「英語の授業は英語で」はどこまで? 日本語の上手な使いどころとトランスランゲージング
学習指導要領は「授業は英語で行うことを基本とする」。でも、研究は「日本語をゼロにせよ」とは言っていません。英語を最大限に使いながら、日本語を「効くところだけ」使う線引きを、指導要領の解説と研究から整理します。
エビデンスの強さ:英語にふれる量が大切なことは広く認められている一方、単語の説明などで母語を短く使う方が効果的だったという実験もあり、「どこで・どれだけ母語を使うか」については見方が分かれる。

- 「授業は英語で行うことを基本とする」のねらいは、英語にふれる機会と実際のコミュニケーションの場面をつくること。解説には、必要に応じて補助的に日本語を使うことも考えられると書かれています。
- 研究では、単語の意味の説明などで母語を短く使うと、英語だけより覚えやすかったという結果があります。
- 線引きのコツは「英語が基本、日本語は必要なときに短く」。英語のすぐあとに毎回日本語訳をつけるのは避けましょう。高校の解説も、英語にふれる機会を奪いかねないと注意しています。
「授業は英語で行うことを基本とする」ってなに?
ひとことで言うと、「英語の授業は、英語にたっぷりふれ、実際に英語でやり取りする場にしよう。ただし、必要なときは日本語で短く助けてもよい」という学習指導要領の方針です。
高校では2009年告示の学習指導要領で、中学では2017年告示の学習指導要領で、「授業は英語で行うことを基本とする」という規定が入りました 12。つまり実際には、「100%英語」でも「日本語で説明して英語は少し」でもなく、英語が基本で、日本語は補助という線引きです。
英語の授業は「英語のプール」です。プールに入らずにプールサイドで泳ぎ方の説明ばかり聞いていても、泳げるようにはなりません(日本語だけの授業)。でも、足がつかない子に「とにかく泳げ」と言うだけでは、おぼれてしまいます。日本語はビート板のようなもの。大事なのは、ずっと持たせるのではなく、必要なときにさっと渡し、慣れたら手放させることです。
似た考え方とのちがい
| 日本語中心の授業 | 「英語で行うことを基本とする」 | オールイングリッシュ(100%英語) | |
|---|---|---|---|
| 先生の言葉 | 説明はほぼ日本語 | 英語が基本。生徒の理解に合わせて調整 | 英語だけ |
| 日本語の役割 | 主役 | 必要なときの短い補助 | 使わない |
| 学習指導要領との関係 | 方針に合わない | 方針そのもの | 方針は求めていない |
やり方を3ステップで
- 英語で言って、見せる:ゆっくり・やさしい言い方で話し、動作・絵・実物で意味を見せる。
- 理解を確かめる:指で理解度を示させる、1組にやって見せてもらう、などで全体の理解を確認する。
- 必要なときだけ日本語で短く:誤解が残るときだけ、日本語で短く補う。英語の直後に毎回訳をつけることはしない。
学習指導要領の解説は何と言っている?
解説を読むと、この規定のポイントがよくわかります。
- ねらい:生徒が日常で英語にふれる機会はとても少ない。だから授業の中で「英語にふれる機会」を最大にし、授業全体を「実際のコミュニケーションの場面」にする 2。
- 生徒の理解に合わせる:ただ英語で話せばよいのではない。話す速さを調整し、やさしく言いかえ、くり返し、具体例を見せる工夫が必要 2。
- 日本語は?:上のねらいに沿った授業であれば、必要に応じて補助的に日本語を用いることも考えられる 21。
- 注意:生徒の苦手意識を減らそうとして、英語で話した直後に日本語の意味を付け加えるような安易な日本語の使い方は、かえって生徒から本当の意味で「英語にふれる機会」や「実際のコミュニケーションの場面」を奪い、自分で学ぶ力の成長をさまたげる原因になる可能性があるので十分注意するように、と高校の解説は書いています 1。
「英語で授業」の公式解説そのものが、日本語を補助として使う余地を認めています 21。
実態はどうなっている?
