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🛠️ 技能別の指導メソッド☆☆☆研究はこれから小学校中学校高校📖 約15分

教科書の使い方と教材研究 ― 教科書を「料理」する:足す・削る・変える・並べかえる

教科書は「主たる教材」。でも、1ページ目から順に全部こなすことが教科書を生かすことではありません。研究でわかった教科書の得意・不得意をふまえて、目の前の生徒に合わせて「料理」する教材研究の手順をまとめました。

エビデンスの強さ:教科書の分析研究や、先生が教科書をどう使っているかの教室研究はあるが、「どう改作すると生徒がどれだけ伸びるか」を比べた実験研究はまだ少ない。日本の検定教科書の語彙分析は近年増えている。

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このページのウラ取り 出典 16 件 ― 原田英語.comが集めて読んだ論文・専門書・公的資料。DOI・ISBN・公式ページは書誌データベースとも照合済み 原田英語.comと校閲担当が、主張と出典を1つずつ照合・AI(Codex)による独立チェック済み(2026-10-18) ウラ取りの仕組み →
教科書の使い方と教材研究 ― 教科書を「料理」する:足す・削る・変える・並べかえるのイメージ
💡3行まとめ
  • 教科書は法律上の「主たる教材」で、使う義務があります。でも、学習指導要領や学校の指導計画の範囲で、どう使うかは先生が工夫できます。研究では、教科書がそのまま授業を決めてしまい、先生の工夫が小さくなりがちなことが報告されています。
  • 日本の検定教科書の分析からは、分析された1シリーズで、よく使う語の約半分が2回未満しか出てこない、旧課程の高校教科書で、書く課題が制限作文と和文英訳に偏るといった「不得意」が報告されています。
  • 教材研究は「目標→言語材料→題材→活動→生徒」の5つの視点で読み、足りないものを足し、合わないものを削り、変え、並べかえる。教科書は「全部こなす台本」ではなく「料理の材料」です。

教材研究ってなに? ― 「教科書を教える」から「教科書で教える」へ

ひとことで言うと、教材研究とは、教科書を1ページ目から全部こなすのではなく、単元のゴールに合わせて「足す・削る・変える・並べかえる」を決めるための下準備です。

日本の学校の教科書は、文部科学大臣の検定を経た(または文部科学省が著作した)「教科の主たる教材」として位置づけられ、学校教育法で使用が義務づけられています 1。だから、教科書を使うことが授業の前提になります。

一方で、「教科書を使う」ことと「教科書を1ページ目から順に全部こなす」ことは同じではありません。昔から「教科書を教えるのではなく、教科書で教える」と言われるとおり、教科書は目標を達成するための材料です。どの活動に時間をかけ、何を足し、何を軽く扱うかを決めるのが、教材研究です。つまり実際には、教科書は使う義務がある「主たる教材」でありながら、学習指導要領や学校の指導計画の範囲で、どう使うかは先生が工夫できるということです。ここでいう「削る」は、扱うべき内容を省くことではなく、活動の時間や形を軽くすることです。

🎈たとえるなら

教科書は、材料とレシピがセットになった「ミールキット」です。キットのとおりに作れば、だいたいおいしいものができます。でも、食べる人が子どもなら味を薄めに、育ち盛りなら量を多めに、アレルギーがあれば材料を替えます。前の日にカレーだったら、付け合わせを変えるかもしれません。腕のいい料理人は、キットを捨てずに、食べる人に合わせて料理する。教材研究は、教科書というキットを目の前の生徒に合わせて料理する作業です。

似たものとのちがい

教科書「を」教える 教科書「で」教える
教科書の位置づけ 全部こなす台本 目標を達成するための材料
先生がすること 1ページ目から順にこなす 足りないものを足し、合わないものを削り、変え、並べかえる
ゴール 教科書を終えること 単元の CAN-DO(例:自分の町を紹介できる)を達成すること

