フォーカス・オン・フォーム(FonF)とは? 活動の流れを止めずに文法に気づかせる技術
話している最中に、さっと形に目を向けさせる。それがフォーカス・オン・フォームです。「文法を教える」と「コミュニケーションさせる」を両立させる、いちばん実用的な考え方を、教室の具体的な一言とともに紹介します。
エビデンスの強さ:文法に焦点を当てた指導全体の効果は複数のメタ分析で一貫。活動中のその場の FonF についても、会話の流れを妨げにくいことや、その後の再生成績との関連が観察・追跡研究で報告されているが、対照群のある研究は限られる。

- FonF は「意味のやり取りの最中に、形にちょっと目を向けさせる」こと。あらかじめ選んだ文法・語彙などの項目を1つずつ取り出して教える FonFs(フォーカス・オン・フォームズ) とは区別されます。
- 研究では、FonF は会話の流れを止めずに起こせました。海外の語学学校の若い成人の研究では、その場で扱った表現を2週間後も約半数の項目で正しく(または部分的に正しく)思い出せました。
- 授業では「活動中の一言」を中心に、「活動前の短い支援」と「活動後の言語フォーカス」を組み合わせて使います。
フォーカス・オン・フォームってなに?
ひとことで言うと、フォーカス・オン・フォーム(FonF)は、意味を主眼とする活動の中で、必要なところで短く「形(文法・語形・発音)」に目を向けさせる指導です。このページでは、その中でも授業で使いやすい、やり取りの最中の FonF を中心に扱います。
この用語を提唱し、広く知られる形にしたのは、第二言語習得研究者の Michael Long 氏です 1。フォーム(form)は「形」、つまり文法・語形・発音などのことです。つまり実際には、活動を止めて文法の講義をするのではなく、生徒が意味に夢中になっているときこそ、形に気づくチャンスだと考えて、一言・一瞬で形に目を向けさせます。
FonF は、サッカーの試合中にベンチから飛ぶ「今のパス、左足で!」という短い声かけに似ています。試合を止めて30分の講義をするのが FonFs、何も言わずに試合だけさせるのがフォーカス・オン・ミーニング。試合の流れを止めずに、必要な一言だけが FonF です。
FonFs・フォーカス・オン・ミーニングとのちがい
Long 氏はまず FonF と FonFs を対比し、その後の議論では、意味だけに集中する「フォーカス・オン・ミーニング」を加えた3つのタイプで整理されるようになりました 12。
| タイプ | 中身 | 例 |
|---|---|---|
| フォーカス・オン・フォームズ(FonFs) | あらかじめ選んだ言語項目(文法・語彙・発音など)を1つずつ取り出して教える | 「今日は現在完了。形はこう」→ ドリル |
| フォーカス・オン・ミーニング | 意味だけに集中し、形には触れない | ひたすら英語の物語を聞く・読む |
| フォーカス・オン・フォーム(FonF) | 意味中心の活動の中で、必要に応じて形に注意を向ける | 話し合いの途中で「そこは went だね」と一言 |
やり方を3ステップで(授業の場面ごとに)
タスクや文法指導の研究で知られる第二言語習得研究者の Rod Ellis 氏は、FonF ということばの意味が研究者によって広がりすぎたと指摘し、FonF を「アプローチ」ではなく、いくつかの具体的な活動や手順のまとまりとして整理し直しています 2。研究では、「扱う形を事前に決めておくか(planned)、その場で起きるか(incidental)」「誤りへの反応か(reactive)、問題が起きる前に先生や生徒が形を話題にするか(pre-emptive)」といった、いくつもの軸で分類されます 23。
ここでは、それをこのページ独自に、授業の時間の流れに沿って3つの場面に整理します(研究上の正式な3分類ではありません)。
- 活動前の短い支援(FonF を補うもの):「この活動では "I'm interested in…" が便利だよ」と、必要になりそうな形を短く示す。活動の前に行うので、研究でいう FonF(意味中心の活動の中での手続き)そのものではなく、活動を支える事前の言語支援です 2。
- 活動中の一言(FonF):やり取りの最中に、短く形に目を向けさせる。研究では2種類に分けられます。生徒の誤りやつまずきに反応する反応型(reactive)――言い直してあげる(リキャスト)か、自分で直させる(プロンプト)――と、誤りが起きる前に先生や生徒が形を話題にする先取り型(pre-emptive)――たとえば生徒の「これ英語で何て言うの?」に答える――です。
- 活動後の言語フォーカス(FonF を補うもの):活動中にメモした誤りや「言いたかったのに言えなかった表現」を、あとでクラス全体で整理する。形そのものを分析する時間なので、厳密には「意味のやり取りの最中」の FonF ではなく、広い意味の形式重視の指導です。整理のあとに同じ活動をもう一度行うと、意味中心の活動とつながり、FonF を補う役目を果たします。
研究ではどうなってる?
