インタラクション仮説と意味交渉 ― 「やり取り」はなぜ英語を伸ばすのか
「え、どういう意味?」「〜ってこと?」。会話がつまずいたときの聞き返しこそが学びのチャンス、と考えたのがロングのインタラクション仮説です。40人学級でやり取りを学びに変える条件を、研究から整理します。
エビデンスの強さ:複数のメタ分析で、やり取り(とその中のフィードバック)は第二言語の発達に効果ありとおおむね一致。ただし実験室研究が多く、教室ではやり取りの質と条件しだいで効果が変わる。

インタラクション仮説ってなに?
ひとことで言うと、「会話で『え?』『こういうこと?』と聞き返したり確かめたりして、通じるまで言い直していくやり取りが、英語を身につける助けになる」という考えです。
インプット仮説が「わかる英語を受け取ること」を重視したのに対して、第二言語習得研究者のマイケル・ロング(Michael Long)氏は「どうやってわかるようになるのか」に注目しました。母語話者と学習者の会話を調べたロング氏は、相手に合わせて言葉そのものをやさしくする調整よりも、会話の進め方の調整――聞き返す、確認する、言い直す――の方が、より広く、より一貫して起きていることを見つけました 1。
この「通じないところを、やり取りで通じるようにする」過程を意味交渉(negotiation of meaning)といいます。代表的な動きは3つです 2。
| 動き | 英語の例 | 何をしている? |
|---|---|---|
| 確認チェック | You mean "last Sunday"? | 自分の理解が合っているか確かめる |
| 明確化の要求 | Sorry? What do you mean? | 相手にもう一度・別の言い方で言ってもらう |
| 理解チェック | Do you understand? | 相手がわかったか確かめる |
ロング氏はのちにこの考えを改訂し、やり取りはインプット・学習者の注意(とくに選択的注意)・アウトプットを生産的に結びつける場だと位置づけました 2。つまり、やり取りの中で「わからない」が起きると、①インプットがわかりやすく作り直され、②自分の言い方の問題に注意が向き、③言い直す(アウトプットを修正する)機会が生まれる、というわけです。
道に迷ったときのカーナビと、助手席の友だちの違いです。カーナビ(一方的なインプット)は正確でも、こちらがわからなくても同じことを言い続けます。助手席の友だちは「え、どこ?」と聞けば「あのコンビニの角を右!」と言い直してくれる。こちらも「右ね?」と確認できる。この往復が、道(英語)を覚える近道になる、という考え方です。
似た理論とのちがい
| 理論 | ひとことで言うと | 学習者がすること |
|---|---|---|
| インプット仮説 | わかる英語を受け取れば、身につく 3 | 聞く・読む(受け取る) |
| インタラクション仮説 | やり取りで「通じない」を通じるようにする中で、インプットがわかりやすく作り直され、形への注意と言い直しが生まれる 2 | 聞き返す・確認する・言い直す |
| アウトプット仮説 | 自分で言う・書くことが、習得を引き起こす 2 | 言う・書く。言えない「穴」に気づく |
インプット仮説が「何を受け取るか」に注目したのに対し、インタラクション仮説は「受け取ったものが、どうやってわかるようになるか」に注目します。また、やり取りの中には間違いへのフィードバック(相手に直される・自分で直すよううながされる)も含まれます。意味交渉が「意味が通じない」ことから始まるのに対し、フィードバックは「意味は通じたけれど、形がまちがっている」ときにも起こる点がちがいます。
この理論が言っていることを3つで
- わからないときの聞き返し・確認・言い直しが、インプットをわかりやすくする:会話では、言葉そのものをやさしくするより、会話の進め方の調整の方が広く起きていました 1。
- やり取りは「インプット・注意・アウトプット」を結びつける場:「わからない」が起きると、自分の言い方の問題に注意が向き、言い直す機会が生まれます 2。
- やり取りをした学習者は伸びる。ただし、教室では自然には起きにくい:メタ分析ではやり取りの効果が見られた一方、教室の観察では、聞き返しや言い直しをした生徒はごく一部でした 24。
研究ではどうなってる?
