第9章|音読9-3何回読めばいい?『音読100回』は研究で決まった数字ではない。伸びが大きいのは最初の数回

「音読は100回」「教科書を500回」。英語の勉強法では、こんな数字がよく語られます。研究ではどうでしょうか。アメリカで、学習障害のある小学生32人に、同じ文章を1回・3回・7回のいずれかの回数だけ声に出して読ませた実験があります。読む回数が増えるほど、すらすら読む力も理解も伸びました。ただし、伸び方は回数に比例してはいませんでした。いちばん大きく伸びたのは、どの区間だったのでしょうか。
01回数神話はどこから来たのか
音読の回数については、「100回」「300回」「500回」など、さまざまな数字が語られてきました。日本には、同じ英文をひたすら声に出して読む「只管朗読(しかんろうどく)」という学び方の呼び名もあります。宮迫靖靜が2001年に、この学習法を英語教授法の枠組みで分析した論文を書いているように、日本の英語学習に深く根づいた考え方です。
こうした数字には、「たくさん読んだ人が伸びた」という経験の重みがあります。一方で、次のような問題もあります。
- 英文の長さも難しさも、読む人の英語力もちがうのに、同じ回数でよいはずがない
- 回数を数えることが目的になり、意味を考えずに口だけ動かす読み方になりやすい
- 100回に届かないと「やり切れなかった」と感じ、続かなくなる
では、研究では回数と伸びの関係はどうなっているのでしょうか。
02研究が示す『伸び方の形』
同じ文章をくり返し読む練習は、英語圏では「リピーテッド・リーディング(repeated reading)」と呼ばれ、子どもの読む力を伸ばす方法として長く研究されてきました。
アメリカのオシェアらは1987年、学習障害のある小学生32人に、同じ文章を1回・3回・7回のいずれかの回数だけ声に出して読ませました。その結果、流暢さ(すらすら読む力)も理解も、読む回数が増えるほど伸びました。ただし、伸びが一番大きかったのは1回から3回の間でした。3回から7回への伸びは、それより小さかったのです。
セリエン(Therrien)が2004年に18の研究をまとめたメタ分析(多くの研究を合わせた分析)でも、くり返し読む練習は、障害のある子どもにもない子どもにも、同じ文章の流暢さと理解を伸ばし、読む力全体を伸ばす方法としても使えると結論しています。
ここから分かるのは、次のような「伸び方の形」です。
- 何回か読むと、はっきり上手になる
- 最初の数回の伸びが大きく、回数を重ねるほど1回あたりの伸びは小さくなる
なお、これらは英語を母語とする子どもの研究です。外国語として英語を学ぶ日本人に、そのまま当てはまる回数を示したものではありません。
03外国語学習者の研究:1つを読みすぎない
外国語として英語を学ぶ人の研究もあります。
Taguchi が1997年に、読むのが遅い日本の大学生を対象に行った研究では、同じ文章をくり返し読むと、その文章を黙読する速さははっきり上がりました。ところが、新しい文章を読む速さへの効果は、はっきりとは見られませんでした。
一方、ゴーサッチと Taguchi が2008年にベトナムの大学生を対象に行った11週間の研究では、くり返し読む練習をしたグループ(24人)が読む流暢さを伸ばし、理解のテストでも、練習しなかったグループ(26人)を上回りました。
この2つを合わせると、次のように考えられます。
- 1つの文章を何十回も読むと、その文章は上手に読めるようになる
- 読む力そのものを伸ばすには、くり返し読む文章を次々と替えながら、何週間も続けることが大切
「1つの英文を100回」より、「10の英文を、それぞれ合格ラインまで」のほうが、読む力全体を育てる練習になります。
04回数ではなく『合格ライン』で決める
そこで英語大全では、音読の回数を「何回読んだか」ではなく、「何ができるようになったか」で決めることをすすめます。前の節の5ステップに合わせて、次の3つの合格ラインを使います。
| 合格ライン | チェックの方法 | 回数の目安 |
|---|---|---|
| ① 意味が即わかる | 読みながら、日本語を介さずに場面が浮かぶ | 黙読・音読で数回 |
| ② お手本の速さで言える | 時間を測り、お手本と同じくらいの wpm が出る | 5〜10回ほど |
| ③ 見ないで言える | 1文ずつ顔を上げて、つかえずに言える | 数回〜 |
「回数の目安」は、あくまで目安です。短くやさしい英文なら全部で10回もかからずに合格することもあり、長く難しい英文なら20回、30回とかかることもあります。
合格ラインを越えたら、その英文は「卒業」です。次の英文に進みましょう。卒業した英文は、数日後と1〜2週間後に1〜2回ずつ読み返すと、忘れかけたころにもう一度出会えます。
