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🛠️ 技能別の指導メソッド★★☆エビデンスあり小学校中学校高校📖 約9分

発問とティーチャー・トーク ― 「本物の質問」と待ち時間で生徒の答えを引き出す

先生が質問してから次の発言まで、平均1秒もない――そんな研究があります。答えのわかっている質問と本物の質問の使い分け、待ち時間、生徒の答えへの「返し方」を見直しましょう。

エビデンスの強さ:待ち時間や本物の質問の効果を示す研究はあるが、多くは小規模・母語の教室や ESL が中心。日本の私立大学1校の英語授業の観察研究では、実際の待ち時間の長さと答えの長さに相関が見られなかったという観察研究もある。

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発問とティーチャー・トーク ― 「本物の質問」と待ち時間で生徒の答えを引き出すのイメージ
💡3行まとめ
  • 答えを知っている質問だけでなく、本物の質問を。 生徒の答えが長く、複雑になりやすくなります。
  • 質問したら、待つ。 先生はふつう1秒も待っていません。ただし待ち時間だけで答えの長さが決まるとは限らないので、「答えたくなる質問」とセットで。
  • "Good." で終わらせず、"Why?" で広げる。 生徒の答えへの返し方で、やり取りの量が変わります。

発問とティーチャー・トークってなに?

ひとことで言うと、ティーチャー・トークは授業中に先生が話すことばのすべて、発問はその中の「生徒への質問」のことです。このページでは、それが生徒の英語を引き出せているかに注目します。

ティーチャー・トーク(teacher talk)は、授業中に先生が使うことば(英語も日本語も)のすべてです。説明、指示、質問、ほめ言葉、あいづち。英語の授業では、とくに先生の英語は「授業を進める道具」であると同時に、生徒にとっていちばん身近なインプットでもあります。

中学校・高校の学習指導要領は、授業を英語で行うことを基本とし、その際生徒の理解の程度に応じた英語を用いるよう求めています 12。つまり実際には、「英語で話すこと」そのものより、その英語が生徒の発話を引き出しているかが大事です(英語の使い方の全体は 「英語の授業は英語で」はどこまで?)。

似たものとのちがい:2種類の質問

種類 意味 例
提示質問(display question) 先生が答えを知っている、確認のための質問 What color is the bag in the picture? / What did Ken buy?
参照質問(referential question) 先生も答えを知らない、本物の質問 What do you usually buy at a convenience store? / Which story did you like better? Why?

英語の先生の質問は、提示質問の方がずっと多いことが早くから指摘されてきました 3。

教室の会話の「型」 ― IRF

教室のやり取りは、先生が問い(Initiation)→ 生徒が答え(Response)→ 先生が評価やコメント(Feedback / Follow-up)の3つの発言で1セットになりやすいことが知られています。これを IRF(または IRE)とよびます 4。

🎈たとえるなら

IRF はキャッチボールで、先生がボールを投げ、生徒が投げ返し、先生が「ナイスボール!」と言ってボールをしまう形です。3つ目で "Good." と言ってボールをしまうか、「今のカーブ、どうやって投げたの?」ともう一球投げ返すかで、キャッチボールの長さが変わります。そして、ボールを投げたら、相手がかまえるまで少し待つこと。投げてすぐ「取れない?じゃあ次の人」では、だれもキャッチできません。

やり方を3ステップで

  1. 本物の質問を混ぜる:内容確認の質問(提示質問)に、生徒の考えや経験を聞く質問を1〜2問加える。
  2. 聞いたら、待つ:心の中で3つ数え、答えが出なければペアで30秒相談させてから指名する。
  3. 3つ目の発言で広げる:"Good." で終わらず、"Why do you think so?" "Can you tell me more?" と返す。

研究ではどうなってる?

