入試・英検と授業をつなぐ ― テスト対策と「使える英語」の授業を両立させる考え方
「入試があるから、授業で英語を使う活動なんてできない」。本当でしょうか。波及効果の研究と大学入学共通テストの公式の方針を読むと、対策と授業は思ったより重なります。過去問の使い方、形式練習の入れどころまで整理しました。
エビデンスの強さ:試験が授業や学習に与える影響(波及効果)は多くの研究があるが、先生・学習者・学校の要因で大きく変わり、結果はそろわない。試験対策に特化したコースに、他のコースと比べて得点の伸びで明確な優位が見られなかった研究もある。

- 試験が授業や学習に与える影響(波及効果)は、試験から自動的に起きるものではなく、先生と生徒の受けとめ方しだいです。日本の高校の授業観察でも、訳読の多さは入試より先生の要因が大きい可能性が示されました。
- 共通テストの英語は、目的・場面・状況に応じて概要・要点・詳細・意図をつかむ力などを重視すると公式に示しています。目的をもって読む・聞く授業は、そのまま対策の土台です。
- 両立のコツは「ふだんは技能を育て、形式練習は最後の2割(目安)」「過去問は教材として使う」「試験の仕組みを教えて、生徒に計画させる」です。
波及効果ってなに? ― 「入試対策」と「授業」は対立する?
ひとことで言うと、波及効果とは「試験があることで、先生の授業や生徒の勉強のしかたが変わること」です。入試対策のコツは、この力をよい方向に使うことです。
「うちの生徒は入試があるから、英語を使う活動より問題演習を」。職員室でよく聞く言葉です。高校だけでなく、中学校でも高校入試や英検を意識して、授業が問題集の解説になってしまうことがあります。
試験が授業や学習に与える影響を、波及効果(washback)と呼びます。研究では、試験が導入・使用されることで、先生や学習者が「試験がなければしなかったこと」をするようになる度合いと定義され、それは学習を促すこともさまたげることもあります 1。つまり実際には、同じ入試でも、先生と生徒がそれをどう受けとめるかで、授業がよくも悪くも変わるということです。定期テストを作る側から見た波及効果の基本は 定期テストの作り方 で扱いました。このページでは、入試や外部検定といった「先生が作らない試験」と、ふだんの授業をどうつなぐかを考えます。
マラソン大会を前にした体育の授業を想像してください。「本番のコースを毎日走らせる」のは、一見いちばんの対策に見えます。でも、走る力そのもの(心肺機能・フォーム・ペース配分)を鍛えないと、何度コースを走ってもタイムは伸び悩みます。かといって、本番のコースを一度も走らずに大会に出るのも不安です。ふだんは走力を鍛え、大会の前にコースを試走する。入試対策も同じで、問題形式の練習は「試走」、英語の力そのものを育てるのが「走力づくり」です。
似たものとのちがい
| 力づくり(ふだんの授業) | 形式練習(試験対策) | |
|---|---|---|
| たとえると | 走力づくり | コースの試走 |
| 何をする? | 目的をもって読む・聞く、要点をまとめる、意見を書く・話す | 時間を測った演習、解き方の確認 |
| いつ? | ふだんの授業の中心 | 学期末や受験学年の後半に集中させる(最後の2割) |
| 過去問の使い方 | 1回目は時間を測らず、内容を楽しむ読み物・聞き物として | 2回目に設問を解く |
やり方を3ステップで
- 試験の中身を分解して、教科書と結ぶ:共通テストなら「目的・場面・状況」「概要・要点・詳細・意図」などの観点を、各単元の CAN-DO と対応させる。
- ふだんは走力づくり、過去問は教材として:教科書で目的のある読む・聞く・話す・書く活動を続け、過去問の英文も要約やリテリングの素材にする。
- 形式練習は最後に、計画は生徒に:時間を測った演習は後半に集中させ、試験の仕組みを正確に伝えて「何を、いつまでに」を生徒に計画させる。
研究ではどうなってる?