- コミュニケーション中心の授業12時間を観察した研究では、その場の FonF が何度も起こり、生徒がその場で表現を取り入れる割合(アップテイク)は高く、FonF は授業のコミュニケーションの流れを壊さずに起こせると報告されました。生徒の誤りに反応する FonF や、生徒の質問から始まる FonF で、取り入れが多くうまくいきました 3。
- ニュージーランドの私立語学学校で学ぶ若い成人の授業17時間の中で、自然に起きた491回の FonF を追跡した研究では、そのやり取りに直接参加した生徒は扱われた表現を、翌日には約6割、2週間後でも約5割、正しく(または部分的に正しく)思い出せました。その場で自分でも言い直した生徒ほど、よく覚えていました 4。
- 教室での口頭の誤り訂正のメタ分析(15研究・827人)では、訂正には持続的な効果があり、言い直してあげる(リキャスト)より、自分で直させる(プロンプト)方が効果が大きい傾向がありました。また、年齢の低い学習者ほど効果が大きいという結果でした 5。
- 49研究のメタ分析では、FonF と FonFs はどちらも大きな効果があり、両者の差はありませんでした 6。
「活動中に直すと生徒が萎縮する・会話が止まる」と心配する先生は多いでしょう。でも実際の授業の観察では、短い FonF は会話の流れを壊さずに入れられて、生徒もよく取り入れていました 3。ポイントは「短く、意味のやり取りの一部として」です。
切り離すか、組みこむか
文法の指導を活動から切り離して行う(isolated)か、活動の中に組みこむ(integrated)かについて、第二言語習得研究者の Nina Spada 氏と Patsy Lightbown 氏は両方に役割があると整理しています。たとえば、同じ母語を持つ学習者に共通するつまずき(日本人学習者にとっての冠詞など、母語の影響が考えられるもの)は、切り離した短い説明が役立つことがあり、組みこんだ指導は使うときの流暢さ・自動化に向いている、という考え方です 7。日本の教室にはぴったりの整理です(冠詞の例は、この一般論を日本に当てはめたこのページの例示で、論文が日本人学習者を調べたわけではありません)。
明日の授業でこうする
- 活動中はメモ帳を持って歩く:誤りと「いい表現」を両方メモ。全部は直さない。
- その場の働きかけは数秒の短いものに(実践上の目安です):「Yesterday? …」と時間の語をくり返すだけで、生徒が went に直せることも多い(プロンプト)。
- 生徒の「これ英語で何て言うの?」を歓迎する:生徒の質問から始まる FonF では、生徒がその表現をその場で自分の発話に取り入れることが多かったと報告されています 3。
- 活動のあと3分で「今日の発見」:メモした表現を2〜3個だけ板書し、クラスで直す。そのあと同じ活動をもう一度。
生徒A:"I go to the park yesterday." 先生(そばを通りながら):"You go?" 生徒A:"Ah, I went to the park." 先生:"Nice." ――これで10秒以内。活動後、板書に「go → went、eat → ate、see → saw」を書き、"What did you do last weekend?" をペアを替えてもう一度。
「制服は必要か」の話し合いのあと、先生がメモした文を匿名で板書します。例:"Uniform is not necessary because students can choose their clothes freely, so it is good." → 「どうすればもっと伝わる?」とクラスで直し、"I don't think uniforms are necessary, because…" の形を確認します。生徒が実際に言った文を使うので、教科書の例文より「自分たちの英語の話」として受けとめやすくなります。
- 全部直す:すべての誤りを取り上げて直すと、会話が止まります。今日の目標の文法に関わる誤りや、意味が通じない誤りを優先しましょう。
- 長い説明を始める:活動中の FonF は一言で。説明が必要なら、活動後にまとめて。
- リキャストだけで終わる:言い直しは、生徒が「直された」と気づかないことがあります。ときどきプロンプトで自分で直させましょう 5。
