『自分は耳から覚えるタイプ』は本当?「耳から覚えるタイプ」に教材を合わせても、成績は上がらなかった

「好みの学習スタイルで情報を受け取ると、よく学べる」。イギリスとオランダの先生に聞いた調査では、この文にイギリスの先生の93%、オランダの先生の96%が同意しました。しかも、脳についての一般的な知識が多い先生ほど、こうした俗説を信じやすかったのです。では、耳派の人に音声で、目派の人に文字で教えると、本当に成績は上がるのか。厳密に確かめた実験があります。
この節の目次(7項目)
01よく聞く主張:「人には得意な覚え方のタイプがある」
「人には、目で見て学ぶ視覚型、耳で聞いて学ぶ聴覚型、体を動かして学ぶ体感型などのタイプがある。自分のタイプに合った方法で学べば、効率よく身につく」。これが、いわゆる学習スタイル説です。
この考え方は、とても広く受け入れられています。イギリスとオランダの先生を対象にした Dekker ほか(2012年)の調査では、「好みの学習スタイルで情報を受け取ると、よく学べる」という文に、イギリスの先生の93%、オランダの先生の96%が同意していました。この調査の対象は、脳科学と学習の関係に関心がある先生たちでした。さらに、脳についての一般的な知識が多い先生ほど、こうした誤解(研究者は「ニューロミス」=脳についての俗説と呼びます)を信じやすい傾向も見られました。
学習スタイル説に心ひかれる理由はわかります。「自分に合った方法がある」と考えると、勉強がうまくいかないのは方法が合っていないせいだと思えて、気が楽になります。自分を知るための診断テストも楽しいものです。
では、本当にタイプに合わせると成績が上がるのか。研究者たちは、この問いをかなり厳密に確かめてきました。
02研究①:検証の条件を満たす研究がほぼなかった
2008年、アメリカの心理学者 Pashler、McDaniel、Rohrer、Bjork の4人は、学習スタイル説の根拠を調べた総説を発表しました。
彼らはまず、「タイプに合わせると成績が上がる」と言えるために必要な実験の形をはっきりさせました。
- 学習者をタイプ別(たとえば耳派・目派)に分ける
- それぞれのタイプの人を、くじ引きで「音声で学ぶ」「文字で学ぶ」などの教え方に割り振る
- 全員に同じテストを受けさせる
- 耳派は音声で学んだときに、目派は文字で学んだときに、いちばん成績がよいという「交差」の結果が出る
4の形が出て初めて、「タイプに合わせる意味がある」といえます。ところが、膨大な数の学習スタイルの文献を調べても、この形を確かめられる方法で行われた研究はごくわずかでした。そして、適切な方法で行われた研究のうちいくつかは、タイプに合わせる説とはっきり食い違う結果を示していました。
4人は、現時点では学習スタイルの診断を教育に取り入れる根拠は不十分だと結論づけました。ただし、あらゆる種類の学習スタイルが否定されたわけではなく、まだ検証されていないものも多いとも述べています。
03研究②:合わせても成績は変わらなかった
Pashler らが示した方法で、実際に確かめた研究もあります。
アメリカの Rogowsky、Calhoun、Tallal(2015年)は、大学を出た大人を対象に、まず標準的な質問紙で「耳派」か「目派(文字で読む派)」かを調べました。
そのうえで2つのことを調べました。1つめは、耳派の人は聞いて理解する力が、目派の人は読んで理解する力が高いのか、という点です。結果は、学習スタイルの好みと、実際の聞く力・読む力のあいだに関係は見られませんでした。
2つめは、同じノンフィクションの本の内容を、くじ引きで「音声の本」か「画面で読む文章」のどちらかで学ばせ、直後と2週間後に同じ筆記テストをする実験です。ここでも、好みのタイプと教材の形が一致していたかどうかで、成績に差は出ませんでした。
同じ時期には、解剖学を学ぶ大学生を対象にした調査など、ほかの研究でも似た結果が報告されています。タイプに合わせて勉強法を変えても、成績には結びつかなかったのです。
04研究③:「合っている気がする」だけだった
では、なぜこれほど多くの人が学習スタイル説を信じ続けるのでしょうか。その手がかりを示したのが、Knoll ほか(2017年)の実験です。
参加者は、まず質問紙で「言葉で考えるのが好きか、映像で考えるのが好きか」を答えました。次に、単語のペアと絵のペアをそれぞれ覚え、覚えながら「これはあとで思い出せそうか」を自分で評価しました。最後に、実際にどれだけ思い出せるかのテストを受けました。
結果はこうでした。
- 言葉派の人ほど、単語を覚えるときに「よく覚えられそう」と高く評価した
- 映像派の人ほど、絵を覚えるときに「よく覚えられそう」と高く評価した
- しかし、好みのタイプと実際の成績のあいだには関係がなかった
つまり、学習スタイルは「覚えられた気がする」という手ごたえには影響していましたが、実際にどれだけ身についたかには影響していなかったのです。
これは英語学習でもよく起きます。好きな方法で勉強すると手ごたえがあるので、「自分にはこれが合っている」と感じます。けれども手ごたえと定着は別物です。本当に合っているかどうかは、1週間後に思い出せるかで確かめるしかありません。
05なぜ俗説は広がるのか:『脳科学』の見抜き方
学習スタイル説がこれほど広まった理由の一つは、商品やサービスと結びつきやすいことです。先の Dekker らの調査でも、先生たちが信じやすかったのは、とくに商業的な教育プログラムに関係する俗説でした。「あなたのタイプを診断して、ぴったりの教材を」という売り方は、わかりやすく、魅力のある約束に聞こえます。
