タスク中心の指導(TBLT)とは? 日本の中学・高校で「タスク」を授業に入れるための設計図
「タスク」は、ただのコミュニケーション活動ではありません。意味のやり取りで「何かをやりとげる」課題です。効果を示すメタ分析と、それへの批判、日本の教室で行うときの難しさまで、正直に整理します。
エビデンスの強さ:TBLT プログラムのメタ分析は効果を示す(d = 0.93、再分析では g = 0.61)が、研究の質や「タスク」の定義のあいまいさをめぐる批判があり、日本の義務教育での証拠はまだ少ない。

タスクってなに?
ひとことで言うと、TBLT(Task-Based Language Teaching:タスク中心の指導)は、「英語を使って何かをやりとげる課題(タスク)」を授業の中心に置き、使いながら学ばせる教え方です。
研究者がよく使う定義では、次の4つがそろったものをタスクと呼びます 12。
| 条件 | ひとことで | 例 |
|---|---|---|
| ① 意味が中心 | 文法の形より「伝わるか」が大事 | 「正しく言えたか」より「決められたか」 |
| ② ギャップがある | 情報・意見・推理の差を埋める必要がある | 相手だけが知っている情報がある |
| ③ 自分の英語を使う | 使う表現は生徒が選ぶ | 「この文型を使え」とは言わない |
| ④ 言語以外の結果がある | ゴールが見える | 地図が完成する、1つに決まる、順位がつく |
つまり実際には、「今日の文法を言えたか」ではなく「ペアで旅行プランが1つに決まったか」のように、英語を使った結果でゴールを判断する課題がタスクです。
PPP が「レシピどおりに一品作る料理教室」だとすると、TBLT は「冷蔵庫にあるもので、4人分の夕食を30分で作る」課題です。何を使うかは自分で決める。うまくいかなかったところは、作ったあとで先生が「この切り方を覚えると速いよ」と教えてくれる。やってみて、困って、学ぶの順番です。大事なのは、困ったあとに「学ぶ時間」がちゃんとあることです。
似た活動とのちがい
| ドリル・練習 | PPP の産出活動 | タスク | |
|---|---|---|---|
| 使う表現 | 先生が決める | 今日の文法を使うよう求めることが多い | 生徒が自分で選ぶ |
| ゴール | 正しく言えたか | 習った形を使えたか | 言語以外の結果(決まった・完成した) |
| 例 | A is taller than B. の言いかえ | 習った比較級で好きな季節を比べて紹介 | 班で修学旅行先を1つ決める |
ただし、地図を完成させるなど、正解が1つの「閉じたタスク」もタスクです(「答えが1つ」かどうかではなく、上の4条件で考えます)。
やり方を3ステップで(よく使われる型)
教室で使いやすい型として有名なのが、英語教師の教育に長く携わった Jane Willis 氏の枠組みです 3。
- プレタスク:話題を導入し、役に立つ語句を少し示す。手本を見せる。
- タスク・サイクル:ペアやグループでタスク → 結果をまとめる準備(計画)→ クラスに報告。
- 言語フォーカス:タスクで使った(使えなかった)表現を分析し、練習する。
タスクの研究で知られる第二言語習得研究者の Peter Skehan 氏は、タスクの目標を流暢さ・正確さ・複雑さの3つに分け、前に準備時間をとる・後で報告させるなどの工夫で、意味ばかりに偏らないよう授業を組み立てる枠組みを示しました 4。
タスク中心の授業と「タスクで支える授業」
インタラクション仮説やフォーカス・オン・フォームの提唱で知られる第二言語習得研究者の Michael Long 氏は、学習者が将来その言語で何をするのか(ニーズ)を分析し、そこからタスクを選んでシラバス全体を組み立てる、いわば強い TBLT を提案しています 5。一方、タスクや文法指導の研究で知られる第二言語習得研究者の Rod Ellis 氏は、タスクをシラバスの中心にする指導(task-based)と、文法中心の授業の中でタスクを補助に使う指導(task-supported)を区別したうえで、タスクは文法を明示的に教える従来の指導と組み合わせて使ってよいと論じています 1。日本の学校で現実的なのは、後者の「タスクで支える授業」でしょう。ただし、PPP の最後に置いた活動も、上の4条件を満たさなければタスクとは呼べません。
研究ではどうなってる?