やり方を3ステップで

  1. ゴールを1文で書く:「この単元の最後に、生徒は英語で何ができる?」を CAN-DO の形にする。
  2. 薄いところを見つける:目標・言語材料・題材・活動・生徒の5つの視点で読み、教科書の活動を「4つの柱」(意味中心のインプット/意味中心のアウトプット/言語に焦点を当てた学習/流暢さの練習。下でくわしく説明)に分けて、活動の少ない柱を探す。
  3. 足す・削る・変える・並べかえる:少ない柱を補う活動を2つ、軽くする活動を1つ、形を変える活動を1つ決める。

研究ではどうなってる?

🔬研究ではこう
  • 教科書が「事実上のカリキュラム」になる:大学の英語集中コースの文法の授業を詳しく調べた研究では、教科書が事実上のカリキュラムとなり、教室のやり取りの大部分を形づくっていました 2。
  • 改作は小さくなりがち:2人の英語の先生の授業12回を録画し、教科書をどう改作しているかを分析した研究では、授業は大部分が教科書に引っぱられ、改作は小さなものにとどまっていました。改作の理由は、生徒が取り組みやすくするためや、準備不足、教科書の進め方の細かさなどで、教えるうえでの理由が前に出ていなかったと報告されています 3。
  • 日本でも「新しい教科書」だけでは授業は変わらない:日本の高専でコミュニカティブな新しい教科書を導入した事例では、4人の日本人の先生の態度と授業を調べた結果、教え方への不安と支援の不足が変化をはばんでいました 4。
  • 教科書だけでは、くり返しが足りないことがある:日本の小学校・中学校の検定教科書1シリーズ(6冊)の全語を分析した研究では、中学生が学ぶ高頻度語の約半分(50.4%)が、教科書全体で2回未満しか出てきませんでした。また、分析した語の35%は、1つの単元にしか出てきませんでした 5。
  • 教科書ごとに語彙の量が大きく違う:中学校の検定教科書6社を分析した研究では、教科書に出てくる異なり語数は2,365〜3,755語と、教科書によって大きな差がありました 6。
  • 書く課題は「制限作文」と「和文英訳」中心:旧課程の高校の教科書(英語Ⅰ・Ⅱ・ライティング)の「書く」課題を分類した研究では、制限作文と、日本語を見て空所を埋める課題が多く、自分の考えを自由に書く課題はほとんどありませんでした 7。
  • 1冊の教科書では語彙を伸ばしきれない:中上級向けの英語の教科書1冊の全語を分析した研究では、高頻度語と学術語より先の語彙を伸ばす機会はわずかで、多読などで補う必要があると結論しています 8。
  • 教科書の練習の形にも注意:教科書によくある動詞と名詞の線結びの練習は、まちがった組み合わせを記憶に残す副作用が報告されています 9。

教科書をていねいに全部やっても、単語は「出会い」が足りない

「教科書を丁寧に全部やれば、必要な単語は身につくはず」。そう思いたくなります。でも、日本の検定教科書1シリーズを分析した研究では、中学生が学ぶ高頻度語の約半分が、小中の教科書を通して2回未満しか出てきませんでした 5。単語を覚えるには、くり返し出会うことが欠かせません。教科書は「新しい語に出会わせる」ことは得意でも、「何度も出会わせる」ことは苦手な場合があるのです。

だからこそ、教材研究で最初に考えたいのは「この教科書で足りないものは何か」です。くり返し、たくさん読む量、自由に書く場面、自分のことを話す場面。これを足すのが、先生の腕の見せどころです。