- 「試験が授業を決める」の証拠は意外に少なかった:波及効果は当然のこととして語られてきたものの、それを支える証拠はほとんどなく、あっても先生の自己報告にもとづくものが中心で、授業の観察にもとづくものは少ない、と指摘した論文が研究の転換点になりました 2。
- 日本の高校の観察では「先生の要因」が大きかった:大学入試が授業を支配しているとよく言われますが、入試を控えた学年の授業を観察した研究では、文法訳読を使うかどうかには、入試よりも、先生の受けてきた教育・信念・教える経験の方が大きく影響している可能性が示されました 3。
- 波及効果は自動的ではない:波及効果の実証研究を先生の視点からまとめたレビューは、波及効果は試験から自動的・直接的に起きるものではなく、どんな波及効果がどのくらい起きるかを決めるうえで先生の役割が決定的だと結論しています 4。
- 同じ国の試験でも出方が違う:同じ国の2つの全国試験を長期間調べた研究では、ほぼ同じような小さな変更が、一方の試験では授業にほとんど影響せず、もう一方では授業の活動や対策の時間、教材の作り方に大きな影響を与えていました。波及効果は、その言語の地位や試験の使われ方によって変わり、時間とともに変化します 5。
- 試験対策に特化したコースが、他のコースより得点を伸ばすとは言えなかった:英国の大学に進学する留学生のコースを、試験対策中心・大学でのアカデミック・ライティング中心・両方の組み合わせ、の3種類で比べた研究では、書く試験の点の伸びについて、試験対策に特化したコースのはっきりした優位は見られませんでした 6。
- 生徒の「受けとめ方」が勉強の中身を決める:中国の大学生870人以上を10週間追った研究では、試験の使われ方や作りをどう受けとめるかが、試験を受ける価値の感じ方と合格の見通しを通じて、試験勉強への取り組みを左右していました。また、試験についてよく知っている学習者ほど、自分で計画を立てて勉強し、解き方の練習もよくしていました 7。
- 4技能の試験は、手薄だった「話す・書く」の勉強を増やした:日本の大学生190人が1年の間に4技能の試験を2回受けた研究では、2回目に向けて話す・書く練習に重点が移り、話す力の点が有意に伸びました。熱心に準備した学生ほど、話す・聞く力の伸びが大きくなりました。ただし、その効果は、学生の受けとめ方や使える学習資源などの多くの要因に左右されていました 8。
試験の「中身」が変わると、生徒の勉強が変わる
上の研究を並べると、波及効果には2つの顔があることがわかります。
1つは、先生への波及効果です。こちらは意外なほど「先生しだい」で、入試があっても授業のスタイルを決めているのは先生自身の経験や信念の部分が大きい、という結果が日本の観察研究から出ています 3。
もう1つは、生徒への波及効果です。こちらは試験の中身に正直に反応します。話す・書くをふくむ試験を受けることになった日本の大学生は、それまでの英語学習で手薄だった話す・書く練習を増やしました 8。
つまり、「入試がこうだから授業はこう」と考える前に、先生が試験の中身を正確に知り、それを生徒に正確に伝えること自体が、よい波及効果を生む第一歩になります。研究でも、試験についてよく知っている学習者ほど、自分で計画を立てて勉強していました 7。
共通テストの英語は、何を測ろうとしている?
大学入試センターが公表している問題作成方針を、授業の視点で読んでみましょう。令和9年度(2027年1月実施)の方針では、英語について次のように示されています 9。
- 大学入学者選抜全体で「聞くこと」「読むこと」「話すこと」「書くこと」の総合的な英語力を評価することが求められている中で、共通テストは「リーディング」と「リスニング」を通して、できる限り総合的に英語力を評価する。
- コミュニケーションの目的や場面、状況に応じて、情報や考えの概要・要点・詳細、話し手や書き手の意図を的確に理解する力を引き続き重視する。
- 高校で4技能を統合した言語活動の充実が図られることをふまえ、理解した情報や考えを整理したり、何をどう取り上げるかを判断したりする力を重視する。
- 音声・語彙・表現・文法などの知識・技能は、上の力を問うことを通して評価する。
- 問題のレベルは、出題範囲の科目(英語コミュニケーションⅠ・Ⅱ、論理・表現Ⅰ)の目標と内容に対応させ、CEFR のおおむね A1〜B1 レベルを目安にする。リスニングは1回読みと2回読みの両方をふくむ構成にする。
試験時間と配点は、リーディングが80分・100点、リスニングが解答時間30分(機器の確認をふくめ60分)・100点です 10。
この方針から読みとれる授業へのメッセージは明快です。文法や語彙の知識は、それだけを切り離して問うより、文章を目的に応じて読み・聞く中で使えるかとして問われる、ということです。教科書の本文を「目的・場面・状況」を意識して読ませ、概要・要点・詳細を区別してつかませる授業は、共通テストの対策と同じ方向を向いています(読み方の指導は 精読・読解指導、聞き方の指導は リスニング指導 へ)。
なお、話す・書く力については、共通テストで英語の民間試験を活用する仕組み(大学入試英語成績提供システム)が予定されていましたが、2019年11月に導入の見送りが発表されました。その文書の中でも、4技能をバランスよく身につけることの大切さは変わらない、と述べられています 11。話す・書く力は、各大学の個別試験や総合型選抜などで評価されることが求められており 9、「共通テストにないからやらない」は、受験の面から見ても得策ではありません。
