる』は本当?留学で伸びる人・止まる人。分かれ目は『行く前』にあった

原田英語6分で読める研究・公式情報 5件終章の5/7節

『留学すれば話せるようになる』は本当?のイメージ

アメリカで15週間の留学プログラムに参加した、日本の大学生166人。帰国後にTOEFLを受けると、平均点はたしかに伸びていました。ただし伸び率にすると4.35%。午前は3時間の授業、午後は社会活動や地域活動という毎日を過ごしても、です。もっとも、この試験は話す力を測っていません。では、留学で本当に伸びるのは何で、伸びる人と止まる人を分けるのは何なのか。

この節の目次(7項目)
  1. よく聞く主張:「現地にいれば自然に話せる」
  2. 研究①:日本人留学生の伸びは「思ったより小さい」
  3. 研究②:留学で伸びるのは「流暢さ」
  4. 研究③:準備不足だと「止まる」
  5. 本当のところ:留学は「増幅器」
  6. 計算してみる:留学中に英語を使う時間
  7. じゃあどうする:出発前・滞在中・帰国後

01よく聞く主張:「現地にいれば自然に話せる」

「英語圏で暮らせば、毎日英語を聞いて話すことになる。だから自然に話せるようになる」。留学をすすめる言葉として、よく耳にする理屈です。

この理屈は、半分は正しいといえます。日本にいると、英語を聞いたり話したりする必要のある場面はほとんどありません。英語圏に行けば、買い物も手続きも友人との会話も英語になり、接する英語の量は国内とは比べものにならないほど増える可能性があります。

ただし、「可能性がある」というところがポイントです。実際の留学生活では、授業以外の時間を日本人どうしで過ごしたり、宿舎でスマホの日本語コンテンツを見たりして、思ったほど英語を使わずに終わることも珍しくありません。また、もともとの英語力が足りないと、周りの英語を理解できず、話す機会があっても言葉が出てこない、ということも起こります。

では、留学でどのくらい伸びるのか、何が差を生むのか。研究を見ていきます。

02研究①:日本人留学生の伸びは「思ったより小さい」

日本の大学生を対象にした研究として、Tanaka & Ellis(2003年)があります。

対象は、米国北東部の私立大学で15週間の留学プログラムに参加した、日本の大学生166人です。全員が19〜20歳で、中学・高校を含めて平均7年間英語を学んでいました。プログラムは、午前中に3時間の授業、午後にさまざまな社会活動や地域活動、という構成でした。

留学の前と帰国後に TOEFL(当時の紙の試験で、聞く・文法・読むの3つ)を受けたところ、平均点は統計的に意味のある伸びを示しました。ただし、その伸びは合計で18.55点、伸び率にすると4.35%でした。セクション別では、文法の伸びがいちばん大きく(5.88%)、リスニングの伸びがいちばん小さい(2.65%)という結果でした。

これは「留学は無駄」という意味ではありません。この試験は話す力を測っておらず、留学で伸びやすい流暢さは数字に表れていない可能性があります。それでも、「15週間いれば劇的に変わる」というイメージとは、だいぶ違う結果です。

03研究②:留学で伸びるのは「流暢さ」

では、留学はどんな力を伸ばすのでしょうか。スペイン語を学ぶ米国の大学生を対象にした2つの研究が参考になります。

Segalowitz & Freed(2004年)は、スペイン語を学ぶ40人を、一学期のあいだ留学したグループと、国内の大学の授業で学んだグループに分けて比べました。留学組は、話すときの速さやつかえの少なさ、口頭の面接試験で、国内組より大きく伸びた面がありました。一方で、伸び方は一人ひとりの認知的な力(単語をすばやく認識する力など)や、授業外で言語に触れた量と複雑に関係しており、個人差がとても大きかったと報告しています。

Collentine(2004年)は、同じく一学期の留学組と国内組の会話データを細かく分析しました。すると、個々の文法や語彙の項目では国内組のほうが伸び、話の筋を語る力や、内容の詰まった話し方では留学組が上回る、という結果になりました。

スペインの Llanes & Muñoz(2009年)は、夏の3〜4週間という短い滞在でも、話す流暢さなどの多くの指標で意味のある伸びが見られたと報告しています。同時に、伸び方の大きさは出発時の力によって大きく違いました。

04研究③:準備不足だと「止まる」

留学の効果を左右する条件を、さらにはっきり示したのが DeKeyser(2010年)の研究です。

対象は、アルゼンチンでの6週間の留学に参加した、スペイン語を学ぶ米国の学生16人です。研究者は、出発時と帰国前に面接をし、話した録音を本人に聞かせながら「そのとき何を考えていたか」を聞き取りました。あわせて、さまざまな生活の場面を観察しました。

