CLIL(内容言語統合型学習)とは? 英語の授業で「理科や社会を学ぶ」と何が起きるか
CLIL は「英語で教科を学ぶ」だけではありません。内容・ことば・思考・文化の4つを同時に育てる授業の設計図です。効果のメタ分析と、それに冷や水をかける研究、日本の英語の授業でできる「ソフトCLIL」まで整理します。
エビデンスの強さ:CLIL と英語で教える授業(EMI)を合わせたメタ分析では英語力に中程度の効果が報告されるが(追加の授業時間などを含む比較)、もともと英語が得意な生徒が CLIL を選ぶ「選抜効果」を統制すると一般的な英語力への効果が小さくなる研究があり、見方が分かれる。日本の中学・高校での比較研究は少ない。

- CLIL(クリル)は、教科の内容と外国語を一緒に学ぶ指導。「4つのC」で授業を組み立てます。
- CLIL と英語で教える授業を合わせたメタ分析では英語力に中程度の効果(ただし授業時間の多さなども含んだ比較)。でも「もともと得意な生徒が CLIL を選んでいるだけでは?」という選抜効果の問題があります。
- 日本の英語の授業では、言語の学習を主にしたソフトCLILが現実的。教科書の題材を「考える内容」として深掘りするのが第一歩です。
CLIL ってなに?
ひとことで言うと、CLIL(Content and Language Integrated Learning:内容言語統合型学習)は、理科や社会などの「中身」を英語で学びながら、英語の力も一緒に伸ばす授業です。
ヨーロッパで広がった教育のやり方で、「英語を学ぶために英語を学ぶ」のではなく、「何かを学ぶために英語を使う」点が特徴です。
ふつうの英語の授業が「料理の道具(包丁・フライパン)の使い方の練習」だとすると、CLIL は「その道具で実際に料理を作る授業」です。おいしいカレーを作る(内容)ことに夢中になっているうちに、道具の使い方(英語)も上達する。ただし、道具がまったく使えない人にいきなりフルコースは無理なので、道具の練習とセットで進めるのが大事なところです。
授業を組み立てる「4つのC」
| C | 意味 | 例(中学・理科「浮く・沈む」) |
|---|---|---|
| Content(内容) | 教科の知識・概念 | 物が浮く・沈むのはなぜか |
| Communication(言語) | 内容を学び、伝えるための英語 | float / sink / heavier than / I think … because … |
| Cognition(思考) | 予想する・比べる・分類する・説明する | 実験の前に予想し、結果と比べる |
| Culture(文化) | 自分と他者・地域・異文化への理解、多様な見方を大切にする | 世界のいかだ・カヌー・船の写真を見て、暮らしの中の「浮く」工夫を比べる |
なお、CLIL では班で協力する活動(協同学習)がよく使われますが、それは4つ目の C そのものではなく、授業の進め方の工夫です(協同学習)。
日本で CLIL を広めてきた池田真氏は、インタビューで、4つのCのうち思考(Cognition)がいちばん大切だと語っています。英語で「考える」経験を積むことで、英語で意見を言うときの頭の負担が軽くなる、という考えです 3。
ハードCLIL・ソフトCLIL・ふつうの英語の授業のちがい
| ふつうの英語の授業 | ソフトCLIL | ハードCLIL | |
|---|---|---|---|
| 主な目的 | 英語そのもの | 言語の学習が主(内容も扱う) | 教科の学習が主 |
| だれが・どこで | 英語の先生・英語の時間 | 英語の先生・英語の時間 | 教科の授業を英語で |
| 日本の学校では | いつもの形 | ふつうの中学・高校でもできる | 行う学校はまだ限られる |
CLIL には、教科の学習を主にするハードCLILと、言語の学習を主にするソフトCLILがあります 4。日本の EFL の教室でのソフトCLIL の実践をまとめた本も出ています 4。
やり方を3ステップで
- 内容と問いを決める:教科書の題材などから問いを1つ立てる。事実の確認や分類から始めて、慣れてきたら答えが1つに決まらない探究的な問いに進むのも一つの方法です。
- 考える活動を入れる:予想する・比べる・理由を考える。そのときに使う英語の言い方(例:I think … because …)を見本として示す。
- 英語でまとめて伝える:班の考えを英語で発表し、内容と英語の両方でふり返る。
研究ではどうなってる?