令和6年度の全国調査では、高校で英語担当教師が発話の半分以上を英語で行っている学校は約4割でした。科目別では、「英語コミュニケーション」に比べて「論理・表現」で英語の発話の割合が少ない傾向が見られます 3。
先生たちの受けとめ方も一様ではありません。高校の先生への面接調査では、方針のあいまいさ、入試などの評価との食い違い、そして母語使用についての先生自身の信念のあいだで、方針の実現可能性に悩む姿が報告されています 4。また、この方針が、日本の訳読を英語力不足の原因として扱い、日本語の役割を小さく見せたという批判的な分析もあります 5。
研究ではどうなってる?
- 授業での母語使用の研究をまとめた総説は、これまでの「外国語は外国語だけで教えるのが一番」という前提が近年見直され、母語と結びつけて教えることの再評価が進んでいると整理しています 6。
- 韓国の小学生443人と大学生286人を対象にした研究では、単語を教えるとき母語と結びつけた説明の方が、英語だけの説明より語彙の習得・保持がよく、とくに子どもで効果が大きいという結果でした 7。
- 中国の大学生を対象に、リスニング中の単語の説明を、母語をはさむ形と英語だけの形で比べた実験では、母語をはさむ方が有利だという初期の証拠が得られました 8。別の実験でも、母語での説明の方が、直後・遅延のテストともに語彙の伸びが大きいという結果でした 9。
- 英語を母語とする生徒にフランス語を教える中等学校の教育実習生6人による14回の授業を分析した事例研究では、実習生の母語使用はもともと比較的少なく、その量と、生徒が外国語・母語をどれだけ使うかとの関連は小さいものでした 10。
これらの研究の多くは語彙についてのもので、授業全体を母語で行ってよいという意味ではありません。英語にふれる量を減らしすぎれば、学ぶ材料そのものが減ります。少なくとも語彙の意味を示す場面では、母語を短く使うことを支持する結果があります 789。文法説明・考えを深める場面・気持ちのケア・授業の運営など、ほかの場面での「最適な」母語の使い方は、まだ検討が続いている課題です 6。このページの線引きも、研究と解説をふまえた実践上の目安として読んでください。
トランスランゲージングという考え方
近年は、トランスランゲージング(translanguaging)という考え方も注目されています。これは、複数の言語を使う人が、ふだん「日本語」「英語」と別々に呼ばれていることばを、自分の中の1つの言語の引き出し(レパートリー)として使い、目的に合わせて柔軟に組み合わせて意味をつくる実践を、教室でも活かそうという考え方です。ただの言語の切りかえや、逐語訳とは違います。応用言語学者の Suresh Canagarajah 氏は2011年の論文で、それまでの研究を整理し、教えられる方略がまだ十分に開発されていないことを課題に挙げたうえで、授業での方略と評価の方向性を示しました 11。日本の英語の授業への応用例の1つとしては、「日本語で考えを出し合ってから英語でまとめる」「英語の資料を読んで日本語で議論し、英語で発表する」など、2つの言語の資源をどちらも生かす使い方がイメージしやすいでしょう。
明日の授業でこうする
最初の1か月は、教室英語を「決まった場面で、決まった言い方」で使います。Open your textbooks to page 10. と言いながら教科書を開いて見せる。Get into pairs. と言いながら手で示す。数週間くり返すと、日本語なしで動ける生徒が増えてきます(クラスによって差があるので、実演や理解の確認は続けます)。指示カードや掲示も使います。活動に入る前に、"Show me with your fingers. Five means 'I understand.' One means 'I need help.'" のように指の本数で理解度を示させたり、1組に最初の動きをやって見せてもらったりして、クラス全体の理解を確かめます。誤解が残っているときだけ、日本語で短く補います。
「ディベートの論点を出す」段階では、まず日本語で5分間ブレインストーミングし、考えを深めます。そのあと、出た論点を英語にする段階で、「これは英語で何て言う?」をクラスで集め、英語の表現を整理します。本番の議論は英語で行います。思考は日本語の力も借り、表現は英語で鍛える、という分担です。
- 英語の直後に毎回和訳:生徒が英語を聞かずに日本語を待つようになるおそれがあります。高校の解説も、こうした安易な日本語の付け加えは、英語にふれる機会を奪い、自分で学ぶ力の成長をさまたげる可能性があると注意しています 1。
