インプットで文法を育てる ― 処理指導・インプット強化・意識高揚タスクの使い分け
文法は「言わせて覚える」だけではありません。聞く・読む段階で形に注意を向けさせる3つの方法と、研究でわかった「効く条件・効かない条件」を整理します。
エビデンスの強さ:処理指導は理解の力を伸ばす効果がメタ分析で確認されているが、産出の力では言わせる指導と同程度。太字などの視覚的強調だけの効果は小さい。研究の多くが短期・大学生対象。

- 「意味をつかむには、その形を見ないと解けない」課題を作ると、インプットで文法が育ちます(処理指導)。
- 太字にするだけでは、ほとんど効きません。 目立たせるなら、注目させる課題とセットで。
- 生徒にルールを発見させる意識高揚タスクは、課題の設計しだいで、文法の学習と英語でのやり取りを同時に生みます。
インプットで文法を育てるってなに?
ひとことで言うと、英語を聞いたり読んだりする段階で、「その文法の形を見ないと意味がわからない」課題を出して、生徒の注意を形に向けさせる教え方です。
文法の授業というと「説明 → 練習問題 → 言ってみよう」の流れが定番です。ここで紹介するのは、その前の段階、聞く・読む段階で、文法の形に注意を向けさせる方法です。
なぜそんなことが必要なのでしょう。学習者は英語を聞くとき、まず意味を取ることを優先し、文法の形は見落としがちだと考えられています。たとえば "Yesterday I walked to school." なら、yesterday があれば過去だとわかるので、-ed は聞き流してしまう。第二言語習得の研究者 Bill VanPatten 氏は、こうした学習者のインプットの処理のしかたをモデルにまとめ、それにもとづく指導を処理指導(processing instruction)と名づけました 1。処理指導は、①目標の形についての短い説明、②学習者が陥りやすい処理のくせ(たとえば「時を表す語があれば -ed は見なくていい」)への注意、③意味中心の聞く・読む活動の中で、形と意味の結びつきを処理させる構造化インプット(structured input)の活動、の3つを組み合わせた指導で、③がその中心です 12。構造化インプットには、内容についての意見を答える活動もふくまれますが、とくに最初の活動は、その形を処理しないと正しく答えられないように作ります。つまり実際には、"I visited my uncle." と "I visit my uncle." のように時を表す語のない文を聞かせて「過去のこと? ふだんの習慣?」と判断させれば、生徒は -ed を聞かないと答えられません。
3つの方法(似たものとのちがい)
いちばんまぎらわしいのは、処理指導とインプット強化です。処理指導は「形を処理しないと課題が解けない」ようにするのに対して、インプット強化は「形を目立たせる」だけで、生徒がその形を処理するかどうかは課題しだいです。研究でも、太字・下線などで目立たせるだけの効果は小さいとまとめられています 3。
| 方法 | 中身 | 例 |
|---|---|---|
| 処理指導(中心は構造化インプット) | 短い説明と処理のくせへの注意のあと、意味を理解するために文法形式に注目せざるをえない課題を解かせる | 時を表す語を入れない英文(I visited my uncle. / I visit my uncle.)を聞いて「過去のこと? ふだんの習慣?」を判断 |
| インプット強化(視覚的・音声的な強調) | 文法形式を太字・下線・色・音の強調で目立たせる。同じ形をたくさん含む文章を読ませる「インプット洪水(input flood)」は別の技法だが、組み合わせて使うことが多い | 過去形の -ed に色をつけた物語を読む |
| 意識高揚タスク | 例文のデータから、ペアやグループでルールを見つけて説明させる | 「give 人 物」と「give 物 to 人」の文を比べて、使い分けのルールを考える |
やり方を3ステップで
- 形を見ないと答えられない課題を出す:時を表す語のない文を聞かせて「過去? 習慣?」をカードで選ばせる。
- ルールを見つけさせる:例文カードをペアで比べ、「いつ -s がつく?」を1文で書かせ、最後に先生が確認する。
- 言う・書くへつなぐ:インプットだけで終わらせず、同じ単元の中で言う・書く活動を入れる。
研究ではどうなってる?
