第8章|リーディング8-4速く読む:WPMと速読の本当「速さ2倍」をうたう速読術、研究で見ると中身は「飛ばし読み」だった

「ネイティブは1分に300語以上読む」。よく聞く数字ですが、190の研究・18,573人のデータをまとめた分析によると、英語ネイティブの大人が説明文を黙読する速さは、平均238語でした。それなら、「1分に1,000語」をうたう速読法はどうか。読むことの研究を見直した心理学者たちは、目を動かしている時間は、読む時間全体の1割ほどにすぎないと説明しています。では、読む時間の大半は、何に使われているのでしょうか。
01WPMの測り方
英語を読む速さは、WPM(words per minute:1分間に読む語数)で表します。測り方は簡単です。
- 語数がわかる英文を用意する(多くの多読用の本や練習サイトは語数を表示している。わからなければ1行の語数×行数で概算)
- ストップウォッチで、最初から最後まで読む時間を測る
- 語数 ÷ 読んだ秒数 × 60 で計算する
例:300語の英文を2分30秒(150秒)で読んだら、300 ÷ 150 × 60 = 120 WPM です。
大切なのは、内容がわかったかを必ず確かめることです。理解を無視すれば、誰でも速く「目を通す」ことはできます。読み終えたら本文を見ずに、内容を日本語か英語で3文にまとめられるか、問題があれば7割以上正解できるかを確認しましょう。速さと理解の両方を記録して、はじめて意味のある数字になります。
同じ人でも、英文の難しさや種類によって速さは変わります。記録をつけるときは「やさしい物語」「試験の長文」など、英文の種類も一緒に書いておくと、伸びを正しく比べられます。
02WPMの目安:数字で見る
確かな出典のある数字を並べると、次のようになります。
| だれが・何を | 目安 | 出典 |
|---|---|---|
| 英語ネイティブの大人・説明文の黙読 | 平均238 WPM(多くの人は175〜300) | Brysbaert 2019 |
| 英語ネイティブの大人・小説の黙読 | 平均260 WPM(多くの人は200〜320) | Brysbaert 2019 |
| 英語ネイティブの大人・音読 | 平均183 WPM | Brysbaert 2019 |
| 多読のときの目安 | 150〜200 WPM(初級者はやや下でよい) | ERF の手引き |
| 日本人大学生(問題に75%以上正解) | 約139 WPM | 平井 1999(Brysbaert 2019 で紹介) |
| 日本人大学生(それ以外) | 約61 WPM | 同上 |
Brysbaert(2019)は、190の研究・18,573人のデータから、ネイティブの読む速さはこれまで一般に言われてきた数字より遅いと結論づけました。「ネイティブは1分に300語以上読む」といった話は、多くの場合、言い過ぎです。
この表から、現実的な目標が見えてきます。まずはやさしい英文で150 WPM。これが多読をスムーズに楽しめるライン。次に、試験レベルの英文でも理解を保ったまま130〜150 WPM 前後を目指すと、ネイティブ平均の6割ほどの速さになります。
03速読法を研究で検証すると
「1分に1,000語」「ページを写真のように読む」といった速読法は昔から人気です。心理学者の Rayner ほか(2016)は、読むことについての研究を幅広く見直し、速読法にどこまで根拠があるかを検証しました。結論は次のとおりです。
- 速さと正確さはトレードオフ(片方を上げると片方が下がる)の関係にある
- 理解を保ったまま、読む速さを2倍・3倍(たとえば250語から500〜750語)にすることは考えにくい
- 理解が浅くてもよいなら、速読や飛ばし読みで速く「目を通す」ことはできる。ただし理解は中くらいになる
- 速く、しかも深く理解して読むための道は、読む練習を重ねることと、語彙などの言葉の力を上げること
研究チームの説明によると、目を動かしている時間は読む時間全体の1割ほどにすぎません。つまり「目の動かし方」をいくら鍛えても、大きく速くはならないのです。読む時間の大半は、単語を認識し、意味をつなぐ「頭の処理」に使われています。
また、単語を1つずつ画面の真ん中に高速で表示するタイプの速読アプリについては、Schotter ほか(2014)が、読み終えた語に戻れない状態にすると理解が下がることを示しています。
一方で、飛ばし読み(スキミング)そのものは役に立つ技術です。大まかな内容だけ知りたいとき、必要な情報を探すとき(スキャニング)には、目的に合った速い読み方です。大事なのは「速読法で精読と同じ理解が得られる」と思い込まないことです。