🔬研究ではこう
  • ESL の先生4人と学習者24人の研究では、本物の質問(参照質問)を取り入れる訓練を受けた先生のクラスで、生徒の答えが長く、文法的に複雑になり、つなぎの語も多くなりました 3。
  • 先生は質問したあと、ふつう1秒も待たずに次の発言をし、生徒が答え終わったあとも1秒以内に反応している、と報告されています。発問後の待ち時間(wait time 1)と、生徒の答えのあとの待ち時間(wait time 2)の両方が注目されてきました 5。
  • 待ち時間の研究をまとめたレビューでは、平均の待ち時間が3秒を超えると先生と生徒の発話が変わり、小・中・高の理科などで高次の思考を問う学習の成績が上がったと報告されています 6。
  • 日本の大学9校・924人の英語の授業を48時間観察した研究では、自分から話を始めた発話(initiated talk)のうち、学生が始めたものは1%未満で、授業時間の5分の1以上は先生も学生もだれも話していない時間でした 7。
  • 一方、日本の私立大学1校の英語授業を観察した研究では、先生の平均の待ち時間は約1.5秒で、待ち時間と答えの長さの間に相関は見られませんでした。学生は、もっと長く答えられる自由な質問を望んでいました 8。
  • 先生の話し方は、生徒の参加を広げることも、つぶすこともあることが教室談話の分析で示されています。たとえば、生徒の言葉を先生が先回りして埋めてしまうと、学ぶ機会が失われます 9。

「待てばしゃべる」とは限らない

待ち時間の研究は理科などの教科で多く行われてきた一方 6、第二言語の教室での研究はとても少ないとされています 8。日本の私立大学1校の英語授業を観察した研究では、実際の待ち時間の長さと答えの長さの間に相関が見られませんでした。英語力の限界や、先生の教え方の好みなど、待ち時間の効果を弱めるいくつもの要因が考えられています 8。なお、これは自然に生じた待ち時間を観察した研究で、待ち時間を意図的に延ばす実験ではありません。

つまり、待ち時間の長さだけで答えの長さを予測できるとは限りません。「3秒待つ」に加えて、何を聞くか(本物の質問か)、どう準備させるか(ペアで相談する時間)、答えたあとにどう返すかも一緒に見直すのが現実的です(これは研究をふまえた実践上の提案です 83)。

明日の授業でこうする

✏️発問を変える5つのステップ
  1. 質問を2種類用意する:本文の内容確認(提示質問)を2〜3問に、生徒の考え・経験を聞く本物の質問を1〜2問加える 3。
  2. 聞いたら、3秒待つ:心の中で3つ数える(3秒は主に理科・数学の授業の研究から来た目安で、英語の授業で効果が確かめられた数字ではありません)。答えが出なければ、ペアで30秒相談させてから指名する 56。
  3. 3つ目の発言で広げる:"Good." で終わらず、"Why do you think so?" "Can you tell me more?" "Does anyone agree?" と返す。同じ IRF でも、3つ目の使い方しだいでやり取りの性質が変わります 4。
  4. 先回りして埋めない:生徒がつまったら、すぐに答えを言わず、"Take your time." と待つか、最初の語だけヒントを出す 9。
  5. 自分のティーチャー・トークを録音して聞く:1回の授業の10分だけでも、質問の種類・待ち時間・3つ目の返し方を数えてみる。教室のやり取りを分析して見直す方法は、教室での先生と生徒のやり取りを研究してきた英国の応用言語学者 Steve Walsh 氏の本にまとまっています 10。
🗣️先生の英語(そのまま使える)
THere's a question for everyone. Don't raise your hand yet. Just think.
T(3秒待つ) OK, talk with your partner for thirty seconds.
TWhat do you think, Yuki? ... Interesting! Why do you think so?
TCan you tell me more about that?
TDoes anyone have a different idea?
TTake your time. You can start with "I think..."
🏫実例
  • 小学校:絵本の読み聞かせで、"What color is the cat?"(提示質問)のあとに、"Do you like cats? What pet do you want?"(本物の質問)。答えは単語1語でOK。先生が "Oh, you want a rabbit! Me, too." と返して会話を1往復のばします。
  • 中学校:教科書本文の Q&A のあとに "If you were Ken, what would you do?" を1問。ペアで相談する時間をとってから指名します。「正解のない質問だから、なんでもいいよ」と伝えるのがコツです。
  • 高校:意見を問う質問のあと、生徒の答えに "Why?" "For example?" と2回たずねて、答えを深めます。一人の答えを別の生徒につなぐ "Do you agree with Sota?" で、先生と生徒の1対1から、生徒どうしのやり取りへ広げます。
⚠️よくある失敗
  • 提示質問だけで授業が終わる:内容確認は必要ですが、それだけでは生徒の答えは1語で終わりがちです 3。
  • すぐに次の生徒を当てる・自分で答えてしまう:考える時間がないと、答えられる生徒だけの授業になります 5。
  • 「待てばいい」と待つだけ:日本の私立大学1校の英語授業の観察では、待ち時間の長さと答えの長さに相関が見られませんでした 8。質問の中身とペア相談をセットに。
  • "Good." "OK." の連発:ほめ言葉は大切ですが、毎回それで終わるとやり取りが閉じます 4。
  • 先生だけが話し続ける:日本の大学の英語授業では、学生が自分から話を始める発話がとても少ないという観察結果があります 7。ただし、先生の発話を減らすだけで生徒が話し出すとは限りません(この研究は観察で、介入の効果は調べていません)。説明を短くした分、ペアで相談する時間や本物の質問を入れて、生徒が話し出せる場面を作るのが現実的です(実践上の提案)。