- 特定の生徒をさらし者にする:活動後に板書するときは匿名で。「いい表現」も一緒に紹介すると雰囲気が明るくなります。
詳しい誤り訂正のやり方は 口頭の誤り訂正 で扱っています。
❓ よくある質問
Q. フォーカス・オン・フォーム(FonF)とは何ですか?
意味を主眼とする活動の中で、必要に応じて形(文法・語形・発音など)にちょっと目を向けさせることです。代表的なのは、やり取りの最中の短い一言です。第二言語習得研究者の Michael Long 氏が提唱し広めた用語で、生徒が意味に夢中になっているときこそ形に気づくチャンスだと考えます 1。
Q. FonF と FonFs(フォーカス・オン・フォームズ)の違いは何ですか?
FonFs は、あらかじめ選んだ文法や語彙の項目を1つずつ取り出して教える指導です。FonF は、意味中心の活動の中で必要に応じて形に注意を向けます 1。メタ分析では両者ともに大きな効果があり、差はありませんでした 6。
Q. 活動中に間違いを直すと、会話が止まってしまいませんか?
コミュニケーション中心の授業を観察した研究では、短い FonF は授業の流れを壊さずに起こせ、生徒もよく取り入れていました。生徒の質問から始まる FonF もうまくいっていました 3。ポイントは一言で短く、意味のやり取りの一部として返すことです。
Q. 誤りは言い直してあげるのと、自分で直させるのとどちらがいいですか?
教室での口頭の誤り訂正のメタ分析では、言い直してあげる(リキャスト)より、自分で直させる(プロンプト)方が効果が大きい傾向がありました 5。言い直しは「直された」と気づかれないこともあるので、ときどきプロンプトで自分で直させます。
Q. FonF を授業に取り入れるには、何から始めればいいですか?
活動中はメモ帳を持って歩き、誤りといい表現を両方メモします。その場の働きかけは「Yesterday? …」のような短い一言にし、生徒の「これ英語で何て言うの?」を歓迎します。活動のあとに2〜3個の表現を匿名で板書してクラスで直し、同じ活動をもう一度行います。
🎓 もう一歩深く(大学院レベル)
🎓院生モード「FonF」という概念の伸び縮み
Long 氏の原義では、FonF は意味中心の授業の中で、コミュニケーション上の問題をきっかけに学習者の注意を形へ向ける付随的な(incidental)手続きでした 1。その後の研究では、計画的な FonF(focused task、インプット強化など)まで FonF に含めるようになり、Ellis 氏はこの拡張を整理して、FonF を「アプローチ」ではなく「活動・手順の種類」として定義し直すことを提案しています 2。
この概念のゆらぎは、メタ分析の解釈にも影響します。第二言語習得研究者の John Norris 氏と Lourdes Ortega 氏のメタ分析で FonF と FonFs が同等とされた 6 のも、FonF の操作的定義が研究ごとに異なることと無関係ではありません。研究を読むときは、「その研究で FonF は具体的に何をしたのか」を確認する必要があります。
🎓院生モード付随的 FonF の効果をどう測るか
第二言語習得研究者の Shawn Loewen 氏の研究は、自然に起きた FonF エピソードごとに個別のテスト項目を作るという工夫で、付随的 FonF のあとの再生を追跡しました 4。FonF を受けなかった対照条件はないため、FonF が学習を引き起こしたという因果関係までは確定できず、著者の結論も「役立つ可能性がある」にとどまります。ただし、エピソードに直接参加した学習者の再生を測っているため、まわりで聞いていた学習者への効果や、自発的な運用(暗示的知識)への効果はまだ十分にわかっていません。
アップテイク(その場での取り入れ)が学習を予測するかについても議論があります。Loewen 氏の研究ではアップテイクの成功がテスト成績の有意な予測因子でしたが 4、アップテイクがなくても学習が起きる可能性は残ります。メタ分析では、平均するとプロンプトの効果がリキャストより大きいと報告されていますが 5、対象や測り方による違いもあります。Loewen 氏の結果も観察にもとづく「予測関係」で、自分で言い直すこと自体が学習を生むという因果関係までは示していません。したがって、「生徒自身の修正を促すプロンプトは有望な選択肢の1つ」と受けとめるのが妥当です。
