コミュニカティブ・アプローチ(CLT)とは? 「文法をやめる」ではなく「使うために学ぶ」授業
CLT は「文法を教えない授業」ではありません。文法も含めて「使える力」を育てるための考え方です。日本の教室でつまずきやすい点と、40人学級でも1時間の中で無理なく進められる授業の形を紹介します。
エビデンスの強さ:CLT そのものは幅の広い考え方で、単独の効果を測った研究は少ない。ただし土台となる「焦点をしぼった文法指導」「誤り訂正」などの部品は多くの研究で効果が示されている(入れ方の最適解は条件しだい)。

- CLT(Communicative Language Teaching)は、ことばを「知っている」から「使える」へを目指す考え方。文法を捨てる方法ではありません。
- 研究は、意味中心の活動にも、文法への注意や誤り訂正を加えることが有益だと示しています。どう入れるかは、文法項目や生徒によって変わります。
- 日本の教室では「そのまま輸入」より「形を変えて取り入れる」が現実的。活動を先にして、訳や説明をあとにするやり方もあります。
CLT ってなに?
ひとことで言うと、CLT は「英語を知っている」だけでなく「場面に合わせて使える」ようになることを目標に、意味のあるやり取りをたっぷり授業に入れる考え方です。
CLT は、1970年代ごろから広まった「コミュニケーションのための英語教育」の考え方です。当時広く使われていた構造(文型)中心の教え方では、文型を正確に身につけることや、くり返しの練習が重視されがちでした。でも、それだけでは、場面に合わせて適切にことばを使う力は十分に育たないのでは? たとえば、文法テストで満点の生徒が、道を聞かれて固まってしまう。そうした問題意識から、「ことばを実際の場面で使う力」そのものを目標にしよう、と考えたのが CLT です。
その土台になったのが、コミュニケーション能力(communicative competence)という考え方です。これは「文法を知っている力」だけでなく、「相手や場面に合わせた言い方を選ぶ力」や「言葉につまったときに言いかえて切り抜ける力」なども含めた、使うための総合力です 1。ここで大事なのは、文法の力もコミュニケーション能力の一部だということです。
サッカーで考えてみましょう。リフティングやパスの練習(文法・単語)は大切です。でも、練習だけで試合に一度も出なければ、試合で使える選手にはなりません。CLT は「練習もするけれど、試合(本物のやり取り)の時間をちゃんとつくる」考え方です。逆に、練習ゼロで試合ばかりでも、うまくはなりにくいのです。大事なのは、練習と試合の両方を、つながりのある形で入れることです。
似た指導法とのちがい
| 構造(文型)中心の教え方 | CLT | TBLT(タスク中心の指導) | |
|---|---|---|---|
| 目標 | 文型を正確に身につける | 場面に合わせて使える力 | タスク(意味のある課題)に取り組むことを通して、英語の知識とコミュニケーション能力を育てる |
| 授業の中心 | 説明・くり返しの練習 | やり取りの活動(文法の練習と組み合わせることも多い) | タスクそのものが授業の単位 |
| 文法 | 主役 | コミュニケーション能力の一部として扱う | タスクの前・中・後に必要に応じて扱う(ただし授業の軸は意味中心のタスク) |
CLT は幅の広い考え方で、文法の練習にやり取りを加える「弱い版」から、やり取りそのものを通して学ぶ「強い版」まであります。強い版と関係の深いのが TBLT です(くわしくは下の「もう一歩深く」)。
やり方を3ステップで
- 場面を決める:「誰に・何のために」話すのかを決める。
- やり取りさせる:情報の差(ギャップ)、意見の違い、選択肢など、やり取りが必要になるしかけを入れ、伝えないと終わらないようにする。
- ふり返る:活動中に出た誤りや便利な表現をクラスで確認し、もう一度やる。
CLT の授業で大切にすること
| CLT の考え方 | 教室では |
|---|---|
| 意味を伝え合う | 答えをみんなが知っている確認の質問だけでなく、相手の答えを本当に知る必要がある質問をする |
| やり取りを生むしかけがある | 情報の差(ペアで違う情報を持ち、伝えないと課題が終わらない)、意見の違い、選択肢などで、話す必要をつくる |
| 場面がある | 「誰に・何のために」話すのかを決めてから活動する |
| 流暢さも正確さも | 活動のあとに、よく出た誤りや便利な表現をクラスで確認する |
| 生徒が主役 | 先生が話す時間を減らし、生徒が話す・書く時間を増やす |
CLT は今では1つの決まった方法というより、意味のあるやり取りを通してコミュニケーション能力を育てる指導の総称として使われています 2。
研究ではどうなってる?
