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リード・アンド・ルックアップと音読筆写顔を上げて言うまでの『記憶のすき間』が学習の半分。60年前の英語教師の指摘

原田英語5分で読める研究・公式情報 4件第9章の4/5節

リード・アンド・ルックアップと音読筆写のイメージ

「本を見ながら話してはいけない。あなたは本ではなく、だれかに向かって話している」。1960年、イギリスの英語教育者マイケル・ウェストは、こう書いて「Read and Look up」という練習法を紹介しました。英文から顔を上げ、言い終えるまでの、わずかなすき間。そこで起きていることが学習の半分を占める、とウェストは述べています。音読はすらすらできるのに、目を離すと1文も言えない。その差はどこから来るのでしょうか。

この節の目次(5項目)
  1. ウェストが見抜いた『教室の声』の問題
  2. リード・アンド・ルックアップのやり方
  3. なぜ効くのか:頭に保ち、取り出す
  4. 音読筆写:声に出しながら書く
  5. 音読筆写の使いどころと注意点

01ウェストが見抜いた『教室の声』の問題

マイケル・ウェストは、20世紀前半からインドなどで英語教育にたずさわったイギリスの教育者です。1960年の著書『Teaching English in Difficult Circumstances(むずかしい環境で英語を教える)』で、大人数のクラスでも使える練習法として「Read and Look up」を紹介しました。

ウェストはまず、教室でよく聞かれる音読の問題を指摘しています。生徒が本に目を落としたまま、単語を1つずつ同じ調子で読み上げる。単語は口から出ているけれど、ことばを話しているとは言えない。さらに、たくさん音読をしてきた人なら知っているとおり、意味を1つも分からないまま、それらしく聞こえるように音読することもできてしまう、と書いています。

そこでウェストが示したのが、「本を見ながら話してはいけない。あなたは本ではなく、だれかに向かって話している」というルールです(ウェスト 1960)。

ウェストによれば、この方法には2つの大切な点があります。

  1. 話すときに、本物のやりとりのように話せる
  2. 1つの句や文を、まるごと頭の中に保たなければならない

英文は「本から口へ」ではなく、「本から頭へ、頭から口へ」と流れます。そして、その間に英文を記憶にとどめておくことが、学習の半分を占めるとウェストは述べました。

02リード・アンド・ルックアップのやり方

ウェストの説明をもとに、1人でできる形にすると次のようになります。

  1. かたまりを決める:最初は1行、または意味のかたまり1つ(5〜7語ほど)
  2. 黙読する:そのかたまりを、目で読んで頭に入れる
  3. 顔を上げる:英文から目を離す。ウェストは、本を胸のほうへ伏せ、頭は動かさず目だけを動かすよう指導していた
  4. だれかに向けて言う:目の前に相手がいるつもりで、その人に話しかけるように言う
  5. 次のかたまりへ:言い終わるまで、英文に目をもどさない

例として、次の文で練習してみます。

  • My grandfather grows tomatoes / in a small garden / behind his house.(祖父は家の裏の小さな庭でトマトを育てています)
  • Every summer, / he gives them / to all the neighbors.(毎年夏になると、近所の人みんなにそれを分けています)

はじめは「My grandfather grows tomatoes」だけを頭に入れて顔を上げ、言います。言えたら「in a small garden」へ。慣れたら1文まるごと、さらに2文まとめて、と頭に入れる量を増やしていきます。ウェストも、最初は1行、やがて2〜3行と、取りこむ単位を大きくしていくよう書いています。

ウェストがよくある失敗として挙げたのは、言い終わる前に本へ目をもどしてしまうことです。途中で目をもどすと、頭に保つ練習になりません。かたまりを短くしてでも、言い終わるまでがまんしましょう。

03なぜ効くのか:頭に保ち、取り出す

リード・アンド・ルックアップが効く理由は、英語大全の別の章で扱う2つの考え方で説明できます。

1つめは、音韻ループです。 英文を見ないで言うには、そのかたまりを頭の中で声にして、言い終わるまで保っておく必要があります。これは、ワーキングメモリの音韻ループが担う「頭の中でくり返す働き」そのものです。保てる量が少ないうちは、短いかたまりしか言えません。英語をすらすら言えるようになるにつれて、保てるかたまりは長くなっていきます。

