単元計画のつくり方 ― 「最後のタスク」から逆算する逆向き設計
教科書のページ順に進めるだけでは、単元の最後に「何ができるようになったか」がぼやけます。ゴールのタスクを先に決めて、評価と毎時間の活動を逆算する。これが逆向き設計です。
エビデンスの強さ:逆向き設計は世界中の学校で使われている設計の枠組み。ただし「この手順で計画すると成績が上がる」と厳密に確かめた研究は少ない。形成的評価や分散学習など、部品ごとの研究の裏づけはある。

単元計画ってなに? 逆向き設計ってなに?
ひとことで言うと、単元計画は教科書の1つの課を「何時間目に何をするか」まで見通した設計図で、逆向き設計は、その設計図を「単元の最後に生徒ができるようになっていること」から逆算して作る方法です。
単元(たんげん)は、教科書の1つの課(Unit・Lesson)など、ひとまとまりの学習のことです。中学校なら6〜10時間くらいが多いでしょう。単元計画は、そのまとまりを「何時間目に何をするか」まで見通した設計図です。
学習指導要領の解説は、主体的・対話的で深い学びは1時間の授業の中ですべて実現するものではなく、単元など内容や時間のまとまりの中で、見通しを立てる場面・対話する場面・振り返る場面をどこに置くかを考えるよう求めています 1。国立教育政策研究所(国研)の評価の参考資料も、①単元の目標→②単元の評価規準→③指導と評価の計画→④授業→⑤観点ごとに総括、という順序で示しています 2。
この「目標を先に、評価をその次に、活動は最後に」という考え方を、カリキュラム設計の研究者グラント・ウィギンズ氏とジェイ・マクタイ氏(Wiggins & McTighe)は逆向き設計(backward design)と呼びました 3。
旅行の計画と同じです。ふつうは「どこへ行くか(目的地)」を決めてから「どのルートで行くか」を考えますよね。ところが授業づくりでは、つい「明日はこのページだから、このゲームをしよう」とルートから決めてしまいます。それだと、楽しく歩いたのにどこにも着かない、ということが起きます。逆向き設計は、まず目的地と「着いた証拠の写真」を決めてから、地図を広げる方法です。
似たものとのちがい
| 見通す範囲 | 何を決める? | |
|---|---|---|
| 年間指導計画 | 1年 | どの単元で、どのCAN-DOを育て、いつ評価するか |
| 単元計画 | 1つの単元(中学校なら6〜10時間くらい) | 単元末のタスクと評価、そこへ向かう毎時間の活動 |
| 学習指導案(本時) | 1時間 | その1時間の目標・展開・評価 |
また、「明日はこのページだから、この活動」と活動や教科書のページから決める計画と、ゴールと評価から決める逆向き設計では、考える順番が反対です。
やり方を3ステップで(逆向き設計)
ウィギンズ氏とマクタイ氏がまとめた解説では、設計は次の3段階です 4。
| 段階 | 考えること | 英語の単元なら |
|---|---|---|
| 1. 求める結果 | 生徒は最後に何ができるようになる? | 「ALTに、町のおすすめを比べながら紹介し、質問に答えられる」 |
| 2. 評価の証拠 | それができたと、何を見ればわかる? | ALTとのやり取りのパフォーマンステスト+ルーブリック |
| 3. 学習の計画 | そこへたどり着くために、毎時間何をする? | 本文の理解、比較表現の練習、ペアの中間タスク、本番 |
なぜ逆算が大事なの? 研究ではどうなってる?