04本当に速くなる3つの方法
研究から見て、読む速さを上げる方法は大きく3つです。
1. 語彙と多読で「見た瞬間にわかる語」を増やす。 読む時間の大半は単語の認識と意味の処理です。知っている語に何度も出会い、見た瞬間に意味が浮かぶ語が増えるほど、速さは自然に上がります。前の節で見た多読の研究は、このための練習です。
2. やさしい英文で「急ぐ」練習をする。 Paul Nation は、すらすら読む力(流暢さ)を伸ばす練習の条件として、英文がほぼ知っている内容であること、そして「いつもより速く」というプレッシャーがあることを挙げました。タイムド・リーディング(時間を測って読み、記録をグラフにする練習)はこの条件を満たします。Nation が流暢さの練習の例に挙げているのは、速読の練習、スキミングとスキャニング、同じ英文のくり返し読み、やさしい物語を聞くことなどです。精読で理解した英文を、日をおいて止まらずに読み直すのも、この仲間に入ります。
3. 練習の効果がほかの英文にも広がるか確かめる。 Macalister(2010)は、速読コースで速くなった学習者が、練習用以外のふつうの英文でも速く読めるようになるかを調べ、広がる可能性があると報告しました。ただし本人も「小規模な予備的調査」と位置づけており、さらに研究が必要だとしています。だからこそ、練習の英文だけでなく、本番に近い英文でもときどき速さを測るのがおすすめです。
逆に、根拠が弱いものもあります。目の動かし方だけを鍛える訓練、1語ずつ表示するアプリで理解を確かめずに速度だけ上げる練習は、時間をかけても読む力そのものにはつながりにくいと考えてください。
051日10分のタイムド・リーディング
今日からできる練習メニューです。
- 英文を選ぶ:自分のレベルより少しやさしく、300〜500語くらいの英文。知らない語は1ページに1〜2個まで
- 時間を測って読む:ストップウォッチを押し、止まらずに読む。戻らない
- 理解を確かめる:本文を見ずに内容を3文でまとめる。問題つきなら解く
- 記録する:WPM と理解(○・△・×)をノートかグラフに書く
- 次の日は別の英文:同じレベルの新しい英文で、前回より少しだけ速くを目指す
記録の例です。
| 日付 | 英文 | WPM | 理解 |
|---|---|---|---|
| 10/8 | やさしい物語 400語 | 110 | ○ |
| 10/9 | やさしい物語 380語 | 118 | ○ |
| 10/10 | やさしい物語 420語 | 131 | △ |
理解が△や×の日が続いたら、速さを追いすぎています。速さを少し落とすか、英文をやさしくしてください。理解が○のままで、速さがゆっくり右肩上がりになっていれば正しく伸びています。
試験の長文対策では、まず設問を見て何を探すか決め、該当しそうな段落はていねいに、それ以外はスキミングで、と読み方を切りかえる練習も効きます。全部を同じ速さで読む必要はありません。
読む速さを上げるのは目の技術ではなく、語彙と読む量
今日からのやり方
- 300〜500語のやさしめの英文を選び、語数を確かめる
- ストップウォッチで時間を測り、止まらず戻らずに読む
- 本文を見ずに内容を3文でまとめ、理解を○△×で判定する
- 語数÷秒×60でWPMを出し、理解と一緒に記録する
- 毎日別の英文で、理解を保ったまま少しずつ速さを上げる
レベル別:あなたならこうする
まず自分のWPMを知ることから。中学教科書レベルの英文で測り、理解を保ったまま1分80〜100語を最初の目標に。速さより「止まらず最後まで」を優先。
やさしい英文で1分150語、試験の長文で120語前後を目標に、週3回タイムド・リーディング。記録をグラフにして、伸びを目で確かめる。
やさしい英文で200語前後を目指しつつ、論説文では目的に応じてスキミングと精読を切りかえる練習を。理解が落ちない範囲で速さを調整する。
よくある失敗と対策
速さと理解は引き換えになりやすい関係です。必ず内容のまとめや問題で理解を確かめ、両方を記録してください。
知らない語が多い英文では、速く読もうとしても止まるだけです。速さの練習はやさしい英文で、正確さの練習は難しめの英文で、と分けましょう。
目を動かす時間は読む時間の1割ほどです。語彙を増やし、やさしい英文を大量に読むほうが、速さにつながります。
1 MIN
手もとの英文300語をストップウォッチで測り、自分のWPMを出す
友だちに出したい、この節の3問
タップで答え。「X で出題する」で、そのまま問題として出せます。
8-4英語のネイティブは1分間に何語読む?
