定期テストの作り方 ― 妥当性・信頼性・波及効果で「本文暗記テスト」を卒業する
教科書本文の穴埋めばかりの定期テストは、生徒に「本文を丸暗記すればいい」と教えてしまいます。テストの3つの物差しと、国研の作成手順、明日から使える問題チェックリストをまとめました。
エビデンスの強さ:妥当性・信頼性・波及効果は言語テスト研究の中心概念で理論的な蓄積が厚い。ただし「テストを変えれば授業と学習が変わる」という波及効果は単純ではないことも研究で示されている。

よいテストってなに? ― 3つの物差し
ひとことで言うと、よいテストとは、測りたい力をきちんと測れていて(妥当性)、だれが採点してもぶれず(信頼性)、生徒の勉強をよい方向に向ける(よい波及効果)テストです。
テストを作るとき、次の3つを意識すると「なんとなく作ったテスト」から卒業できます。つまり実際には、できあがった問題に3つの物差しを1つずつ当てて点検することです。
似たものとのちがい:3つの物差し
| 物差し | ひとことで | ダメな例 |
|---|---|---|
| 妥当性(validity) | 測りたい力を測れているか | 「読む力」を測りたいのに、本文の暗記で解ける |
| 信頼性(reliability) | 誰が採点しても、いつ受けてもぶれないか | 記述問題の採点基準がなく、先生によって点が違う |
| 波及効果(washback) | テストが授業と学習にどんな影響を与えるか | 本文の和訳問題ばかりなので、生徒が和訳プリントを丸暗記する |
言語テストの代表的な教科書を書いた研究者 Lyle F. Bachman 氏と Adrian S. Palmer 氏は、テストの「有用性」を信頼性・構成概念妥当性・真正性・相互作用性・影響・実用性の組み合わせで考えるよう提案しました 1。定期テストでいえば、実用性(作る・採点する時間が現実的か)も外せません。
テストは「体重計」です。妥当性は、体重を測りたいのに身長計を持ってきていないか。信頼性は、同じ人が2回乗って同じ数字が出るか。そして波及効果は、体重計の存在が生活を変えること。毎朝乗る体重計があると、食事に気をつけるようになります。でも「靴を脱げば軽く出る」と知れば、靴を脱ぐ工夫ばかりうまくなる。テストもまったく同じで、生徒はテストに出る形に合わせて勉強します。大事なのは、体重計に乗る前に、何を測りたいのかを決めておくことです。
やり方を3ステップで
- 設計図を先に作る:領域(聞く・読む・書く)×観点(知識・技能/思考・判断・表現)の表に配点を決めてから、問題を作る。
- 測りたい力に合った問題にする:読む力を測るなら、本文の暗記で解けないよう初見の英文を使う。多肢選択は3択を基本にする。
- 解いて確かめ、テスト後に見直す:自分と同僚で解いて「読まずに解けないか」を確かめ、テスト後は正答率などから問題を点検する。
妥当性は「テスト」ではなく「点数の使い方」の性質
現代のテスト研究では、妥当性は「このテストは妥当だ」というテスト自体の性質ではなく、点数をどう解釈し、何に使うかについての主張がどれだけ根拠で支えられているか、と考えます 2。同じ本文暗記テストでも、「本文を覚えたか」を確かめる小テストとしてなら妥当ですが、「英文を読む力」の評価に使うなら妥当とは言えません。つまり、何を評価するテストなのかを先に決めることが出発点です。
研究ではどうなってる?