- 処理指導を、説明+言わせる練習中心の伝統的な指導と比べた最初期の実験では、処理指導のグループは文の理解と文の産出の両方が伸び、伝統的指導のグループは産出だけが伸びました 4。
- その後の42実験をまとめたメタ分析では、処理指導は理解の力では言わせる指導より効果的でしたが、産出の力では言わせる指導と同じくらいでした。また処理指導は、成人の方が中高生の年代より効果が大きかったと報告されています 5。
- 理解中心と産出中心の文法指導を直接比べたメタ分析(35研究)では、どちらも大きな効果がありました。理解中心の短期的な有利さは主に処理指導によるもので、時間をおいた産出のテストでは産出中心の指導の方が効果的でした 6。
- 太字・下線などの視覚的なインプット強化を調べたメタ分析(16研究)では、強調された文章を読んだ学習者は、同じ目標の形を同じくらい含む(インプット洪水の)強調なしの文章を読んだ学習者をわずかに上回っただけ(d = 0.22)。しかも内容理解には小さなマイナス(d = −0.26)が見られました 3。
- 大学のEFLクラスで、ペアが文法の問題を英語で話し合って解く意識高揚タスクを試した研究では、タスクが難しいルールの知識を伸ばし、文法についての英語のやり取りも生んだと報告されています 7。語順を扱う3つのタスクでも、先生の説明中心の授業と同じくらいの知識の伸びと、ふつうのコミュニケーション・タスクと同じくらいの意味のやり取りが見られました 8。
「色をつけるだけ」はほとんど効かない
教科書やプリントで新出文法を太字にしたり色をつけたりするのは、どの学校でもやっていることです。ところがメタ分析では、その効果は d = 0.22 と小さく、形に注目するぶん内容理解が少し下がる傾向さえありました 3。目立たせただけでは、生徒は「目に入る」けれど「処理する」とは限らないのです。テキスト強調の研究の結果がばらつく理由として、強調が内容理解を妨げないか、形と意味を同時に処理できるか、といった論点が挙げられています 9。一案として、内容をつかんだあとに、その形に注目しないと答えられない問いを加える方法が考えられます(筆者の実践上の提案です)。構造化インプットの研究でも、形の処理が課題に不可欠かどうかで結果が変わると指摘されています 2。
明日の授業でこうする
- 構造化インプット(5分):時を表す語を入れない、完全で自然な英文(I visited my uncle. / I visit my uncle.)を先生が読み上げ、生徒は「過去のこと? ふだんの習慣?」をカードで答える。過去形は「昨日」だけでなく過去のことすべてに、現在形は習慣や一般的な事実にも使うので、「過去形=昨日/現在形=毎日」と一対一で教えないよう注意します。意味を決める手がかりが文法の形しかない文を使うのがコツです 41。最初は visited・painted のように -ed が「イド」とはっきり聞こえる動詞を使うと、聞き取りの難しさではなく形の処理に集中させられます(watched TV のように語末の音が次の語とつながる組み合わせは避ける)。
- 形に注目する読み(10分):目標の文法を何度も含む短い文章を用意し、その形に色をつけて読ませる(色だけの効果は小さい 3)。内容を確かめたあとで、形に注目しないと答えられない問いを出す。たとえば過去形なら、過去形と現在形の文がまざり、時を表す語のない文章で「過去にしたことと、ふだんしていることに分けよう」と問う(筆者の実践上の提案)。
- ルール発見タスク(10分):例文を6〜8個並べたカードをペアに配り、「いつ -s がつく?」「ルールを日本語で1文で書こう」と話し合わせる。最後に先生がルールを確認します 7。英語でのやり取りもねらうなら、話し合いは "I think ..." "Look at number 3." などの英語で行うよう指定します(研究で使われたのも、英語で取り組むよう設計した課題です 8)。
- 言う・書くへつなぐ:インプットだけで終わらず、同じ単元の中でできるだけ言う・書く活動へ。産出の力は、産出の練習でも同じくらい、時間をおくとそれ以上に伸びます 65。
- 小学校:先生の話を聞いて、絵カードを選んだり動いたりする課題。語彙の研究ですが、日本の6〜8歳の子ども36人で、聞いて反応するだけの指導でも、言わせる指導と同じくらい語を言える力まで伸びた例があります 10。小学校では文法の形を処理させることより、まずは聞いてわかる語や表現を増やすことをねらいにします。
- 中学校(過去形):"I visited my uncle." "I play tennis." "I painted a picture." のように、時を表す語のない文を読み上げ、「過去のこと? ふだんの習慣?」を選ばせる。動詞の形を聞かないと答えられません。そのあと、ペアでルール発見タスクへ(三単現の -s のように、主語を聞けば意味がわかってしまう形は、構造化インプットの課題を作りにくい項目です)。
- 高校(受動態):"The boy was pushed by the girl." を聞き、「女の子が男の子を押す絵」と「男の子が女の子を押す絵」から選ぶ。どちらの人物も動作をする側になりうる文と絵にして、単語の意味や常識だけでは選べず、受動態の形を処理して「誰が誰に」を判断する課題にします 5。