中学校:「英語力の目標」と外部試験の数字の読み方
中学校では、国の調査で「中学3年生のうち CEFR A1 レベル相当以上の英語力がある生徒の割合」が報告されています。令和7年度の調査では54.6%で、第4期教育振興基本計画の目標(6割以上)にはまだ届いていません。高校3年生の A2 レベル相当以上は52.4%でした 12。
この数字は、外部の検定試験の級やスコアを取った生徒だけでなく、それに相当する力があると英語の先生が判断した生徒もふくんでいます。その判断の根拠としては、CAN-DO リストにもとづく学校でのパフォーマンステストの結果なども使われています 12。つまり、この国の調査では、外部試験の結果だけでなく、授業の中のパフォーマンステストも、先生が生徒の力を判断する根拠の1つになっているのです(パフォーマンステストの作り方は パフォーマンステストとルーブリック へ)。
明日の授業でこうする
- 試験の「中身」を分解して、教科書と結ぶ:共通テストなら「目的・場面・状況」「概要・要点・詳細・意図」「情報の整理・判断」9。英検や高校入試をめざす生徒がいるなら、その試験の公式の情報で同じように分解し、各単元の CAN-DO と対応表を作ります。
- ふだんは「走力づくり」:教科書本文で、目的をもって読む・聞く、要点をまとめる、意見を書く・話す活動を中心にします。試験対策に特化したコースに、他のコースと比べて得点の伸びで明確な優位が見られなかった研究を思い出してください 6。
- 過去問は「教材」として使う:大学入試センターは過去の試験問題を公開しています。過去問の英文を、1回目は時間を測らず内容を楽しむ読み物・聞き物として使い、要約やリテリングにつなげます。設問を解くのは2回目です。
- 形式練習は「最後の2割」:時間を測った演習や解き方の確認は、学期や学年の終わりのほうの時期(学期末や受験学年の後半)に集中させます。早くから毎時間演習をくり返すと、走力づくりの時間がなくなります。「2割」は研究で決まった数字ではなく、このページの目安です。生徒や試験、時期に合わせて調整してください。
- 試験の仕組みを教え、生徒に計画させる:試験時間・配点・読み上げ回数などを生徒に正確に伝え 10、「自分は何を、いつまでに」を計画させます。試験をよく知っている学習者ほど自己調整して勉強する傾向がありました 7。家庭学習の計画づくりは 家庭学習と自律学習者の育て方 へ。
- 小テストを「思い出す練習」として兼ねる:単語・表現の小テストは、対策でもあり学習そのものでもあります。思い出す練習は読み直しより学習効果が大きいというメタ分析があります 13。
中学3年(高校入試を控えて):2学期までは教科書中心。各単元の最後に、その単元の文法・語彙で書かれた初見の英文(ALT に書いてもらう、または先生が作る)を「目的をもって読む」活動を入れる。3学期に入ってから、入試の過去問を週1回、時間を測って解き、間違いの原因を「単語」「文の構造」「情報の探し方」に分けて振り返らせる。
高校1年(英語コミュニケーションⅠ):教科書の各レッスンで、①概要(何の話?)②要点(筆者がいちばん言いたいこと)③詳細(数字・理由)を区別する発問を固定のパターンにする。共通テストの過去問は、1学期に1回だけ「読み物」として扱い、「教科書の読み方が、試験でもそのまま使える」ことを体験させる。
高校3年(受験学年):前半は教科書と並行して、過去問の英文を要約・意見文の素材として使う。9月以降は週1回の時間を測った演習を入れ、残りの時間は音読・リテリング・英作文を続ける。個別試験で英作文がある生徒には、意見文の型を共通の型で練習させる。
外部検定(英検など)をめざす生徒への個別対応:授業では試験の形式に合わせた特別な時間はとらず、面接形式の質問(例:What do you do in your free time?)を授業のはじめの Small Talk に混ぜる、意見文の課題を検定のテーマに近いものにする、など授業の活動に溶けこませる。
「対策プリント」を作るときのチェックリスト
| チェック | ねらい |
|---|---|
| 英文は、教科書で学んだ語彙・文法の範囲をこえすぎていないか | 知らない語が多いと、読む力ではなく「その語をたまたま知っていたか」を測ってしまうため |
| 設問は「概要・要点・詳細・意図」のどれを問うか、自分で言えるか | 共通テストの方針の観点と結ぶ 9 |
| 解いたあとに、英語を「使う」活動(要約・意見・音読)があるか | 演習が走力づくりにつながるように |
| 間違いの原因を、生徒が自分で分類できるか | 次の学習計画につなげるため |
| 話す・書く活動を削っていないか | 4技能の評価は大学入試全体で求められている 9 |
- 早い時期から毎時間が問題演習:試験対策に特化したコースのはっきりした優位は示されていません 6。形式練習は試走。走力づくりの時間を守りましょう。
- 「入試があるから仕方ない」と思いこむ:日本の高校の観察研究では、授業のスタイルを決める要因として先生自身の経験や信念が大きい可能性が示されています 3。
- 試験の情報が古いまま:試験の方針や形式は年度ごとに公表・更新されます。古い問題集の傾向ではなく、公式の最新の方針で確認しましょう 9。