教材研究の5つの視点

1つのレッスン(単元)を前にしたら、次の5つの視点で教科書を読みます。

視点 問い メモの例
① 目標 この単元で、生徒は最後に何ができるようになる?(CAN-DO) 「自分の町のおすすめを、理由をつけて3文以上で紹介できる」
② 言語材料 新出の文法・語彙は? 前の単元のどの語が再登場する? 新出語12語。そのうち高頻度で今後も使う語は5語
③ 題材 内容は生徒の興味・経験とつながる? ほかの教科とは? 地域の話題。社会科の地域学習と重なる
④ 活動 読む・聞く・話す・書く、どこが厚く、どこが薄い? 本文の理解と文法練習は厚い。自分のことを話す場面が薄い
⑤ 生徒 このクラスの生徒にとって、難しすぎる・やさしすぎるところは? 本文の後半の説明文が長い。前半の対話は簡単すぎる

④の「活動」を見るときに便利なのが、語彙研究で知られるニュージーランドの応用言語学者 Paul Nation 氏の4つの柱(four strands)です。授業の活動を、①意味中心のインプット(ほぼ理解できる英文を、内容を目的にたくさん読む・聞く)、②意味中心のアウトプット(伝えたい内容を話す・書く)、③言語に焦点を当てた学習(文法・語彙・発音などに注意を向ける)、④流暢さを育てる練習(すでに知っているやさしい英語を、速く・たくさん使う)、の4つに分け、コース全体でほぼ同じ時間をあてるのがよく設計されたコースだという提案です 10。難しい本文をていねいに読むのは①ではなく③に近い、という点に注意します。教科書の多くは③が厚く、②と④が薄くなりがちです。単元の計画表に4つの柱の欄を作り、学期を通して薄くなっている柱を足しましょう(単元全体の設計は 単元計画のつくり方 へ)。

教科書を「料理」する5つの技

技 やること 例
足す 足りない活動や量を加える 本文の話題で自分のことを話す活動、同じテーマのやさしい読み物、前の単元の語を使う復習
削る・軽くする ねらいに合わない、または簡単すぎる活動を短くする 答えを写せば終わる練習は、口頭で一気に確認して済ませる
変える 活動の形を変える 線結びの練習を「正しいかたまりを選ぶ」形に、和文英訳を「自分のことを書く」形に
並べかえる 順番を入れかえる 本文を読む前に、題材について話す活動を先に置く/文法説明を、本文を読んだあとに移す
置きかえる 生徒に合う別の素材に替える 古くなった話題の写真を、地域の最新の写真に替える(本文の言語材料はそのまま)

ポイントは、目標(①)を変えずに、そこへの道のりを生徒に合わせて変えることです。単元の CAN-DO が「自分の町を紹介できる」なら、教科書の本文はそのお手本の1つであって、ゴールではありません。

✏️1レッスンの教材研究を60分で
  1. ゴールを1文で書く(10分):教科書の指導書や単元の目標を見て、「この単元の最後に、生徒は英語で何ができる?」を1文の CAN-DO にします。最後のパフォーマンス課題(スピーチ・作文・やり取り)も決めてしまいます。
  2. 本文を3回読む(15分):1回目は生徒になったつもりで内容を楽しむ。2回目は言語材料(新出語・文法・コロケーション)に線を引く。3回目は「ゴールの課題で、生徒がまねできる表現」に印をつけます。
  3. 4つの柱でチェック(10分):教科書の活動を4つの柱に分け、活動の少ない柱を見つけます 10。
  4. 足す・削る・変えるを決める(15分):少ない柱を補う活動を2つ、軽くする活動を1つ、形を変える活動を1つ決めます。足す活動の例:同じテーマのやさしい英文を読む(多読 の発想で)、本文の語を使って自分のことを書く、前の単元の語を混ぜた小テスト。
  5. くり返しの計画を立てる(10分):新出語のうち、今後もよく使う語を5つ選び、次の単元以降、授業のはじめの短い活動や小テストで、いつ・何回出会わせるかを決めます。教科書だけでは出会いが足りないからです 5。
🗣️先生の英語(そのまま使える)
TBefore we open the textbook, let's talk. What is your favorite place in our town?
TNow, read the text. Find two things the writer likes about her town.
TThis exercise is easy, so let's check it quickly. Say the answers together.
TNow it's your turn. Use the expressions from the text and introduce your favorite place.
TDo you remember this word from Lesson 3? Let's use it again today.
🏫実例