- 中学・高校段階の CLIL や英語で教える授業の効果をまとめたメタ分析(38研究・7,434人)では、ふつうの授業と比べて英語力に中程度の効果(授業直後のテストで d = 0.73。著者らは中程度の効果と位置づけています)がありました。しばらくたってからの遅延テストでは d = 1.01 でしたが、これはわずか3つのサンプル(676人)にもとづく別のデータで、著者ら自身が「長期のほうが効果が大きい」と比べて読まないよう注意しています。さらに著者らは、ふくまれた研究の中には、CLIL・EMI の群がふつうの群より平均で数百時間も多く英語の授業を受けていたものがあり、それが効果の大きな理由になりうるとも述べています。つまり、d = 0.73 は「CLIL という教え方だけの効果」ではありません。また、介入前の CLIL 群と比較群の同質性(英語力など)を確かめた研究では効果が小さく、話す・書く力より受容的な力や語彙で効果が大きい傾向でした。さらに、母語が英語と近い言語の学習者で効果が大きかったのです 5。
- 小学校の CLIL のメタ分析(21研究)では、外国語の力には効果があり(d = 0.63)、とくに話す力で大きな効果(d = 1.24)が見られました(ただし、技能別の下位分析で、ふくまれる研究の数は全体より少なくなります)。一方、教科の内容の学習は CLIL と非 CLIL で同じくらいでした 6。
- ドイツの中学2年生1,806人の研究では、CLIL クラスはリスニングの伸びが大きかったものの、総合的な英語力テストでは差がなく、歴史の知識は CLIL クラスが週3時間(ふつうは2時間)使ってやっと同じくらいでした 7。
- 同じくドイツの大規模データでは、CLIL を選ぶ生徒はもともと成績や家庭の条件が良く、事前の追加の英語授業も受けていました。これらを統計的にそろえると、C テスト(一般的な英語力を測るテスト)で測った CLIL の効果は小さく、有意ではありませんでした 8。
メタ分析で「母語が英語と近い学習者ほど効果が大きい」と出たことは 5、日本語を母語とする生徒に、ヨーロッパ中心の研究結果を当てはめるときは慎重さが必要だと示唆しています。ただしこれは研究どうしを比べた分析(モデレーター分析)の結果で、地域・制度・生徒の選ばれ方・授業時間などの違いもからんでいる可能性があり、日本語母語の生徒を直接調べたものではありません。また、CLIL の効果の一部は「選ばれた生徒」と「多い授業時間」で説明できる可能性があります 87。CLIL は魔法ではなく、授業時間と工夫に見合った効果を期待するのが正直なところです。
日本の実践
日本では、中学校の体育の先生がバスケットボールを英語で教えた CLIL 授業の事例研究があり、生徒は英語の表現もバスケットボールの用語・作戦も理解でき、授業前は不安だった先生自身も自信をつけたと報告されています 9。大学では、医学部の学生を対象に、英語で行う CLIL と日本語で支える CLIL を比べ、14週間の前後で、どちらの群でも話す力の得点が上がり、話す不安が下がったという研究もあります 10。もともと英語力の異なる2つのコースを比べたもので、くじ引きで群を分けた実験ではありませんが、著者らは、英語力が低めの学習者には日本語で支える形が役立つ可能性があると解釈しています。
池田氏はインタビューで、本格的な CLIL には一定の年齢と英語力(目安として CEFR B1)が望ましいが、それ以下でも支援(足場かけ)を増やし、年齢に合った内容にすれば取り入れられると述べています 3。
明日の授業でこうする
- 題材から「問い」を1つ立てる:教科書の本文が環境問題なら「私たちの町で、ごみを減らす一番いい方法は?」。答えが1つに決まらない探究的な問いは、思考(Cognition)を引き出しやすい選択肢の1つです(事実の確認や分類の課題から始めてもかまいません)。
- 内容の資料を見せる:グラフ・写真・図など、英語が少なくても理解できる資料を使う(4つのCの「内容」)。
- 考える活動を入れる:比べる・順位をつける・理由を考える。そのときに使う英語の言い方(I think… because… / A is better than B for…)を、活動の前に見本として板書しておく。
- 英語でまとめて伝える:班で考えをまとめ、ポスターや短い発表に。最後に、内容と英語の両方でふり返る。
| 時間 | 活動 | 4つのC |
|---|---|---|
| 5分 | 実物(りんご・クリップ・消しゴムなど)を見せて "Float or sink?" | 内容 |
| 10分 | 予想を班で話し合う。I think it will float because it is light. | 思考・言語 |
| 15分 | 水そうで実験。班で協力して結果を表に記録する | 内容 |
| 10分 | 予想と結果を比べる。"We were right / wrong about …" | 思考・言語 |
| 5分 | 世界のいかだ・カヌー・船の写真を見て、それぞれの土地の暮らしの中の「浮く」工夫を比べる | 文化・思考 |
| 5分 | 「重さだけで決まる?」をクラスで考え、英語で一文にまとめる | 思考・言語 |
チョコレートの原料の生産から店頭までの流れを、図と短い英文で読みます。班で「生産者・会社・消費者」の役に分かれ、価格の決め方について話し合い、最後に「私たちにできること」を英語で提案します。英語の授業でも、地理や公民の先生と題材を相談しておくと、内容がまちがっていないかを確かめやすくなります。
- 内容が難しすぎる:英語も内容も新しいと、生徒は二重に苦しみます。内容はやさしめ、資料は見てわかるものを。
- 英語の言い方の見本がない:考える活動に必要な表現(理由:because … /比較:A is … than B /予想:I think it will …)は、活動の前に示しましょう。
- 「英語で教科を教える」だけになる:考える過程(Cognition)への足場かけが弱いと、英語で内容を説明するだけになり、4つのCを組み合わせた CLIL になりにくくなります。