英語学習の広告にも、「脳科学にもとづく」「右脳で覚える」「〇〇型の人のための」といった言葉がよく登場します。こうした言葉を見かけたら、次の3つを確かめます。
- 何と比べたのか:その方法で学んだ人と、別の方法で学んだ人を比べた結果なのか。「使った人の満足度」だけでは、効果があったかどうかはわかりません。
- 何を測ったのか:「覚えやすかった」という感想なのか、1週間後のテストの点なのか。Knoll らの実験が示したように、手ごたえと成績は別物です。
- だれが確かめたのか:売る側の説明だけでなく、第三者の研究で確かめられているか。
もう一つ覚えておきたいのは、「脳」という言葉が入るだけで説明がもっともらしく聞こえる、という受け手の側のくせです。脳についての知識が多い先生ほど俗説を信じやすかったという Dekker らの結果は、知識があることと、根拠を見分けられることは別だと教えてくれます。
迷ったときは、「タイプに関係なく、だれにでも効くと確かめられている方法」を土台にするのが安全です。
06本当のところ:合わせるべきは「中身」
学習スタイル説には、条件つきで正しい部分もあります。Pashler らも、人が学び方の好みを持っていること、そして得意な情報処理には個人差があることは認めています。好きな方法なら続けやすい、という効果もあるでしょう。
ただ、英語学習でもっと大切なのは「学ぶ中身に合わせて、使う感覚を選ぶ」ことです。発音は、どれほど目で見る派の人でも、耳で聞かなければ身につきません。つづりは、どれほど耳派の人でも、目で見て書かなければ覚えられません。
| 学ぶ中身 | 主に使う感覚 | やり方の例 |
|---|---|---|
| 発音・リズム | 耳と口 | 音声をまねして声に出す、録音して聞き返す |
| 単語のつづり | 目と手 | 見て、隠して、書いて確かめる |
| 単語の意味 | 目・耳・イメージ | 例文や場面の絵と一緒に覚える |
| リスニング | 耳(+目) | スクリプトを読みながら聞いてから、音だけで聞く |
| 文法 | 目で理解、口で練習 | 説明を読んだあと、例文を声に出す |
さらに、多聴の節で紹介した研究(Chang & Millett、2014年)では、やさしい読み物を「読むだけ」「聞くだけ」「読みながら聞く」で比べたところ、聞き取りの流暢さがもっとも安定して伸びたのは「読みながら聞く」グループでした。目と耳のどちらか一方ではなく、両方を使うほうが強いのです。
07じゃあどうする:目と耳を両方使い、成果で選ぶ
学習スタイルの診断結果より、次の3つを基準に学び方を選びます。
1. 中身に必要な感覚を抜かさない
「耳派だから文字は見ない」「目派だから音声は聞かない」はやめます。上の表を参考に、学ぶ中身が求める感覚を必ず使います。
2. 目と耳を重ねる
音声とスクリプトがある教材なら、「読みながら聞く」時間をつくります。単語は、つづりを見て、音声を聞いて、声に出して、書く。感覚を重ねるほど、取りこぼしが減ります。
3. 手ごたえではなく成果で比べる
新しい勉強法を試すときは、1週間後に小テストをして比べます。たとえば単語20個を、A の方法と B の方法で10個ずつ覚え、1週間後に何も見ずに思い出せた数を数えます。
あわせて、タイプに関係なくだれにでも効くと研究で確かめられている方法を使います。読み返すより思い出す練習(想起練習)、間をあけた復習(間隔反復)などです。どちらも第1章で詳しく扱っています。
「自分は耳から覚えるタイプ」という言葉は、学び方の幅を狭めてしまうことがあります。タイプの箱から出て、中身と成果で学び方を選びましょう。
合わせるべきは『自分のタイプ』ではなく『学ぶ中身』
今日からのやり方
- 「自分は〇〇タイプ」という思い込みをいったん脇に置く
- 今日学ぶ中身(発音・単語・文法・聞き取り)を1つ決める
- 中身に合う感覚を選ぶ(発音なら耳と口、つづりなら目と手)
- 音声とスクリプトがある素材では、読みながら聞く時間をつくる
- 最後に何も見ずに思い出して言う・書く、で定着を確かめる
レベル別:あなたならこうする
音声つきの教材を選び、文字を目で追いながら聞く練習から始めます。単語は音声を聞いて声に出し、つづりも書いてみます。目・耳・口を全部使うほうが、どれか1つに絞るより取りこぼしが減ります。
苦手だと思っている形式を避けないことが大切です。「耳派だから読まない」では語彙の伸びが止まります。多聴と多読を両方続け、同じ素材を読む・聞くの両方で使います。
学び方の好みより、弱点の技能に時間を回す段階です。4技能の学習時間を記録し、少ない技能に意識的に割り振ります。自分の感覚より、テストや録音の結果で判断します。
よくある失敗と対策
つづりや似た単語の区別は、目で見ないと身につきにくいものです。音声と文字をセットにして覚えます。
教材は、今のレベルに合うか、目的の技能を鍛えられるかで選びます。診断より、試しに1週間使って成果で判断します。
手ごたえのある方法が、実際に定着するとは限りません。1週間後に小テストをして、本当に覚えているかで比べます。
1 MIN
今日覚えた単語を、何も見ずに声に出して3つ言ってみる
友だちに出したい、この節の3問
タップで答え。「X で出題する」で、そのまま問題として出せます。
終-6「人には合う学習スタイルがある」説、信じている先生はどれくらい?