中学1年(自己紹介の対話文):教科書の対話文の音読は5分で切り上げ、「対話の登場人物になりきって、自分の情報に入れかえて話す」活動を足します(足す・変える)。教科書の練習問題のうち、答えを写せば終わるものは口頭で一気に確認(削る)。前の単元の語(好きな教科・スポーツ)をわざと混ぜた質問カードを作り、くり返し出会わせます。

中学3年(説明文のレッスン):本文を読む前に、題材の写真を見せて「知っていること」をペアで話す活動を置きます(並べかえる)。本文のあと、同じテーマで、語彙のレベルをそろえたやさしい英文をもう1本読ませる(足す)。教科書の要約の穴埋めは、「キーワードだけを見て自分の言葉で要約する」形に変えます(変える)。

高校1年(英語コミュニケーションⅠの論説文):教科書の内容理解の T/F 問題はペアで3分。浮いた時間で、本文の主張に賛成か反対かを、本文の表現を2つ以上使って書かせる(足す)。教科書の「書く」課題が和文英訳中心なら 7、そのうち1問を「自分の意見を3文で」に変えます。

小学校(外国語科):教科書の歌やチャンツ、絵を最大限に使いつつ、クラスの子どもの名前や地域の話題に置きかえて、自分ごとのやり取りにします(置きかえる)。

教科書の「不得意」を補う4つの足し算

研究から見えてきた教科書の不得意と、その補い方をまとめます。

教科書の不得意 足し算のアイデア 根拠
高頻度語にくり返し出会わない 毎時間はじめの短い活動で前の単元の語を使う、単語の小テストに前の範囲を混ぜる 5
読む量が少ない 同じテーマのやさしい読み物、多読の時間 8
自由に書く課題が少ない 単元ごとに「自分のことを書く」課題を1つ 7
話す・書くの時間が薄い 4つの柱のバランスを単元計画でチェック 10

多読を教科書の学習と結びつける工夫は、教科書自体が多読をすすめる仕組みを持つべきだという提案もあり 11、教科書の単元のテーマに合わせた読み物を学級文庫に置くだけでも、「教科書で学んだ語に、別の文脈でもう一度出会う」機会になります。

⚠️よくある失敗
  • 教科書を1ページ目から全部、同じ重さでこなす:時間が足りなくなり、単元の最後の「使う」活動が削られがちです。軽く扱う活動を先に決めておきましょう。
  • 教科書の練習の形をそのまま信じる:線結びのように、効果が小さかったり副作用があったりする形の練習もあります 9。目的に合わせて形を変えてかまいません。
  • 教科書を「捨てて」プリントだけで授業する:教科書は主たる教材で、使用が義務づけられています 1。足す・変えるは、教科書を土台にして。
  • 新しい教科書になれば授業が変わると期待する:日本の事例でも、教科書を変えただけでは授業は変わらず、先生への支援が欠かせませんでした 4。同じ学年の先生どうしで教材研究を共有する場をつくりましょう。
  • 教科書の本文や図をそのまま写したプリントを配る・公開する:教科書の文章や図には著作権があります。校内の授業で使う範囲と、ウェブ公開などは扱いが違うので、学校のルールを確認しましょう。

❓ よくある質問

Q. 英語の教科書は、全部そのとおりに使わないといけませんか?

教科書は学校教育法で使用が義務づけられた「主たる教材」ですが 1、1ページ目から順に全部こなすことと同じではありません。単元の目標を変えずに、そこへの道のりを生徒に合わせて足す・削る・変える・並べかえる・置きかえるのが教材研究です。

Q. 教科書を丁寧にやれば、単語は身につきますか?

出会いの回数が足りないことがあります。日本の小中の検定教科書1シリーズを分析した研究では、中学生が学ぶ高頻度語の約半分(50.4%)が、教科書全体で2回未満しか出てきませんでした 5。毎時間はじめの短い活動や小テストで、前の単元の語にくり返し出会わせます。