先生は、実は「目標から」計画していない
教員養成では「目標→活動→評価」の順で指導案を書くように習うことが多いでしょう。ところが、実際の先生の計画の仕方を調べると、話は違います。
- 小学校の先生12人の授業計画を調べた研究は、教育学の本で主流の「目標を先に決める」モデルと、先生たちの実際の計画の立て方にずれがあることを論じました 5。
- 新任の中等教員2人を教育実習から1年目まで追った研究では、実習中は目標先行型で書いていたのに、着任後はまず内容、次に活動から考えるようになっていました 6。
- イギリスの研究者は、目標→活動→評価という直線的な指導案の型は、授業を狭くとらえさせる危険があると批判し、状況に合わせて考え直していく計画を提案しています 7。
- 逆向き設計の提唱者自身も、よくある失敗として「教科書を単元そのものと思ってしまうこと」と「目的のはっきりしない、活動中心の授業」を挙げています 4。
対象は少人数の先生で、日本の英語の先生にそのまま当てはまるとは限りませんが、先生が内容や活動から考えてしまうのは、めずらしいことではなさそうです。逆向き設計は「頭の中の考え方を変えろ」というより、計画の最後に、目標・評価・活動がそろっているか点検するチェック表として使うと現実的です。提唱者も、決まった手順を押しつけるものではないと述べています 4。
評価を先に決めると、授業が「ねらい撃ち」になる
逆向き設計で大事なのは、3つの段階がそろっていること(alignment)です。段階1で決めたことが段階2で評価され、段階3で教えられているかを確かめます 4。
英語でいえば、「話すこと[やり取り]」をゴールにしたのに、単元の評価が本文の和訳テストだけ、というのが「ずれ」です。単元の最後で何を評価するかが決まっていれば、毎時間の活動が「本番の練習」になります。
また、授業中のこまめな確認と、それにもとづくフィードバック(形成的評価)を強めると学習が大きく伸びる、という研究の積み重ねがあります 8。単元の途中に中間タスク(本番と同じ形の、小さな練習の本番)を入れて、本番前に「どこがまだできないか」を見つけるのは、この考え方に沿っています。
4つの柱のバランスも単元で考える
言語教育研究者のポール・ネーション(Paul Nation)氏は、語学の授業時間を「意味中心のインプット」「意味中心のアウトプット」「言語に焦点を当てた学習」「流暢さを伸ばす練習」の4つの柱に、だいたい均等に配分するよう提案しています 9。Nation がこの配分を提案している単位は「コース全体」です。1時間の中で4つそろえるのは難しいので、単元ごとに重点を変えながら、学期や年間で見てバランスをとるのが現実的でしょう(これは筆者の解釈です)。それでも、文法説明と本文の訳だけで単元が終わっていないかは、単元計画の段階で点検できます。
明日の授業でこうする
- 学年の目標(CAN-DO)から、この単元で伸ばす領域を1〜2つに絞る。 領域ぜんぶ(小5〜高校は5領域、小3・4の外国語活動は「聞くこと」「話すこと[やり取り]」「話すこと[発表]」の3領域)を毎単元で評価する必要はありません。国研の資料も、評価の時期や場面をしぼる(精選する)よう示しています 2。
- 単元末タスクを1文で書く。 「目的・場面・状況」を入れます。例:「ALTが週末の過ごし方に迷っているので、町のおすすめを2つ比べて紹介し、質問に答える」。
- 評価の証拠を決める。 どの場面で、どのルーブリックで、どの観点を記録するか。ルーブリックは本番より前に生徒に見せます。
- ゴールに必要な英語を洗い出す。 教科書の新出文法に加えて、質問への答え方・つなぎ言葉など、タスクで本当に必要な表現をリストにします。
- 時間ごとに並べる。 理解→練習→中間タスク→改善→本番→振り返り。中間タスクは記録に残さず、指導に生かすための評価にします。
- 単元が終わったら、計画を直す。 本番で多かったつまずきをメモし、来年の計画に書きこみます。
| 時 | おもな活動 | 評価 |
|---|---|---|
| 1 | ALTのビデオで単元のゴールを知る。本文①を読み、比較級の意味をつかむ | ― |
| 2 | 比較級の練習。身近なもの2つを比べてペアで伝え合う | 観察(指導に生かす) |
| 3 | 本文②と最上級。「クラスで一番〇〇なもの」をインタビュー | 観察 |
| 4 | 本文③と as ... as。中間タスク:ペアで「おすすめ対決」 | 中間タスク(指導に生かす) |
| 5 | 自分のおすすめのメモづくり(原稿は書かない)。質問を予想する | ― |
| 6 | ペアを3回替えてやり取りの練習。うまい表現をクラスで共有 | ― |
| 7 | 本番:ALTとのやり取り(パフォーマンステスト) | 「話すこと[やり取り]」の知識・技能/思考・判断・表現を記録。主体的態度も記録(発言の回数や熱心さではなく、相手に伝わるよう工夫して伝え合おうとしているか〔粘り強さ〕、中間タスク後に自分の課題を直そうとしたか〔学習の調整〕を、4〜7時の様子や振り返りの記述も参考にして判断) |
| 8 | 振り返り。おすすめ紹介文を書く | 指導に生かす評価(「書くこと」も記録するなら、単元目標と評価規準に「書くこと」を加えておく) |
