第11章|ライティング11-3要約の技術要約は「短く書く」技術ではない。「捨てる」と「言い換える」の技術だ

1983年、Brown と Day は、アメリカの5年生から大学生、さらに大学で作文を教える先生にまで、要約を書いてもらいました。年齢が上の人ほど、ルールを効率よく使い、よい要約を書いていました。そして英検2級の要約問題には、要約になっていないと判断されると0点になることがある、と書かれています。本文の文をつなぎ合わせるだけでは足りないのです。上手な書き手は、本文に何をしていたのでしょうか。
01要約のとき、頭の中で起きていること
要約は「文章を短くする作業」と思われがちですが、実際には「何が大事かを決める作業」です。心理学者の Kintsch と van Dijk は1978年、人が文章を理解するとき、細部を省いたり、いくつかの情報をまとめて一般化したりして、文章全体の要点(マクロ構造)を作ると考えました。そのための規則をマクロルールと呼びます。
Brown と Day(1983年)はこの考えをもとに、アメリカの5年生・7年生・10年生(日本の小5・中1・高1にあたる学年)と大学生、さらに大学で作文を教える先生に要約を書いてもらいました。その結果、年齢が上の生徒や先生ほどルールを効率よく使い、よい要約を書いていました。とくに上手な書き手は、段落をまたいで同じ話題をまとめ直していました。
要約のルールは、次の4つに整理できます。
| ルール | すること | 例 |
|---|---|---|
| ① 細部を消す | 例・数字・エピソードを省く | 「スマホで駅から会社まで」→ 消す |
| ② くり返しを消す | 同じ内容の言い直しを1つにする | 似た説明が2文あれば1文に |
| ③ まとめ語にする | 具体的なものを上位の語で言う | apples, bananas and grapes → fruit |
| ④ 主題文を選ぶ・作る | 段落の要点を1文で言う | 主題文がなければ自分で作る |
この4つは、前の節で扱ったパラグラフの型を「逆向きに使う」作業でもあります。書き手が「主張→理由→例」と組み立てたものから、例を外し、主張と理由だけを取り出すのが要約です。
02例で見る:約130語→49語
次の英文(自作)を、45〜55語で要約してみます。
In many cities, people can now rent bicycles from stations on the street and return them at another station. These shared bicycles have become popular for several reasons. First, they are convenient. Users can unlock a bike with a smartphone and ride it for a short trip, such as from a train station to their office. Second, they are good for the environment, because people who ride them use cars and taxis less often. However, shared bicycles also cause problems. Some users leave the bikes on sidewalks instead of returning them to a station, which makes it hard for people to walk. In addition, the bikes are sometimes damaged, and repairing them costs the companies a lot of money.
(多くの都市では、道の駐輪場で自転車を借り、別の駐輪場に返せるようになった。シェア自転車が広まった理由はいくつかある。まず便利だ。スマホで鍵を開け、駅から会社までのような短い移動に使える。次に環境によい。乗る人は車やタクシーを使う回数が減るからだ。しかし問題もある。駐輪場に返さず歩道に置いていく利用者がいて、歩きにくくなる。さらに自転車が壊されることがあり、修理に会社は多くのお金がかかる。)
悪い要約
- In many cities, people can now rent bicycles from stations on the street. Users can unlock a bike with a smartphone and ride it from a train station to their office. However, some users leave the bikes on sidewalks instead of returning them to a station.
本文の文をほぼそのまま写しています。スマホや会社という細部が残る一方で、「環境によい」「修理の費用」という大事な点が抜けています。
よい要約(49語)
- Shared bicycles, which can be rented and returned at stations around a city, are becoming more common. They are popular because they are easy to use for short trips and help reduce car use. However, they also create problems, such as bikes left on sidewalks and high repair costs.