Q. 教材研究は、何から始めればいいですか?

目標・言語材料・題材・活動・生徒の5つの視点で教科書を読みます。最初に「この単元の最後に、生徒は英語で何ができる?」を1文の CAN-DO にし、本文を3回読み、教科書の活動を4つの柱(読む・聞く/話す・書く/文法・語彙・発音/流暢さの練習)に分けて、活動の少ない柱を見つけます 10。

Q. 教科書の書く課題だけで、ライティングの力は育ちますか?

補う必要がありそうです。日本の高校の英語教科書の「書く」課題を分類した研究では、制限作文と、日本語を見て空所を埋める課題が多く、自分の考えを自由に書く課題はほとんどありませんでした 7。単元ごとに「自分のことを書く」課題を1つ足します。

Q. 新しい教科書になれば、授業は変わりますか?

それだけでは変わりにくいようです。日本の高専でコミュニカティブな新しい教科書を導入した事例では、先生の教え方への不安と支援の不足が変化をはばんでいました 4。同じ学年の先生どうしで教材研究を共有する場をつくりましょう。

🎓 もう一歩深く(大学院レベル)

🎓院生モード教科書は必要か ― Allwright と O'Neill の論争から教材開発研究へ

教科書の役割をめぐる古典的な論争として、1981〜82年の ELT Journal での応酬があります。英語教育の研究者 R. L. Allwright 氏(1981)は、言語の教授と学習を「学習の管理(management of language learning)」としてとらえ、その複雑さに比べて教材が担える役割は限られていると論じ、「教える教材」から「学ぶための教材」への重点の転換を提案しました 12。これに対して、同じく英語教育に携わる R. O'Neill 氏(1982)は、出版された教科書は、教室で起きる予測できないやり取りを形づくる土台として役立ち、教科書がないと学習者は授業外で学ぶための手がかりを失うと反論しました 13。

その後、教材の評価・改作・作成は「教材開発(materials development)」という研究分野に育ちました。英語教育の研究者 L. E. Sheldon 氏(1988)は、教科書の評価と選定がおおざっぱに行われていることを指摘し、共通の評価観点を提案しています 14。教材開発を研究する Brian Tomlinson 氏のレビューは、教材の評価・改作・作成・活用に関する文献を総覧し、分野の空白と今後の研究の方向を示しました 15。日本の検定教科書は「使用義務がある主たる教材」という点で、教科書を選ばない・使わない選択肢がある国の議論とは前提が異なりますが、「教科書をどう使うか」という問いの重要性はむしろ大きいと言えます。

🎓院生モード教科書は教室でどう「使われて」いるのか ― 生態系としての教材

教材研究の多くは教科書の中身の分析でしたが、近年は教室で教科書が実際にどう使われているかに注目する研究が出てきました。言語教育の研究者 Anne Marie Guerrettaz 氏と Bill Johnston 氏は、教室を生態系(classroom ecology)としてとらえる枠組みで、文法の教科書がコースの事実上のカリキュラムとなり、教室のやり取りの大部分を構造化していた様子を描きました 2。英語の先生の教科書の使い方を研究した Stefan Rathert 氏と Neşe Cabaroğlu 氏は、2人の先生の授業の録画・刺激再生法・省察の対話などを組み合わせ、先生の実践が大部分教科書に導かれ、改作は小規模で、教育的な配慮が前面に出ていなかったことを示し、教科書に導かれる(coursebook-led)計画ではなく、教科書にもとづく(coursebook-based)計画への転換と、そのための教師教育の必要を論じています 3。