❓ よくある質問
Q. 処理指導とは何ですか?
第二言語習得の研究者 VanPatten 氏が名づけた指導法で、①目標の形の短い説明、②学習者が陥りやすい処理のくせへの注意、③その形を処理しないと意味がとれない構造化インプットの活動、の3つを組み合わせます。中心は③です 12。
Q. 新出文法を太字や色で目立たせるのは効果がありますか?
効果は小さいようです。視覚的なインプット強化のメタ分析では、強調なしの文章を読んだ学習者をわずかに上回っただけ(d = 0.22)で、内容理解には小さなマイナス(d = −0.26)が見られました 3。形に注目しないと答えられない問いとセットで使いましょう。
Q. 処理指導と言わせる練習では、どちらが効果的ですか?
42実験のメタ分析では、処理指導は理解の力では言わせる指導より効果的でしたが、産出の力では同じくらいでした。成人の方が中高生の年代より効果が大きかったとも報告されています 5。インプットだけで終えず、言う・書く活動へつなげます。
Q. 意識高揚タスクとは何ですか?
例文のデータから、ペアやグループで文法のルールを見つけて説明させる課題です。大学のEFLクラスの研究では、先生の説明中心の授業と同じくらいの知識の伸びと、英語での意味のやり取りが見られました 8。最後に先生がルールを短く確認します。
Q. 中学校の過去形で、構造化インプットはどう作りますか?
「I visited my uncle.」「I play tennis.」のように時を表す語のない文を読み上げ、「過去のこと? ふだんの習慣?」をカードで選ばせます。動詞の形を聞かないと答えられない文にするのがコツで、最初は -ed がはっきり聞こえる動詞を使います。
🎓 もう一歩深く(大学院レベル)
🎓院生モード処理指導をめぐる論争
処理指導は、学習者のインプット処理の原則(意味優先の原則、第1名詞の原則など)を出発点に、構造化インプット活動で形と意味の結びつきを作る方法です 1。VanPatten 氏自身は反証的な研究にも応答し、その多くを補完的、あるいは設計上の問題があるものと論じました 1。
これに対し、第二言語習得の研究者 Robert DeKeyser 氏と Goretti Prieto Botana 氏 (2015) は、明示的説明の有無や、言わせる練習との比較の結果は、構造化インプットが「課題に不可欠」か、言わせる練習が「コミュニケーション的」かで変わると指摘しました。さらに処理指導研究の多くが短期で、扱う構造が狭く、対象も主にアメリカの大学生の外国語学習者に偏っているため、「明示的説明も産出練習も不要」という一般化はまだできないとしています 2。第二言語習得の研究者 Natsuko Shintani 氏 (2015) のメタ分析も、同じ明示的情報を与えた場合、産出の力では産出中心の指導が処理指導を上回ったと報告しており 5、日本の中高生にそのまま当てはめるには慎重さが必要です。
🎓院生モードインプット強化が効く条件
第二言語習得の研究者 ZhaoHong Han 氏・Eun Sung Park 氏・Charlene Combs 氏 (2008) は、テキスト強調の研究の結果がばらつく理由として、①「気づき」と「習得」を区別しているか、②強調が内容理解を妨げないか、③形式と意味を同時に処理できるか、④強調する形式の性質、⑤学習者の既有知識、⑥インプット洪水との組み合わせ、⑦強調の使いすぎ、の7つの論点を挙げました 9。Lee & Huang (2008) のメタ分析も、効果量の小ささに加えて、報告の不十分さや出版バイアスの可能性を指摘しています 3。
「気づき」がなぜ大事かという理論的背景は 気づき仮説 で、活動の中で形に注意を向ける考え方全体は フォーカス・オン・フォーム で扱います。意識高揚タスクは、文法を明示的に扱いながら意味のあるやり取りの場も作るので、明示的指導とコミュニケーションの「両取り」をねらう方法といえます 8。
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📑 出典(10件)
本文の上付き数字に対応。✔ は DOI / ISBN / 公式ページを書誌データベースと機械照合した印です。
- VanPatten, B. (2002). Processing instruction: An update. Language Learning, 52(4), 755-803. doi:10.1111/1467-9922.00203 ✔ DOI照合済処理指導の理論(インプット処理の原則)と研究をまとめた論文