- 実際の教室で長期間行われた TBLT プログラムの効果をまとめたメタ分析(52研究を収集)では、そのうちタスク型とほかの授業を比べた27件の比較研究から、全体として大きなプラスの効果(d = 0.93)が報告され、関係者の受けとめ方もおおむね好意的でした 6。
- ところが別の研究者がこのメタ分析の方法(研究の選び方・効果量の計算)を批判し、27件のうち16件で再分析すると、効果は中くらい(g = 0.61)になり、残った研究の数も少ないため慎重に解釈すべきだとされました 7。
- さらに、比較に使われた研究の多くは「タスク中心」か「タスクを補助に使った授業」かがはっきりせず、メタ分析で比べられる段階にまだないという批判もあります 8。
- 日本の子どもを対象にした研究では、初心者には「話させる」タスクより、「聞いて動く・選ぶ」理解中心のタスクが TBLT の現実的な形だと示されています 910。
数字をイメージに直すと、d = 0.93 は「TBLT のクラスの平均的な生徒が、比較クラスの上位2割弱の位置に来る」くらいの差、再分析の g = 0.61 は「上位3割くらいの位置」に当たります 67。ただしこれは、両方のクラスの成績が同じ広がりの正規分布だと仮定したときの目安で、実際の生徒の順位ではありません。また、測った力(文法テストか、話す力か)も研究ごとにばらばらで、研究の質にも批判があるため、「どれだけ意味のある差か」は数字だけでは決められません。大事なのは数字の大小より、「何をタスクと呼んでいるか」で結果が変わるという点です 8。
日本の教室で TBLT が難しい理由
日本の中学・高校で TBLT を行う難しさを論じた論文があります 11。その中で紹介された簡単な教室内の調査では、英語教育専攻の大学生21人に「現在完了を使いそうなタスク」をさせ、終わったあとのアンケートでたずねたところ、15人が現在完了を一度も使わなかったと答えました(録音を分析した結果ではなく、本人の申告です)。タスクは使う表現を学習者が選べるので、教科書の「今日の文法」が出てくるとは限らないのです。論文はほかに、入試が正確な知識を問うこととのずれ、授業が日本語中心だと生徒もタスク中に日本語に流れやすいことを挙げ、日本では改良型の PPP の最後にタスクを置く形を提案しています 11。
日本で行われた TBLT 研究150本をまとめた最新の系統的レビューでは、研究の多くは大学で行われ、義務教育(小中学校)での証拠は限られていることがわかりました 12。中学校の先生が「本当にうちでできるの?」と感じるのは、研究の現状から見ても当然なのです。日本で TBLT を実践する先生たちも、教室に合わせた工夫を重ねていると報告されています 13。
明日の授業でこうする
- 結果を決める:「1つに決める」「順位をつける」「違いを見つける」「地図や表を完成させる」のどれか。
- ギャップを入れる:A と B で違う情報、または意見が分かれる話題にする。
- 使えそうな表現をプレタスクで少しだけ:例文を2〜3個。「必ず使え」とは言わない。
- 時間を区切り、報告させる:報告があると、生徒は正確さにも気をつける 4。
- 最後に言語フォーカス:活動中にメモした誤りや、言いたかったのに言えなかった表現をクラスで整理し、同じタスクをもう一度。
| 時間 | 活動 |
|---|---|
| 5分 | 毎時間はじめの短い英語の会話(スモールトーク) |
| 10分 | プレタスク:ALTの先生の「やりたいことリスト」を聞く。地域のイベント情報を見る |
| 15分 | タスク:班で土日のプランを1つ決める(予算・時間の条件つき) |
| 10分 | 報告:班ごとに30秒で発表、ALTの先生が1つ選ぶ |
| 10分 | 言語フォーカス:発表で出た be going to / want to / because の文を整理し、短く練習 |
グループで「スマホの使い方」「制服」などから1つ選び、賛成・反対の理由を集めて、学年集会で提案する1分間の原稿を作ります。5分程度の準備時間をとると、話す内容を整理しやすくなり、流暢さや表現の幅を支えられます(正確さや複雑さへの効果は、課題や生徒によって変わります)。最後に、各班の原稿でよく出た誤りを先生が匿名で板書し、みんなで直します。
- 言う内容や表現が決められている:教科書の会話をそのまま再現するだけでは、生徒が言う内容を選んだり、情報の差を埋めたりする余地がないので、ふつうタスクになりません。なお「答えが1つ」でもかまいません。地図を完成させる・間違いを見つけるなど、正解が1つに決まる「閉じたタスク」もりっぱなタスクです。
- 難しすぎる:言いたいことがまったく言えないと、生徒は日本語だけで話してしまいます。プレタスクで、使えそうな表現(例:I want to … / How about …? / Because …)を2〜3個示しておきましょう。
- やりっぱなし:タスクのあとに振り返りやフィードバックを入れると、伝わったかどうかだけでなく、表現の正確さにも目が向きやすくなります。言語への注意は、タスク中の短い言い直し(フォーカス・オン・フォーム)でも、タスク後の言語フォーカスでも入れられます 1。
- 「今日の文法」を必ず使わせようとする:それはタスクというより、特定の形を使わせる産出練習です(PPP の産出段階などで使われます)。悪くはありませんが、タスクとは目的が違うと意識しましょう(PPP とタスク)。なお、特定の形が自然に必要になるよう設計しつつ、使うかどうかは生徒に任せる「焦点化タスク(focused task)」なら、タスクの条件を保てます 1。