❓ よくある質問

Q. 提示質問と参照質問の違いは何ですか?

提示質問は先生が答えを知っている確認のための質問(What did Ken buy?)、参照質問は先生も答えを知らない本物の質問(Which story did you like better? Why?)です。英語の先生の質問は、提示質問の方がずっと多いことが早くから指摘されてきました 3。

Q. 本物の質問を増やすと、生徒の答えは変わりますか?

ESLの研究では、参照質問を取り入れる訓練を受けた先生のクラスで、生徒の答えが長く、文法的に複雑になり、つなぎの語も多くなりました 3。内容確認の質問に加えて、生徒の考えや経験を聞く質問を1〜2問入れてみましょう。

Q. 発問のあと、何秒待てばいいですか?

先生はふつう1秒も待たずに次の発言をしていると報告されています 5。平均の待ち時間が3秒を超えると発話や成績が変わったというレビューがありますが 6、主に理科などの研究から来た目安です。答えが出なければ、ペアで30秒相談させてから指名します。

Q. 待ち時間を長くすれば、生徒はたくさん話しますか?

そうとは限りません。日本の私立大学1校の英語授業の観察では、待ち時間の長さと答えの長さの間に相関が見られず、学生はもっと長く答えられる自由な質問を望んでいました 8。待ち時間に加えて、質問の中身と、答えたあとの返し方も見直しましょう。

Q. IRFとは何ですか?

先生の問い(Initiation)→ 生徒の答え(Response)→ 先生の評価やコメント(Feedback / Follow-up)の3つの発言で1セットになる、教室のやり取りの型です。3つ目を "Good." で閉じるか、"Why do you think so?" で広げるかで、やり取りの性質が変わります 4。

🎓 もう一歩深く(大学院レベル)

🎓院生モード提示質問は「悪い質問」なのか

教室での教師の質問を調べた応用言語学者 Michael H. Long 氏と Charlene J. Sato 氏の研究 (1983) 以来、提示質問は「本物のコミュニケーションにならない」として批判されてきました(Brock 1986 はこの指摘から出発しています 3)。これに対し、会話分析の立場から、教室のやり取りを研究する Yo-An Lee 氏 (2006) は、提示質問は教室の授業を組み立て、言語指導を成り立たせる中心的な資源だと論じています 11。英語教育の研究者 R. Cullen 氏 (1998) も、教室外の「本物のコミュニケーション」の基準だけでティーチャー・トークを評価するのは単純すぎ、教室という文脈で効果的かで考えるべきだと主張しました 12。

IRF についても同じ構図があります。IRF は「生徒の主体性を奪う」と批判される一方で、応用言語学者の Nassaji 氏と Wells 氏 (2000) は、同じ IRF でも3つ目の発言(follow-up move)の使い方しだいで、多様な機能を果たすことを示しました 4。問題は型そのものではなく、型をどう使うかです。

🎓院生モード教室の相互作用能力と「沈黙」

Walsh 氏は、教師と生徒が、やり取りそのものを学習を助ける道具として使う力を教室の相互作用能力(classroom interactional competence, CIC)とよび、教室談話を分析・改善する枠組みを示しています 10。このページでは、そのうち教師の側の言葉づかいに注目しています。教師の言語使用をコントロールする力は、適切な教授法を選ぶ力と少なくとも同じくらい重要だ、というのが Walsh (2002) の結論です 9。