190の研究・1万8千人以上をまとめた分析では、英語のネイティブの大人が黙読するときの平均は、説明文で1分238語、小説で260語でした。よく言われる数字より遅めです。
8-4速読のために目の動きを減らせば、速く読める?
速読の研究をまとめたレビューによると、目を動かしている時間は読む時間全体の1割ほどにすぎません。単語を1つずつ画面に出して目の戻りをなくすと、むしろ理解が下がることもわかっています。
8-4日本人大学生の英語を読む速さは?
日本人大学生を調べた研究では、内容の問題に75%以上正解した人が1分約139語、それ以外の人は約61語でした。多読の国際団体は1分150〜200語を多読の目安にしています。
PRACTICE KIT
この節の実践キット
このサイトで練習する
原田英語のサイトで練習する
使えるサイト・アプリ
動画で学ぶ
もっと詳しく(コラム)
この節の根拠(研究・公式情報)
速読法の研究を総点検。速さと理解は引き換えで、理解を保ったまま速さを2〜3倍にするのは考えにくい。上げる道は練習と語彙などの言語力。
Rayner, K., Schotter, E. R., Masson, M. E. J., Potter, M. C., & Treiman, R. (2016). So much to read, so little time: How do we read, and can speed reading help? Psychological Science in the Public Interest, 17(1), 4–34.出典を開く ↗190研究・18,573人のメタ分析。英語ネイティブの黙読の平均は説明文238語/分、小説260語/分、音読183語/分。一般の数字は過大だった。
Brysbaert, M. (2019). How many words do we read per minute? A review and meta-analysis of reading rate. Journal of Memory and Language, 109, 104047.出典を開く ↗読み終えた語に戻れない状態(1語ずつ表示する速読アプリに近い条件)にすると、文の理解が下がった。
Schotter, E. R., Tran, R., & Rayner, K. (2014). Don't believe what you read (only once): Comprehension is supported by regressions during reading. Psychological Science, 25(6), 1218–1226.出典を開く ↗速読コースでの速さの伸びが、練習用以外の英文にも広がる可能性を示した小規模な予備的調査。さらなる研究が必要としている。
Macalister, J. (2010). Speed reading courses and their effect on reading authentic texts: A preliminary investigation. Reading in a Foreign Language, 22(1), 104–116.出典を開く ↗流暢さを伸ばす練習には、ほぼ知っている内容であること、より速く処理するよう促されることなどの条件が要るとした。
Nation, P. (2007). The four strands. Innovation in Language Learning and Teaching, 1(1), 2–13.出典を開く ↗よくある質問
速読教室や速読アプリは効果がありますか?
理解を保ったまま速さを2〜3倍にするのは、研究からは考えにくいとされています。ざっと内容をつかむ練習としては使えますが、理解が落ちていないか必ず確かめてください。
頭の中で音にして読むのは遅い原因?
頭の中で音にして読むこと自体は、多くの読み手に見られます。英語学習者の場合、まず気にすべきは単語の認識の速さと、前から意味をとれるかどうかです。そこを鍛えるのが先です。
試験の長文で時間が足りません
毎日のタイムド・リーディングで基本の速さを上げつつ、本番では設問を先に見て、読む深さを段落ごとに変える練習をしてください。全文を同じ速さで読む必要はありません。