- テストと入試で生徒のやる気を削る:日本の高校生の英語のやる気を下げた要因には、テストや大学入試、暗記中心の語彙学習が挙がっていました 14。対策の時間ほど、「わかった・できた」を感じさせる工夫を(例:前回まちがえた種類の設問が今回は解けたら、その場で本人に伝える)。
- 話す・書くを後回しにする:共通テストにない技能でも、大学入試全体では4技能の評価が求められています 9。
❓ よくある質問
Q. 入試があると、授業は問題演習中心にせざるをえませんか?
そうとは限りません。入試を控えた日本の高校の授業を観察した研究では、文法訳読を使うかどうかには、入試よりも先生の受けてきた教育・信念・経験の方が大きく影響している可能性が示されました 3。波及効果は、試験から自動的に起きるものではないとされています 4。
Q. 試験対策に特化した授業をすれば、点は伸びますか?
この研究は、点が伸びないと示したものではありません。ほかのコースより得点が大きく伸びるという、明確な優位は見られませんでした。英国の大学に進学する留学生のコースを比べた研究では、書く試験の点の伸びについて、試験対策に特化したコースのはっきりした優位は見られませんでした 6。ふだんは英語の力そのものを育て、形式練習は最後の2割に集中させます。
Q. 共通テストの英語は、どんな力を測ろうとしていますか?
令和9年度の問題作成方針では、目的・場面・状況に応じて、情報や考えの概要・要点・詳細、話し手や書き手の意図を的確に理解する力を重視し、知識・技能はそれらを問う中で評価するとしています。レベルは CEFR のおおむね A1〜B1 が目安です 9。
Q. 過去問は、授業でどう使えばいいですか?
「教材」として使います。過去問の英文を、1回目は時間を測らず内容を楽しむ読み物・聞き物として使い、要約やリテリングにつなげます。設問を解くのは2回目にし、時間を測った演習は学期末や受験学年の後半に集中させます。
Q. 試験について、生徒に何を伝えればいいですか?
試験時間・配点・読み上げ回数などを正確に伝え、「何を、いつまでに」を生徒自身に計画させます。中国の大学生870人以上を追った研究では、試験についてよく知っている学習者ほど、自分で計画を立てて勉強していました 7。
🎓 もう一歩深く(大学院レベル)
🎓院生モード波及効果研究の展開 ― 「先生への波及」から「学習者への波及」へ
言語テストの研究者 J. Charles Alderson 氏と Dianne Wall 氏(1993)が、波及効果の存在を当然視する議論に観察データでの検証を求めて以来 2、波及効果研究は大きく広がりました。波及効果を研究する Liying Cheng 氏・Youyi Sun 氏・Jia Ma 氏は、1993〜2013年の関連文献123件(うち実証研究87件)を体系的に検索し、教育測定の研究者 Michael T. Kane 氏の、論証にもとづく妥当性検証の枠組みの中に波及効果研究を位置づけてレビューしています 15。理論面では、テストの妥当性と波及効果を論じた Samuel Messick 氏が、波及効果を構成概念妥当性の「結果的側面」の一例とみなし、よい波及効果を、真正で直接的な評価、そして構成概念の過少代表と構成概念に無関係な難しさを最小にすることに結びつけました 1。
初期の研究の多くは、先生の授業がどう変わるか(教える内容・方法・教材)に注目していました。言語テストの研究者 Elana Shohamy 氏らの研究は、同じ国の中でも試験によって波及効果の出方が大きく異なり、時間とともに変わることを示しました 5。近年は学習者への波及効果(washback to the learner)に関心が移っています。言語テストの研究者 Qin Xie 氏と Stephen Andrews 氏は期待価値理論を使い、試験の作りや使われ方の受けとめ方が、課題価値と成功の期待を通じて試験勉強への関与に影響するというモデルを構造方程式モデリングで検証しました 7。言語テストの研究者 David Allen 氏は日本の大学の文脈で、対策の授業がない状態でも4技能の試験が学習者の準備方略を変え、話す力の伸びにつながった可能性、しかしその波及効果は学習者の認識や資源へのアクセスといった多くの媒介要因に左右されることを示しました 8。教育評価の研究者 Anthony Green 氏は、試験対策に特化した授業が得点の伸びで明確な優位を示さなかったことを報告しており 6、「対策すれば点が上がる」という前提そのものが実証の対象になっています。
🎓院生モード日本の入試と英語の授業 ― 何が変わり、何が変わっていないか
日本の大学入試と英語の授業の関係は、長く議論されてきました。言語テストの研究者 Yoshinori Watanabe 氏は授業観察から、入試直前の学年でも文法訳読の使用は先生の要因に左右される可能性を示し 3、英語教育の研究者 Greta J. Gorsuch 氏は日本の高校英語教師876人の調査を構造方程式モデリングで分析して、国のコミュニカティブな方針が、形式中心の入試に向けた準備を重視する既存の教育文化の中に取りこまれている様子を描きました 16。
