1クラス約100冊の本と短い研修で、読みの伸びが約2倍に:各国の「本の洪水」研究
Elley, W. B. (2000). The Potential of Book Floods for Raising Literacy Levels. International Review of Education, 46(3–4), 233–255 doi:10.1023/a:1004086618679
ひとことで言うと:面白い本を1クラス約100冊入れて先生が少し研修を受けるだけで、子どもの読む力の伸びが約2倍になりうる。
対象:ニウエ、フィジー、シンガポール、スリランカ、南アフリカ、ソロモン諸島などの小学校で行われたブック・フラッド研究のまとめ
なぜこの研究?
途上国では、子どもが母語ではない言語で学校教育を受けることが多く、読み書きの力(リテラシー)を高めるのが特に難しい。従来の教科書中心の授業では、読む力はとてもゆっくりしか育たない。そこで、教室に面白い本を大量に入れる「ブック・フラッド(本の洪水)」という方法が各国で試され、評価されてきた。この論文は、それらの結果を整理し、普及に向けた課題を検討したものである。
どうやって調べた?
Elley自身の研究を含む、複数の国のブック・フラッド研究の結果をまとめたレビュー論文である。取り上げられたのは、ニウエ、フィジー、シンガポール、スリランカ、南アフリカ、ソロモン諸島など、文化も子どもの母語も年齢もさまざまな地域の小学校での実践である。読む力や読書への意欲に加えて、書く力や聞いて理解する力などへの効果、さらに1校あたりの費用や、輸入した本が現地の文化に合うかといった実施上の問題も検討している。
何がわかった?
証拠ははっきりしてきた、とElleyは述べる。興味をひく本を1クラスあたり約100冊入れ、教員に短い研修を行うだけで、途上国の小学生が読みを身につける速さを約2倍にできる可能性がある。読む力と読書への熱意への効果は、文化・母語・年齢が違っても一貫して見られ、書く力、聞いて理解する力などの関連する言語能力にも同じような伸びが生まれるようだ。これらの力は、従来の教科書中心の教え方ではとてもゆっくりしか育たないのがふつうだった。論文では費用や本の文化的な適切さの問題も検討され、ブック・フラッドを国全体の規模で取り入れた国や、計画中の国があることも報告されている。
- 1クラス約100冊の面白い本と短い教員研修で、読みの習得の速さを約2倍にできる可能性が示された
- 効果は文化・母語・年齢が違っても一貫していた
- 読む力だけでなく、書く力や聞いて理解する力などにも伸びが見られた
- 国全体の規模でブック・フラッドを導入した国もある
主な数字
- 本の量の目安:1クラスあたり約100冊(興味をひく本)
- 読みの習得の速さ:最大で約2倍(抄録の記述)
読むときの注意(研究の限界)
各国の研究をまとめた論文で、個々の研究の条件(期間、テスト、対照群のつくり方)は同じではない。抄録の段階では効果の大きさを統一した数字で比べてはいない。また対象は主に途上国の小学校で、本がほとんどなかった環境に本を入れた効果である。すでに教材が豊富な日本の学校で同じ大きさの効果が出るとは限らない。
多読をする人・教える人へ
「本がたくさんあること」そのものが学びの強力な条件であることを示している。学校で多読を始めるなら、まず教室や図書館に、生徒が手に取りたくなる本をまとまった数だけそろえることが大事だ。先生の研修は短くてもよく、仕組みを整えれば大規模に広げられることもわかる。自習する人にとっても、「良い本が身近にたくさんある」状態は続けるための大きな力になる。
今日からできること
- 英語の本を1冊ずつ買うより、図書館や多読用ライブラリーでまとめて借りて「本に囲まれる」状態をつくる
- 授業では学年で予算を合わせ、1クラス数十冊単位の学級文庫を順番に回す
確認方法:Crossref(書誌)+出版社(Springer)サイトの抄録で確認。数字は論文の抄録・本文で確認できたものだけを載せています。