❓ よくある質問
Q. TBLT の「タスク」とは何ですか?
意味が中心であること、情報や意見のギャップがあること、使う表現を学習者が選ぶこと、言語以外の結果があることの4つがそろった課題です 12。「ペアで旅行プランを1つ決める」はタスクですが、「教科書の会話を交代で読む」はタスクではありません。
Q. TBLT の授業はどんな流れで進めますか?
教室で使いやすいのは 英語教師の教育に長く携わった Jane Willis 氏の枠組みで、話題を導入して役立つ語句を少し示すプレタスク、ペアやグループでタスクをして結果をクラスに報告するタスク・サイクル、使った表現や使えなかった表現を分析して練習する言語フォーカスの3段階で進めます 3。
Q. TBLT には効果がありますか?
教室での長期の TBLT プログラムのメタ分析では大きなプラスの効果(d = 0.93)が報告されました 6。ただし方法を批判した再分析では中くらい(g = 0.61)になり 7、何をタスクと呼ぶかがあいまいでまだ比べられる段階にないという批判もあります 8。
Q. 日本の中学・高校で TBLT が難しいのはなぜですか?
タスクでは使う表現を生徒が選ぶので、教科書の「今日の文法」が出てくるとは限らないこと、入試が正確な知識を問うこと、授業が日本語中心だとタスク中も日本語に流れやすいことが挙げられています 11。日本の TBLT 研究は大学に偏り、小中学校での証拠は限られています 12。
Q. TBLT と PPP はどちらを選べばいいですか?
二者択一ではなく「どこにタスクを置くか」の問題として考えるのが生産的です。日本の学校では、文法を明示的に教える指導と組み合わせる「タスクで支える授業」が現実的で 1、改良型の PPP の最後にタスクを置く形も提案されています 11。
🎓 もう一歩深く(大学院レベル)
🎓院生モードメタ分析をめぐる論争:何を「TBLT プログラム」と呼ぶのか
TBLT プログラムの効果をメタ分析した Lara Bryfonski 氏と Todd H. McKay 氏は、52研究を収集し、そのうち27件の比較研究から長期の TBLT 実施の効果を d = 0.93 と推定し、地域・機関の種類・ニーズ分析の有無などが効果を調整すると報告しました 6。このメタ分析を再分析した Qianying Xuan 氏らは、包含基準のゆるさと効果量計算の単純化を指摘し、27件のうち16件による再分析で g = 0.61、調整変数はサンプルサイズと「教師が研究者を兼ねるか」だけだったと報告しています 7。応用言語学者の Frank Boers 氏と Farahnaz Faez 氏は、対象研究の多くが task-based と task-supported の区別も、何を「タスク」とするかも不明確であり、相対的効果のメタ分析はまだ時期尚早だと結論づけました 8。
この論争は、教育研究の一般的な問題、すなわち介入概念の操作的定義と分類の一貫性(何を「タスク」「TBLT プログラム」と呼ぶか)と、教師が研究者を兼ねる研究デザインの影響を浮き彫りにしています。再分析では、教師が唯一の研究者である研究ほど効果量が大きいという関連が見られましたが 7、これは研究者の期待や評価のかたよりでも、教師の熟達や介入への深い関与でも説明でき、この分析だけでは理由を決められません。授業を自分で開発・実施・評価する研究デザインの扱いに注意が要る、ということです。
🎓院生モードLong の「強い TBLT」と、日本の公教育
Long 氏は、ニーズ分析にもとづく target task から pedagogic task を導き、焦点は付随的な focus on form で扱うという設計を提案しています 5。これは、将来の言語使用が見えやすい成人・専門職の学習者には合いますが、検定教科書と学習指導要領がある日本の中高にそのまま当てはめるのは難しいでしょう。
その現実的な代替として、Ellis 氏は TBLT と task-supported teaching(タスクで支える指導)を区別したうえで、構造中心の指導とタスクを併用する立場も認め 1、初心者の子どもには input-based task を提案しています 10。日本の文脈では、日本の英語教育を研究する佐藤臨太郎氏の改良型 PPP 論 11 や、アジアでの文脈適応の議論 14 とあわせ、「TBLT か PPP か」ではなく「どこにタスクを置くか」という設計の問題として考えるのが生産的です。日本の TBLT 研究が大学に偏っているという指摘 12 は、中学・高校の先生によるアクションリサーチの余地が大きいことも意味しています。
🎁 玉手箱で使えるツール
原田英語の「英語の先生の玉手箱」の無料ツール。登録なしで授業にそのまま使えます。
📑 出典(14件)
本文の上付き数字に対応。✔ は DOI / ISBN / 公式ページを書誌データベースと機械照合した印です。
- Ellis, R. (2009). Task-based language teaching: Sorting out the misunderstandings. International Journal of Applied Linguistics, 19(3), 221-246. doi:10.1111/j.1473-4192.2009.00231.x ✔ DOI照合済タスク中心の指導への批判を整理。タスクは文法を重視する従来型の指導と組み合わせて使えると論じる
- Ellis, R. (2003). Task-based Language Learning and Teaching. Oxford University Press 本の紹介ページ ✔ ISBN照合済「タスク」の定義と、タスク中心の指導の理論・研究をまとめた代表的な研究書
- Willis, J. (1996). A Framework for Task-Based Learning. Longman 本の紹介ページ ✔ ISBN照合済プレタスク→タスク・サイクル→言語フォーカスという、教室で使えるTBLTの授業の型を示した本