CLT は幅が広すぎて、「CLT クラス」と「非 CLT クラス」をそのまま比べた研究はあまりありません。そのかわり、CLT を支える部品ごとに、たくさんの研究があります。
- 49研究をまとめたメタ分析では、文法などに焦点をしぼった指導には大きな効果があり、明示的な指導(ルールを説明したり、対象となる形に注意を向けて規則を考えさせたりする指導)の方が暗示的な指導より効果が大きいと報告されています 3。この結果は、コミュニケーション中心の授業にも、必要な形に注意を向ける指導を加える意義を示しています。文法指導の研究を整理した第二言語習得研究者の Nina Spada 氏と Patsy Lightbown 氏も、指導なしでは身につきにくい形があると述べています 4。
- 41研究のメタ分析でも、簡単な文法・複雑な文法のどちらでも、明示的な指導の方が効果量が大きく、その効果は自由度の高い産出課題(発話や作文など)でも認められたと報告されています(ただし、そうした課題を使った研究の数は限られます)5。
- 文法の指導は、活動から切り離して行う形と、コミュニケーション活動の中に組みこむ形の両方に役割があると整理されています 4。
- 教室での口頭の誤り訂正をまとめたメタ分析では、訂正は効果があり、その効果は長続きしました 6。
- 東アジアの小中高で CLT を導入するときには、大人数・試験・先生の自信などの課題があり、先生たちは自分の状況に合わせて CLT を作り変えて使っていると報告されています 7。
「CLT=文法をやらない」は、CLT の基本的な考えとは違います。コミュニケーション能力の中には文法の力がしっかり入っていますし 1、研究も、焦点をしぼった文法指導には効果があり、それを活動から切り離して行うか活動の中に組みこむかは、文法項目・学習者・条件によって使い分ければよい、と示しています 34。
日本の教室での難しさ
研究会に参加する日本の中学・高校の先生を継続的に追った小規模な質的研究では、参加した先生たちが CLT と文法中心の指導をどう組み合わせればよいか悩み、さまざまな状況上の制約のために CLT の実行は簡単ではないと語っていました 8。アジア太平洋地域全体でも、「CLT への誤解」「教室の事情」「入試やカリキュラム」という3つのレベルの壁が整理されています 9。
一方で、日本の高校で、ふだんの「訳読 → 活動」の順番を逆にして、コミュニケーション活動を先に行い、訳は後で復習としてやる「後ろ向き訳読(backward yakudoku)」という工夫を試した実践報告もあります 10。テスト対策を捨てずに CLT を取り入れる、現実的なやり方の1つです。
明日の授業でこうする
- ウォームアップ(5分):先生が自分の好みを英語で2〜3文話す。例:"Which do you like better, summer or winter? I like winter better. Because…" 生徒は聞いてうなずくだけでOK。
- 意味の確認(10分):先生の話に出てきた比較の文を板書し、「何と何を比べている?」と生徒にたずねて気づかせる。そのあと先生が2〜3分で形を説明する。
- インフォメーション・ギャップ(15分):A と B で違う「3つの町の情報」(人口・気温・名物)を持ち、質問して表を完成させる。"Which town is bigger?"
- 小さなタスク(10分):「ALTの先生が住むならどの町?」をペアで決めて、理由を2つ言う。
- ふり返り(10分):活動中に先生がメモした「よく出た誤り」と「いい表現」を全体で確認。そのあと別のペアになり、もう一度「ALTの先生が住むならどの町?」を選んで理由を伝え合う。
- 「活動したら終わり」:話しっぱなしでは同じ誤りがくり返されます。活動のあとに、気になった表現をクラスで短く整理しましょう(フォーカス・オン・フォーム)。
- ギャップのない会話練習ばかり:答えがお互いにわかっている会話は、発音や言い回しの練習にはなりますが、意味を伝える必要は弱くなりがちです。ねらいに応じて、情報の差や選択肢を入れて「伝えないと終わらない」しかけを加えましょう。
- 英語だけにこだわりすぎる:指示が伝わらず活動が成立しないなら、短く日本語で補う方がよい場合もあります(英語の授業は英語で?)。
- 難しすぎる活動:使える表現がないまま話させると、日本語だけで話して終わりがちです。活動の前に、使える表現(例:Which town is bigger? / I think … because …)を2〜3個示しましょう。