- DeKeyser, R., & Prieto Botana, G. (2015). The effectiveness of processing instruction in L2 grammar acquisition: A narrative review. Applied Linguistics, 36(3), 290-305. doi:10.1093/applin/amu071 ✔ DOI照合済処理指導の研究を批判的にふり返ったレビュー
- Lee, S.-K., & Huang, H.-T. (2008). Visual input enhancement and grammar learning: A meta-analytic review. Studies in Second Language Acquisition, 30(3), 307-331. doi:10.1017/S0272263108080479 ✔ DOI照合済太字・下線などで文法形式を目立たせる「インプット強化」のメタ分析(16研究)。効果は小さい
- VanPatten, B., & Cadierno, T. (1993). Explicit instruction and input processing. Studies in Second Language Acquisition, 15(2), 225-243. doi:10.1017/S0272263100011979 ✔ DOI照合済インプットの処理のしかたを練習させる「処理指導(PI)」を従来の文法指導と比べた実験
- Shintani, N. (2015). The effectiveness of processing instruction and production-based instruction on L2 grammar acquisition: A meta-analysis. Applied Linguistics, 36(3), 306-325. doi:10.1093/applin/amu067 ✔ DOI照合済処理指導(インプット処理)と産出練習のメタ分析(42実験)。理解テストは処理指導が有利、産出テストは同等
- Shintani, N., Li, S., & Ellis, R. (2013). Comprehension-based versus production-based grammar instruction: A meta-analysis of comparative studies. Language Learning, 63(2), 296-329. doi:10.1111/lang.12001 ✔ DOI照合済理解中心と産出中心の文法指導を直接比べた研究のメタ分析(35研究)。どちらも大きな効果
- Fotos, S., & Ellis, R. (1991). Communicating about grammar: A task-based approach. TESOL Quarterly, 25(4), 605-628. doi:10.2307/3587079 ✔ DOI照合済文法のルールを生徒どうしで話し合って見つける「意識高揚タスク」を日本の大学で試した研究
- Fotos, S. S. (1994). Integrating grammar instruction and communicative language use through grammar consciousness-raising tasks. TESOL Quarterly, 28(2), 323-351. doi:10.2307/3587436 ✔ DOI照合済語順を扱う3つの意識高揚タスク。文法の理解が伸び、意味のやり取りも生まれた
- Han, Z., Park, E. S., & Combs, C. (2008). Textual enhancement of input: Issues and possibilities. Applied Linguistics, 29(4), 597-618. doi:10.1093/applin/amn010 ✔ DOI照合済文字の強調(テキスト強調)研究の論点を7つに整理した総説
- Shintani, N. (2011). A comparative study of the effects of input-based and production-based instruction on vocabulary acquisition by young EFL learners. Language Teaching Research, 15(2), 137-158. doi:10.1177/1362168810388692 ✔ DOI照合済日本の6〜8歳36人。聞いて動くインプット型と言わせる産出型の語彙指導を比べ、どちらも効果。インプット型の方がやり取りが豊か
最終更新 2026-10-18 ・ 原田英語 まちがいのご指摘はこちら