- 14の準実験研究をまとめたメタ分析では、やり取り(意味交渉)を行った学習者に、直後のテストで大きな効果が見られました。28研究をまとめた別のメタ分析でも、やり取りをした学習者は、しなかった学習者より大きな効果が見られ、その効果は遅れて行ったテストでよりはっきりしていました(いずれも総説によるまとめ)2。
- 34人の学習者の実験では、やり取りに積極的に参加した学習者で疑問文の発達が進みました 5。
- 誤り訂正フィードバックのメタ分析(33研究)では中程度の効果があり、外国語環境(EFL)の研究で効果が大きい傾向がありました 6。教室研究だけを集めたメタ分析(15研究・827人)では、答えを言うより自分で直させる働きかけ(プロンプト)の効果が大きく、年少の学習者ほど効果が大きい傾向でした 7。
- 日本の高校生(79人・127人)の研究では、やり取りの中で調整された英語の方が、あらかじめやさしくした英語より、理解と新しい語の習得を助けました 8。
- 日本の大学生167人の研究では、ペアで互いに訂正する方法を教えたクラスで、正確さと流暢さの両方が伸びました。ペア活動だけのクラスは流暢さだけが伸びました 9。
ただし、教室では意味交渉はあまり起きない
ここが大事なポイントです。実際の教室(英語を学ぶ中級の学習者)を観察した研究では、課題の種類やグループの形による明確な差は見られず、小グループでは一言も話さない生徒が多く、聞き返しや言い直しをした生徒もごく一部でした 4。別の教室研究でも、本当の意味での「通じない」から始まる意味交渉はとても少なく、代わりに、互いに助け合ったり、励ましたり、自分で言い直したりするやり取りが多く見られました 10。
さらに、学習者がフィードバックを「直された」と気づくかどうかにも差があります。語彙・発音へのフィードバックは比較的正確に気づかれましたが、文法へのフィードバックは、直されたと気づかれにくいことが報告されています 11。
日本の教室ならではの壁
日本の高校生を対象にした研究では、ペア活動中にあえて英語を使わない生徒がいたこと、その背景に「英語を使うとかっこつけていると思われる」という社会的な空気があったことが報告されています 2。同じ研究(高校生24人が、意味だけに集中する活動と、形と意味の両方に目を向ける活動の両方を4回の授業で経験)では、形と意味の両方に注意を向ける活動が、「自分は英語を学んでいる途中の学習者だ」という立場をとりやすい場をつくり、英語でのやり取りへの参加意欲(投資)を高める可能性が示唆されました 12。観察・インタビュー・日記などを組み合わせた小規模な研究で、別の対照グループと比べた因果の検証ではない点には注意が必要です。「英語で話そう」と呼びかけるだけでなく、英語を使うことが自然な課題と雰囲気をつくる必要があるということです。
明日の授業でこうする
- 情報を交換しないと解けない課題にする(インフォメーション・ギャップ):Aは時間割の半分、Bは残り半分を持つ、など。片方だけで完結できる課題では、聞き返しや情報を確かめる必要が生まれにくくなります。ただし、情報の差がある課題にすれば必ず意味交渉が増える、というほど単純ではなく、教室ではペアや課題の種類で明確な差が出なかった観察研究もあります 4。
- 聞き返しの表現を「道具」として先に渡す:Pardon? / Do you mean...? / How do you spell it? を黒板の端に常時掲示。
- ペアで直し合う練習をする:直す対象の誤り(例:過去形)を絞り、先生がモデルを見せて練習させたうえで、「相手の間違いに気づいたら、答えを言わずに Try again. や Past tense—try again. と言う」などの手がかりを使わせます。日本の大学生167人の研究では、1学期かけてペアでの訂正フィードバックの与え方(答えを言わずに気づかせる方法、または正しい形で言い直す方法)を体系的に訓練したグループで、正確さと流暢さの両方が伸びました。ペア活動だけをしたグループは、流暢さだけが伸びました 9。「Try again. と言う」という1つのルールだけの効果を確かめた研究ではありません。
- 文法の直しは、少しはっきりめに:文法の訂正は気づかれにくいので 11、直した語を強く言う、板書した語尾(-ed など)を指すなど、「今、直したよ」が伝わる工夫を。
- 同じ課題を、相手を替えて2〜3回:1回目でつまずいた表現を、2回目で使い直せます。40人学級でも、一斉にペアを替えれば、一人ひとりが話す回数を1時間の中で増やせます。
- 小学校:「Who am I?」ゲーム。カードの人物について、Yes/No で質問して当てる。答えが聞き取れなければ One more time, please. を使うルールに。
- 中学校:2人で違う絵を持ち、違いを5つ見つける「間違い探し」。In my picture, there is a cat on the desk. → Pardon? On the desk? のように、確認の表現が自然に必要になります。
- 高校:意見が分かれる話題(例:制服は必要か)で、相手の主張を言い換えて確認してから反論する。So you mean... ? Is that right? を必須にします。
- 答えが1人でわかる課題を「ペアで」やらせる:情報が共有されていて、1人で答えを出して終われる課題では、話し合う必要が生まれにくくなります。片方しか持っていない情報を作る(情報差)、意見の理由を聞き合う、2人で1つの結論を出させるなど、相手とのやり取りが欠かせない条件をつくりましょう。
- 「英語で話しなさい」と言うだけ:日本の教室では、英語を使うことに社会的なハードルがある場合があります。英語を使う必然性のある課題と、失敗しても笑われない雰囲気を。
