第10章|スピーキング10-7会話をつなぐ技術会話の「間」は世界平均0.2秒。沈黙を埋めるのは単語力より“つなぎ”の技術

日本語・英語・デンマーク語など10の言語の会話を調べると、話し手が交代するときの間は、平均で約0.2秒でした。日本語にいたっては、ほぼ0秒。この短さで英語の返事を一から組み立てるのは、学習者にはほぼ不可能です。それでも会話が上手な人は、長い沈黙をつくらず、聞き取れなかったときも話を止めません。単語の数だけでは、この差は説明できない。0.2秒のすき間で、彼らは何をしているのでしょうか。
この節の目次(6項目)
01会話の間は0.2秒。だから“つなぎ”が要る
会話では、話し手が交代するときの「間」がとても短いことが知られています。Stivers ら(2009)は、日本語・英語・デンマーク語など10の言語の会話を調べました。どの言語でも、話が重なるのを避けつつ、沈黙をできるだけ短くするという共通の傾向がありました。言語全体の平均の間は約0.2秒。日本語の平均はほぼ0秒で、調べた言語の中で最も短く、いちばん長いデンマーク語でも約0.5秒でした。
学習者にとって、0.2秒で英語の返事を組み立てるのはほぼ不可能です。だから、上手な人は中身の返事の前に「つなぎ」を入れて、時間をかせぎながら会話のリズムを保っています。
- Oh, really?(へえ、そうなんだ)
- That's a good question.(いい質問ですね)
- Hmm, let me think.(うーん、考えさせて)
この一言で、相手は「ちゃんと聞いていて、今考えている」と分かります。沈黙が長くなって相手が不安になるのを防げるのです。
ポイント:返事を完璧に組み立ててから話そうとすると、沈黙が長くなる。まず短いつなぎで反応してから、中身を考えればいい。
02あいづち:聞いていることを英語で示す
あいづちは、話し手に「聞いています、続けて」と伝える合図です。英語のあいづちは、気持ちの種類で使い分けると自然になります。
| 気持ち | 英語 | 意味 |
|---|---|---|
| 聞いている | Uh-huh. / Mm-hm. / I see. | うん、なるほど |
| 同意 | Right. / Exactly. / That makes sense. | そうだね、筋が通ってる |
| 驚き | Really? / No way! / Seriously? | 本当?/うそでしょ |
| 共感(良いこと) | That's great! / Good for you! | よかったね |
| 共感(つらいこと) | Oh no. / That's too bad. / I'm sorry to hear that. | それは大変 |
| 興味 | Interesting. / Tell me more. | もっと聞かせて |
注意したいのは、Yes や Yeah を連発しないことです。英語の Yes / Yeah は「その通り」という同意に受け取られやすいので、ただ聞いていることを示したいときは Uh-huh や I see のほうが誤解がありません。
また、相手の言葉の一部をくり返すのも効果的なあいづちです。
- A: I went to Hokkaido last week.(先週北海道に行ったんだ)
- B: Hokkaido! Nice. Was it cold?(北海道!いいね。寒かった?)
くり返しは「ちゃんと聞いている」証拠になり、そのまま質問につなげられます。
03聞き返し:具体的に聞くほど会話は速く戻る
聞き取れなかったとき、分かったふりをすると、あとで話がかみ合わなくなります。聞き返しは失礼ではありません。
Dingemanse ら(2015)は、12の言語の会話を比べ、聞き返しなどで会話のつまずきを直すやりとりが、どの言語でも平均で約1.4分に1回起きていることを示しました。さらに、人はできるだけ具体的な聞き返しを選ぶ傾向があり、それが相手の負担を小さくしていました。同じチームの研究(Dingemanse ら, 2013)では、聞き返しに使う「え?」にあたる短い語が、調べた10の言語で驚くほど似た形と働きをしていることも報告されています。
聞き返しは、具体的なほど相手が直しやすくなります。3段階で使い分けましょう。
1. 全部聞き取れなかった
- Sorry? / Pardon?(すみません、もう一度)
- Could you say that again, please?(もう一度言ってもらえますか?)
2. 一部が聞き取れなかった
- Sorry, you went where?(ごめん、どこに行ったって?)
- Did you say fifteen or fifty?(15って言った?50って言った?)
- The meeting is on... which day?(会議は…何曜日?)
3. 意味を確かめたい
- So you mean the train was canceled?(つまり電車が運休したってこと?)
- What does "swamped" mean?(swamped ってどういう意味?)
2番と3番の聞き返しは、聞き取れた部分を示しているので、相手は全部を言い直さずにすみます。
04質問の返し方:答え+ひとこと+質問
会話が続かない最大の原因は、答えが一言で終わることです。
- A: Do you like movies?