- 英語にこだわって活動が成立しない:指示が伝わらずに5分ムダにするより、10秒の日本語で確認した方が、英語を使う時間は増えます。
- 先生だけが英語:先生が英語で話しても、生徒が英語を使う時間がなければ意味が半減します。生徒が話す時間を増やしましょう。
- 生徒の日本語を禁止して罰する:「英語で言えないときは、日本語まじりでも伝えようとする」ことを認める方が、話そうとする気持ちを保ちやすくなります。
❓ よくある質問
Q. 学習指導要領の「授業は英語で行うことを基本とする」とは、どういう意味ですか?
ねらいは、日常で英語にふれる機会の少ない生徒に授業の中で英語にふれる機会を最大にし、授業全体を実際のコミュニケーションの場面にすることです。ただ英語で話せばよいのではなく、生徒の理解の程度に応じて速さを調整し、やさしく言いかえる工夫が求められています 2。
Q. 英語の授業で日本語を使ってはいけないのですか?
いけないわけではありません。中学・高校の解説には、ねらいに沿った授業であれば必要に応じて補助的に日本語を用いることも考えられると書かれています 21。線引きのコツは「英語が基本、日本語は必要なときに短く」です。
Q. 英語で言ったあとに日本語訳をつけるのはよくないのですか?
毎回の和訳は避けた方がよいでしょう。高校の解説は、英語で話した直後に日本語の意味を付け加えるような安易な使い方は、英語にふれる機会や実際のコミュニケーションの場面を奪い、自分で学ぶ力の成長をさまたげる可能性があると注意しています 1。
Q. 単語の意味は、日本語で説明した方が覚えやすいですか?
韓国の小学生と大学生の研究では、母語と結びつけた説明の方が英語だけの説明より語彙の習得・保持がよく、とくに子どもで効果が大きいという結果でした 7。ただし語彙についての研究が中心で、授業全体を日本語で行ってよいという意味ではありません。
Q. 実際にはどのくらいの先生が英語で授業をしていますか?
令和6年度の全国調査では、高校で英語担当教師が発話の半分以上を英語で行っている学校は約4割でした。科目別では「英語コミュニケーション」に比べて「論理・表現」で英語の発話の割合が少ない傾向が見られます 3。
🎓 もう一歩深く(大学院レベル)
🎓院生モード「最適な母語使用」をめぐる研究
教室での母語使用を研究する応用言語学者の Ernesto Macaro 氏は、外国語の授業での教育実習生のコードスイッチング(言語の切りかえ)を分析し、実習生の母語使用量と学習者の言語使用量との関連が小さかったことを報告しました 10。ただし、6人・14回の授業の事例研究で、実習生の母語使用はもともと少なく幅も限られていたため、「先生の母語使用を増減しても生徒の言語使用は変わらない」とまでは言えません。その後の語彙習得の実験では、母語による簡潔な説明が L2 のみの説明より有利だという結果が、韓国・中国の学習者で報告されています 789。Jang Ho Lee 氏と Macaro 氏は、年齢の低い学習者ほど母語の利点が大きく、熟達度の差もその一因でありうることを示しました 7。
ただし、これらは語彙の明示的学習に焦点を当てた短期の実験であり、授業全体の母語比率と長期的な運用能力の関係を示すものではありません。応用言語学者の Graham Hall 氏と Guy Cook 氏も、授業での「最適な」母語使用とは何かを、なお検討すべき論点として扱っています 6。
🎓院生モード政策言説としての「英語で授業」
Mamiko Noda 氏と John P. O'Regan 氏は、2009年の学習指導要領が訳読を英語力不足の原因として暗に位置づけ、「原則英語」で置きかえようとした過程を、批判的談話分析で検討しました 5。日本の英語教育政策を研究する Gregory Paul Glasgow 氏の面接研究も、政策の文言のあいまいさが教師の解釈と実践を揺らしていることを示しています 4。
一方で、2017・2018年告示の解説は、「補助的な日本語」の余地と「安易な日本語使用」への注意を両方明記しており 21、実際の政策文書は「100%英語」より穏当です。トランスランゲージングの議論 11 も含め、「英語か日本語か」という二分法ではなく、どの機能(意味の確認・思考・情意・管理)にどの言語を割り当てるかという観点で授業を設計することが、研究と政策の両方に合う方向でしょう。関連する誤解は 英語の授業は100%英語でやるべき? でも扱っています。
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📑 出典(11件)
本文の上付き数字に対応。✔ は DOI / ISBN / 公式ページを書誌データベースと機械照合した印です。
- 文部科学省 (2018). 高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 外国語編 英語編 公式ページ ✔ リンク確認済高校の科目構成(英語コミュニケーションⅠ〜Ⅲ・論理・表現Ⅰ〜Ⅲ)、「支援」の考え方、語数、授業は英語での趣旨を説明した公式の解説
- 文部科学省 (2017). 中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 外国語編 公式ページ ✔ リンク確認済中学校外国語科の目標(5領域)・言語材料(語数・文法事項)・指導計画の作成(授業は英語で行うことを基本とする等)を説明した公式の解説
