第8章|リーディング8-3返り読みをやめる英文を後ろから訳す読み方は、千年前の漢文の読み方の名残だった

英文を最後まで読んでから、後ろへ戻って日本語を組み立てる。1988年、日野信行氏はこうした読み方を「訳読」と名づけ、千年以上前に漢文を学びはじめたころから続く日本の伝統として論じました。返り点をつけて漢文を読んだ、あの発想です。ところが、目が戻れないようにすると文の理解が下がる、という実験もあります。やめるべき「戻り」と、そのままでいい「戻り」。その境目は、どこにあるのでしょうか。
01返り読みとは何か
返り読みとは、英文を最後まで読んでから、後ろから前へ戻りながら日本語の文を組み立てる読み方です。
- I was surprised to hear that the shop near the station had closed.
この文を、学校で習ったように訳すと「駅の近くの店が閉店したと聞いて、私は驚いた」になります。日本語の文では、英文のいちばん後ろにある the station(駅)が最初に来て、いちばん前の I was surprised(私は驚いた)が最後に来ます。目は文の終わりまで行ってから、もう一度最初まで戻らなければなりません。
前から読むと、こうなります。
- I was surprised / to hear / that the shop / near the station / had closed.
- 私は驚いた/聞いて/その店が/駅の近くの/閉店していたと
日本語としては不自然ですが、意味は英語の順番のまま、ちゃんと頭に入っています。これが「前から読む」状態です。英語の話し手も、この順番で考え、この順番で話しています。だから前から読めると、聞くときもついていけるようになります。
02なぜ返り読みが身につくのか
返り読みの癖には、はっきりした理由があります。
1. 語順が逆だから。 日本語は「私は/本を/読む」と動詞が最後に来ます。英語は I / read / a book と、主語のすぐ後に動詞が来ます。さらに英語は、名詞の説明を後ろにつけます(the shop near the station)。日本語は前につけます(駅の近くの店)。きれいな日本語にしようとすると、どうしても後ろから戻ることになります。
2. 和訳で答える練習が多いから。 日野信行氏(1988)は、英語を語ごとに日本語にして日本語の語順に並べ替える「訳読」を、千年以上前の漢文学習から続く日本の伝統として論じました。漢文に返り点をつけて読んだのと同じ発想です。訳読の練習を重ねると、それが英語を読むときの標準の手順になってしまいます。
3. 「全部わかってから進みたい」から。 1語でもあいまいだと不安で、前に戻って確かめたくなります。
ここで大事な区別があります。目が数語だけ戻ること自体は悪くありません。Schotter ほか(2014)は、読み終えた語を見えなくして戻れなくする実験で、文の理解が下がることを示しました。上手な読み手でも、目はときどき少し戻っています。やめたいのは日本語の語順に組み立て直すための、文全体の大きな戻りです。
03前から読むための語順の型
英語には「先に結論、あとから説明」という型がくり返し出てきます。代表的な5つを、前から読む日本語と一緒に見てみます。
型1:名詞のあとに説明(関係詞・前置詞・分詞)
- I met a woman / who works at the zoo.(女の人に会った/その人は動物園で働いている)
- Look at the boy / standing by the door.(男の子を見て/ドアのそばに立っている)
型2:It is ... / to ...(先に評価、あとで中身)
- It is important / to sleep well / before a test.(大事だ/よく眠ることが/テストの前に)
型3:動作のあとに目的(to不定詞)
- She went to the library / to borrow a book.(彼女は図書館へ行った/本を借りるために)
型4:思う・言うのあとに中身(that節)
- I think / that he forgot / about the meeting.(私は思う/彼は忘れていたと/会議のことを)
型5:結果のあとに理由(because など)
- We stayed home / because it was raining hard.(家にいた/雨が激しかったから)
どの型も、前のカタマリだけで一度意味が完成し、後ろのカタマリが説明を足していく形です。読むときは「で、何が?」「どんな?」「なぜ?」と、次に来る説明を待ちかまえる気持ちで進みます。この「待ちかまえ」ができると、戻らなくても意味がつながります。
04スラッシュリーディングのやり方
前から読む練習として広く使われているのが、意味のカタマリごとに斜線(/)を入れて読むスラッシュリーディングです。区切る場所の目安は次のとおりです。
- 長い主語のあと(動詞の前)
- 前置詞(in, at, for, with など)の前
- to不定詞の前
- 接続詞(that, because, when, if など)や関係詞(who, which など)の前
- カンマのところ
練習用の短い文章で試してみます。
- Last summer, / a group of students / from a small town / visited a factory / that makes bicycles. / They learned / that each bicycle / is checked by hand / before it leaves the factory.