- フィードバックを全部「さりげなく」する:言い直しの意図が伝わらないと、生徒は内容の相づちだと受け取ります。とくに文法は、気づかれる工夫が必要です。
❓ よくある質問
Q. 意味交渉(negotiation of meaning)とは何ですか?
会話で通じないところを、やり取りで通じるようにする過程のことです。自分の理解を確かめる確認チェック(You mean ...?)、もう一度言ってもらう明確化の要求(Sorry? What do you mean?)、相手がわかったかを確かめる理解チェックが代表的な動きです 2。
Q. やり取りをすると本当に英語は伸びるのですか?
メタ分析では、やり取りを行った学習者に大きな効果が見られ、その効果は遅れて行ったテストでよりはっきりしていました 2。誤りへのフィードバックにも中程度の効果があります 6。ただし実験室研究が多く、教室での効果はもう少し小さいかもしれません 2。
Q. ペアワークをさせても、生徒が聞き返しをしないのはなぜですか?
実際の教室を観察した研究では、小グループで一言も話さない生徒が多く、聞き返しや言い直しをした生徒はごく一部でした 4。意味交渉は自然には起きにくいので、情報を交換しないと解けない課題、聞き返し表現の事前指導、相手を替えたくり返しなどの設計が必要です。
Q. ペアで生徒同士に間違いを直させてもいいのですか?
日本の大学生167人の研究では、ペアでの訂正のしかたを1学期かけて体系的に訓練したクラスで、正確さと流暢さの両方が伸びました。ペア活動だけのクラスは流暢さだけが伸びました 9。直す誤りを絞り、先生がモデルを見せてから練習させるのがポイントです。
🎓 もう一歩深く(大学院レベル)
🎓院生モード実験室の効果は、教室でも同じように出るのか
インタラクション研究の大きな弱点は、生態学的妥当性(実験室で得られた結果が、実際の教室でも同じように当てはまるか)です。総説によれば、Mackey & Goo(2007)のメタ分析に含まれた28研究のうち64%が実験室研究で、直後テストの効果は実験室研究の方が大きかったとされます 2。一方、Russell & Spada(2006)のメタ分析では場の違いによる差は見られなかったともまとめられており 2、結論は割れています。
応用言語学者の Pauline Foster 氏(1998)は、教室での意味交渉の少なさを示したうえで、「意味交渉は学習者がわからないときに自然にとる方略である」という前提自体に疑問を投げかけました 4。Foster 氏と、同じく応用言語学者の Amy Snyder Ohta 氏(2005)は、意味交渉を「コミュニケーションの断絶の明確なシグナル」に限って数えるべきだと方法論を見直し、その少なさの代わりに、共同構築・促し・自己修正という、社会文化理論から説明しやすい支援的なやり取りが豊富にあることを示しました 10(→ 社会文化理論)。
🎓院生モード「やり取りのどの部分」が効いているのか
現在の研究の焦点は、「やり取りは効くか」から「やり取りのどの要素が、誰に、どんな条件で効くか」に移っています 2。候補は、①調整されたインプット、②否定的フィードバック(リキャスト・プロンプト)、③修正されたアウトプット、④それらを媒介する注意・気づき、です。
フィードバックの種類については、第二言語習得研究者の Roy Lyster 氏と Kazuya Saito 氏(2010)が教室研究でプロンプトの優位を示した一方 7、Li(2010)では暗示的フィードバックの方が効果が長く保たれていました 6。メタ分析ごとに対象研究の範囲が違うため、単純に比べることはできません。また、学習者がフィードバックをどう受け取ったか(文法の訂正は気づかれにくい)11 という知覚の問題が、効果の差の一部を説明している可能性があります(→ 気づき仮説)。
ペア同士のやり取り(peer interaction)は、40人学級の日本の教室にとって最も現実的な形です。ペアのやり取りを研究する Masatoshi Sato 氏と Lyster 氏(2012)は、ペア活動が産出の反復練習を通じて手続き化(流暢さ)を促し、訂正のトレーニングが自他の発話をモニターする力を育てて正確さを高めた、と解釈しています 9(→ スキル習得理論)。
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📑 出典(12件)
本文の上付き数字に対応。✔ は DOI / ISBN / 公式ページを書誌データベースと機械照合した印です。
- Long, M. H. (1983). Native speaker/non-native speaker conversation and the negotiation of comprehensible input. Applied Linguistics, 4(2), 126-141. doi:10.1093/applin/4.2.126 ✔ DOI照合済会話の「やり取りの調整」でインプットが理解可能になると論じた、インタラクション仮説の出発点の論文
- Loewen, S., & Sato, M. (2018). Interaction and instructed second language acquisition. Language Teaching, 51(3), 285-329. doi:10.1017/S0261444818000125 ✔ DOI照合済インタラクション(やり取り)研究の総説。インプット・意味交渉・アウトプットとその条件を整理