入試問題そのものについては、英語教育の研究者 Keita Kikuchi 氏(2006)は、1994年の分析を10年後の2004年に同じ大学群で追試し、問題形式・多様性・測っている技能に大きな変化はなく、読解文は非常に難しく、和訳の問題も多く使われていたと報告しました 17。ただし、これは20年以上前のデータであり、現在の個別試験の姿は改めて調べる必要があります。共通テストについては、現在の問題作成方針が、目的・場面・状況に応じた理解と、情報の整理・判断を重視し、知識・技能もそれらを問う中で評価すると明示しています 9。
政策面では、テストと評価を研究する Naoki Kuramoto 氏と Rie Koizumi 氏が、日本の大規模テストが「教育の原理」と「測定の原理」の相反する要請にさらされていること、そしてテストへの両価的な感情(テスト嫌いとテスト依存)が見られることを論じています 18。共通テストでの英語民間試験の活用が2019年に見送られた経緯 11 も、公平性・実施可能性と4技能評価の理念のあいだの緊張を示す出来事でした。日本の英語評価の歴史を長い目で見る視点は、定期テストの作り方 の大学院レベルの解説も参照してください。
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📑 出典(18件)
本文の上付き数字に対応。✔ は DOI / ISBN / 公式ページを書誌データベースと機械照合した印です。
- Messick, S. (1996). Validity and washback in language testing. Language Testing, 13(3), 241-256. doi:10.1177/026553229601300302 ✔ DOI照合済テストが授業に与える影響(波及効果)を妥当性の一部として論じた論文
- Alderson, J. C., & Wall, D. (1993). Does washback exist?. Applied Linguistics, 14(2), 115-129. doi:10.1093/applin/14.2.115 ✔ DOI照合済「テストが授業を変える」という波及効果は当然視されてきたが証拠が少ない、と問題提起した論文
- Watanabe, Y. (1996). Does grammar translation come from the entrance examination? Preliminary findings from classroom-based research. Language Testing, 13(3), 318-333. doi:10.1177/026553229601300306 ✔ DOI照合済日本の大学入試対策の授業観察(小規模な予備的研究)から、文法訳読は入試より先生の経歴・信念・経験の影響が大きい可能性を示した研究
- Spratt, M. (2005). Washback and the classroom: The implications for teaching and learning of studies of washback from exams. Language Teaching Research, 9(1), 5-29. doi:10.1191/1362168805lr152oa ✔ DOI照合済波及効果の実証研究を先生の視点からレビュー。波及効果はテストから自動的に起きるものではなく、先生の判断が大きいと結論
- Shohamy, E., Donitsa-Schmidt, S., & Ferman, I. (1996). Test impact revisited: washback effect over time. Language Testing, 13(3), 298-317. doi:10.1177/026553229601300305 ✔ DOI照合済同じ国の2つの全国テストで波及効果の出方がまったく違い、言語の地位やテストの使われ方で変わると示した研究
- Green, A. (2007). Washback to learning outcomes: a comparative study of IELTS preparation and university pre-sessional language courses. Assessment in Education: Principles, Policy & Practice, 14(1), 75-97. doi:10.1080/09695940701272880 ✔ DOI照合済試験対策に特化したコースが、ふつうのアカデミック・ライティングのコースより書く試験の点を伸ばすとは言えなかったと示した研究
- Xie, Q., & Andrews, S. (2013). Do test design and uses influence test preparation? Testing a model of washback with Structural Equation Modeling. Language Testing, 30(1), 49-70. doi:10.1177/0265532212442634 ✔ DOI照合済中国の870人以上の受験者で、試験の受けとめ方が試験勉強の量や中身を左右する道すじを期待価値理論でモデル化した研究