- 文部科学省 (2025). 令和6年度「英語教育実施状況調査」概要 公式ページ ✔ リンク確認済公立中学・高校の英語教育の全国調査。高校で教師が発話の半分以上を英語で行う学校は約4割
- Glasgow, G. P. (2014). Teaching English in English, 'in principle': The national foreign language curriculum for Japanese senior high schools. International Journal of Pedagogies and Learning, 9(2), 152-161. doi:10.1080/18334105.2014.11082028 ✔ DOI照合済「授業は英語で」の方針に、日本の高校の先生がどう向き合ったかを面接で調べた研究
- Noda, M., & O'Regan, J. P. (2020). L1 marginalisation in Japan: Monolingual instrumentalism and the discursive shift against yakudoku in the Japanese government's Course of Study. Current Issues in Language Planning, 21(2), 135-152. doi:10.1080/14664208.2019.1647998 ✔ DOI照合済2009年の学習指導要領の「英語で授業」方針が、訳読と日本語使用をどう位置づけたかを分析した論文
- Hall, G., & Cook, G. (2012). Own-language use in language teaching and learning. Language Teaching, 45(3), 271-308. doi:10.1017/S0261444812000067 ✔ DOI照合済授業での母語使用・訳の役割についての研究をまとめた総説
- Lee, J. H., & Macaro, E. (2013). Investigating age in the use of L1 or English-only instruction: Vocabulary acquisition by Korean EFL learners. The Modern Language Journal, 97(4), 887-901. doi:10.1111/j.1540-4781.2013.12044.x ✔ DOI照合済韓国の小学生と大学生で、単語の説明に母語を使うと英語だけより語彙がよく残り、とくに子どもで効果が大きかった研究
- Tian, L., & Macaro, E. (2012). Comparing the effect of teacher codeswitching with English-only explanations on the vocabulary acquisition of Chinese university students: A Lexical Focus-on-Form study. Language Teaching Research, 16(3), 367-391. doi:10.1177/1362168812436909 ✔ DOI照合済中国の大学生で、単語の説明を母語で短くはさむ方が英語だけより語彙習得で有利な傾向を示した研究
- Zhao, T., & Macaro, E. (2016). What works better for the learning of concrete and abstract words: Teachers' L1 use or L2-only explanations?. International Journal of Applied Linguistics, 26(1), 75-98. doi:10.1111/ijal.12080 ✔ DOI照合済中国の大学生で、単語の説明に母語を使った方が、英語だけの説明より覚えた語が多かった
- Macaro, E. (2001). Analysing student teachers' codeswitching in foreign language classrooms: Theories and decision making. The Modern Language Journal, 85(4), 531-548. doi:10.1111/0026-7902.00124 ✔ DOI照合済教育実習生の授業での母語使用を分析し、先生の母語使用の量は生徒の外国語使用の量にほとんど影響しなかったと報告
- Canagarajah, S. (2011). Translanguaging in the classroom: Emerging issues for research and pedagogy. Applied Linguistics Review, 2, 1-28. doi:10.1515/9783110239331.1 ✔ DOI照合済トランスランゲージング(複数の言語を行き来して意味をつくる実践)の研究と授業への応用を整理した論文
最終更新 2026-10-18 ・ 原田英語 まちがいのご指摘はこちら