- Krashen, S. D. (1982). Principles and Practice in Second Language Acquisition. Pergamon 本の紹介ページ ✔ ISBN照合済インプット仮説・情意フィルター仮説など、クラッシェンの5つの仮説をまとめた本(著者サイトで全文公開)
- Foster, P. (1998). A classroom perspective on the negotiation of meaning. Applied Linguistics, 19(1), 1-23. doi:10.1093/applin/19.1.1 ✔ DOI照合済実際の教室では意味交渉がほとんど起きず、話さない生徒も多かったと報告した観察研究
- Mackey, A. (1999). Input, interaction, and second language development: An empirical study of question formation in ESL. Studies in Second Language Acquisition, 21(4), 557-587. doi:10.1017/S0272263199004027 ✔ DOI照合済やり取り(インタラクション)が疑問文の発達を助けるかを調べた実験。自分からやり取りに参加することの大切さを示した
- Li, S. (2010). The effectiveness of corrective feedback in SLA: A meta-analysis. Language Learning, 60(2), 309-365. doi:10.1111/j.1467-9922.2010.00561.x ✔ DOI照合済誤り訂正(フィードバック)のメタ分析(33研究)。全体として中程度の効果で、効果は持続する
- Lyster, R., & Saito, K. (2010). Oral feedback in classroom SLA: A meta-analysis. Studies in Second Language Acquisition, 32(2), 265-302. doi:10.1017/S0272263109990520 ✔ DOI照合済教室での口頭の誤り訂正のメタ分析(15研究・827人)。リキャストよりプロンプトの効果が大きい
- Ellis, R., Tanaka, Y., & Yamazaki, A. (1994). Classroom interaction, comprehension, and the acquisition of L2 word meanings. Language Learning, 44(3), 449-491. doi:10.1111/j.1467-1770.1994.tb01114.x ✔ DOI照合済日本の高校生(79人・127人)で、やり取りの中で調整された英語の方が理解も語の習得も進んだことを示した教室研究
- Sato, M., & Lyster, R. (2012). Peer interaction and corrective feedback for accuracy and fluency development: Monitoring, practice, and proceduralization. Studies in Second Language Acquisition, 34(4), 591-626. doi:10.1017/S0272263112000356 ✔ DOI照合済日本の大学生に、ペアで互いに訂正し合う方法を教えた実験
- Foster, P., & Ohta, A. S. (2005). Negotiation for meaning and peer assistance in second language classrooms. Applied Linguistics, 26(3), 402-430. doi:10.1093/applin/ami014 ✔ DOI照合済教室のペア活動では意味交渉そのものは少なく、相づち・励まし・助け合い・自己修正が会話を支えていたことを示した研究
- Mackey, A., Gass, S., & McDonough, K. (2000). How do learners perceive interactional feedback?. Studies in Second Language Acquisition, 22(4), 471-497. doi:10.1017/S0272263100004010 ✔ DOI照合済語彙・発音へのフィードバックは気づかれやすいが、文法へのフィードバックは気づかれにくいと示した研究
- Tomita, Y., & Spada, N. (2013). Form-focused instruction and learner investment in L2 communication. The Modern Language Journal, 97(3), 591-610. doi:10.1111/j.1540-4781.2013.12031.x ✔ DOI照合済日本の高校生24人。形式に注目する活動が、教室で英語を使おうとする気持ち(投資)を後押しした
最終更新 2026-10-18 ・ 原田英語 まちがいのご指摘はこちら








