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英語で「I'm sad」と言っても脳は静まらない? 気持ちの言語化は“よく使う母語”で効く

英語で「I'm sad」と言っても脳は静まらない? 気持ちの言語化は“よく使う母語”で効く

読む前に予想してみよう!

感情を言葉にすると落ち着く効果は、どの言語で言っても同じように起こる

研究カード(どんな研究?)
対象
スペインのバイリンガル成人
規模
151人
研究の種類
fMRI実験(言語を入れ替えて比較)
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

感情に名前をつけると扁桃体(不安や恐れに反応する脳の部分)の反応が下がる効果は、よく使う母語でだけ見られた。2言語を同じくらい使う人はどちらの言語でも下がらなかった。

ひとことで言うと気持ちを言葉にして落ち着く効果は、いちばん慣れた言葉でこそ効くみたい。

もくじ
  1. 気持ちに名前をつけると、脳の警報が弱まる
  2. 2言語で同じ課題をやってもらった
  3. 2言語を半々に使う人は、どちらの言語でも効かなかった
  4. 英語学習者は、どう受け止めればいい?
  5. まとめ

モヤモヤしたとき、「いま自分は悲しいんだ」と言葉にすると、少し落ち着く。これは感情ラベリングと呼ばれ、脳科学でも確かめられてきた方法です。

では、それを英語でやったらどうなるでしょう? 英語の日記に「I'm sad.」と書けば、同じように心は静まるのでしょうか。

2026年8月31日、米国科学アカデミー紀要『PNAS』に、1つの答えとなる研究が発表されました。スペインのジャウメ1世大学(Universitat Jaume I)を中心に、米ブラウン大学なども加わったチームによるものです。151人のバイリンガルの脳を調べたところ、落ち着く効果が出たのは、ふだんよく使う母語だけだったのです。

01気持ちに名前をつけると、脳の警報が弱まる

感情ラベリングの研究で有名なのが、2007年にアメリカの研究チームが行ったfMRI(脳の活動を画像化する装置)の実験です。怒った顔や怖がる顔を見たときに、その感情に「怒り」と名前をつけると、不安や恐怖に関わる扁桃体の反応が弱まりました。

詳しくは過去記事 イライラは「言葉にする」だけで静まる で紹介しています。

ただ、これまでの実験の多くは母語で行われてきました。第二言語での例は少なく、目立つのは2021年の研究くらいです。今回のチームの一部がスペイン語-英語のバイリンガル26人を調べ、「第二言語で名前をつけても扁桃体の反応は下がらず、母語のときより高くなった」と報告しました。今回の研究は、人数と言語の組み合わせを増やして、これを確かめ直したものです。

022言語で同じ課題をやってもらった

結果は次のとおりです。

  • 片方の言語に偏って使う人:母語で感情に名前をつけたときだけ、扁桃体の活動が下がった。第二言語では下がらなかった
  • 2言語を同じくらい使う人:どちらの言語でも扁桃体の活動は下がらなかった

学校で習った英語だけでなく、身近なカタルーニャ語でも同じパターンでした。

気持ちに名前をつける効果は、言葉の使い慣れ具合で変わる?
気持ちに名前をつける効果は、言葉の使い慣れ具合で変わる?

032言語を半々に使う人は、どちらの言語でも効かなかった

では、2言語を半々くらいで使う人はどうだったのでしょう(スペイン語-カタルーニャ語のグループで調べました)。母語でも第二言語でも、扁桃体の反応は下がりませんでした。研究チームも予想していなかった結果です。

さらに、2言語の使い方がバランス型に近い人ほど、母語と第二言語の差も小さくなっていました。スペイン語-英語のグループでは、脳の領域どうしの連携も調べました。相手は前頭前野の一部(おでこの奥にあり、感情の調整に関わる「腹外側前頭前野」)です。母語で感情に名前をつけると、扁桃体とこの部分の連携が強まりました。第二言語では逆に、感情に名前をつけたときのほうが連携が弱くなっていました。

研究チームは、感情の言葉をどれだけすばやく、実感をともなって思い出せるかが鍵ではないかと考えています。ただ、バランス型で効かない理由はまだ確かめられていません。論文では「感情と結びつく経験が2つの言語に分かれ、どちらの言葉も感情との結びつきが弱まるのかもしれない」といった可能性が挙げられ、今後の課題とされています。

04英語学習者は、どう受け止めればいい?