中間タスク(4時間目)で「比べたあとに理由が言えない」生徒が多ければ、5〜6時間目に because や「〜だから…の方がいい」の言い方を足します。計画は途中で直してよいものです。
単元末タスクを「本文の情報を引用しながら、自分たちにできる対策を1分で提案し、質問に答える」にします。逆算すると、本文の読み取りでは要点と数字・具体例を本文から見つけることが必要になり、発問もそこに集中します。「全文を和訳する時間」を減らし、その分の時間を要約・引用・質疑応答の練習に使う、という判断ができます。
- 単元末タスクが「本文の暗唱」になる:暗唱は練習としては良いのですが、「伝える目的」がありません。目的・場面・状況を入れると、生徒が考える余地が生まれます。
- 毎時間、全員・全観点を記録しようとする:記録に追われて、生徒を指導する時間がなくなります。全員の記録を残す場面はしぼり、ほかは指導に生かす評価にします 2(たとえば単元に数回程度。回数は資料で決められているわけではありません)。
- その単元の文法しか使えないタスクにする:国研の資料は、話す・書く技能の評価では使う言語材料を指定しない状況で、既習の表現を使って話したり書いたりできるかを見るよう求めています 2。
- 計画を一度決めたら変えない:中間タスクの結果を見て直すことが、単元計画のいちばんの使い道です。
❓ よくある質問
Q. 逆向き設計とは何ですか?
目標を先に、評価をその次に、活動を最後に決める単元づくりの考え方で、カリキュラム設計の研究者グラント・ウィギンズ氏とジェイ・マクタイ氏(Wiggins & McTighe)が提唱しました 3。①求める結果(生徒は最後に何ができるようになるか)→②評価の証拠(何を見ればできたとわかるか)→③学習の計画(毎時間何をするか)の3段階で設計します 4。
Q. 単元末タスクはどう書けばいいですか?
目的・場面・状況を入れて1文で書きます。例は「ALTが週末の過ごし方に迷っているので、町のおすすめを2つ比べて紹介し、質問に答える」。本文の暗唱のように「伝える目的」がないタスクより、生徒が考える余地が生まれます。評価に使うルーブリックは本番より前に生徒に見せます。
Q. 単元で5領域ぜんぶを評価する必要はありますか?
ありません。学年の目標(CAN-DO)から、その単元で伸ばす領域を1〜2つに絞ります。国研の資料も、評価の時期や場面をしぼる(精選する)よう示しています 2。全員の記録を残す場面をしぼり、ほかは指導に生かす評価にします。
Q. 中間タスクは何のために入れるのですか?
本番の前に「どこがまだできないか」を見つけ、計画を直すためです。授業中のこまめな確認とフィードバック(形成的評価)を強めると学習が大きく伸びる、という研究の積み重ねがあり 8、中間タスクはこの考え方に沿っています。中間タスクは記録に残さず、指導に生かす評価にします。
Q. 逆向き設計で計画すると成績は上がりますか?
この手順そのものの効果は、まだ確立していないと考えるのが安全です。少数の先生を対象にした研究では、実際の計画は内容や活動から考えることが多かったと報告されています 56。そのため、計画の最後に目標・評価・活動がそろっているかを点検する道具として使うのが現実的です。
🎓 もう一歩深く(大学院レベル)
🎓院生モード「目標先行」モデルへの批判と、逆向き設計の位置づけ
カリキュラム研究では、目標を先に定め、それに合わせて経験を選び、最後に評価するという合理的・技術的なモデルが長く主流でした。これに対し、教師の実際の思考過程は非線形で、内容・教材・活動・生徒の様子を行き来しながら計画が形づくられることが、授業計画研究から指摘されてきました 56。教師教育の研究者 Peter D. John 氏は、この直線モデルが教育実習生の計画を形式化し、学ぶことをかえって狭めると論じ、計画そのものを対話的な実践ととらえるモデルを提案しています 7。
逆向き設計は、一見すると目標先行モデルの強化版に見えます。しかし提唱者は、これを処方箋ではなく設計の点検の枠組みとして位置づけ、単位を1時間ではなく単元に置き、「理解」と「転移(transfer:学んだことを新しい場面で使う力)」を目標の中心に据えています 4。思考の順序を縛るものではなく、完成した設計の整合性(alignment)を問う道具と読むと、授業計画研究の知見とも両立します。
🎓院生モードタスク中心の単元と、日本の教科書・評価制度
単元末タスクから逆算する設計は、タスク中心の指導(TBLT)と相性が良い一方、日本の検定教科書は文法事項の配列に沿って課が組まれています。ここに「タスクに必要な言語」と「その課の新出文法」のずれが生まれます。国研の資料が技能の評価で言語材料を指定しない状況を想定しているのは 2、このずれを評価の側から埋めようとする設計だと読めます。
また、逆向き設計そのものの効果(この手順で計画すると学力が上がるか)については、比較群を置いた研究や研究をまとめた分析も一部にありますが、対象の地域・教科が偏り、介入の中身や研究の質もさまざまです。英語の授業を含め、学習成果への一般的な因果効果はまだ確立していないと考えるのが安全です(これは文献検索にもとづく執筆者の判断です)。根拠として強いのは、その部品にあたる形成的評価 8 や、フィードバックの効果が種類や与え方で大きく変わることを整理した研究 11 のほうだと言えるでしょう。