学生たちはやる気にあふれ、現地で話す力を大きく伸ばしたいと期待していました。ところが、多くの学生はすぐに「伸びが止まった」と感じ、意欲を失っていきました。分析の結果、その原因は文法の知識があやふやで、しかもそれをすばやく使える状態になっていなかったことにあると考えられました。6週間の終わりになっても、流暢さを気にせずゆっくり話す場合でさえ、基本的な文を正確に話すことがほとんどできなかったのです。

研究者は、文法を使える状態にしておくか、少なくとも知識としてはしっかり持っておくという準備がなければ、留学の可能性は生かされないと結論づけています。

05本当のところ:留学は「増幅器」

ここまでの研究をまとめると、留学の効果は次のような掛け算でイメージできます。

留学の伸び = 持っていった力 × 現地で英語を使った量 × 期間

条件伸びやすい伸びにくい
出発前の力基本文法と語彙が使える状態文法があやふや
現地での過ごし方授業外でも英語を使う日本人どうし・日本語の娯楽中心
伸びる技能流暢さ、話の組み立て、聞いて反応する力細かい文法の正確さ(国内学習のほうが伸びやすい場合も)

「留学すれば話せる」は、条件つきで正しいといえます。とくに流暢さや、実際の場面で英語を使う経験は、国内では得にくい留学の強みです。ただし、それは「行けば自動的に」ではありません。留学は、持っていった力を何倍にもする増幅器のようなものです。持っていった力がゼロに近ければ、増幅しても大きくはなりません。

逆に言えば、国内でしっかり準備した人ほど、同じ期間の留学から多くを持ち帰れます。お金と時間をかける留学だからこそ、行く前の準備がいちばんの投資になります。

06計算してみる:留学中に英語を使う時間

留学で手に入るのは、つまるところ「英語を使う時間」です。どれくらいの時間になるのか、15週間の留学を例に計算してみます。

過ごし方授業授業外で英語を使う時間15週間の合計
A さん1日3時間×週5日1日30分約277時間
B さん1日3時間×週5日1日3時間約540時間

授業の時間は同じでも、授業外の過ごし方しだいで、英語を使う時間は2倍近く変わります。A さんのように、授業が終わると日本人の友人と過ごし、夜は日本語の動画を見る生活だと、日本で毎日2時間半ほど英語を学ぶのと大差ない量になってしまいます。

逆に、国内でも工夫しだいで、留学に近い量を確保することはできます。たとえば、平日に1日1時間、週末に1日3時間を英語に使えば、15週間で約165時間です。留学の B さんには届きませんが、A さんの留学の6割ほどにあたる量です。

ここから言えるのは、留学か国内かよりも、「英語を使う時間をどれだけ確保できるか」が結果を大きく左右するということです。留学するなら、この時間を最大にする工夫を。国内で学ぶなら、留学に近づける工夫を。どちらの道でも、時間の使い方が勝負を決めます。

07じゃあどうする:出発前・滞在中・帰国後

出発前(3か月前から)

  1. 中学〜高校の基本文法を総復習する。わかるだけでなく、例文を口ですぐ言える状態にする
  2. 自己紹介、道を聞く、買い物、授業で質問する、など10の場面の英語を丸ごと言えるようにする
  3. 理解できる英語を毎日30分以上聞く・読む

滞在中

  1. 「英語で話した時間」を毎日手帳に記録する
  2. 日本語を使う時間を「夜の30分だけ」などと決めて区切る
  3. 授業以外に、クラブ活動やボランティアなど英語を使う予定を週2回以上入れる
  4. 言えなかった表現をメモし、翌日に使う

役に立つ一言の例です。

  • Sorry, could you say that again?(すみません、もう一度言ってもらえますか)
  • What does that word mean?(その単語はどういう意味ですか)
  • Let me think for a second.(ちょっと考えさせてください)

帰国後

留学で伸びた流暢さも、使わなければ鈍りやすくなります。帰国後も話す練習と多聴・多読を週に数回は続けます。

なお、中高生の留学は、受け入れ先の体制や家族のサポートが大切です。学校や家族とよく相談して決めましょう。

この節の答え

留学は『増幅器』。持っていった力と、使った量で決まる

今日からのやり方

  1. 出発の3か月前から、中学〜高校の基本文法を口で使えるまで総復習する
  2. 自己紹介・買い物・授業で質問するなど10の場面の英語を、丸ごと言えるようにする
  3. 現地では毎日「英語で話した時間」を手帳に記録する
  4. 授業以外に週2回以上、英語を使う活動に参加する
  5. 帰国後も、話す練習の時間を週に数回は残しておく

レベル別:あなたならこうする

初級 A1〜A2

初級のまま行くと、授業についていくだけで精一杯になりがちです。出発前に中学文法と基本単語を固め、自己紹介や頼みごとの言い方を丸ごと言えるようにしておくと、現地で使える量が一気に増えます。