- Allen, D. (2016). Investigating washback to the learner from the IELTS test in the Japanese tertiary context. Language Testing in Asia, 6(1). doi:10.1186/s40468-016-0030-z ✔ DOI照合済日本の大学生190人。4技能の試験を受けることで、それまで手薄だった話す・書く練習に学習がシフトした
- 大学入試センター (2025). 令和9年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト問題作成方針 公式ページ ✔ リンク確認済共通テストの問題作成方針。英語はリーディングとリスニングで総合的な英語力をできる限り評価するとしている
- 大学入試センター (2025). 令和9年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト出題教科・科目の出題方法等 公式ページ ✔ リンク確認済共通テストの出題科目・試験時間・配点。英語はリーディング80分・リスニング解答30分、各100点
- 文部科学省 (2019). 受験生をはじめとした高校生、保護者の皆様へ(大学入試英語成績提供システムの導入見送りについて) 公式ページ ✔ リンク確認済2019年、共通テストでの英語民間試験の活用(成績提供システム)の導入見送りを伝えた文部科学大臣のメッセージ
- 文部科学省 (2026). 令和7年度「英語教育実施状況調査」(概要) 公式ページ ✔ リンク確認済公立中学・高校の英語教育の国の調査(令和7年度)。高校で教師が発話の半分以上を英語で行う割合(全体36.9%)などを示す
- Adesope, O. O., Trevisan, D. A., & Sundararajan, N. (2017). Rethinking the use of tests: A meta-analysis of practice testing. Review of Educational Research, 87(3), 659-701. doi:10.3102/0034654316689306 ✔ DOI照合済小テストで思い出す練習(テスト効果)が読み直しより記憶に残ることを示した教育全般のメタ分析
- Kikuchi, K. (2009). Listening to our learners' voices: What demotivates Japanese high school students?. Language Teaching Research, 13(4), 453-471. doi:10.1177/1362168809341520 ✔ DOI照合済日本の高校英語で意欲を下げた要因(先生の言動・文法訳読・入試・単語暗記・教材)を調べた研究
- Cheng, L., Sun, Y., & Ma, J. (2015). Review of washback research literature within Kane's argument-based validation framework. Language Teaching, 48(4), 436-470. doi:10.1017/S0261444815000233 ✔ DOI照合済1993〜2013年の波及効果研究(実証研究87件)を、論証にもとづく妥当性検証の枠組みで整理したレビュー
- Gorsuch, G. J. (2000). EFL educational policies and educational cultures: Influences on teachers' approval of communicative activities. TESOL Quarterly, 34(4), 675-710. doi:10.2307/3587781 ✔ DOI照合済日本の高校英語教師876人の調査。形式中心の入試に備える教育文化の中に、国の方針が取りこまれている様子を示した
- Kikuchi, K. (2006). Revisiting English entrance examinations at Japanese universities after a decade. JALT Journal, 28(1), 77-96. doi:10.37546/JALTJJ28.1-5 ✔ DOI照合済日本の大学入試の英語問題を10年後に再分析。問題形式は大きく変わらず、読解文は難しく、和訳問題も多く残っていた
- Kuramoto, N., & Koizumi, R. (2018). Current issues in large-scale educational assessment in Japan: focus on national assessment of academic ability and university entrance examinations. Assessment in Education: Principles, Policy & Practice, 25(4), 415-433. doi:10.1080/0969594X.2016.1225667 ✔ DOI照合済日本の大規模テスト(全国学力調査・大学入試改革)の課題を、教育の原理と測定の原理の対立やテストへの両価的な感情から論じた論文
最終更新 2026-10-18 ・ 原田英語 まちがいのご指摘はこちら