イギリスとオランダの先生242人を調べた調査では、「好みの学習スタイルで教わるとよく学べる」という文に、イギリスで93%、オランダで96%が同意していました。脳科学に関心の高い先生たちでさえ、そうだったのです。
終-6「耳から覚えるタイプ」の人は、音声で学ぶと成績が上がる?
大人を対象に、耳派か目派かを調べてから画面で読む文章か音声の本で学ばせた実験では、タイプと教材の形の組み合わせによる差は、直後のテストでも2週間後のテストでも見られませんでした。
終-6好みの学習スタイルの教材で「よく覚えられた」と感じるのは錯覚?
言葉派か映像派かを調べてから単語や絵を覚えさせた実験では、好みに合う教材ほど「よく覚えられた」と感じる傾向がありました。けれども実際の成績とは関係がありませんでした。手ごたえと定着は別物です。
PRACTICE KIT
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動画で学ぶ
もっと詳しく(コラム)
この節の根拠(研究・公式情報)
タイプに合わせた指導の効果を示すには特定の交差の結果が必要だが、それを示す研究はほぼなく、適切な方法の研究のいくつかは逆の結果だった。診断を教育に取り入れる根拠は不十分と結論。
Pashler, H., McDaniel, M., Rohrer, D., & Bjork, R. (2008). Learning styles: Concepts and evidence. Psychological Science in the Public Interest, 9(3), 105–119.出典を開く ↗英国と蘭国の教師242人の調査で、「好みの学習スタイルで学ぶとよく学べる」に英国93%、蘭国96%が同意。脳の一般知識が多い教師ほど俗説を信じやすかった。
Dekker, S., Lee, N. C., Howard-Jones, P., & Jolles, J. (2012). Neuromyths in education: Prevalence and predictors of misconceptions among teachers. Frontiers in Psychology, 3, 429.出典を開く ↗耳派・目派の好みは実際の聞く力・読む力と関係せず、音声の本か画面の文章かの組み合わせでも、直後・2週間後の理解テストに差は出なかった。
Rogowsky, B. A., Calhoun, B. M., & Tallal, P. (2015). Matching learning style to instructional method: Effects on comprehension. Journal of Educational Psychology, 107(1), 64–78.出典を開く ↗言葉派・映像派の好みは「覚えられそう」という自己評価には影響したが、実際の想起成績とは関係しなかった。
Knoll, A. R., Otani, H., Skeel, R. L., & Van Horn, K. R. (2017). Learning style, judgements of learning, and learning of verbal and visual information. British Journal of Psychology, 108(3), 544–563.出典を開く ↗やさしい段階別読み物で13週間学んだ比較で、聞き取りの流暢さがもっとも安定して伸びたのは「読みながら聞く」グループだった。
Chang, A. C.-S., & Millett, S. (2014). The effect of extensive listening on developing L2 listening fluency: Some hard evidence. ELT Journal, 68(1), 31–40.出典を開く ↗よくある質問
好きな学び方を続けるのは悪いこと?
悪くありません。好きな方法は続けやすく、続けることはとても大切です。ただ、成果が出ている理由が「タイプに合っているから」とは限りません。中身に必要な感覚(発音なら耳)を抜かさないことだけ注意します。
学習スタイル診断には意味がないの?
自分の好みを知るきっかけにはなります。研究で根拠が乏しいとされたのは、診断結果に合わせて教え方を変えると成績が上がる、という部分です。診断は話のタネ程度に受け止め、学び方は中身と成果で選びます。
右脳派・左脳派というのもありますか?
得意なことに個人差はありますが、「右脳型」「左脳型」で人を分けて学び方を決めるという考え方も、脳についての俗説の代表例としてよく取り上げられます。関連の解説動画も参考になります。
終章|英語学習の誤解をぜんぶ解く