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📑 出典(11件)
本文の上付き数字に対応。✔ は DOI / ISBN / 公式ページを書誌データベースと機械照合した印です。
- 文部科学省 (2017). 中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 外国語編 公式ページ ✔ リンク確認済中学校外国語科の目標(5領域)・言語材料(語数・文法事項)・指導計画の作成(授業は英語で行うことを基本とする等)を説明した公式の解説
- 国立教育政策研究所 教育課程研究センター (2020). 「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料 中学校 外国語 公式ページ ✔ リンク確認済中学校外国語の3観点の評価規準の作り方・単元の指導と評価の計画の事例を示した国研の参考資料
- Wiggins, G., & McTighe, J. (2005). Understanding by Design (Expanded 2nd ed.). ASCD 本の紹介ページ ✔ ISBN照合済逆向き設計を提唱した名著(増補第2版)。日本語訳『理解をもたらすカリキュラム設計』(日本標準)がある
- McTighe, J., & Wiggins, G. (2012). Understanding by Design framework 公式ページ ✔ リンク確認済逆向き設計(UbD)の3段階(求める結果→評価の証拠→学習計画)を著者自身が短くまとめた解説(ASCD)
- McCutcheon, G. (1981). Elementary school teachers' planning for social studies and other subjects. Theory & Research in Social Education, 9(1), 45-66. doi:10.1080/00933104.1981.10506102 ✔ DOI照合済小学校教師12人の授業計画の立て方を調べた研究。教科書が示す「目標から先に」型と実際の計画のずれを論じた
- Brown, D. S. (1993). Descriptions of two novice secondary teachers' planning. Curriculum Inquiry, 23(1), 63-84. doi:10.1080/03626784.1993.11076105 ✔ DOI照合済新任の中等教員2人を教育実習から1年目まで追跡。実習では目標先行型、着任後は内容と活動から計画するようになった
- John, P. D. (2006). Lesson planning and the student teacher: re-thinking the dominant model. Journal of Curriculum Studies, 38(4), 483-498. doi:10.1080/00220270500363620 ✔ DOI照合済目標→活動→評価の直線的な指導案モデルの限界を論じ、状況に応じた対話的な計画を提案した論文
- Black, P., & Wiliam, D. (1998). Assessment and classroom learning. Assessment in Education: Principles, Policy & Practice, 5(1), 7-74. doi:10.1080/0969595980050102 ✔ DOI照合済形成的評価(学習の途中のフィードバック)が大きな学習効果につながることを示した総説
- Nation, I. S. P. (2007). The four strands. Innovation in Language Learning and Teaching, 1(1), 2-13. doi:10.2167/illt039.0 ✔ DOI照合済授業の活動を「意味中心のインプット・意味中心のアウトプット・言語に焦点を当てた学習・流暢さの養成」の4つに分け、ほぼ同じ時間を配分するよう提案した論文
- 文部科学省 (2017). 小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 外国語活動・外国語編 公式ページ ✔ リンク確認済小学校の外国語活動(3・4年)と外国語科(5・6年)の目標・内容・語数・文字の扱いを説明した公式の解説
- Hattie, J., & Timperley, H. (2007). The power of feedback. Review of Educational Research, 77(1), 81-112. doi:10.3102/003465430298487 ✔ DOI照合済フィードバックの効果と、効くための条件(目標・現在地・次の一歩)を整理した有名な総説
最終更新 2026-10-18 ・ 原田英語 まちがいのご指摘はこちら