- 効果を過大に期待する:研究では選抜効果の問題もあります 8。「CLIL をすれば英語力が劇的に伸びる」と保護者に約束するのはやめましょう。
❓ よくある質問
Q. CLIL とは何ですか?
CLIL(Content and Language Integrated Learning:内容言語統合型学習)は、理科・社会・体育などの教科の内容を、外国語を使って学ぶ授業です。ヨーロッパで広がったやり方で、「英語を学ぶために英語を学ぶ」のではなく、「何かを学ぶために英語を使う」点が特徴です。
Q. CLIL の4つのCとは何ですか?
教科の知識・概念である Content(内容)、内容を学び伝えるための英語である Communication(言語)、予想する・比べる・説明するなどの Cognition(思考)、自分と他者・異文化への理解を深める Culture(文化)の4つです 12。この4つで授業を組み立てます。
Q. ハードCLIL とソフトCLIL の違いは何ですか?
教科の学習を主にするのがハードCLIL、言語の学習を主にするのがソフトCLIL です 4。教科の授業を丸ごと英語で行う学校はまだ限られますが、英語の授業の中で教科的な内容を扱うソフトCLIL なら、日本のふつうの中学・高校でも取り入れられます。
Q. CLIL で英語力は伸びますか?
中学・高校段階の CLIL と英語で教える授業(EMI)を合わせたメタ分析では、ふつうの授業と比べて英語力に中程度の効果(d = 0.73)がありました(追加の授業時間などもふくむ比較です)5。ただし CLIL を選ぶ生徒はもともと成績や家庭の条件が良く、それを統計的にそろえると、一般的な英語力テスト(C テスト)で測った効果は小さく有意でなかった研究もあります 8。過大な期待は禁物です。
Q. 英語の授業でソフトCLIL を始めるには、何から手をつければいいですか?
教科書の題材から問いを立て(事実の確認や分類から始め、慣れたら答えが1つに決まらない問いへ)、英語が少なくても理解できるグラフや写真を見せ、比べる・順位をつける・理由を考える活動を入れ、最後に班の考えを英語でまとめて伝える、の4ステップで進めます。理由や比較の英語の言い方は、活動の前に見本として示します。
🎓 もう一歩深く(大学院レベル)
🎓院生モード選抜効果と「CLIL 効果」の分離
初期の CLIL 研究の多くは、CLIL を選んだ学習者と選ばなかった学習者を比較しており、自己選抜・学校による選抜の影響を受けていました。ドイツの中学生で CLIL の効果を調べた Sara Dallinger 氏らはマルチレベルモデルで生徒・学級・教師の特性を統制し、リスニングのみで CLIL の優位を確認しました 7。ドイツの大規模データを分析した Maja Feddermann 氏らは傾向スコアマッチングで選抜効果と「準備効果(CLIL 前の追加授業)」を分離し、C テストで測った一般的な英語力への残差としての CLIL 効果は小さく非有意だったと報告しています 8。
メタ分析でも、群の同質性を確認した研究ほど効果が小さいこと(中等教育)5、内容学習については同質性を確認した研究で負の傾向が見られたこと(小学校)6 が報告されています。「CLIL は効果がある」と言うときは、研究デザインの質を必ず確認する必要があります。
🎓院生モード日本の文脈:ソフトCLIL と言語の選択
日本の CLIL は、教科教育としてのハードCLILより、英語科の中で行うソフトCLILとして広がってきました 4。理論的には CLIL 研究者の Do Coyle 氏の 4Cs フレームワークに依拠しつつ 1、日本の実践者は「考えさせるタスク」と高次思考を重視しています 3。
指導言語の選択も論点です。日本の医学部での比較研究(無作為割付ではない2コースの14週間の前後比較)では、英語力が低めの学生が学ぶ母語で支える CLIL のコースで、国際志向性の向上も見られました 10。ただし、2つのコースは開始時の英語力も違うため、この変化を母語の支えの効果とは確定できません。これは、英語の授業は英語で? で扱うトランスランゲージングの議論ともつながります。日本の中学・高校で、CLIL と通常の英語授業を統制して比べた研究はまだ少なく、今後の重要な研究課題です。
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📑 出典(10件)
本文の上付き数字に対応。✔ は DOI / ISBN / 公式ページを書誌データベースと機械照合した印です。
- Coyle, D. (2007). Content and language integrated learning: Towards a connected research agenda for CLIL pedagogies. International Journal of Bilingual Education and Bilingualism, 10(5), 543-562. doi:10.2167/beb459.0 ✔ DOI照合済CLILの「4つのC」の枠組みを示し、研究の方向を論じた論文