- Skehan, P. (1996). A framework for the implementation of task-based instruction. Applied Linguistics, 17(1), 38-62. doi:10.1093/applin/17.1.38 ✔ DOI照合済正確さ・複雑さ・流暢さの3つを目標に、タスク中心の授業を組み立てる枠組みを示した論文
- Long, M. H. (2015). Second Language Acquisition and Task-Based Language Teaching. Wiley-Blackwell 本の紹介ページ ✔ ISBN照合済ニーズ分析から始める「強い」TBLT を、第二言語習得研究にもとづいて体系化した本
- Bryfonski, L., & McKay, T. H. (2019). TBLT implementation and evaluation: A meta-analysis. Language Teaching Research, 23(5), 603-632. doi:10.1177/1362168817744389 ✔ DOI照合済実際のプログラムとして行われたタスク中心の指導(TBLT)の効果をまとめたメタ分析(52研究)
- Xuan, Q., Cheung, A., & Liu, J. (2022). How effective is task-based language teaching to enhance second language learning? A technical comment on Bryfonski and McKay (2019). Language Teaching Research. doi:10.1177/13621688221131127 ✔ DOI照合済Bryfonski & McKay の方法を批判して再分析し、効果はより控えめ(g = 0.61)とした論文
- Boers, F., & Faez, F. (2023). Meta-analysis to estimate the relative effectiveness of TBLT programs: Are we there yet?. Language Teaching Research. doi:10.1177/13621688231167573 ✔ DOI照合済TBLTの効果のメタ分析は、「タスク」の定義があいまいなため、まだ意味のある結論を出せる段階ではないと論じた論文
- Shintani, N. (2013). The effect of focus on form and focus on forms instruction on the acquisition of productive knowledge of L2 vocabulary by young beginning-level learners. TESOL Quarterly, 47(1), 36-62. doi:10.1002/tesq.54 ✔ DOI照合済日本の初心者の子どもを対象に、PPP型(FonFs)と理解中心のタスク型(FonF)を比べた研究
- Ellis, R. (2020). Task-based language teaching for beginner-level young learners. Language Teaching for Young Learners, 2(1), 4-27. doi:10.1075/ltyl.19005.ell ✔ DOI照合済初心者の子どもには「聞いて動く」インプット型タスクでTBLTができると論じた論文
- Sato, R. (2010). Reconsidering the effectiveness and suitability of PPP and TBLT in the Japanese EFL classroom. JALT Journal, 32(2), 189-200. doi:10.37546/JALTJJ32.2-4 ✔ DOI照合済日本の中学・高校ではTBLTより改良型PPPが現実的だと論じた論文(教科書・入試・日本語中心の授業を理由に)
- Cotsworth, B. (2026). Task-based language teaching: A systematic review of research in Japan (2008–2025) across English and Japanese databases. Australian Review of Applied Linguistics. doi:10.1075/aral.26001.cot ✔ DOI照合済日本のTBLT研究150本の系統的レビュー。大学が中心で、義務教育段階の証拠は少ない
- Harris, J. (2016). Teachers' beliefs about task-based language teaching in Japan. The Journal of AsiaTEFL, 13(2), 102-116. doi:10.18823/asiatefl.2016.13.2.3.102 ✔ DOI照合済日本でTBLTを実践する先生たちの考えと、日本の教室向けの工夫を調べたアンケート研究
- Butler, Y. G. (2011). The implementation of communicative and task-based language teaching in the Asia-Pacific region. Annual Review of Applied Linguistics, 31, 36-57. doi:10.1017/S0267190511000122 ✔ DOI照合済アジア太平洋地域でCLT・TBLTを実施するときの壁(概念・教室・制度)と打開策をまとめた総説
最終更新 2026-10-18 ・ 原田英語 まちがいのご指摘はこちら