(街の駐輪場で借りて返せるシェア自転車が増えている。短い移動に使いやすく、車の利用を減らすので人気がある。しかし、歩道に置かれた自転車や高い修理費などの問題も生んでいる。)
本文の「導入→利点2つ→問題2つ」という構造を3文で残し、細部(スマホ、会社)を消し、「車やタクシー」を car use にまとめ、「修理に多くのお金がかかる」を high repair costs と短くしています。
03言い換えの5つの道具
本文をそのまま写さずに書くための道具を5つ紹介します。
- 品詞を変える。 repairing them costs a lot of money(修理に多くのお金がかかる)→ high repair costs(高い修理費)。動詞のかたまりを名詞のかたまりにすると、短くなります。
- まとめ語(上位語)を使う。 smartphones, tablets and laptops(スマホ、タブレット、ノートパソコン)→ digital devices(デジタル機器)。cars and taxis → cars。
- 能動態と受動態を入れかえる。 People can rent the bikes at stations.(人々は駐輪場で自転車を借りられる。)→ The bikes can be rented at stations.(自転車は駐輪場で借りられる。)
- 具体例を一般化する。 from a train station to their office(駅から会社まで)→ short trips(短い移動)。
- つなぎ言葉で構造を見せる。 However(しかし)、because(なぜなら)、As a result(その結果)を使うと、利点と問題の関係が1語で伝わります。
注意したいのは、言い換えで意味を変えないことです。たとえば some users(一部の利用者)を users(利用者全体)に変えると、本文より強い主張になってしまいます。数量や程度(some, many, often, sometimes)は、言い換えても同じ強さを保ちます。また、専門用語や固有名詞は、無理に言い換えなくてかまいません。
類語辞典で見つけた語をそのまま入れるのも危険です。類語は意味が少しずつ違うので、例文で使われ方を確かめてから使います。
04試験の要約問題とのつながり
英検は2024年度の問題形式のリニューアルで、1級・準1級・2級のライティングに要約問題を加えました。2025年度には準2級プラスが新設され、ここにも要約があります。2026年度第1回の公式の過去問で、要約の語数の指示を確かめると次のとおりです。
| 級 | 要約の語数 | 同じ回の意見文(目安) |
|---|---|---|
| 1級 | 90〜110語 | 200〜240語 |
| 準1級 | 60〜70語 | 120〜150語 |
| 2級 | 45〜55語 | 80〜100語 |
| 準2級プラス | 25〜35語 | 50〜60語 |
1級と準1級の問題には、できるだけ自分の言葉で要約するよう英語で指示があります。2級の問題には、要約になっていないと判断された場合は0点になることがある、と日本語で書かれています。本文の文を切り貼りするだけでは足りない、ということです。
試験での手順は、この節の4つのルールそのままです。
- 段落ごとに、要点を日本語で1行メモする(例:「導入:シェア自転車が増えた」「利点:便利・環境」「問題:歩道・修理費」)
- メモをもとに、段落の数に近い文の数で英文を組み立てる
- 言い換えの道具で、本文と同じ語の並びを避ける
- 語数を数え、指定の範囲に収める
大学入試の内容説明や要約問題(日本語で答えるものも含む)でも、①〜④の考え方は同じです。英語の要約で鍛えた「要点を選ぶ力」は、日本語で答える問題にもそのまま使えます。語数の指示は年度で変わることがあるので、受験する回の公式情報を必ず確認してください。
05要約は読む力も伸ばす
要約の効果は、要約が上手になることだけではありません。Graham と Hebert は2010年の報告書 Writing to Read で、書く活動が読む力を伸ばすかを調べた研究を集めて分析しました。
- 読んだ文章の要約を書く活動は、19の比較のうち17(89%)で読解力に正の効果があった
- 効果量は、中学・高校生で0.33(11研究)、小学生で0.79(4研究)だった
- 要約を書くことは、ただ読む・読み返す・読んで勉強するといった活動より効果があった
また、前の節で紹介した Writing Next では、要約のしかたを教える指導が、よい要約を書く力に対して効果量0.82と大きな効果を示していました。
なぜ読む力にもつながるのでしょうか。要約するには、どの文が大事でどの文が例なのかを判断しなければなりません。読むだけなら分かったつもりで通りすぎる部分も、自分の言葉で書こうとすると「本当は分かっていない」ことが見えてきます。
ただし、これらの研究の対象は英語を母語とするアメリカの児童・生徒で、外国語としての英語の研究ではありません。それでも、「読んだあとに要点を書く」という活動は、多読や精読の仕上げに加えやすい練習です。長文問題を1つ解いたら、その文章を3文で要約する。これだけで、読みっぱなしを防げます。
細部を捨て、まとめ語で言い換え、構造をつなぎ言葉で示す
今日からのやり方
- 読んだ英文の段落ごとに、要点を日本語で1行メモする
- 例・数字・くり返しに線を引いて消す