- B: Yes.(……会話終了)
これを防ぐのが、答え+ひとこと+質問の3点セットです。
- A: Do you like movies?(映画は好き?)
- B: Yes, I love them. I watched an old Japanese movie last night. Do you have a favorite movie?(大好き。昨夜は昔の日本映画を見たよ。好きな映画ある?)
ひとこと足すことで相手に話のきっかけを渡し、最後の質問で順番を返します。
質問の効果は、研究でも確かめられています。Huang ら(2017)は、初対面どうしの会話やスピードデートの会話を分析し、質問、特に相手の話を受けた追加の質問(フォローアップ質問)を多くする人ほど、相手から好かれていたことを示しました。質問をすると、相手には「ちゃんと聞いてくれている、分かろうとしてくれている」と感じられるからです。一方で、人は質問がそれほど好感につながるとは予想していませんでした。
追加の質問は、相手の話の中の言葉を使うと簡単に作れます。
- A: I started playing the guitar last month.(先月ギターを始めたんだ)
- B: Oh, nice! What made you start?(いいね!始めたきっかけは?)
- B: How often do you practice?(どれくらい練習してるの?)
- B: Is it harder than you expected?(思ったより難しい?)
どれも、相手の話を深める質問です。What about you? / How about you?(あなたは?)も、返事の最後につけるだけで使える万能の質問です。
05つなぎ言葉:「えーと」を英語にする
考えている間の沈黙も、英語らしいつなぎ言葉に置き換えられます。
Clark と Fox Tree(2002)は、大量の自然な会話の録音を分析し、英語の uh と um は、ただの言いよどみではなく、話し手が「これから少し間があく(uh)」「もっと長い間があく(um)」と知らせるために使う、れっきとした英語の単語だと論じました。話し手はこれらを使って、言葉を探していることや、まだ話し続けたいこと、あるいは話す順番をゆずることをほのめかしています。
つまり、英語の「えーと」は英語で言ったほうが、相手に意図が伝わります。日本語の「えーと」「あのー」がまざると、相手は何が起きているのか分かりにくくなります。
| 場面 | つなぎ言葉 |
|---|---|
| 短く考える | Um... / Uh... / Well... |
| 言葉を探す | How can I put it... / What's the word... |
| 考えをまとめる | Let me see... / Let me think... |
| 言い直す | I mean... / What I'm trying to say is... |
| 話題を変える | By the way... / Speaking of ~... |
| 話を戻す | Anyway... / So, as I was saying... |
ただし、使いすぎは禁物です。1つの文に何度も入れるのではなく、詰まったときの「安全ネット」として使いましょう。
064つの技術をつないだ会話例
最後に、ここまでの技術を全部使った会話の例です。
- A: What did you do last weekend?(先週末は何してた?)
- B: Um, let me see... Oh, I went to a pottery class.(えーと…あ、陶芸教室に行ったよ)[つなぎ+答え]
- A: Pottery? That sounds fun.(陶芸?楽しそう)
- B: It was! I made a small cup, but it's a little crooked. How about you?(楽しかった!小さいカップを作ったけど、ちょっとゆがんでる。あなたは?)[ひとこと+質問返し]
- A: I just stayed home and watched a series about a detective in Scotland.(家でスコットランドの刑事のドラマを見てたよ)
- B: Sorry, a detective in... where?(ごめん、刑事が…どこって?)[具体的な聞き返し]
- A: Scotland.(スコットランド)
- B: Oh, Scotland! I see. Is it scary or more like a comedy?(ああ、スコットランド!なるほど。怖い系?それともコメディっぽい?)[くり返し+あいづち+追加の質問]
Bの英語は、どれも中学英語です。会話が続くかどうかは、難しい単語より、こうした小さな技術で決まります。
練習のしかたは簡単です。上の会話例を音読し、Bの部分を自分の本当の話に入れ替えて言ってみる。それから、独り言で「Aの質問」を自分に投げ、3点セットで答える練習をする。この2つを1日5分続けるだけで、実際の会話での反応が変わってきます。
あいづち・聞き返し・質問返し・つなぎ言葉で会話は続く。
今日からのやり方
- あいづちの表から、明日使う3つを選んで声に出す
- 聞き返しの3段階(全部・一部・意味)を1つずつ声に出して言えるようにする
- よく聞かれる質問5つに、答え+ひとこと+質問の3点セットで答える
- 日本語の「えーと」を Let me see... などの英語のつなぎ言葉に替える
- 会話例を音読し、Bの部分を自分の話に入れ替えて言う
レベル別:あなたならこうする
Really? / I see. / How about you? の3つから始めます。返事のあとに How about you? をつけるだけで会話はぐっと続きます。聞き取れないときは Sorry? で大丈夫です。
答え+ひとこと+質問の3点セットを習慣にします。聞き返しは「一部だけ聞き取れなかった」形を使い、相手の言葉を使った追加の質問を毎回1つ入れましょう。
話題を広げる・戻す・変えるつなぎ言葉を使い分け、会話の流れを自分で動かす練習をします。共感と同意を分けたあいづちで、相手との距離を調整しましょう。
よくある失敗と対策
あとで話がかみ合わなくなり、かえって気まずくなります。Sorry, you went where? のように聞き取れた部分を示して具体的に聞き返しましょう。
英語の Yes は同意に受け取られやすいので、ただ聞いていることを示すなら Uh-huh や I see を使います。同意したいときだけ Right. や Exactly. を。
Yes. だけでは会話が止まります。答えのあとに具体的なひとことと、How about you? などの質問を足し、話す順番を相手に返しましょう。
1 MIN
次の会話で、返事の最後に How about you? を1回つける
友だちに出したい、この節の3問
タップで答え。「X で出題する」で、そのまま問題として出せます。
10-7会話で相手が話し終えてから返事まで、何秒?