日本の文脈では、英語教育の研究者 Humphries 氏と Burns 氏が、高専でのコミュニカティブな教科書の導入という教育課程の変更が、教え方への不確かさと専門的な支援の不足によってはばまれていたことを報告しています 4。高校生の学習意欲を下げた要因として、教科書や参考書に関わる問題が学習者自身から挙がっていたことも見逃せません 16。教科書は中立の道具ではなく、先生の信念・学校の制度・生徒の受けとめ方と絡みあって働く、というのがこの領域の研究の共通した見方です。教科書の改作が生徒の学習成果をどれだけ変えるかを比べた実験的研究はまだ少なく、授業研究やアクションリサーチ(自分の授業で研究する)で確かめる価値のある問いです。

🎓院生モード日本の検定教科書の語彙をどう読むか

現行の学習指導要領では、中学校で扱う語が1,600〜1,800語程度(小学校の600〜700語程度に加えて)に増えました。語彙を研究する Ryan Klinger 氏(2024)は、1つのシリーズの小学校・中学校の教科書6冊のコーパスを、JACET8000 の語彙リストと照らして分析し、リストの最初の3,000語の42.9%が教科書に出てこないこと、中学生が学ぶ高頻度語の50.4%が教科書全体で2回未満しか出てこないこと、分析した語の35%が分散度ゼロ(1つの単元にしか出てこない)であることを報告しました 5。言語テストの研究者 Tsuyoshi Sato 氏(2024)は中学校の検定教科書6社を分析し、異なり語数が2,365〜3,755語と教科書によって大きく異なり、学習指導要領の語数から見込まれる規模をこえていること、そして6社すべてと小学校の教科書に共通して出てくる高頻度語を「どの教科書を使っても必要な語」として特定できることを示しました 6。

この2つの研究から言えるのは、教科書に出てくる語の数は学習指導要領の目安を上回っていても、「くり返し」の面では不足することがあるということです(出てくる語の数と、身につける機会の多さは同じではありません)。どの語を優先してくり返させるかを、教科書の外の基準(高頻度語のリストや、複数の教科書に共通する語)で決めることが、教材研究の重要な一部になります。なお、Klinger 氏の分析は1つのシリーズにもとづくもので、教科書による違いは大きいので 6、自分の使う教科書で確かめることが大切です。語の選び方とくり返しの設計は 語彙指導の全体像 と 単語を定着させる覚え方 で扱っています。

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📑 出典(16件)