❓ よくある質問
Q. コミュニカティブ・アプローチ(CLT)とは何ですか?
ことばを「知っている」から「使える」へを目指す、1970年代ごろから広まった考え方です。今では1つの決まった方法というより、意味のあるやり取りを通してコミュニケーション能力を育てる指導の総称として使われています 2。
Q. CLT では文法を教えないのですか?
いいえ。コミュニケーション能力の中には文法の力がしっかり入っています 1。研究も、焦点をしぼった文法指導には効果があり、明示的な指導の方が効果が大きいと示しています 3。活動から切り離すか活動の中に組みこむかは、文法項目や生徒によって使い分けます 4。
Q. コミュニケーション能力とは何ですか?
文法を知っている力だけでなく、相手や場面に合わせた言い方を選ぶ力や、言葉につまったときに言いかえて切り抜ける力なども含めた、ことばを使うための総合力です 1。文法の力もコミュニケーション能力の一部です。
Q. 日本の中学・高校で CLT を取り入れるのが難しいのはなぜですか?
大人数のクラス、入試や定期テスト、先生の自信などの課題があるためです。東アジアの先生たちは自分の状況に合わせて CLT を作り変えて使っていると報告されています 7。日本の高校では、コミュニケーション活動を先にして訳をあとの復習にする実践も報告されています 10。
Q. CLT の授業では、どんな活動をすればいいですか?
ペアで違う情報を持ち、質問しないと表が完成しないインフォメーション・ギャップや、「ALT が住むならどの町?」のように理由をつけて決める小さなタスクが代表例です。活動のあとに、よく出た誤りやいい表現をクラスで確認し、別のペアでもう一度くり返します。
🎓 もう一歩深く(大学院レベル)
🎓院生モード「弱い CLT」と「強い CLT」
CLT には、既存の言語項目中心の指導の中に、コミュニケーションの目的で英語を使う活動を組みこむ「弱い版」と、コミュニケーションそのものを通して言語を獲得させようとする「強い版」がある、と整理されます 11。日本の学校のように既存の文法シラバス・検定教科書と両立させる場合は、前者の形、たとえば PPP の最後の P(産出)を CLT 的な活動にするスタイルを取りやすいでしょう(普及の割合を調べた全国調査があるわけではありません)。PPP がもともと CLT の初期に生まれたという指摘 12 をふまえると、産出段階にコミュニケーション活動を置く PPP は弱い版の CLT と両立し、「PPP 対 CLT」がいつも対立するわけではないとわかります。ただし、強い版の CLT や、それと関係の深い TBLT の一部の形(その支持者は TBLT を強い版 CLT の原則を発展させたものと見ています 11)とは、言語項目を中心に授業を組み立てるかタスクを中心に組み立てるか、コミュニケーションを学習の手段としてどこまで重視するか、といった点で違いがあります。
アジアの英語教育にもくわしい応用言語学者の William Littlewood 氏は、CLT はもはや特定の方法ではなく「個人にとって意味のある形でコミュニケーション能力を育てる」アプローチの総称になったと論じています 2。また東アジアの教室については、教師が新しい考え方を自分の状況に合わせて作り変えるための方法論的な枠組みを提案しています 7。
🎓院生モードCLT の「輸出」と文脈
CLT は主に英国・欧州の外国語教育改革(欧州評議会による成人・学校向けの取り組みなど)を背景に発達しました 11。Littlewood 氏も、アジアの教育の伝統や現実は、CLT が生まれた環境としばしば大きく異なり、そのことが「CLT とは何か」を問い直すきっかけになったと述べています 2。アジア太平洋地域での導入研究は、概念レベル(地域の教育観との衝突、CLT の誤解)、教室レベル(生徒・教師要因、学級経営、資源)、社会制度レベル(カリキュラム・試験)の制約を指摘し、文脈に埋めこまれた柔軟な解釈を提案しています 9。日本の中高教員(少人数)の縦断的な質的データも、文書上のカリキュラムと実際の実践のずれを示しています 8。
ここで研究上の課題になるのは、「CLT の効果」を何で測るかです。第二言語習得研究者の John Norris 氏と Lourdes Ortega 氏のメタ分析は CLT 全体の効果を集めたものではありませんが、形式に焦点を当てた指導の研究について、測定が統制された文法課題にかたより、自由で自発的な運用力を十分に測れていないこと、そして測定方法によって効果量が変わることを指摘しています 3。CLT が目指す「場面に合わせた運用力」をどう測るかは、それ以上に難しい課題です。
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📑 出典(12件)
本文の上付き数字に対応。✔ は DOI / ISBN / 公式ページを書誌データベースと機械照合した印です。
- Canale, M., & Swain, M. (1980). Theoretical bases of communicative approaches to second language teaching and testing. Applied Linguistics, 1(1), 1-47. doi:10.1093/applin/1.1.1 ✔ DOI照合済コミュニケーション能力を文法・社会言語・方略などの能力に分けて示した古典的論文