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📑 出典(7件)
本文の上付き数字に対応。✔ は DOI / ISBN / 公式ページを書誌データベースと機械照合した印です。
- Long, M. H. (1991). Focus on form: A design feature in language teaching methodology. In de Bot, K., Ginsberg, R. B., & Kramsch, C. (Eds.), Foreign Language Research in Cross-Cultural Perspective (pp. 39-52). John Benjamins doi:10.1075/sibil.2.07lon ✔ DOI照合済「フォーカス・オン・フォーム」という用語を初めて示した章
- Ellis, R. (2016). Focus on form: A critical review. Language Teaching Research, 20(3), 405-428. doi:10.1177/1362168816628627 ✔ DOI照合済フォーカス・オン・フォーム(FonF)の意味の変遷と、フォーカス・オン・フォームズとの違いを整理した総説
- Ellis, R., Basturkmen, H., & Loewen, S. (2001). Learner uptake in communicative ESL lessons. Language Learning, 51(2), 281-318. doi:10.1111/1467-9922.00156 ✔ DOI照合済コミュニケーション中心の授業での「その場の文法への注意(FonF)」を観察し、流れを止めずに起こせると報告
- Loewen, S. (2005). Incidental focus on form and second language learning. Studies in Second Language Acquisition, 27(3), 361-386. doi:10.1017/S0272263105050163 ✔ DOI照合済授業中にその場で起きた491回のFonFを追跡し、翌日に約6割、2週間後に約5割を正しく思い出せたと報告
- Lyster, R., & Saito, K. (2010). Oral feedback in classroom SLA: A meta-analysis. Studies in Second Language Acquisition, 32(2), 265-302. doi:10.1017/S0272263109990520 ✔ DOI照合済教室での口頭の誤り訂正のメタ分析(15研究・827人)。リキャストよりプロンプトの効果が大きい
- Norris, J. M., & Ortega, L. (2000). Effectiveness of L2 instruction: A research synthesis and quantitative meta-analysis. Language Learning, 50(3), 417-528. doi:10.1111/0023-8333.00136 ✔ DOI照合済第二言語の指導効果をまとめた最初の本格的メタ分析(49研究)。明示的な指導が暗示的な指導より効果的
- Spada, N., & Lightbown, P. M. (2008). Form-focused instruction: Isolated or integrated?. TESOL Quarterly, 42(2), 181-207. doi:10.1002/j.1545-7249.2008.tb00115.x ✔ DOI照合済文法指導を活動から切り離す(isolated)か、活動の中に組みこむ(integrated)か、両方の役割を論じた論文
最終更新 2026-10-18 ・ 原田英語 まちがいのご指摘はこちら