- テストの妥当性と波及効果を論じた Samuel Messick 氏(1996)は、波及効果を妥当性の「結果」の側面として位置づけ、測りたい力の取りこぼしと測りたい力と関係ない難しさを減らすことが、よい波及効果につながると論じました 3。
- 一方、言語テストの研究者 J. C. Alderson 氏と D. Wall 氏(1993)は「テストが授業を決める」という主張は広く信じられているのに、実際の授業を観察した証拠はほとんどないと指摘しました 4。
- 日本で大学入試に向けた英語の授業を観察した小規模な予備的研究では、入試対策の授業でも、文法訳読を使うかどうかは先生の経歴・信念・経験の影響の方が大きい可能性が示されました 5。
- 波及効果の研究をまとめたレビューも、波及効果はテストから自動的・直接的に起きるものではなく、先生がどの程度・どんな波及効果を生むかを大きく左右すると結論しています 6。
- 多肢選択問題の選択肢の数について80年分の研究をまとめたメタ分析では、4択から3択に減らしても、難易度・識別力・信頼性への平均的な影響は小さく(難易度はわずかに易しくなる)、同じ時間により多くの問題を出せるので内容の網羅性が上がるとされました 7。
- テストそのものにも学習効果があります。練習テストのメタ分析では、思い出す練習としてのテストは、読み直しなど他の学習法より学習効果が大きいことが示されています 8。
「入試があるから訳読しかできない」とよく言われますが、研究は、テストと授業の関係はもっと複雑で、先生の判断の余地が大きいことを示しています 56。定期テストは先生自身が作るテストです。設計を自分で変えられるので、授業や学習への望ましい影響をねらって使いやすい道具だと言えます(ただし、テストを変えれば自動的に授業や学習が変わるわけではありません 6)。
国研が示す「読む・聞く」問題の作り方
国立教育政策研究所の中学校外国語の事例では、「読むこと」「聞くこと」の「思考・判断・表現」を評価するペーパーテストの作り方を、次の手順で示しています 9。
- 学年・単元の目標を確認する
- 測ること(必要な情報を読み取る/概要を捉える/要点を捉える)をはっきりさせる
- 測ることに合ったテキストの種類を選ぶ(必要な情報なら広告や予定表、要点なら意見文や説明文など)
- 文章を作る(教科書と同じ構成で書く、対話文を独白に書き換える、ALTに頼む など)
- 先生が実際に解いて確かめる
- 記述式なら採点基準を作る
さらに、作った文章と問題を確かめる観点として、背景知識がある生徒に有利になっていないか、読んだり聞いたりしなくても答えられないか、未習の語がないか、1つの問題が別の問題の答えを教えていないかなどが挙げられています 9。また、思考・判断・表現の問題では学期の文法事項を必ず使う必要はない一方、知識・技能の問題ではその文法事項を使って作る、と区別しています 9。
明日の授業でこうする
- テスト細目表(設計図)を先に作る:縦に「領域(聞く・読む・書く)」、横に「観点(知識・技能/思考・判断・表現)」をとり、各マスの配点を決めます。問題を作るのはそのあと。
- 本文の暗記で解ける問題を減らす:知識・技能の問題では単元の文法・語彙を確実に使い、本文の暗記だけで解けないよう、必要に応じて別の文脈や英文で出題します。読む・聞くの思考・判断・表現は、本文暗記だけで答えられない課題にします。国研の手順を参考に、必要に応じて新しい英文(初見の英文)を作ります 9。
- 多肢選択は3択を基本に:もっともらしい誤答を3つ考えるのは大変です。2つの良い誤答で十分です 7。
- 自分で解いて、同僚にも解いてもらう:答えが2つにとれないか、読まずに解けないかを確かめます 9。
- テスト後に項目分析をする:正答率が極端な問題や、上位の生徒ほど間違える問題は、点検のサインです。正解キーのまちがい・問題文・選択肢・採点・授業で扱った内容とのずれなどを確かめ、次のテストの改善に使います(受験者が少ないと数字がぶれやすい点にも注意)。
問題チェックリスト
多肢選択問題の作り方については、教科書と研究から31項目もの指針が整理されています 10。ここでは指針そのものではなく、定期テストの現場でよく見かける失敗を挙げておきます。
| チェック | よくある失敗 |
|---|---|
| 正解だけ長くないか | 正解の選択肢だけ詳しく書いてしまう |
| 誤答はもっともらしいか | 明らかにおかしい選択肢で、実質2択になっている |
| 「〜でないものを選べ」を多用していないか | 否定の問いは読み違いを生む |
| 記述問題で「書く力」を測っていないか | 読む力を測りたいのに、長い英作文を求めている(国研も記述は2〜3文程度に留めるよう注意) 9 |
| 範囲表と問題が合っているか | 授業で扱っていない形式が突然出る |
中学2年:比較表現の単元のあと、「テレビ番組で無人島に持っていく物の人気順と、クラスで調べた人気順」を紹介するプレゼン原稿(初見)を読み、表の空欄を埋める問題と、プログラムに載せるタイトルを選ぶ問題を出す。国研の事例にある、概要を捉える力を測る問題です 9。
高校1年:教科書の論説文と同じテーマで、立場が反対の短い意見文(初見)を読ませ、「筆者の主張」「理由2つ」を日本語で答えさせる。本文の和訳問題は小テストで済ませ、定期テストからは減らす。
中学3年(リスニング):ALTに録音してもらったアナウンスを聞き、自分の予定に合う行動を選ぶ問題。国研の資料にあるとおり、問題には目的や場面、状況などを必ず設定する 9。
- 本文暗記テストで「読む力」の評定をつける:暗記だけで解ける問題なら、点数は読む力より本文の記憶に左右されます。点数の使い方が目的に合っているかを考える 2。
- 初見の英文がいきなり難しすぎる:未習語だらけの英文は、読む力ではなく語彙の運を測ります。学期の語彙・文法で書き直す 9。
- 3択にすると簡単すぎると思い込む:3択では当てずっぽうで正解する確率は上がりますが、4択から3択に変えたときの難易度や識別力への平均的な影響は小さいとされています。大切なのは、もっともらしい誤答を2つ用意することです 7。
- テストを返して終わり:返却後、間違いの多かった問題を、解説を聞く前に生徒にもう一度自力で解かせ(思い出させ)、そのあと正答を確かめると、思い出す練習(検索練習)として学習に生かせます。練習テストの研究を返却後の活動に応用した工夫で、成績をつける定期テストそのものの効果を示した研究ではありません 8。