本文の上付き数字に対応。✔ は DOI / ISBN / 公式ページを書誌データベースと機械照合した印です。

  1. 文部科学省 (2026). 教科書制度の概要 1.教科書とは 公式ページ ✔ リンク確認済教科書の定義(教科の主たる教材)と、学校教育法による使用義務を説明した文部科学省のページ
  2. Guerrettaz, A. M., & Johnston, B. (2013). Materials in the classroom ecology. The Modern Language Journal, 97(3), 779-796. doi:10.1111/j.1540-4781.2013.12027.x ✔ DOI照合済文法の授業で、教科書が事実上のカリキュラムになり、教室のやり取りの大部分を形づくっていた様子を描いた研究
  3. Rathert, S., & Cabaroğlu, N. (2021). Teachers as slaves or masters to their coursebooks: An in-depth study on two English language teachers' coursebook utilization. Language Teaching Research, 28(5), 1816-1841. doi:10.1177/13621688211036239 ✔ DOI照合済2人の先生の12授業を録画分析。改作は小さなものにとどまり、教科書に引っぱられる授業になっていたと示した研究
  4. Humphries, S., & Burns, A. (2015). 'In reality it's almost impossible': CLT-oriented curriculum change. ELT Journal, 69(3), 239-248. doi:10.1093/elt/ccu081 ✔ DOI照合済日本の高専でコミュニカティブな新教科書を導入した事例。先生たちの教え方への不安と支援不足が変化をはばんでいた
  5. Klinger, R. (2024). Vocabulary frequency and dispersion in Japanese junior high school EFL textbooks. Vocabulary Learning and Instruction, 13(2), 1-18. doi:10.29140/vli.v13n2.1171 ✔ DOI照合済日本の小中の検定教科書6冊のコーパス分析。高頻度語の約半分が教科書全体で2回未満しか出てこなかった
  6. Sato, T. (2024). Developing a receptive vocabulary list for Japanese junior high school students: An analysis of the vocabulary characteristics in authorized textbooks. JLTA Journal, 27, 25-40. doi:10.20622/jltajournal.27.0_25 ✔ DOI照合済中学校の検定教科書6社の語彙を分析。異なり語数は2,365〜3,755語と教科書によって大きく違った
  7. Kobayakawa, M. (2011). Analyzing writing tasks in Japanese high school English textbooks: English I, II, and Writing. JALT Journal, 33(1), 27-48. doi:10.37546/JALTJJ33.1-2 ✔ DOI照合済日本の高校教科書の「書く」課題は制限作文と和文英訳が中心で、自由に書く課題は少なかったと示した研究
  8. Matsuoka, W., & Hirsh, D. (2010). Vocabulary learning through reading: Does an ELT course book provide good opportunities?. Reading in a Foreign Language, 22(1), 56-70. doi:10.64152/10125/66650 ✔ DOI照合済中上級向けの教科書1冊の全語を分析し、高頻度語・学術語より先の語彙を伸ばす機会は少なく、多読などで補う必要があると示した研究
  9. Boers, F., Demecheleer, M., Coxhead, A., & Webb, S. (2014). Gauging the effects of exercises on verb-noun collocations. Language Teaching Research, 18(1), 54-74. doi:10.1177/1362168813505389 ✔ DOI照合済教科書によくある動詞と名詞の「線結び」練習は伸びが小さく、まちがった組み合わせが記憶に残る副作用があると報告した研究
  10. Nation, I. S. P. (2007). The four strands. Innovation in Language Learning and Teaching, 1(1), 2-13. doi:10.2167/illt039.0 ✔ DOI照合済授業の活動を「意味中心のインプット・意味中心のアウトプット・言語に焦点を当てた学習・流暢さの養成」の4つに分け、ほぼ同じ時間を配分するよう提案した論文
  11. Brown, D. (2009). Why and how textbooks should encourage extensive reading. ELT Journal, 63(3), 238-245. doi:10.1093/elt/ccn041 ✔ DOI照合済教科書は多読をすすめる仕組みをもつべきだと論じ、直接・間接の取り入れ方を提案した論文
  12. Allwright, R. L. (1981). What do we want teaching materials for?. ELT Journal, 36(1), 5-18. doi:10.1093/elt/36.1.5 ✔ DOI照合済教材の役割は限られている、と論じ「教える教材」から「学ぶための教材」への転換を提案した古典的論文
  13. O'Neill, R. (1982). Why use textbooks?. ELT Journal, 36(2), 104-111. doi:10.1093/elt/36.2.104 ✔ DOI照合済Allwright に応えて、教科書は教室のやり取りを形づくる土台になり、授業外の学習の手がかりにもなると論じた論文
  14. Sheldon, L. E. (1988). Evaluating ELT textbooks and materials. ELT Journal, 42(4), 237-246. doi:10.1093/elt/42.4.237 ✔ DOI照合済教科書の評価がおおざっぱに行われている問題を指摘し、評価・選定のための共通の観点を提案した論文
  15. Tomlinson, B. (2012). Materials development for language learning and teaching. Language Teaching, 45(2), 143-179. doi:10.1017/S0261444811000528 ✔ DOI照合済語学教材の評価・改作・作成についての研究を総まとめしたレビュー
  16. Kikuchi, K. (2009). Listening to our learners' voices: What demotivates Japanese high school students?. Language Teaching Research, 13(4), 453-471. doi:10.1177/1362168809341520 ✔ DOI照合済日本の高校英語で意欲を下げた要因(先生の言動・文法訳読・入試・単語暗記・教材)を調べた研究

最終更新 2026-10-18 ・ 原田英語 まちがいのご指摘はこちら