第10章|スピーキング10-5言いたいことが出てこないときの言い換え術「急須」が言えなくても大丈夫。英語が話せる人は知らない単語を説明している

「ほら、あれ。お茶を入れる、取っ手のついた小さいやつ」。日本語なら、度忘れした「急須」もこうして説明できます。ところが英語になると、1つの単語が出てこないだけで黙り込み、会話が止まってしまう。英語でうまくやりとりしている人も、すべての単語を知っているわけではありません。12週間の授業で、ある訓練を受けた28人の群だけが、話す力のテストの点を有意に伸ばした研究もあります。その訓練とは、何だったのか。
01黙るより、説明するほうが通じる
会話の途中で単語が出てこないとき、取れる道は大きく2つです。
- あきらめる道:話題を変える、言うのをやめる、黙る。
- なんとか伝える道:説明する、似た言葉で代用する、身ぶりを使う、相手に助けを求める。
第二言語の研究では、こうした工夫をまとめてコミュニケーション方略と呼びます。Dörnyei と Scott(1997)は、それまで20年ほどの研究を整理し、方略の定義や分類を詳しくまとめました。その一覧には、遠回しに説明する、近い意味の語で代用する、相手に助けを求める、といった工夫が含まれています。
大事なのは、こうした工夫が「ごまかし」ではなく、母語話者どうしでも日常的に使われている正式な技術だということです。母語の日本語でも、度忘れした単語を「ほら、あれ。お茶を入れる、取っ手のついた小さいやつ」と説明することがあります。英語でも同じことをすればいいのです。
ポイント:知らない単語は「訳す」のではなく「説明する」。これだけで会話が止まる回数は大きく減ります。
02説明の型7つ:これだけで大半は言える
次の7つの型を覚えると、知らない単語のほとんどを説明できます。
| 型 | 英語 | 使う場面 |
|---|---|---|
| 1. 種類 | It's a kind of ~. | 仲間のグループを言う |
| 2. 用途 | It's something you use to ~. | 道具・物 |
| 3. 人 | It's a person who ~. | 職業・役割 |
| 4. 場所 | It's a place where ~. | 施設・場所 |
| 5. 似ているもの | It's like ~, but ~. | 近いものとの違い |
| 6. 反対 | It's the opposite of ~. | 形容詞・状態 |
| 7. 例 | For example, ~. | 具体例で伝える |
例を見てみましょう。
- 急須 → It's a kind of small teapot. You use it to make green tea.(小さいティーポットの一種で、緑茶をいれるのに使います)
- 大家さん → It's a person who owns the apartment I live in.(私が住んでいるアパートを持っている人)
- 銭湯 → It's a place where you pay to take a big bath with other people.(お金を払って、ほかの人と大きなお風呂に入る場所)
- 金縛り → It's like a dream, but you can't move your body even though you're awake.(夢みたいだけど、目が覚めているのに体が動かない状態)
- 几帳面 → It's the opposite of messy. She always keeps things in order.(散らかっているの反対。いつも物を整理している)
最後に、相手が単語を教えてくれたら、すかさずくり返します。
- Oh, a landlord! Thanks. My landlord is really kind.(ああ、landlord か。ありがとう。うちの大家さんはとても親切です)
このくり返しで、その単語はかなりの確率で自分のものになります。
03コツは英訳の前に「日本語を砕く」こと
言い換えが苦手な人の多くは、日本語の単語を1対1で英語にしようとして止まっています。たとえば「遠慮する」「お疲れさま」「よろしくお願いします」は、ぴったりの英単語がありません。
そこで、英訳の前に日本語を、小学生にも分かる日本語に言い換えるステップを入れます。いわば「和文和訳」です。
| 難しい日本語 | 砕いた日本語 | 英語 |
|---|---|---|
| 遠慮しておきます | 今回はやめておきます、ありがとう | I'll pass this time, but thanks. |
| 彼は気が利く | 彼は人が何を必要としているかすぐ気づく | He always notices what people need. |
| 段取りが悪かった | 準備の順番がうまくなかった | We didn't plan the steps well. |
| 締め切りに追われている | やることがたくさんあって時間がない | I have a lot to do and not much time. |
| 様子を見ます | 少し待って、どうなるか見ます | Let's wait and see. |
日本語を砕くと、多くの場合、中学英語で言える形になります。完璧に同じニュアンスでなくても、会話では「だいたい伝わる」ことのほうがずっと大事です。
もう1つのコツは、動詞で言うことです。日本語は名詞でまとめる表現が多いのですが、英語では動詞を使った文に開くと言いやすくなります。
- 早起きが習慣化した → I get up early every day now.(今は毎日早起きしている)
- 体調管理に気をつけている → I try to stay healthy.(健康でいるようにしている)
04時間を稼ぐ・助けを求めるのも立派な方略
説明の型のほかに、会話を止めないための方略があと2つあります。
時間を稼ぐことば
考えている間、黙り込む代わりに「考え中です」と知らせます。
- Let me see...(ええと…)
- How can I put it...(何て言えばいいかな…)
- What's the word...(あの単語、何だっけ…)
相手に助けを求めることば
- What do you call the thing that ~?(~するあれ、何て言うんでしたっけ?)
- I don't know the word in English, but ~.(英語で何て言うか分からないんだけど、~)
- Is that the right word?(この単語で合ってる?)