10の言語の会話を調べた研究では、相手の発話が終わってから次の人が話し始めるまでの間は、平均で約0.2秒でした。日本語の平均はほぼ0秒で、調べた中で最も速い部類でした。
10-7会話中に聞き返すのは、相手に失礼なこと?
12の言語の会話を調べた研究では、聞き返しなどで会話のつまずきを直すやりとりが、どの言語でも平均で約1.4分に1回起きていました。聞き返しは、会話のふつうの部品です。
10-7会話で質問をたくさんする人は、相手に好かれる?
会話の実験で、質問、特に相手の話を受けた「追加の質問」を多くする人ほど、相手から好かれていました。しかも人は、質問がこれほど好感につながるとは予想していませんでした。
PRACTICE KIT
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もっと詳しく(コラム)
この節の根拠(研究・公式情報)
10言語の会話で、話の重なりを避け沈黙を最小にする共通傾向を確認。言語全体の平均の間は約0.2秒で、日本語はほぼ0秒、デンマーク語は約0.5秒だった。
Stivers, T., Enfield, N. J., Brown, P., Englert, C., Hayashi, M., Heinemann, T., ... Levinson, S. C. (2009). Universals and cultural variation in turn-taking in conversation. PNAS, 106(26), 10587–10592.出典を開く ↗12言語の会話で、聞き返しによる会話の修復は平均約1.4分に1回起きていた。人はできるだけ具体的な聞き返しを選び、相手の負担を小さくしていた。
Dingemanse, M., Roberts, S. G., Baranova, J., Blythe, J., Drew, P., Floyd, S., ... Enfield, N. J. (2015). Universal principles in the repair of communication problems. PLOS ONE, 10(9), e0136100.出典を開く ↗聞き返しに使う「え?」にあたる語は、10言語で偶然では説明できないほど似た形と働きを持ち、学んで身につける「単語」だと論じた。
Dingemanse, M., Torreira, F., & Enfield, N. J. (2013). Is "Huh?" a universal word? Conversational infrastructure and the convergent evolution of linguistic items. PLOS ONE, 8(11), e78273.出典を開く ↗会話の研究で、質問、特に追加の質問を多くする人ほど相手から好かれた。人は質問が好感につながることを予想していなかった。
Huang, K., Yeomans, M., Brooks, A. W., Minson, J., & Gino, F. (2017). It doesn't hurt to ask: Question-asking increases liking. Journal of Personality and Social Psychology, 113(3), 430–452.出典を開く ↗大量の自然な会話から、uh は短い間、um は長い間が来ることを知らせる語として使われると論じ、両者は計画して発する英語の単語だと主張した。
Clark, H. H., & Fox Tree, J. E. (2002). Using uh and um in spontaneous speaking. Cognition, 84(1), 73–111.出典を開く ↗よくある質問
あいづちは多いほうがいいですか?
多すぎると、話をせかしているように聞こえることがあります。相手の話の区切りで、気持ちに合った短いあいづちを入れるくらいがちょうどよいでしょう。
何度も聞き返すのは気が引けます
聞き返しはどの言語の会話でも頻繁に起きる、ふつうのやりとりです。全部を聞き直すより、聞き取れた部分を示して具体的に聞き返せば、相手の負担も小さくなります。
質問が思いつきません
相手が言った言葉を使うのがいちばん簡単です。What made you ~? / How often do you ~? / Is it ~? の3つの形を持っておくと、たいていの話に追加の質問ができます。