- Littlewood, W. (2014). Communication-oriented language teaching: Where are we now? Where do we go from here?. Language Teaching, 47(3), 349-362. doi:10.1017/S0261444812000134 ✔ DOI照合済CLTは今や特定の方法ではなく「意味のあるコミュニケーション力を育てる指導の総称」になったと論じた論文
- Norris, J. M., & Ortega, L. (2000). Effectiveness of L2 instruction: A research synthesis and quantitative meta-analysis. Language Learning, 50(3), 417-528. doi:10.1111/0023-8333.00136 ✔ DOI照合済第二言語の指導効果をまとめた最初の本格的メタ分析(49研究)。明示的な指導が暗示的な指導より効果的
- Spada, N., & Lightbown, P. M. (2008). Form-focused instruction: Isolated or integrated?. TESOL Quarterly, 42(2), 181-207. doi:10.1002/j.1545-7249.2008.tb00115.x ✔ DOI照合済文法指導を活動から切り離す(isolated)か、活動の中に組みこむ(integrated)か、両方の役割を論じた論文
- Spada, N., & Tomita, Y. (2010). Interactions between type of instruction and type of language feature: A meta-analysis. Language Learning, 60(2), 263-308. doi:10.1111/j.1467-9922.2010.00562.x ✔ DOI照合済明示的/暗示的指導と、文法項目の難しさ(単純/複雑)の関係を調べたメタ分析(41研究)
- Lyster, R., & Saito, K. (2010). Oral feedback in classroom SLA: A meta-analysis. Studies in Second Language Acquisition, 32(2), 265-302. doi:10.1017/S0272263109990520 ✔ DOI照合済教室での口頭の誤り訂正のメタ分析(15研究・827人)。リキャストよりプロンプトの効果が大きい
- Littlewood, W. (2007). Communicative and task-based language teaching in East Asian classrooms. Language Teaching, 40(3), 243-249. doi:10.1017/S0261444807004363 ✔ DOI照合済東アジアの小中高でCLT・TBLTを取り入れるときの課題と、先生たちの工夫をまとめた論文
- Sakui, K. (2004). Wearing two pairs of shoes: Language teaching in Japan. ELT Journal, 58(2), 155-163. doi:10.1093/elt/58.2.155 ✔ DOI照合済日本の中学・高校の先生がCLTと文法指導の両立に苦労する実態を追った研究
- Butler, Y. G. (2011). The implementation of communicative and task-based language teaching in the Asia-Pacific region. Annual Review of Applied Linguistics, 31, 36-57. doi:10.1017/S0267190511000122 ✔ DOI照合済アジア太平洋地域でCLT・TBLTを実施するときの壁(概念・教室・制度)と打開策をまとめた総説
- Thompson, G., & Yanagita, M. (2017). Backward yakudoku: An attempt to implement CLT at a Japanese high school. Innovation in Language Learning and Teaching, 11(2), 177-187. doi:10.1080/17501229.2015.1088856 ✔ DOI照合済日本の高校で、訳読を「後の復習」に回してコミュニケーション活動を先にした授業改善の実践報告
- Richards, J. C., & Rodgers, T. S. (2014). Approaches and Methods in Language Teaching. Cambridge University Press 本の紹介ページ ✔ ISBN照合済教授法(文法訳読法・オーディオリンガル法・CLT など)の歴史と特徴をまとめた定番の教科書(第3版)
- Anderson, J. (2017). A potted history of PPP with the help of ELT Journal. ELT Journal, 71(2), 218-227. doi:10.1093/elt/ccw055 ✔ DOI照合済PPP(提示・練習・産出)の起源と批判、近年の再評価をたどった論文
最終更新 2026-10-18 ・ 原田英語 まちがいのご指摘はこちら