Dörnyei(1995)は、こうした方略を授業で教えられるかを実験で調べ、少なくとも一部の方略は、焦点を当てた指導によって使う量と質が伸びうると報告しています。
さらに、Nakatani(2005)は、外国語として英語を学ぶ62人の学習者が受けた12週間の授業で、片方の群(28人)にだけ会話の方略に意識を向ける訓練を行いました。訓練群は話す力のテストの点が有意に上がり、通常の授業だけの群では有意な伸びは見られませんでした。書き起こしや本人へのふり返りの調査から、会話を途切れさせない工夫や、意味のやりとりで困難を解決する工夫を使えるようになったことが、伸びの一因と考えられています。
051日5語の「説明ゲーム」で鍛える
言い換えの力は、ゲーム感覚で毎日鍛えられます。
ひとり説明ゲーム(1日5語・5分)
- 身の回りから、英語で言えない物や言葉を5つ選ぶ(例:つまようじ、湯たんぽ、締め切り、反抗期、ドタキャン)。
- それぞれを、7つの型を使って英語で説明する。辞書は見ない。
- 言い終わったら辞書で本当の単語を調べ、説明に足りなかった情報をメモする。
たとえば「ドタキャン」なら、
- It's when someone cancels a plan at the last minute.(だれかが直前に予定を取り消すこと)
- Actually, there's a word for it: "a last-minute cancellation."(実は last-minute cancellation という言い方があります)
ふたりで当てっこ
家族や友だちと、単語を言わずに説明して当ててもらいます。英語の授業で使われる活動とほぼ同じ形です。相手が日本語話者でも、説明を英語でするだけで十分な練習になります。
英英辞典を「説明の見本帳」にする
学習者向けの英英辞典の定義は、やさしい単語で説明する見本の宝庫です。知っている単語の定義を声に出して読むと、説明の型が自然に身につきます。
単語が出ないときは、知っている言葉で説明すればいい。
今日からのやり方
- 説明の型7つ(kind of / use to / person who など)を表にして声に出す
- 身の回りから、英語で言えない物や言葉を5つ選ぶ
- 辞書を見ずに、型を使って1つずつ英語で説明する
- 辞書で本当の単語を調べ、説明に足りなかった情報をメモする
- 会話で単語を教えてもらったら、すぐにその単語を使ってくり返す
レベル別:あなたならこうする
It's a kind of ~. と It's something you use to ~. の2つだけで十分です。身の回りの物を1日3つ説明しましょう。Let me see... で時間を稼ぐ練習も一緒に。
7つの型をすべて使い、物だけでなく「気持ち」や「状況」も説明します。日本語を砕く和文和訳を習慣にし、遠慮・段取りなど日本語らしい言葉に挑戦しましょう。
専門用語や抽象的な概念を、相手に合わせて言い換える練習をします。同じ内容を、子ども向け・同僚向けの2通りで説明すると、語彙の幅が広がります。
よくある失敗と対策
単語を思い出そうと固まるより、すぐ説明に切り替えるほうが会話は続きます。What's the word... とつないでから、型を使って説明しましょう。
ぴったりの英単語がない日本語は多いものです。英訳の前に、まず日本語を小学生にも分かる言葉に砕いてから英語にしましょう。
相手が単語を教えてくれたら、Oh, a landlord! のようにすぐくり返し、続けて自分の文で使います。その一回が、単語を覚える大きなきっかけになります。
1 MIN
部屋にある物を1つ選び、It's something you use to ~. で説明する
友だちに出したい、この節の3問
タップで答え。「X で出題する」で、そのまま問題として出せます。
10-5英語で言葉が出ないときの言い換えの技術は、教えて伸びるもの?
Dörnyei(1995)は、こうした「コミュニケーション方略」を授業で教えられるかを調べ、少なくとも一部の方略は、焦点を当てた指導で使う量と質が伸びうることを示しました。才能ではなく技術です。
10-5言い換えなどの会話の方略を練習すると、話す力のテストにも効く?
Nakatani(2005)の12週間の授業研究では、方略への意識を高める訓練を受けた群は、話す力のテストの点が有意に上がり、通常授業の群では有意な伸びがありませんでした。
10-5英語で言いたいことが出てこないとき、言い換えの第一歩は?
日本語を英訳する前に、まず日本語を「小学生にも分かる日本語」に言い換えることです。「遠慮する」なら「本当はしたいけど、迷惑だと思ってやめておく」。ここまで砕けば、中学英語で言えます。
PRACTICE KIT
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もっと詳しく(コラム)
この節の根拠(研究・公式情報)
コミュニケーション方略を教えられるかという議論を整理し、実験の結果、少なくとも一部の方略は焦点を当てた指導で使う量と質が伸びうることを示した。
Dörnyei, Z. (1995). On the teachability of communication strategies. TESOL Quarterly, 29(1), 55–85.出典を開く ↗それまで約20年のコミュニケーション方略研究を総覧し、方略の定義の違いと主な分類を整理。方略として使われる工夫を網羅的に一覧にした。
Dörnyei, Z., & Scott, M. L. (1997). Communication strategies in a second language: Definitions and taxonomies. Language Learning, 47(1), 173–210.出典を開く ↗12週間の授業で62人を比較。方略への意識を高める訓練を受けた群は話す力のテストが有意に伸び、通常授業の群では有意な伸びがなかった。
Nakatani, Y. (2005). The effects of awareness-raising training on oral communication strategy use. The Modern Language Journal, 89(1), 76–91.出典を開く ↗よくある質問
説明すると回りくどくなりませんか?
会話では、黙って止まるより、多少回りくどくても伝わるほうがずっと良い結果になります。相手が単語を教えてくれれば、それを覚えるチャンスにもなります。
単語を覚えるのとどちらを優先すべき?
両方必要です。単語を増やすほど説明も楽になります。ただ、どれだけ覚えても出てこない単語は必ずあるので、言い換えの型は早いうちに身につけておくと安心です。
子どもと一緒にできる練習は?
単語を言わずに説明して当てるゲームがおすすめです。最初は日本語で説明し合い、慣れたら It's a kind of ~. など簡単な英語の型を1つずつ足していくと、親子で楽しく続けられます。