2つめは、想起練習(思い出す練習)です。 第1章(記憶の科学)で見るように、記憶の研究では、読み返すより思い出そうとするほうが記憶に残りやすいことが知られています。Roediger と Karpicke の2006年の実験では、文章をくり返し読んだ人より、読んだあとに思い出して書くテストをした人のほうが、1週間後によく覚えていました。見ながらの音読は「読み返し」に近いのに対し、見ないで言うのは、たった今入れた英文を思い出して取り出す練習です。

ウェストはさらに、上達したら本の表現と少しちがっていてもかまわない、むしろ意図して言い換えていき、最後は本から考えだけを受け取って自分のことばで言えるようにする、と書いています。音読から「話す」へ橋をかける考え方です。

なお、ウェストは「この方法だけで言語を身につけることもできる」とまで書いています。これは教育者としての経験にもとづく意見で、ほかの方法と比べる実験で確かめられたものではありません。

04音読筆写:声に出しながら書く

音読筆写は、英文を声に出しながら、ノートに書き写す練習です。日本の英語学習でよく使われてきた方法で、次のような流れで行います。

  1. 英文を音読して、意味と音を確かめる
  2. かたまりを1つ頭に入れ、英文から目を離す
  3. そのかたまりを声に出しながらノートに書く
  4. 書き終わったら英文と見比べ、まちがいに赤で印をつける

リード・アンド・ルックアップの「言う」に、「書く」を足したものと考えると分かりやすくなります。

記憶の研究では、何かを「出す(produce)」ことが記憶を助けることが知られています。マクラウドらの2010年の研究では、単語を黙読するより声に出したほうが、あとで思い出しやすくなりました。さらにフォリンらの2012年の研究では、つづりを言う、手で書く、タイプする、のどれもが、黙読より記憶を助けました。ただし、口の形だけ作る・書く・ささやく、はどれも、ふつうに声に出すほどの効果はありませんでした。

ここから言えるのは、次のことです。

  • 書くことも、黙読よりは記憶の助けになる
  • いちばん効果が大きいのは、声に出すこと
  • 「声に出しながら書く」組み合わせが、それぞれ単独より効くかどうかを直接調べた研究は、確認できた範囲では見当たらない

また、これらの研究は単語の記憶を調べたもので、英文を使いこなす力を測ったものではありません。声に出す効果は、声に出した語と出さない語が混ざるときに出やすい、という条件もあります。

05音読筆写の使いどころと注意点

音読筆写は、時間がかかる練習です。100語の英文を書き写すと、音読の何倍もの時間がかかります。だからこそ、使う場面を選びましょう。

向いている場面

  • つづりまで正確に覚えたい英文(定期テストの本文、英作文で使いたい例文)
  • 暗記したいキーセンテンス(スピーチの決めの文、面接で使う表現)
  • 音読ではつい流してしまう、冠詞・前置詞・複数形の s などを確かめたいとき

向いていない場面

  • 長い英文をまるごと書き写す(手が疲れるだけで、時間あたりの練習量が減る)
  • 意味が分からない英文を写す(形だけの写経になる)

書き写すときは、英文を見ながら1語ずつ写さないことがいちばん大切です。それでは、目で見た文字を手に移しているだけになります。かたまりを頭に入れ、目を離してから、声に出しながら書く。リード・アンド・ルックアップと同じく、頭を通すことが効き目のもとです。

ポイント:見ないで言う(リード・アンド・ルックアップ)を中心にして、正確に書けるようにしたい英文だけに音読筆写を足す。これが、時間を無駄にしない組み合わせです。

この節の答え

文字を一度頭に入れてから言う・書くことで、英文が残る

今日からのやり方

  1. 音読の5ステップで、意味と音が分かった英文を用意する
  2. 1行ずつ黙読し、顔を上げて、相手がいるつもりで言う
  3. 言えたら、頭に入れる量を1文、2文と増やしていく
  4. 正確に書きたい1〜2文だけ、見ないで声に出しながらノートに書く
  5. 英文と見比べ、まちがえた所に赤で印をつける