音読の速さは、読む力の伸びを確かめる目安にもなります。宮迫と高塚(2005)の研究では、高校生の音読の流暢さや速さは、読解力を判定する物差しにするほど強い関係ではないものの、読解力を知る参考にはなると報告されています。同じくらいの難しさの英文で、初めて読む英文の音読の速さが少しずつ上がっていけば、読む力がついてきたサインと考えられます。
051週間の音読プラン例
合格ラインと「次々に替える」を組み合わせると、1週間は次のような形になります。1日15分、100語前後の英文を使う例です。
| 曜日 | 新しい英文 | 読み返し | その日の合格ライン |
|---|---|---|---|
| 月 | 英文A:意味をつかみ、お手本に合わせて読む | なし | ① 意味が即わかる |
| 火 | 英文A:時間を測って速さを上げる | なし | ② お手本の速さで言える |
| 水 | 英文A:見ないで言う | なし | ③ 見ないで言える → Aは卒業 |
| 木 | 英文B:意味と音 | なし | ① |
| 金 | 英文B:速さ | Aを1回 | ② |
| 土 | 英文B:見ないで言う | なし | ③ → Bは卒業 |
| 日 | 初めて読む英文Cの音読タイムを測る | AとBを1回ずつ | 記録をつけるだけ |
このプランでは、1つの英文に3日かけ、全部で20回前後読むことになります。ただし、20回という数字は結果としてそうなるだけで、目標ではありません。月曜のうちに①も②も合格したなら、火曜には③へ進んでかまいません。逆に、水曜になっても②に届かなければ、英文が難しすぎるサインです。次の英文は、少しやさしいものを選びましょう。
日曜の「初めて読む英文の音読タイム」は、1か月ほど続けると、伸びが数字で見えてきます。練習した英文が上手になるのは当たり前です。初めて読む英文で速くなっているかどうかが、本当の実力の目安になります。
06飽きずに続ける7つの工夫
同じ英文を何回も読むと、どうしても飽きてきます。飽きると、意味を考えずに口だけ動かす読み方にもどりがちです。読み方に変化をつけて、毎回ちがう目的で読みましょう。
- なりきり音読:登場人物やニュースキャスターになったつもりで、気持ちをこめて読む
- スピード変化:1回目はゆっくりていねいに、2回目はお手本の速さ、3回目は少し速めに
- 録音して比べる:初日と最終日の音読を録音し、聞き比べる。上達が耳で分かる
- タイム計測:毎回の秒数を記録し、グラフにする
- 場所を変える:机で、立って、家の中を歩きながら
- だれかに向けて読む:家族やぬいぐるみに話しかけるように読む
- 1文だけ集中:苦手な1文だけを、完璧に言えるまで練習する
また、「1日に同じ英文を30回」よりも、「1日10回を3日に分ける」ほうが飽きにくく、記憶にも残りやすい読み方です。
ポイント:回数を数えるより、「今日の合格ライン」を1つ決めて読む。合格したら次の英文へ進む。それが、飽きずに力を伸ばすいちばんの近道です。
回数ではなく『合格ライン』で決めて、次の英文へ進む
今日からのやり方
- 今日の英文を1つ決め、3つの合格ライン(意味・速さ・見ないで)を書き出す
- 最初の3回は、意味とお手本の音に集中してていねいに読む
- 時間を測りながら、お手本の速さに届くまで読み方を変えてくり返す
- 見ないで言えたら卒業。数日後と1〜2週間後に1〜2回読み返す
- 卒業した英文の数を記録し、次の英文へ進む
レベル別:あなたならこうする
50語ほどの英文で、①意味と②お手本の速さの2つを合格ラインにします。回数は気にせず、録音して上達を耳で確かめると続けやすくなります。
1つの英文は数日で卒業し、週に2〜3本のペースで新しい英文へ進みます。初めて読む英文の音読の速さを記録して、読む力の伸びの目安にしましょう。
合格ライン③(見ないで言える)を重視し、言い換えて言えるところまで進めます。1本にかける回数は少なめにして、扱う英文の数を増やします。
よくある失敗と対策
100回読んでも、意味が浮かんでいなければ効果は小さくなります。回数ではなく、合格ラインを越えたかで判断しましょう。
その英文だけが上手になり、新しい英文への効果は小さいことがあります。合格したら次の英文に進みましょう。
読み方に変化をつけ、毎回ちがう目的で読みましょう。録音やタイム計測で伸びを目に見える形にすると続けやすくなります。
1 MIN
今日の英文の音読タイムを測り、1分あたりの語数をメモする
友だちに出したい、この節の3問
タップで答え。「X で出題する」で、そのまま問題として出せます。
9-3同じ文章を音読する回数と、伸び方の関係は?