日本の教室の沈黙について、教室の沈黙を研究する Jim King 氏 (2013) は、沈黙が単一の原因ではなく複数の経路から生まれ、教室に半ば固定した「引き寄せ状態(attractor state)」になっていると、ダイナミック・システム理論から解釈しています 7。待ち時間と答えの長さの相関が日本の私立大学1校の英語授業で見られなかったという観察結果も 8、待ち時間を「単独で効く変数」として扱うことの限界を示唆しています。ただし相関研究なので、待ち時間を意図的に延ばしたときの効果は、介入研究で確かめる必要があります。また、ここで紹介した日本の英語教室の研究(King 2013、Smith & King 2025)はどちらも大学が対象です。中学・高校の教室での検証は、アクションリサーチの好テーマです。

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📑 出典(12件)

本文の上付き数字に対応。✔ は DOI / ISBN / 公式ページを書誌データベースと機械照合した印です。

  1. 文部科学省 (2017). 中学校学習指導要領(平成29年告示) 公式ページ ✔ リンク確認済中学校の学習指導要領。外国語科の目標(5領域)・言語材料・指導計画の作成と内容の取扱いを示している
  2. 文部科学省 (2018). 高等学校学習指導要領(平成30年告示) 公式ページ ✔ リンク確認済高等学校の学習指導要領。総則の標準単位数・必履修科目(英語コミュニケーションⅠ)と、外国語科の各科目の目標・内容を示している
  3. Brock, C. A. (1986). The effects of referential questions on ESL classroom discourse. TESOL Quarterly, 20(1), 47-59. doi:10.2307/3586388 ✔ DOI照合済答えを知らない「本物の質問(参照質問)」を増やすと、生徒の発話が長く複雑になることを示した研究
  4. Nassaji, H., & Wells, G. (2000). What's the use of 'triadic dialogue'?: An investigation of teacher-student interaction. Applied Linguistics, 21(3), 376-406. doi:10.1093/applin/21.3.376 ✔ DOI照合済IRF(発問→応答→評価)の3つ目の発言しだいで、やり取りが広がるかどうかが変わると示した研究
  5. Rowe, M. B. (1986). Wait time: Slowing down may be a way of speeding up!. Journal of Teacher Education, 37(1), 43-50. doi:10.1177/002248718603700110 ✔ DOI照合済発問後の「待ち時間」がふつう1秒未満であることと、待つことの効果をまとめた論文
  6. Tobin, K. (1987). The role of wait time in higher cognitive level learning. Review of Educational Research, 57(1), 69-95. doi:10.3102/00346543057001069 ✔ DOI照合済待ち時間の研究をまとめたレビュー
  7. King, J. (2013). Silence in the second language classrooms of Japanese universities. Applied Linguistics, 34(3), 325-343. doi:10.1093/applin/ams043 ✔ DOI照合済日本の9大学・924人の授業観察。学生が自分から始めた発話は1%未満だった
  8. Smith, B. N., & King, J. (2025). Post-elicitation wait time in the Japanese university English as a foreign language classroom. RELC Journal, 56(3), 657-672. doi:10.1177/00336882241280987 ✔ DOI照合済日本の大学の英語授業で、先生が発問後に待つ時間(平均約1.5秒)と生徒の答えの長さを調べた研究
  9. Walsh, S. (2002). Construction or obstruction: Teacher talk and learner involvement in the EFL classroom. Language Teaching Research, 6(1), 3-23. doi:10.1191/1362168802lr095oa ✔ DOI照合済先生の話し方が生徒の参加を広げることも、つぶすこともあると示した教室談話の研究
  10. Walsh, S. (2011). Exploring Classroom Discourse: Language in Action. Routledge doi:10.4324/9780203827826 ✔ DOI照合済教室での先生と生徒のやり取り(IRF・発問・待ち時間など)を分析する方法をまとめた本
  11. Lee, Y.-A. (2006). Respecifying display questions: Interactional resources for language teaching. TESOL Quarterly, 40(4), 691-713. doi:10.2307/40264304 ✔ DOI照合済答えのわかっている質問(display questions)にも教室での大事な働きがあると論じた会話分析研究
  12. Cullen, R. (1998). Teacher talk and the classroom context. ELT Journal, 52(3), 179-187. doi:10.1093/elt/52.3.179 ✔ DOI照合済「よいティーチャー・トーク」は教室という場面に合わせて考えるべきだと論じた論文

最終更新 2026-10-18 ・ 原田英語 まちがいのご指摘はこちら