❓ よくある質問
Q. テストの妥当性・信頼性・波及効果とは何ですか?
妥当性は測りたい力を測れているか、信頼性は誰が採点しても・いつ受けてもぶれないか、波及効果はテストが授業と学習にどんな影響を与えるか、です。3つの中でも「測りたい力を測れているか」がいちばん大事です。
Q. 教科書本文をそのまま出すテストはだめですか?
何を評価するかしだいです。現代のテスト研究では、妥当性は点数をどう解釈し、何に使うかの問題と考えます 2。本文を覚えたかを確かめる小テストなら妥当ですが、「英文を読む力」の評価に使うなら、初見の英文を使うのが有力な方法です。
Q. 多肢選択の選択肢は、何択がいいですか?
80年分の研究をまとめたメタ分析では、4択から3択に減らしても、難易度・識別力・信頼性への平均的な影響は小さく、同じ時間により多くの問題を出せるとされました 7。もっともらしい誤答を2つ用意できれば十分です。
Q. 初見の英文の問題は、どう作ればいいですか?
国研の事例では、目標の確認 → 測ること(必要な情報・概要・要点)の決定 → テキストの種類の選択 → 文章づくり → 先生が解いて確認 → 記述式なら採点基準づくり、という手順を示しています。背景知識で有利にならないか、読まずに答えられないか、未習語がないかも確かめます 9。
Q. 入試があるから、テストも授業も訳読中心になるのは仕方ないですか?
研究は、テストと授業の関係はもっと複雑で、先生の判断の余地が大きいことを示しています。日本の高校の授業の観察では、文法訳読を使うかどうかは、先生の経歴・信念・経験の影響の方が大きい可能性が示されました 56。
🎓 もう一歩深く(大学院レベル)
🎓院生モード波及効果研究の30年
Alderson & Wall(1993)の「Does washback exist?」は、波及効果を当然視していた議論に、観察データにもとづく検証を求めた転換点でした 4。その後、波及効果を研究する Liying Cheng 氏・Yoshinori Watanabe 氏・Andy Curtis 氏が編んだ論文集が世界各地の研究方法と事例をまとめ 11、日本の入試については、編者のひとり Watanabe 氏が、波及効果は先生の要因によって媒介されると論じています 12。
理論面では、Messick(1996)が波及効果を構成概念妥当性の結果の側面に結びつけ 3、テストの妥当性を論じた Michael T. Kane 氏(2013)は妥当性を「点数の解釈と使用についての論証」として整理し、使用の評価には結果の評価が含まれると述べました 2。また、Bachman 氏と Palmer 氏(2010)は、実際のテスト作りで使える形として、テストの使い方を正当化する「評価使用論証」の枠組みを提示しています 13。定期テストに当てはめれば、「この点数で評定をつける」という使い方が、生徒の学習にどんな結果をもたらすかまで含めて考える、ということになります。
🎓院生モード日本の英語評価の歴史から見えること
言語テストの研究者 Miyuki Sasaki 氏(2008)は、日本の学校の英語評価の150年を、時代ごとの英語教育の目的(エリート中心の英語、義務教育段階への普及、コミュニケーションの手段、近年の評価改革)と社会の変化から整理しました 14。評価のやり方は、その時代の教育目的・政治・経済・学問の流行に左右されてきたという指摘は、観点別評価や4技能評価の議論を考えるうえでも示唆的です。ここからは筆者の推論ですが、定期テストの「本文暗記型」も、過去の教育目的や指導の慣行の影響を受けて定着した形かもしれません。今の目標に合っているかを見直し、合わなければ作り直してよいのです。テスト作りの実務全般については、現場の先生向けの定番書として、言語テスト研究者 Arthur Hughes 氏の本があります 15。
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📑 出典(15件)
本文の上付き数字に対応。✔ は DOI / ISBN / 公式ページを書誌データベースと機械照合した印です。
- Bachman, L. F., & Palmer, A. S. (1996). Language Testing in Practice: Designing and Developing Useful Language Tests. Oxford University Press 本の紹介ページ ✔ ISBN照合済テストの「有用性」を信頼性・構成概念妥当性・真正性・相互作用性・影響・実用性で考える枠組みを示した古典
- Kane, M. T. (2013). Validating the interpretations and uses of test scores. Journal of Educational Measurement, 50(1), 1-73. doi:10.1111/jedm.12000 ✔ DOI照合済妥当性は「テスト」ではなく「点数の解釈と使い方」について論証するもの、とする論証に基づく妥当性検証の代表的論文
- Messick, S. (1996). Validity and washback in language testing. Language Testing, 13(3), 241-256. doi:10.1177/026553229601300302 ✔ DOI照合済テストが授業に与える影響(波及効果)を妥当性の一部として論じた論文
- Alderson, J. C., & Wall, D. (1993). Does washback exist?. Applied Linguistics, 14(2), 115-129. doi:10.1093/applin/14.2.115 ✔ DOI照合済「テストが授業を変える」という波及効果は当然視されてきたが証拠が少ない、と問題提起した論文