中級 B1

留学の効果が出やすい層です。現地では「わかったふり」をやめ、聞き返す表現を使い倒します。日本語を話す時間を決めて区切り、英語を使った時間を毎日記録します。

上級 B2〜

生活には困らないぶん、伸びが止まりやすくなります。専門の授業や議論、発表など負荷の高い場面に自分から入り、言えなかった表現をメモして翌日使う、を繰り返します。

よくある失敗と対策

「現地で何とかなる」と準備ゼロで出発する

文法の土台がないと、現地での練習が空回りしやすいことが研究で示されています。出発前の数か月で基本文法と定番の言い回しを固めます。

日本人どうしで過ごす時間が長くなる

接する英語の量が減れば、留学の強みが消えます。日本語の時間を決めて区切り、授業外の英語の活動を予定に入れます。

帰国したとたん英語を使わなくなる

伸びた流暢さも、使わなければ鈍りやすくなります。話す練習と多聴・多読を続け、英語を使う場面を切らさないようにします。

TODAY
1 MIN

留学先で最初に話す場面を想像し、自己紹介を30秒で言えるか試す

友だちに出したい、この節の3問

タップで答え。「X で出題する」で、そのまま問題として出せます。

終-5留学した日本人大学生のTOEFLはどれくらい伸びた?

米国での15週間の留学に参加した166人の研究では、TOEFLの平均点は統計的に意味のある伸びを示したものの、伸び率は4.35%でした。なおこのTOEFLは聞く・文法・読むの試験で、話す力は測っていません。

X で出題する

終-5留学で伸びやすい力、伸びにくい力は?

スペイン語を学ぶ米国の大学生で、一学期の留学組と国内組を比べた研究では、留学組は話のなめらかさや語りの力で、国内組は個々の文法や語彙の項目で、それぞれ伸びが目立ちました。

X で出題する

終-5準備不足のまま語学留学するとどうなる?

6週間の留学に参加した学生を追った研究では、文法の土台が不安定な学生は、基本的な文でさえ正確に話せるようにならず、意欲を失っていきました。研究者は、出発前の文法の準備がなければ留学の効果は引き出せないと結論づけています。

X で出題する

X でポストLINEB!

この節の根拠(研究・公式情報)

米国での15週間の留学に参加した日本の大学生166人のTOEFL平均は18.55点(4.35%)伸びた。文法の伸びが最大、リスニングが最小。話す力は測定外。

Tanaka, K., & Ellis, R. (2003). Study abroad, language proficiency, and learner beliefs about language learning. JALT Journal, 25(1), 63–85.出典を開く ↗

一学期の留学組は国内組より口頭の流暢さや面接試験で大きく伸びた面があったが、伸び方は認知的な力や接触量と複雑に関係し、個人差が大きかった。

Segalowitz, N., & Freed, B. F. (2004). Context, contact, and cognition in oral fluency acquisition: Learning Spanish in at home and study abroad contexts. Studies in Second Language Acquisition, 26(2), 173–199.出典を開く ↗

国内組は個々の文法・語彙項目で伸び、留学組は語りの力や内容の詰まった話し方で上回った。

Collentine, J. (2004). The effects of learning contexts on morphosyntactic and lexical development. Studies in Second Language Acquisition, 26(2), 227–248.出典を開く ↗

3〜4週間の夏の短期滞在でも多くの指標で有意な伸びが見られた。伸びの大きさは出発時の習熟度に強く左右された。

Llanes, À., & Muñoz, C. (2009). A short stay abroad: Does it make a difference? System, 37(3), 353–365.出典を開く ↗

6週間の留学で、文法知識があやふやで使える状態になっていない学生は、基本的な文も正確に話せるようにならず意欲を失った。事前の準備が不可欠と結論。

DeKeyser, R. M. (2010). Monitoring processes in Spanish as a second language during a study abroad program. Foreign Language Annals, 43(1), 80–92.出典を開く ↗

よくある質問

短期留学(数週間)でも意味はありますか?

3〜4週間の夏の短期滞在でも、多くの指標で意味のある伸びが見られたという研究があります。ただし伸び方は出発時の英語力によって大きく違いました。短期ほど、行く前の準備と現地での使い方が効いてきます。

留学と国内学習、どちらが効率的ですか?

研究では、留学は流暢さや語りの力、国内の授業は個々の文法や語彙の正確さで伸びやすい傾向が見られます。どちらが上というより役割が違います。国内で土台をつくり、留学で使い込む組み合わせが理想的です。

中高生のうちに留学したほうがいい?

年齢だけで決める必要はありません。中高生の留学は、受け入れ先の体制や家族のサポートが大切です。学校や家族とよく相談し、出発前に基礎の英語を固めておくことが、どの年齢でも共通の準備になります。