- Coyle, D., Hood, P., & Marsh, D. (2010). CLIL: Content and Language Integrated Learning. Cambridge University Press 本の紹介ページ ✔ ISBN照合済CLIL(内容言語統合型学習)の理論と授業づくりの基本書
- MacGregor, L. (2016). CLIL focus: An interview with Professor Makoto Ikeda. The Language Teacher, 40(1), 18-21. doi:10.37546/JALTTLT40.1-4 ✔ DOI照合済日本でCLILを広めた池田真氏へのインタビュー。4つのCと「考えさせる」タスクの重要性
- Ikeda, M., Izumi, S., Watanabe, Y., Pinner, R., & Davis, M. (2021). Soft CLIL and English Language Teaching: Understanding Japanese Policy, Practice and Implications. Routledge 本の紹介ページ ✔ ISBN照合済日本の英語の授業で行う「ソフトCLIL(言語寄りのCLIL)」の考え方と小学校〜中等教育の実践をまとめた本
- Lee, J. H., Lee, H., & Lo, Y. Y. (2023). Effects of EMI-CLIL on secondary-level students' English learning: A multilevel meta-analysis. Studies in Second Language Learning and Teaching, 13(2), 317-345. doi:10.14746/ssllt.38277 ✔ DOI照合済中等教育の CLIL・英語による教科指導が英語力に与える効果のメタ分析(38研究・7,434人)
- Lee, J. H., Lee, H., & Lo, Y. Y. (2025). Effects of content and language integrated learning at the primary school level: A multi-level meta-analysis. Educational Research Review, 47, 100666. doi:10.1016/j.edurev.2025.100666 ✔ DOI照合済小学校のCLILの効果のメタ分析(21研究)。外国語には効果、教科の内容は非CLILと同程度
- Dallinger, S., Jonkmann, K., Hollm, J., & Fiege, C. (2016). The effect of content and language integrated learning on students' English and history competences – Killing two birds with one stone?. Learning and Instruction, 41, 23-31. doi:10.1016/j.learninstruc.2015.09.003 ✔ DOI照合済ドイツの8年生1,806人。CLILはリスニングを伸ばしたが総合的な英語力の伸びに差はなく、歴史は授業時間を増やしてやっと同程度
- Feddermann, M., Möller, J., & Baumert, J. (2021). Effects of CLIL on second language learning: Disentangling selection, preparation, and CLIL-effects. Learning and Instruction, 74, 101459. doi:10.1016/j.learninstruc.2021.101459 ✔ DOI照合済CLILの効果の多くは「もともと得意な生徒が選ばれること」と事前の追加授業で説明でき、残る効果は小さいと示した研究
- Ito, Y. (2019). The effectiveness of a CLIL basketball lesson: A case study of Japanese junior high school CLIL. English Language Teaching, 12(11), 42-52. doi:10.5539/elt.v12n11p42 ✔ DOI照合済日本の中学校で体育の先生がバスケットボールを英語で教えたCLIL授業の事例研究
- Aizawa, I., & Suzukida, Y. (2026). Does instructional language matter in CLIL? A study of learner proficiency and affective factors. System, 138, 103961. doi:10.1016/j.system.2025.103961 ✔ DOI照合済日本の医学部生で、英語で行うCLILと日本語で支えるCLILを14週間の前後で比べ、どちらも話す力が伸び話す不安が下がったと報告(無作為割付ではない)
最終更新 2026-10-18 ・ 原田英語 まちがいのご指摘はこちら