- Watanabe, Y. (1996). Does grammar translation come from the entrance examination? Preliminary findings from classroom-based research. Language Testing, 13(3), 318-333. doi:10.1177/026553229601300306 ✔ DOI照合済日本の大学入試対策の授業観察(小規模な予備的研究)から、文法訳読は入試より先生の経歴・信念・経験の影響が大きい可能性を示した研究
- Spratt, M. (2005). Washback and the classroom: The implications for teaching and learning of studies of washback from exams. Language Teaching Research, 9(1), 5-29. doi:10.1191/1362168805lr152oa ✔ DOI照合済波及効果の実証研究を先生の視点からレビュー。波及効果はテストから自動的に起きるものではなく、先生の判断が大きいと結論
- Rodriguez, M. C. (2005). Three options are optimal for multiple-choice items: A meta-analysis of 80 years of research. Educational Measurement: Issues and Practice, 24(2), 3-13. doi:10.1111/j.1745-3992.2005.00006.x ✔ DOI照合済選択肢は3つで十分(4〜5択と比べて質が落ちず、問題数を増やせる)とした80年分の研究のメタ分析
- Adesope, O. O., Trevisan, D. A., & Sundararajan, N. (2017). Rethinking the use of tests: A meta-analysis of practice testing. Review of Educational Research, 87(3), 659-701. doi:10.3102/0034654316689306 ✔ DOI照合済小テストで思い出す練習(テスト効果)が読み直しより記憶に残ることを示した教育全般のメタ分析
- 国立教育政策研究所 教育課程研究センター (2020). 「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料 中学校 外国語 公式ページ ✔ リンク確認済中学校外国語の3観点の評価規準の作り方・単元の指導と評価の計画の事例を示した国研の参考資料
- Haladyna, T. M., Downing, S. M., & Rodriguez, M. C. (2002). A review of multiple-choice item-writing guidelines for classroom assessment. Applied Measurement in Education, 15(3), 309-333. doi:10.1207/S15324818AME1503_5 ✔ DOI照合済教科書27冊と研究27本から、多肢選択問題の作り方の指針31項目を整理した論文
- Cheng, L., Watanabe, Y., & Curtis, A. (2004). Washback in Language Testing: Research Contexts and Methods. Lawrence Erlbaum doi:10.4324/9781410609731 ✔ DOI照合済世界各地の波及効果研究を集めた編著(Cheng, Watanabe, Curtis 編)
- Watanabe, Y. (2004). Teacher factors mediating washback. In Cheng, L., Watanabe, Y., & Curtis, A. (Eds.), Washback in Language Testing: Research Contexts and Methods (pp. 151-168). Lawrence Erlbaum doi:10.4324/9781410609731-17 ✔ DOI照合済日本の大学入試の波及効果は先生の要因によって大きく変わると論じた章
- Bachman, L. F., & Palmer, A. S. (2010). Language Assessment in Practice: Developing Language Assessments and Justifying Their Use in the Real World. Oxford University Press 本の紹介ページ ✔ ISBN照合済テストの使い方の正当性を「論証」として組み立てる考え方(評価使用論証)を示した本
- Sasaki, M. (2008). The 150-year history of English language assessment in Japanese education. Language Testing, 25(1), 63-83. doi:10.1177/0265532207083745 ✔ DOI照合済日本の学校の英語評価の150年の歴史を、時代ごとの教育目的と社会の変化から整理した論文
- Hughes, A. (2003). Testing for Language Teachers. Cambridge University Press 本の紹介ページ ✔ ISBN照合済現場の先生向けに、妥当性・信頼性・波及効果とテストの作り方を解説した定番書(第2版)
最終更新 2026-10-18 ・ 原田英語 まちがいのご指摘はこちら