学習障害のある小学生に同じ文章を1回・3回・7回読ませた研究では、流暢さも理解も回数とともに伸びましたが、伸びが一番大きかったのは1回から3回の間でした(O'Shea ら 1987)。
9-3同じ英文のくり返し読みで速くなれば、初めての英文も速く読める?
自動的にはそうなりません。日本の大学生の研究では、練習した文章は速く読めるようになりましたが、新しい文章への効果ははっきりしませんでした(Taguchi 1997)。文章の数を増やすことも大切です。
9-3『音読は100回』という数字に、研究の根拠はある?
確認できた範囲では、100回が最適だと示した研究は見当たりません。研究で確かめられているのは「何回か読むとはっきり伸び、回数を重ねるほど1回あたりの伸びは小さくなる」という形です。
PRACTICE KIT
この節の実践キット
この節に関係する特集
特集シュリーマンの英語勉強法を今の勉強に当てはめると?半年で英語を身につけた7つのルールを、今の私たちに当てはめると?このサイトで練習する
原田英語のサイトで練習する
使えるサイト・アプリ
動画で学ぶ
もっと詳しく(コラム)
この節の根拠(研究・公式情報)
学習障害のある小学生32人が同じ文章を1・3・7回声に出して読んだ。流暢さも理解も回数とともに伸びたが、伸びが最も大きかったのは1回から3回の間だった。
O'Shea, L. J., Sindelar, P. T., & O'Shea, D. J. (1987). The effects of repeated readings and attentional cues on the reading fluency and comprehension of learning disabled readers. Learning Disabilities Research, 2(2), 103–109.出典を開く ↗18の研究のメタ分析。くり返し読む練習は、障害のある子にもない子にも、同じ文章の流暢さと理解を伸ばし、読む力全体を伸ばす方法としても有効だった。
Therrien, W. J. (2004). Fluency and comprehension gains as a result of repeated reading: A meta-analysis. Remedial and Special Education, 25(4), 252–261.出典を開く ↗読むのが遅い日本の大学生が同じ英文をくり返し読むと、その文章の黙読の速さは上がったが、新しい文章への効果は音読・黙読ともにはっきりしなかった。
Taguchi, E. (1997). The effects of repeated readings on the development of lower identification skills of FL readers. Reading in a Foreign Language, 11(1), 97–119.出典を開く ↗ベトナムの大学生で、11週間くり返し読む練習をした群(24人)は流暢さが伸び、理解のテストでも対照群(26人)を有意に上回った。
Gorsuch, G., & Taguchi, E. (2008). Repeated reading for developing reading fluency and reading comprehension: The case of EFL learners in Vietnam. System, 36(2), 253–278.出典を開く ↗高校2年生39人で、音読の流暢さと速さは読解力の指標とするほど強い関係ではないが、読解力を知る参考になり得た。
宮迫靖靜・高塚成信(2005)「英語読解力の指標としての音読の流暢さ及び音読速度」『日本教科教育学会誌』28(3), 63–71.出典を開く ↗よくある質問
結局、1つの英文を何回読めばいい?
決まった正解はありません。研究では最初の数回の伸びが大きく、その後はゆるやかになります。英語大全では、意味がわかる・お手本の速さで言える・見ないで言える、の3つの合格ラインを越えるまで、を目安にしています。
毎日新しい英文と同じ英文、どちらがいい?
両方を組み合わせます。新しい英文だけだと練習が浅くなり、同じ英文だけだと新しい英文への効果が小さくなります。1つの英文を数日で卒業し、次々に替えていくのがバランスのよいやり方です。
教科書を100回読んで伸びた人もいますが?
たくさん読んで力がついた人がいるのは確かでしょう。ただ、それが「100回だったから」かどうかは分かりません。同じ時間を使うなら、合格ラインで区切って英文の数を増やすほうが、読む力全体を伸ばしやすいと考えられます。