- 具体的なものを上位の語でまとめ、主題文を選ぶか作る
- 段落の数に近い文の数で、つなぎ言葉を入れて英文にする
- 本文と同じ語の並びが続く部分を言い換え、語数を数える
レベル別:あなたならこうする
まずは日本語で要約します。中学の教科書の1課を読み、各段落を1行の日本語にまとめる練習から始めます。英語なら、全体を1文で言う練習をします。
英検2級の要約(45〜55語)を目標に、3段落の文章を3文で要約します。品詞を変える、まとめ語にする、の2つの言い換えをまず使えるようにします。
準1級・1級の要約に向けて、本文の語をほとんど使わずに書く練習をします。書いたあと、本文と照らして意味の強さ(some/many など)が変わっていないか確かめます。
よくある失敗と対策
まず本文を見ずに日本語の要点メモだけを見て英文を書きます。本文を閉じて書くと、自然に言い換えが起こります。
書く前に段落の数だけ要点メモを作り、全部が要約に入っているか印をつけます。とくに However の後ろの段落は落としやすいので注意します。
some, often, may などの程度の語に印をつけ、要約でも同じ強さで残します。断定しすぎると、内容の点が下がる原因になります。
1 MIN
昨日読んだ英文かニュースを、英語1文で要約してみる
友だちに出したい、この節の3問
タップで答え。「X で出題する」で、そのまま問題として出せます。
11-3文章の要約がうまい人は、何をしている?
小学生から大学生までを比べた研究では、年齢が上の生徒や熟練した書き手ほど、細部を消す・まとめ語に置きかえるといったルールを効率よく使い、段落をまたいで同じ話題をまとめ直していました。
11-3読んだ文章の要約を書くと、読む力も上がる?
英語を母語とする小中高生の研究を集めた分析では、読んだ文章の要約を書く活動は、読むだけ・読み返すだけより読解力を伸ばしました。19の比較のうち17で効果は正の向きでした。
11-3英検の要約は、本文の文を写してもいい?
準1級と1級の公式問題には、できるだけ自分の言葉で要約するよう英語で指示があります。2級の問題も、要約になっていないと判断されると0点になることがあると書かれています。
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この節の根拠(研究・公式情報)
文章の理解と産出のモデルを示した論文。細部の削除や一般化などのマクロルールで、文章全体の要点(マクロ構造)が作られると考えた。
Kintsch, W., & van Dijk, T. A. (1978). Toward a model of text comprehension and production. Psychological Review, 85(5), 363–394.出典を開く ↗小5・中1・高1・大学生と作文指導者が要約を書いた。年長の生徒や熟練者ほど削除・まとめ・選択・創出のルールを効率よく使い、段落をまたいで話題ごとにまとめ直していた。
Brown, A. L., & Day, J. D. (1983). Macrorules for summarizing texts: The development of expertise. Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior, 22(1), 1–14.出典を開く ↗要約を書く活動は19比較中17で読解力に正の効果。効果量は中高生0.33、小学生0.79。英語を母語とする児童・生徒の研究の分析である。
Graham, S., & Hebert, M. (2010). Writing to Read: Evidence for how writing can improve reading. A report from Carnegie Corporation of New York. Alliance for Excellent Education.出典を開く ↗要約のしかたを明示的に教える指導は、よい要約を書く力に対して効果量0.82と大きく、一貫した正の効果があった。
Graham, S., & Perin, D. (2007). Writing Next: Effective strategies to improve writing of adolescents in middle and high schools. Alliance for Excellent Education.出典を開く ↗2級の要約問題の指示は「45〜55語の英語で要約」。要約になっていないと判断された場合は0点と採点されることがあると明記されている。
公益財団法人 日本英語検定協会「2026年度第1回検定 一次試験問題(2級)」出典を開く ↗よくある質問
要約に自分の意見を入れてもいい?
入れません。要約は本文の内容を短く伝えるものです。I think などで意見を足すと、要約ではなくなってしまいます。意見は意見文の問題で書きます。
本文の単語を1語も使ってはいけない?
そこまでは求められていません。キーワードや専門用語はそのまま使ってかまいません。避けたいのは、本文の文や長いかたまりを写すことです。
語数が足りないときはどうする?
落とした段落の要点がないか確かめます。それでも足りなければ、まとめ語にした部分を少し具体的にします。例を足すのは最後の手段です。