「じゃあ英語で気持ちを書いても意味ないの?」と思うかもしれませんが、そう決めつけるのは早すぎます。

この研究が調べたのは、他人の表情に名前をつけたときの、扁桃体という一部分の反応です。英語で日記を書くことが英語力アップに役立つことや、気持ちを整理する別の効果まで否定しているわけではありません。

05まとめ

本当にしんどいときは、いちばん慣れた言葉で「つらい」と言ってみる。それが脳の警報を静めるコツかもしれません。

そして英語の勉強は、続ければ続けるほど英語が「使い慣れた言葉」に近づいていきます。ただ今回、2言語を同じくらい使う人ではどちらの言語でも効果が出なかったので、話はそう単純ではなさそうです。いつか英語の「I'm sad」でも心が静まる日が来るのか。それを確かめる研究は、まだこれからです。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerPutting your feelings into words, called affect labeling, can reduce activity in the amygdala, a part of… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Putting your feelings into words, called affect labeling, can reduce activity in the amygdala, a part of the brain linked to fear and stress. But does it work in a second language? Researchers at Universitat Jaume I in Spain tested 151 bilingual young adults in a brain scanner.

Some spoke Spanish and English, and others spoke Spanish and Catalan. They looked at photos of faces and chose emotion words in each language. In people who mainly used one language, the amygdala calmed down only when they labeled emotions in their native language. But people who used both languages equally showed no calming effect in either language. The study was published in PNAS.

112 words ・ CEFR B1

和訳を見る

気持ちを言葉にすることは「感情ラベリング」と呼ばれ、恐怖やストレスに関わる脳の一部である扁桃体の活動を下げることがあります。では、それは第二言語でも効くのでしょうか。スペインのジャウメ1世大学の研究者たちは、2言語を話す若い成人151人を脳スキャナーで調べました。

スペイン語と英語を話す人もいれば、スペイン語とカタルーニャ語を話す人もいました。参加者は顔の写真を見て、それぞれの言語で感情の単語を選びました。主に1つの言語を使う人では、母語で感情に名前をつけたときだけ扁桃体が落ち着きました。一方、2つの言語を同じくらい使う人では、どちらの言語でも落ち着く効果は見られませんでした。この研究は『PNAS』に発表されました。

4択リーディングクイズ

Q1. What question did the researchers try to answer?

Q2. What happened in people who used both languages equally?

Q3. What can we infer from the results?

重要単語

  • amygdalaC1
    名詞扁桃体The amygdala reacts quickly to danger. 発音は /əˈmɪɡdələ/。ギリシャ語の「アーモンド」が語源で、形が似ていることから。
  • bilingualB2
    形容詞・名詞2言語を話す(人)Many people in Canada are bilingual. bi-(2つ)+lingual(言語の)。monolingual「1言語の」、multilingual「多言語の」。
  • native languageB1
    名詞(句)母語Her native language is Spanish. mother tongue、first language(L1)とも言う。second language は L2。
  • labelB1
    動詞・名詞名前をつける/ラベルTry to label your feelings when you are upset. 発音は /ˈleɪbəl/(レイブル)。「ラベル」と読まないよう注意。
  • dampenC1
    動詞弱める、抑えるThe bad news dampened our excitement. damp(湿った)+-en。「湿らせて火の勢いを弱める」イメージ。
  • threatB2
    名詞脅威The animal saw the dog as a threat. 発音は /θret/。動詞 threaten「おびやかす」、形容詞 threatening も頻出。
  • vividlyB2
    副詞ありありと、鮮やかにI vividly remember my first day at school. 形容詞 vivid「鮮やかな」。vivid memory「鮮明な記憶」はよく出るコロケーション。
「悲しい」と気持ちに名前をつけると、脳の扁桃体が落ち着く。でもスペインのバイリンガル151人を調べたら、その効果が出たのはよく使う母語だけ。英語で「I'm sad」と言っても、脳はあまり静まらないらしい。

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出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Davydova et al. (2026) Affect labeling down-regulates amygdala only in a dominant native language, PNASdoi.org
  2. Vives et al. (2021) Foreign Language Processing Undermines Affect Labeling, Affective Sciencedoi.org
  3. Lieberman et al. (2007) Putting Feelings Into Words, Psychological Sciencedoi.org
  4. Torre & Lieberman (2018) Putting Feelings Into Words: Affect Labeling as Implicit Emotion Regulation, Emotion Reviewdoi.org

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