レベル別:あなたならこうする

初級 A1〜A2

3〜5語のかたまりから始めます。教科書の本文で1かたまりずつ顔を上げて言い、言えなかった所だけもう一度読みましょう。音読筆写は1日2〜3文で十分です。

中級 B1

1文まるごとを単位にします。言えたら主語や時制を変えて言ってみると、話す練習に近づきます。英作文で使いたい表現は、音読筆写で正確に覚えましょう。

上級 B2〜

2〜3文をまとめて頭に入れ、自分のことばで言い換えて話します。ニュースや講演の要点を、見ないで1分で説明する練習につなげましょう。

よくある失敗と対策

言い終わる前に英文を見てしまう

頭に保つ練習にならなくなります。かたまりを短くしてでも、言い終わるまで目をもどさないようにしましょう。

英文を見ながら1語ずつ書き写す

目から手へ移すだけの写経になります。かたまりを頭に入れ、目を離してから、声に出しながら書きましょう。

長文をまるごと音読筆写する

時間がかかりすぎて練習量が減ります。書き写すのは、正確に覚えたい1〜2文にしぼりましょう。

TODAY
1 MIN

教科書の1文を黙読し、顔を上げて、見ないで3回言ってみる

友だちに出したい、この節の3問

タップで答え。「X で出題する」で、そのまま問題として出せます。

9-4リード・アンド・ルックアップは誰が広めた?

イギリスの英語教育者マイケル・ウェストです。1960年の著書で、英文を黙読し、顔を上げて相手に話すように言う方法を紹介し、言語を学ぶあらゆる方法の中で最も価値があるというのが自分の意見だ、と書きました。

X で出題する

9-4単語を書いたりタイプしたりすると、黙読より覚えやすい?

あります。黙読と比べると、書く・タイプする・つづりを言う、のどれも単語を思い出しやすくしました。ただし、書くことの効果は、ふつうに声に出す効果には及びませんでした(Forrin ら 2012)。

X で出題する

9-4リード・アンド・ルックアップで『見ないで言う』と、何が変わる?

文字をそのまま声に流せなくなり、意味のかたまりを頭に保たないと言えなくなります。たった今入れた英文を思い出して取り出す形になるので、記憶の章で扱う「想起練習」に近い練習になります。

X で出題する

X でポストLINEB!

この節の根拠(研究・公式情報)

Read and Look up を紹介。英文を黙読し、顔を上げて相手に話すように言う方法で、本から頭、頭から口へ流れる間の記憶が学習の半分を占めると述べた。

West, M. (1960). Teaching English in difficult circumstances. London: Longmans, Green.出典を開く ↗

黙読に比べ、つづりを言う・書く・タイプするはどれも記憶を助けた。ただし口の形だけ・書く・ささやくは、声に出すほどの効果はなかった。

Forrin, N. D., MacLeod, C. M., & Ozubko, J. D. (2012). Widening the boundaries of the production effect. Memory & Cognition, 40(7), 1046–1055.出典を開く ↗

単語の一部を声に出して読むと、黙読した単語より思い出しやすかった。効果は声に出す語と出さない語が混ざるリストで見られた。

MacLeod, C. M., Gopie, N., Hourihan, K. L., Neary, K. R., & Ozubko, J. D. (2010). The production effect: Delineation of a phenomenon. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 36(3), 671–685.出典を開く ↗

文章をくり返し読むより、読んだあとに思い出すテストをしたほうが、1週間後の記憶がよかった。

Roediger, H. L., & Karpicke, J. D. (2006). Test-enhanced learning: Taking memory tests improves long-term retention. Psychological Science, 17(3), 249–255.出典を開く ↗

よくある質問

見ないで言えないときはどうする?

かたまりを短くします。1文が無理なら半分、それでも無理なら3語ほどに。言えない原因は、意味があいまいか、音がすらすら出ないかのどちらかであることが多いので、音読の5ステップにもどって確かめましょう。

音読筆写はノートとパソコン、どちらで?

書くこともタイプすることも、黙読よりは記憶を助けたという実験があります。つづりを手で覚えたい試験対策ならノート、量をこなしたいならタイプでもかまいません。どちらでも、声に出しながら行いましょう。

1人だと『相手に話す』感じが出ません

鏡の中の自分や、机の上のぬいぐるみに向かって言うだけでも、英文に向かって読むのとは感覚が変わります。ウェストも、想像上の相手に向けて言ってよいとしています。家族に聞いてもらえるなら、それがいちばんです。