- (去年の夏/生徒のグループが/小さな町からの/工場を訪れた/自転車を作っている。/彼らは知った/どの自転車も/手で点検されると/工場を出る前に)
手順は次のとおりです。
- 英文にスラッシュを入れる(最初は自分で、慣れたら頭の中で)
- カタマリごとに、前から日本語の意味を浮かべる(書くのは最初の数回だけ)
- スラッシュの位置で止まらず、流れるように読み直す
- 音声があれば、音声に合わせて目で追う
ひとつ注意があります。カタマリごとに日本語を書き込む作業を毎回続けると、今度は「細切れの和訳」が癖になります。日本語のメモは最初の数週間だけにして、早めに英語のカタマリのまま意味をイメージする段階に進みましょう。
05スラッシュを卒業する3つの練習
スラッシュリーディングは補助輪です。最後は外して走ります。卒業に向けた練習を3つ紹介します。
1. カタマリを長くする。 最初は2〜3語ずつだった区切りを、4〜6語、さらに1節まるごとへと広げていきます。I was surprised to hear / that the shop near the station had closed. と2つで読めれば、もう補助輪はほとんど要りません。
2. 音声に合わせて読む。 音声は前にしか進みません。音声を流しながら英文を目で追うと、戻る余裕がないので、前から理解するしかなくなります。Brysbaert(2019)が紹介している平井(1999)の研究では、日本人大学生の英語を読む速さと、無理なく聞き取れる音声の速さがよく一致していました。読む力と聞く力は、同じ「前から処理する力」でつながっています。
3. やさしい英文を大量に読む。 前から読めるかどうかは、英文の難しさにも左右されます。知らない語が多い英文では、誰でも止まって戻ります。多読用のやさしい本で「戻らなくても意味がわかる」体験をたくさん積むことが、いちばん確実な近道です。
ポイント:返り読みをやめるコツは「戻らないぞ」と力むことではなく、戻らなくても読める英文で練習量を増やすこと。
日本語の語順に並べ替えず、英語の順のまま意味をつなぐ
今日からのやり方
- 教科書や問題集の英文を1段落選び、意味のカタマリごとにスラッシュを入れる
- カタマリごとに前から意味を浮かべ、日本語の語順に並べ替えずに読む
- スラッシュで止まらず、流れるように2回読み直す
- 音声があれば、音声に合わせて英文を目で追う
- 慣れたらスラッシュを減らし、カタマリを長くしていく
レベル別:あなたならこうする
中学教科書の短い文で、主語・動詞のあとと前置詞の前だけに区切りを入れる。1文を2〜3カタマリで読めれば十分。音声つきの本文で目で追う練習も。
長文問題の1段落にスラッシュを入れ、前からの意味で読み直す。2週間たったら日本語メモをやめ、音声に合わせて目で追う練習に切りかえる。
スラッシュは書かず、頭の中で長いカタマリごとに読む。読むのが遅くなる文だけ印をつけ、そこにどんな構文があったかを確かめる。
よくある失敗と対策
細切れの和訳が新しい癖になります。日本語メモは最初の数週間だけにし、英語のまま意味を思い浮かべる段階へ早めに移りましょう。
知らない語が多いと誰でも止まります。前から読む練習は、意味がほぼわかるやさしめの英文でやるほうが身につきます。
数語だけ目が戻るのは自然な読み方です。気にするのは、日本語の文を組み立てるために文頭まで戻る大きな返り読みだけで大丈夫です。
1 MIN
英文を1つ選び、前置詞と接続詞の前にスラッシュを入れて前から読む
友だちに出したい、この節の3問
タップで答え。「X で出題する」で、そのまま問題として出せます。
8-3英文を読むとき、目が前の単語に戻るのは悪いこと?
読み終えた語を見えなくして戻れなくする実験では、文の理解が下がりました。目が少し戻るのは自然な読み方の一部です。やめるべきなのは、日本語の語順に組み立て直すための大きな戻りです。
8-3英語を読む速さと聞く力は関係ある?
日本人大学生を調べた研究では、英語を読む速さと、無理なく聞き取れる音声の速さがよく一致していました。前から処理できる速さが、聞く力の天井にもなっているわけです。
8-3スラッシュリーディング、区切る位置に正解はある?
決まった正解はありません。意味のまとまりで区切れていればよく、力がつくほど1つのカタマリは長くなります。最後はスラッシュなしで読めるようになるのが目標です。
PRACTICE KIT
この節の実践キット
このサイトで練習する
原田英語のサイトで練習する
使えるサイト・アプリ
動画で学ぶ
もっと詳しく(コラム)
この節の根拠(研究・公式情報)
英語を語ごとに訳して日本語の語順に並べ替える「訳読」を、漢文学習以来千年以上続く日本の伝統として論じた。
Hino, N. (1988). Yakudoku: Japan's dominant tradition in foreign language learning. JALT Journal, 10(1).出典を開く ↗読み終えた語を見えなくして戻れなくすると文の理解が下がった。目の小さな戻りは理解を支える自然な動きだと示した。
Schotter, E. R., Tran, R., & Rayner, K. (2014). Don't believe what you read (only once): Comprehension is supported by regressions during reading. Psychological Science, 25(6), 1218–1226.出典を開く ↗第二言語では読む速さが大きく下がると整理。日本人大学生を調べた平井(1999)で、英語を読む速さと聞き取れる速さがよく一致したと紹介。
Brysbaert, M. (2019). How many words do we read per minute? A review and meta-analysis of reading rate. Journal of Memory and Language, 109, 104047.出典を開く ↗よくある質問
テストの和訳問題はどうすればいい?
読むときは前から意味をとり、答案を書くときにだけ日本語として自然な語順に組み直してください。「理解する作業」と「日本語の文を書く作業」を分けると、どちらも速く正確になります。
スラッシュはいつまで入れるべき?
スラッシュなしでも同じ速さで読めるようになったら卒業です。目安として、音声に合わせて目で追えるようになったら、書き込みは減らしていきましょう。
前から読むと意味があいまいになります
最初はそれで大丈夫です。あいまいなまま最後まで読み、もう一度読むと、2回目にはつながることが多いです。それでもわからない文だけ、精読の手順で構文を確かめてください。



